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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第二章 朔夜編

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ex.幕間 そのころのボク達

 ◇

 

「わかったから、落ち着きなさいって――いやいや、あいつが対処できない相手にあんたが対処できるわけないでしょ――無理だっつってんの、私は行けないって。専門家がいるんでしょ?だったらその人に任せるのが一番だから、うん――本当にどうしようもなければ、私にも声がかかると思うからそしたらすぐに行くわよ。うん、はい、はーい」


 電話を終えた蜂子は、大きなため息をついた後、ベーカリーカフェのテーブルの上にスマートフォンを投げ出し、もう一度ため息をついた。


「那奈どうしたって?」

「正宗が敵の攻撃を受けて、夢の世界から戻ってこないんだってさ」

「え、大変じゃん」

「大変だけど、いまあの二人がいるのって京都だからね。管轄違いだから私達がしてあげられることはないわ。それに私、あっちには仲の良い魔法少女とかいないしコネもないからコスモとか華音とかがうまくやってくれることを祈るしかないわね」

「あれ?雅弓は?」

「正宗と一緒に夢の中だってさ」

「あー・・・・・・なんかこう、イキリ散らした結果そういうの巻き込まれるタイプだよね、あの子」

「ちょっと、そのコスモとかカノンとかマユミとかって私初耳なんだけど誰よ」


 電話を切ってから黙ってボク達の話を聞いていたあんころちゃんがそう言って話に割って入ってくる。


「あれ?私こころに話さなかったっけ?修学旅行の時に知り合った関西のJKチームのメンバーよ」

「聞いてないわよ。っていうか、あんたが話してくれた修学旅行の話って朔夜とのイチャイチャエピソードばっかりだったでしょ」

「え?蜂子と朔夜ってそんなにイチャイチャしてたっけ?あんころちゃんが聞いたのってどんな話?」

「熱海でナンパされそうになった東條を朔夜が助けてくれた話とか」


 おや?


「ちょっと!詩子もこころもこんな話してる場合じゃないでしょ?ほら、今京都で正宗と那奈が大変な事件に巻き込まれてるわけだし、不謹慎だと思うんだけど」

「あんころちゃん、続けて」

「そうね、あとは・・・イルミネーションに向かう途中で朔夜がキスをしてくれたとか、あ、そうそう、女子全員で男子のお風呂覗いたとか、敵に襲われて大ピンチの時に朔夜がかけつけてくれたとか」


 後ろ二つ以外那奈のエピソード丸パクリだと!?


「ああ、あとはあんたの話もあったわよ」

「え?ボクの話?」

「一泊目の時に、一緒の部屋の東條の寝込みを襲おうとしたあんたから朔夜が助けてくれて二人は拳を交えて親友になったって」


 それだと同じ部屋にいたはずの那奈が行方不明になっちゃうんだけども。

 っていうか――


「蜂子さぁ・・・」

「ごめんなさい・・・」

「え?どういうこと?」


 それから10分ほどかけてボクが本当に修学旅行であった出来事の話をすると、あんころちゃんは心底あきれかえったような顔で蜂子を見た。


「東條・・・」

「な、なによ、言いたいことがあるなら言えばいいでしょ!?」

「あんたの気持ち、わからないではないわ。私だって風馬の残念さに気づきながらも長年片恋してきたわけだからね。そういう風に見栄を張りたくなる気持ちはわかる」


 そう言って優しく蜂子の肩に手を乗せるあんころちゃん。


「こころ・・・」

「まあ気持ちはわかるし、妄想はするけど、私は実際友達に、しかも恋のライバルにそんな見栄を張ったりはしないけどね」


 そう言って、『ヘッ』と煽り顔で笑うあんころちゃん。


「こころぉっ!」

「言い返せるものなら言い返してみなさいよ、ほらほらー。てか、チキって奈南を連れて朔夜の部屋に行くとか覚悟が足りないのよ、あんたは」

「ぐぬぬぬぬぬっ!あんただって片恋とか言って告る度胸がなかっただけでしょ!?暑いフリして仰木の部屋で下着姿になったのに相手にされもしなかったクセに!」

「なんでそんなこと知ってるのよ!」

「仰木がこころのドン引きエピソードってことで話してくれたのよ!」

「いや、それ蜂子もやってたらしいじゃん、風馬もだけど朔夜もやめてほしいって言ってたよ」

「・・・あんた、自分のこと棚に上げてよくもまあ私のことを非難できたもんね」

「う、うるせー!」


 そこから5分ほど、蜂子とあんころちゃんの舌戦が続いてボクがうんざりし始めたころ、遅れてやってきて事情を聞いた栄子が、『邑田と仰木と言えば――」と言いながら取り出し、路地裏で女物の服を着て何かワタワタしている朔夜と風馬と正宗が写っている写真を見ると二人はピタリと口げんかをやめた。


「良い写真でしょ」

「そうね」

「言い値で買うわよ」

「それはさすがにダメじゃないかな」

「なによ、旅行の時に盗撮した私の写真を朔夜に渡しておいて、今更一人だけいいこちゃんぶるつもり?」

「いや、まああれはボクが悪かったけど、やっぱりダメだって。二人だってなんかこう、男装してるところを写真に撮られてそれを朔夜とか正宗とか風馬がやりとりしてたら嫌でしょ?」

「?むしろ私は相手がそうしてほしいって言うなら合わせるわよ。変装するの得意だし」

「あんころちゃんはそうだろうさ!!じゃなくて、蜂子はどうかな?嫌じゃない?」

「そもそも、半裸とかの写真じゃないし、別に私はこの構図で学ラン着てようが男物の服着てようが恥ずかしくないけども、で、いくらで売ってくれるの?」


 ダメだ!目が写真に釘付けで話が通じない!っていうか聞いてない!!


「え、栄子はさ、ほらジャーナリスト目指してるわけでしょ?そういうのってジャーナリズム的にどうなのかなって」

「え?何言ってるの詩子、フリーのジャーナリストなんて写真や記事がお金になってナンボでしょ?理想じゃお腹は膨れないのよ?」


 やだもーうちの彼女ってば言ってることに夢も希望もなーい!!






 結局三人の闇取引は1枚500円というそこそこのレートで成立し、今ここでこの三人に睨まれるのと朔夜達との友情とを天秤にかけた結果、写真のことは黙っていることにしたボクは、三人と一緒に店を出た。


「ねえ東條、本当に私達だけでパトロールの実地訓練なんてやるの?っていうか、大丈夫なの?」

「まあ、本当は朔夜を連れてきた方が安全だけど、何かあったとしても、魔法少女相手じゃなきゃ私でも十分対応できるし、詩子だって結構やれるからね。というか、そもそも実はこの街ってそこまでの危険はないのよ」

「危険がないっていうのはどういうこと?」

「パトロール体制のモデル地区になるくらい、今年に入ってからおまわりさんと黒服さんと私達がしっかり見回って、何か見つけたら徹底的に追い込んで犯罪の芽を潰してきたからそもそも犯罪率が低いっていうのと、あとはこの街って魔法少女が多いのよね、異常なほどに」


 ああ、そう言えばそうだ。

 育休産休中の柚那さん、深谷夏樹さん。

 有休取得中だっていう朱莉さん。

 この間顔合わせをしたJK1のあかりちゃん、みつきちゃん、和希君に真白ちゃん、それに茉莉花ちゃん。

 まだ面識はないけどJCチームの面々。

 あとはJK2の蜂子、那奈、ハナにエリス。

 あとは黒服見習いだけど、旅行の時の活躍を見れば左右澤先輩だって結構強いはずだ。あとは戦技研所属ではないものの、朔夜や正宗もいるので確かにこの地域の魔法少女密度というか戦力の充実度はちょっと異常と言っても良いかもしれない。


「だからまあ、なんかあっても数分持ちこたえられれば頼りになる仲間がすぐに救援に来てくれるし、少なくともこの間のキャンプの時みたいに一時間以上経ってから現場に現れた挙句上に告げ口して私の給料を減らすようなクソ女がくることはないわ」


 おお、あの件はもう落ち着いたのかと思ったけどまだまだ怒ってるなあ。


「だいたいね、あの、アイツなんだっけ名前・・・ええと、浦野切子!もうなんかいかにも裏切りそうな名前じゃない。あいつ絶対反都さん派だわ」


 奇跡的に母音が全部あってるけど、キャンプ場に駆けつけてくれたのは村野千里子さんだ。


「その反都さん派、つまり裏切り者が組織の中にいるって話だけど、西澤が一緒にいるっていう夢の専門家?みたいな人って大丈夫なのかしら、それこそその人が解決するために努力している風を装って魔法をかけているっていう可能性だってあるんじゃないの?」

「いやいやあんころちゃん、いくらなんでもそんなことあるわけないじゃん」

「・・・いや、こころの言うこと一理あるわね」

「え!?あり得るの!?」

「どんな可能性だってゼロじゃないからね、ゴメン、ちょっと朱――愛純さんに連絡するわ」

 

 そう言って蜂子はスマートフォンを取りだした。



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