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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女✡レディオ 3-3

 録音なので失敗しても編集ができる分だけ生放送よりは取り返しがきくと言っても、やはり人前で生トークをするというのは緊張するもので、俺と狂華さん、それにチアキさんと朝陽はほぼお飾り状態で、人前に出ることに慣れている柚那と愛純がメインで不慣れな俺たちをイジりながらで収録が進行していった。


「――はい、ということでガチガチな朱莉さんに聞く、月曜恒例のコーナー行ってみましょう!教えて!」


 柚那がそう言って客席にマイクを向けると、客席の大きいお友達から、図ったようなタイミングで『あかりねーさーん!』という声が返ってくる。

 まあ、俺も昔はこういったイベントではあっち側にいたわけで、なんとなくこういう風な流れになるのはわかっていたが、いざ聞く側になるとちょっと引くなあとか思ってしまう。


「はい。今日はスペシャル版ということで、会場に来てくださっている方から募集した質問に、この場で、生で答えてもらいます。さ・ら・に!今日は朱莉さんだけではなく、私やみゃすみん。それに朝陽や狂華さんとチアキさんに対する質問もOKという大盤振る舞いでお送りします」

「今回質問が採用された方はこの後のサイン会でサイン入りステッカーをプレゼント。さらにそれぞれの魔法少女に対する質問のトップバッターにはサイン入の私物がそれぞれプレゼントされまーす」


 こうして見ている限り柚那は至って平常運転だ。小崎プロデューサーのことはやはり俺の杞憂なのだろうか。


「これ、ひとつも質問来ないと結構アレだよね」

「アレですねー。私としては朱莉さんに質問が来ないとかだとすごくおいしいと思うんですけど」


 柚那と愛純がそんなことを話しているうちに、JCの二人が質問用紙が詰め込まれた透明なボックスを押して登場した。

 さっきから二人が登場するたび会場から「あかりちゃーん」「みつきちゃーん」という歓声が飛び、それに対して二人が手を振ったりしている。

 みつきちゃんはなんだかんだベテランなのでいいとしても、俺や狂華さんよりもあかりのほうが場馴れしている感じがするのが悔しい。


「最初の質問は、ラジオネーム朱莉姐さんぺろぺろさん。あ、月曜の常連さんですねー。えーっと、今回は朝陽・優陽への質問だね。『朝陽ちゃん優陽ちゃんこんにちわ』」

「は、はい!こんにちわ!」


 朝陽はいくらなんでもガチガチすぎないか。


「『すっかりTOKYOの胃袋キャラが定着してきたお二人ですが、一番好きな食べものを教えて下さい』だそうだけど、朝陽ってなんでも食べるよね」


 あれ?こいつ、いつも俺にセクハラまがいのことを質問してくる奴なのに、なんか普通の質問だぞ。


「確かに好き嫌いはないので基本的になんでも食べますね。でもそうですね…好きなもの……ですか。そうですわね、この時期でしたらかぼちゃとか、さつまいも。きのこ類。それにお肉もお魚も…ああ…たくさんありすぎてとても選べません!」

「じゃあ旬のものじゃないとどうかな?例えば甘いものに限ってみたり」


 このままでは埒が明かないと判断したのだろう。愛純からそんなパスが飛ぶ。


「うーん…甘いものでしたらやっぱりチョコレートでしょうか。都内だったら洋菓子店のチョコレートからチョコレート専門店までだいたい網羅していますし、父の仕事の関係でヨーロッパの方にいた時もあっちこっち食べ歩いていました。あ、もちろんコンビニのチョコレートやチョコをつかったスイーツも全部食べています」


 お前もうチョコレートの本出せばいいんじゃないか。


「じゃあ朝陽・優陽の好きなものはチョコレートということでいいかな?」

「そうですね、一番好きなのはチョコレートです」


 愛純の確認に朝陽が頷いた。


「だそうです。朱莉姐さんぺろぺろさん、クリスマスやバレンタインの参考にしてみてくださいねー」

「いや、それだと朝陽がねだってるみたいになっちゃうでしょ」


 そう言って柚那が愛純にペシッとツッコミを入れる。


「ねえ、朝陽はそんな子じゃないよね」

「さすがに現物はともかくとしても、まだ見ぬチョコレートの情報は募集したいですわね」

「あ、募集するんだ……まあ、そういうことらしいので、我こそは朝陽の知らないチョコレートを知っているぞっていう方、情報お待ちしてまーす。では次の質問です。ラジオネーム木造ビルさん。初めての方……かな?」

「それうちの常連だわ。会場に居るのかしら」


 チアキさんがそう言って客席に手を振ると、客席で手を振りながらぴょんぴょん跳ねる男が一人。


「いつもありがとうねー」


 チアキさんがそう言って手を振ると、飛び跳ねていた男は両手を突き上げながら更に大ジャンプをしている。


「チアキさんのところの常連さんということで、質問もチアキさんに対してですねー。『チアキさんこんにちわ』」

「はい、こんにちわ」


 チアキさんはそう言いながら笑顔で再び先ほどの男に向かって手を振る。なにげにサービス精神旺盛だ。


「『料理が得意というチアキさんですが、皆さんに料理を振る舞うことは多いのでしょうか。また、得意料理はなんですか?教えてください。……と、いうことですが。チアキさんの料理については、私達もしょっちゅうお世話になっていますけど、どれもとっても美味しいですよね、正直私達からみると、何でも得意っていうイメージなんですけど、チアキさんの自信作ってなんです?」

「そうねえ……肉じゃがかしら」


 あざとい!この熟女あざといぞ!別にそんなに好きでもないし手間もそんなにかからないのに、なんとなく男性が好感を持ちやすい肉じゃがを今このタイミングで挙げるとは。やはり脳まで胃袋の朝陽とは一味ちがう。

 さすがそろそろ婚期がやばくて日本魔法少女一の飢えた狼とあだ名されるだけのことはある。

 いや、そう言ってるのひなたさんだけだけど。


「確かにチアキさんの作る肉じゃがってすごくおいしいですわよね。お肉がとろとろで、じゃがいもはホクホクで。どうやって作るんですか?というか、あの肉ってなんの肉なんです?」

「あれは、牛すじを一日ビールに漬けて圧力鍋で煮込んだものなのよ。柔らかくしたほうがおいしい玉ねぎと人参ははお肉と一緒に圧を掛けて、あんまり煮込まない方がいいじゃがいもと、味がしみやすくてお肉を硬くする作用のあるしらたきは別に煮て最後に合わせるの」


 え!?あれってそんなに手間がかかってたのか。


「ちなみに牛すじを漬けるのはビールじゃなくて発泡酒でも、日本酒でも赤ワインでも美味しくできるわ」

「なるほど。下ごしらえと手間を惜しまないことが大事っていうことですね!……柚那さんも見習ってくださいよ」

「ちょっと!それだと私が手順を省略しているみたいじゃない!私はちゃんと料理してるでしょ?」


 柚那は味噌汁や玉子焼きなど、料理の基本ができていないわけではないのだが、ちょっと手間のかかるものを作らせると変に工夫を加えて途端にダメダメにしてしまう。

 まあ、柚那はいわゆるアレンジャーなのだ。


「……はい、次の質問です」


 ついこの間柚那の料理をお見舞いされた愛純は柚那の抗議をスルーして次に行く。


「えーっと、ラジオネームボクっ娘大好きさん。今度は狂華さんへの質問ですねー。狂華ちゃんこんにちわ。僕はボクっ娘が大好きです。なので今年からボクっ娘になった狂華ちゃんのことがすごく気になっています。でもなぜ突然ボクっ娘になったのでしょう?ボクっ娘になった理由を教えて下さい」

「あー……どう説明しよう…………元々ボクは一人称がボクだったんだけど、監督の前なんかではずっと私で通してきたんだ。でもある時うっかり自分の事をボクって言っちゃったことがあって、それを聞いた監督が『それで行こう』って言い出しちゃって。それで今年からボクは自分の事をボクって言うようになったんだ」


 すげえ!数秒考えただけでスラスラとよくもまあポンポンと嘘が出てくるなこの人は。これが物書きの実力か。

「狂華さんのボクっ娘化は朱莉さんの俺っ娘と違って肯定派のほうが多いですよね」


 そう言って柚那がすかさず狂華さんについての追加情報を挟んでくる。


「え、そうなの?…えへへ、素のままの自分を受け入れてもらえたみたいでなんだか嬉しいな」


 そう言ってはにかんだ笑いを浮かべる狂華さんに対して客席から狂華コールが巻き起こる。

 みんな騙されているぞ!彼女は男だ。…ていうか、俺の一人称って不評だったのか。地味に凹むなこれは。


「なんでしょうかこのかわいい生き物は。確かにこれは肯定派が多いのもうなずけますね。……はい、じゃあ次の質問です。『みゃすみんこんにちわ』はーい、こんにちわー『僕はみゃすみんの大ファンで、みゃすみんが卒業してからTKOの公演や握手会にも行く気がなくなってしまっていたのですが、今回こうしてまたみゃすみんと触れ合える機会ができてとても嬉しいです』ありがとー『今後もこういった握手会の機会があれば是非是非参加したいのですが、今後も握手会の予定などはあるのでしょうか』……はい、えーっとですね。今日こうして私達が東京、精華さんたちが仙台、ひなたさん達が大阪で公開録音をやっているんですけれども、来週はグルっとローテして、私達が仙台、精華さん達が大阪、ひなたさん達が東京、その次もまたローテしてっていう感じで、公開録音はないですが、ライブと握手会はやりますので、もしも予定が空いている。その日仙台に、大阪にたまたま用事があったりするという方は是非遊びに来てください」


 そう言ってニッコリと笑った後、愛純が目配せをすると柚那が言葉を引き継ぐように口を開く。


「その……私達って、普段の活動が関東だけなので、仙台とか大阪だとあんまり人気がないと思うんです。だから現地で東京のファンの方の顔を見られたり声をかけてもらえたりしたら、きっとすごく心強いと思うんです。だから……応援に来てくれたら、私達すごく心強いです!」


 あざとーーーーーーい!チアキさんなんか相手にならないほどあざといよこの子達。

ちょっと淋しげな、物憂げな表情から、最高の笑顔へのコンボとか絶対何人も騙されるって! というか、すでに客席からは『俺はどこまでもついていくぞー』とかいう声もちらほら上がっているし。

「柚那さんの言うとおり、私達はまだまだ半人前なので、これからも応援よろしくお願いしますねっ」


 さすがというか、なんというか。愛純も柚那に負けず劣らずの表情と声色で客席に媚を売る。新旧TKOセンターの共演の威力は凄まじく『負けるなー』とか、『どこまでも応援しに行くぞー』といった声は増すばかりだ。

 愛純、柚那、恐ろしい子……


「さて次の質問でーす。ラジオネーム恋する子猫ちゃんさん。お、今度は柚那さんですねー『柚那ちゃんこんにちわ』」

「はーい。こんにちわー」

「『前に朱莉さんが柚那ちゃんはカラオケで演歌ばかり歌う』と言っていましたが、昔TKO23にいた下池ゆあちゃんもプライベートでは演歌ばかり歌うという話を聞いたことがあります。柚那さんはゆあちゃんと面識はありましたか?教えてくださ……い』」


 愛純は読み終わってから『あちゃー』という顔をしているがもう遅い。柚那は普段と変わらない表情で平静を装っているものの、俺達から見ればぐらついているのが丸見えだ。どうしてこういうデリカシーのない、アホな質問をしてくる手合は減らないんだろう。お前はそれを知ってどうなるんだと小一時間問い詰めたい。とはいえ、今は柚那のフォローが先だ。


「柚那がデビューしたのって、今年だからね。養成所も俺と一緒に入ったくらいだから、ゆあちーとの接点はないよ。まあ俺がゆあちーに会ったことも喋ったこともないっていうのが証拠かな。ね、柚那」

「え……はい!そうですよ。ゆあちーがすごいアイドルだったっていうのは知ってますけど、直接の面識はない……です」


 最後のほうは唇を噛みながら柚那が搾り出すようしてそう言った。


「つか、俺に対する質問はないのかよ!みゃすみん、マジで私物余っちゃうから、もう俺宛のメッセージ抜いて読んでよ」

「いやー…でもそれ、ルール違反ですよ」

「いいから。俺ルール発動。ね?」

「もう、朱莉さんは横暴なんだから。しかたないにゃあ……えーっと……」


 柚那の質問を打ち切るためのサインを読み取ってくれた愛純はそう言いながら紙の入っているアクリルの箱の蓋を開けてアレでもないこれでもないと紙を選んで時間稼ぎをしてくれている。


「朱莉さん普段からやってるからあんまり質問きてないんですよね……ああ、じゃあ、これ行ってみましょう!『朱莉姐さんこんにちわ』」

「こんにちわ!質問くれてありがとう!愛してるぜ!」

「『ズバリ単刀直入にお聞きしたいのですが』」

「はいはい!」

「『今、何色のパンツ穿いていますか?』」

「いくらなんでも単刀直入すぎるわ!さっきの愛してるも取り消し!」

「で、何色なんです?」

「……言うの?マジで?」

「マジで言うんですよ。リスナー様のご要望なんですから」

「うー……く、黒地にピンクのレースで縁取りがあるやつ……」


 なにこれ、どんな羞恥プレイなの?こんなの喜んでやるのこまちちゃんくらいだよ!?


「うわ、ガチで言ったこの人」

「マジで言えって言ったの愛純だろ!?」

「そこは『そんなの恥ずかしくって言えませーん。キャハっ』とか言ってればよかったんじゃないですかねー」

「え………それで許されるのか?」


 俺がリスナーだったら絶対許さないぞ、そんな展開。


「いえ、私や柚那さんだったら許されそうな気がしますけど、朱莉さんだと炎上すると思いますね」

「じゃあどうしろと!?」

「まあ、汚れ役だからどっちに転んでもいい結果にはならないですよねー。質問を下さったパパンツさんには、握手会の時に朱莉さんの黒にピンクの縁取りのついたパンツをプレゼントしますね☆」

「おかしいだろ!おい、パパンツ!勘違いするなよ!?俺のプレゼントはパンツじゃないからな!?」


 ちなみに俺のプレゼントは新品を買ってきて少し紙に擦りつけた、使いかけ風リップクリームだ。


「はい、なんとなく朱莉さんがオチになってくれたところで次の企画行きましょうか。次の企画格は木曜の名物コーナー、チアキさんの有り無しレシピ。実践編でーす!このコーナーはリスナーさんから送られてきた創作レシピをチアキさんが有り無し判定するコーナーですが、今日は引いたレシピをチアキさんに作ってもらって、朱莉さんに判定をしてもらいます。では朱莉さんは椅子の方へどうぞー」

「え!?俺は聞いてないぞそんな話……ちょ、なんですごく優しい笑顔を浮かべながら肩をつかむんですか狂華さん、ちょ、やめて朝陽!離してチアキさん!」


 抵抗むなしく三人がかりで半ば強制的に座らされ、手足を椅子に縛り付けられた俺は、リスナー考案の容赦無い激マズレシピの料理をたらふく食べさせられるハメになった。


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