表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女はじめました   作者: ながしー
第二章 朔夜編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

541/809

ex.こころこねくと



 朔夜と詩子の参戦であっという間に収束すると思われた戦闘は、予想とは裏腹に長引いていた。

 大きなビルのようだった敵は朔夜の攻撃によって1()0()()の黒い人影(何故か着ている制服と髪はカラー)に分かれ、朔夜と詩子を苦しめている。

 一人一人の強さは私でも捌けるくらいではあるものの、苦戦している背景には複数対1という今の状況が詩子はもちろん朔夜ですら苦戦するほどの難易度であるのに加えて、髪型からしてこの敵は『関華絵から仰木きゅんを守る会』のメンバー・・・つまり一般人である可能性が高いということで思い切った攻撃をすることができないという事情がある。

 本格的な戦闘開始直前に一応奥多摩地区のご当地魔法少女にはエマージェンシーをだしたものの、それはあくまでエマージェンシーの信号を発信しただけで、荷物の所にスマホを置いてきてしまっていた朔夜達も手ぶらで散歩に出ていた私と仰木も電話をかけることはできていないので、あと数分でご当地魔法少女が到着しても、それから本部へ連絡、救援を待つということになるとこれからどのくらいの時間を戦い続けなければならないのか予想もつかない。

 あれ?というか、今この多摩地区にご当地魔法少女はいなかったんじゃないか。

 都内は人材と人口密度の問題で東京23区にしか、それも全部で10人くらいしか配置されていなかったのではなかったか。


 だとしたら一番近いのは本部。山越えの直線で・・・何キロだ?10キロか、20キロか。


 そもそもエマージェンシーコールは届いているのか。


 とどいていなくて援軍が来なかったら。


 大人が来なかったら。


 押し負ける・・・?


 いや、朔夜はそんなに弱くないし、負けないだろう。


 相手にダメージを与えられるようになった今の詩子だって本気を出せばこんなやつらに負けるはずはないんだ。


 そう。二人は負けない。でも




 本気を出したら相手を殺してしまうかも知れない。


 一般人かも知れない相手を殺してしまうかもしれない。




 お互い命をかけて戦っている以上、それはしかたのないことかもしれない。

 でも、この子達がもしも戦わされていたとしたら?

 修学旅行の時の栄子のように、別の何かによって戦わされていたら?



「東條蜂子!私の予知魔法を邑田と奈南につないで!」


 変な指示を出したり判断を誤れば二人を人殺しにしてしまうかもしれない、そう考えて思考停止に陥りかけた私に向かって、数メートル後ろで、仰木と一緒にいたあんころちゃんが叫んだ。


「敵の攻撃が読めれば負担は軽くなるはずよ」


 魔法をつなぐ・・・・・・?ああ、そうか、そういうことか。あんころちゃんの予知魔法を使った思考なり視界なりを全員で共有して敵の動きが分かれば、例えばそれが0コンマ何秒先の動きだったとしても、避けたり捌いたりするのは格段に楽になるだろう。

 それなら躱し続けて敵の魔力切れを待つ。そういう戦い方がしやすくなるはずだ。

 あれ?なんであんころちゃんが、感覚を繋げるという私の新しい能力を知ってるんだ?

 予知?でもその予知があるならこんな戦い、回避できたんじゃないのか?


 まさかと思うけど、あんころちゃんって敵なんじゃ・・・・・・


「はやく!あの二人死ぬわよ」


 ・・・・・・まあ、朔夜がいればなんとでもなるだろうし、救援の人が来れば三対一、私も入れれば四対一だ。負けることはないだろうし、どこかのタイミングでこっそり思考を読めば先手も打てるか。






 とにもかくにもあんころちゃんの魔法は朔夜と詩子の負担を軽くしてくれたらしく、二人の動きはさっきよりもかなりよくなっている。

 いや朔夜はともかく詩子ってなんであんな動きがいいんだろう。私の知る限り格闘技とかやってなかったはずなんだけど。

 ・・・

 ・・・・・・・・いいなあ、私もああやってこう、朔夜と二人で一緒に戦ってみたいなあ。

 それで、戦いが終った後には――――デヘヘ


「おい蜂子!お前今変な事考えてるだろ!!」

「そういうのは全部終ってからにしてーノイズが混じって余計分かりづらくなるからー」


 おっと、いかんいかん。集中しなければ。

 そうそう、ノイズと言えば魔法を共有していることでノイズが混じってしまっていて、あんころちゃんの思考が読めないという問題があったりする。だから出来れば――


「なに?あんたの相手をしてる余裕ないんだけど。というか、あの二人の言うようにちゃんと集中しなさいよ」

「ごめん、聞きたいことがあったんだけど、後にするわ」


 チラリと見ただけで怒られてしまった。

 まあ、たしかにずっと魔法を使い続けているというのは疲れるし余裕なんてないものだ。特に彼女は覚醒してから訓練らしい訓練も受けていないだろうし、おそらく変身中はずっと全力全開の状態なんだから余裕なんて全くないだろう。

 そんなアクセル全開のあんころちゃんはもう数分で魔力切れになる。そうなればよくて変身解除、悪ければ気絶くらいするかもしれない。

 その前に彼女がなにを考えているのか、なにをたくらんでいるのか・・・・・・もしくは本当に何もないのか。それをたしかめておきたかったのだけどそれもできそうにない。


 なら自分で考えるしかない。

 私の思考が魔法に乗らないように、意識を切り離すようにして。


 そもそも、彼女はなんでここに来た?理由は、動機は?


 私ではない、栄子でもない、わざわざ案内をして連れてきたと言うことは朔夜と詩子でもない。その他の参加者でもないだろう。

 これは考えるまでもない、仰木だ。


 戦力を連れてきて守っている以上、仰木に対して危害を加えるつもりはないと見ていいだろう。

 だからここでは一旦彼女が何かを企んでいるという線は捨てる。

 

じゃあ、朔夜と詩子をつかってここで戦う意味は?

 仰木がここで危ない目に遇うというのであれば、参加自体をやめさせれば良かったのではないか。


 ・・・いや、多分ここでこの敵を回避してももっと厄介な状況になるんだろう。今日、この場は辺りに人がいないけど、街中で同じ状況が起れば今よりもずっと大きな騒ぎになるし保護対象が増えれば増えるほど仰木に対する保護がおろそかになる。多分あんころちゃんはそれを嫌った。

 その気持ちはわかる。私があんころのちゃんの立場で、朔夜が仰木の立場だったら、私だって朔夜にとって最善の状況を作りたいと思うはずだ。

 朔夜を安全な場所に、朔夜の安全をと、そう考えるはずだ。

 そう考えてあんころちゃんが選んだのが今日、この時だとしたら。

 ここで決着がつくことで仰木の安全が守られるのだとしたら。

 

 だとしたら


 なんであんころちゃんは仰木の側にくっついている・・・?


 ここが仰木にとって一番いいタイミングなのだとしたら、なんであの子はくっついているんだ?


 仰木の話を信じるとすれば・・・まあ、仰木の一方的な鈍感さ加減が遺憾なく発揮されている可能性はあるけれど、あんころちゃんと仰木は恋人ではない。

 恋人でもない幼なじみとあんなにくっつくか?

 ましてや、彼女自身には仰木を守る力なんて――そういうことか!











 私が目を覚ましたとき、隣のベッドに寝ていた風馬の左腕は包帯に包まれていた。

 風馬が目覚めたとき、風馬の左腕が動かないことがわかった。

 私が悪いわけじゃない。風馬も、風馬の両親も、私の両親もそう言ってくれたけど、そうじゃないことは私が一番よくわかっている。

 私が道路に飛び出したのが悪い。

 道路に飛び出した私を引き戻そうとした風馬は悪くない。


 

「あんたのせいで仰木君は怪我をした」


 ああそうだ。その通りだ。


「あんたの腕が動かなくなれば良かったのに!」


 その通りだ。


「あんたの腕も仰木君と同じにしてやる」


 やめろ。それをしていいのは風馬だけだ。


「ほら、あんたはそっち抑えて」

「え、ヤバいって、それはヤバいって」

「やめようよぉ」

「いいのよこんなや――ぶっ!?」


 思い切り振り回したランドセルがリーダー格の女子生徒に当たった衝撃で飛び出した30センチ定規を握りしめた。


「うわーっ、安藤がキレたーー!」

「助けてー!」

「ちょ、やめ・・・やめて、やめて痛いのやだぁ」


 お前なんかに、風馬が守ってくれたものを傷つけさせてなるものか。



「こころはさ、その格好やめたほうがモテると思うぞ。お前は普通にしてた方がかわいい」


 たまたま一緒になった帰り道。風馬はそんな事を言った後、柄にもないことを言ったと思ったのか、少し頬を赤く染めて遠くを見る。


「自衛のためよ。変な女子に目を付けられたくないからね。それより、ん」

「いや、このくらいの荷物なんでもないし、そもそも俺が怪我してたのなんて何年も前だし、それにもうすぐ家だしさ」

「ん」

「・・・・・・お前も頑固な奴だよな」


 私が再び手を差し出すと、風馬はしぶしぶと言った顔で左手に持っていたバッグを私に渡す。

 

「というか、変な女子に目を付けられたくないっていうなら、彼氏作って守ってもらえばいいじゃん」

「私の代わりにあんたの左手の荷物を持ってくれるような彼女ができたら考えるわ」

「だから、左腕はもうなんともないんだってば」



 風馬が関華絵に恋をしたという話をしてきた日の夜。

 私は夢を見た。

 風馬が10人の女に引っ張られてバラバラになる夢だ。

 血が出ていたり、肉が見えていたりするわけでもなく、風馬も痛がっている様子はなかったので、その時は悪夢だなんて思わずに、変な夢だな、ちょっと面白いなくらいにしか思っていなかった。

 次の日に見た夢はお金を拾う夢。金額の大小などディティールは少し違っていたけれど、これはその日のうちに現実になった。

 その次の日に見た夢は学校帰りに大雨に降られる夢。まさかなと思いながら折りたたみ傘を入れていたおかげで私は濡れずに帰ってくることができた。


 このあたりで私はこれが予知夢なんじゃないだろうかと気がついた。

 すると、夢はリアリティを持った。

 最初は音だった。肉が裂ける音や、絞り出すような風馬の命乞い。

 次は匂い。特に印象に残っているのは血のにおい。そして風馬の身体から吹き出す血の匂いはやがて熱を帯びた。夢の中で降り注ぐ血が温かくなったのだ。

 そんな風に夢がリアリティを増すごとに風馬の死が近づいてくる。そんな気がして私は自分の無力さに恐怖した。

 何かこの未来を回避する方法はないか。

 風馬を助ける方法はないのか。

 毎晩毎晩、あの夢を見るためのような眠りにつくのが嫌で、怖くて。

 毎朝毎朝、目が覚めたら風馬が死んでいるのではないか。今日死ぬのではないか。そんな恐怖が頭を支配した。


 そんな日が2週間ほど続いた頃だろうか。

 目を覚ました私は、寝るときに来ていたはずのパジャマを着ておらず、紫と黒を基調とした衣装を身につけていた。


 起き上がり、姿見で自分の格好を確認した私は『ああ、私魔法少女になったんだ』と、それがごく自然なことだったかのように受け入れた。

 これで、風馬を助けることができる。そう思って私は寝る前に、『私が風馬を助ける』と念じてから眠りについた。

 結果は二人とも夢の中で惨殺されただけだった。

 じゃあ例えば、風馬の思い人である関華絵を巻き込んでみたら。

 例えば関の親友らしい村雨エリスを巻き込んでみたら。

 例えば・・・

 例えば・・・

 毎晩毎晩夢の中でトライアンドエラーを行っているうちに身体が魔法少女であることに慣れたのか、風馬の命が脅かされる日付、つまり今日が何月何日なのかがわかった。

 それと同時に、夢の中で関と村雨が戦力として投入できなくなった。今考えれば予知の精度が上がって今日この場所で打てない手は打てなくなったということなのだろうけど、私は焦った。

 他の戦力を集めなければ。そう思って様々な人選を試した結果、一番被害が少なく済むのが邑田朔夜だった。

 そして、修学旅行から帰ってきた風馬に聞いた新しく魔法少女になったという奈南詩子。彼女を加えることでさらに被害は最小限に、たった一人の犠牲で済むと言うことがわかった。


これで借りを返せる。


これであの日命を救ってもらった借りが。


風馬の夢を諦めさせてしまった償いができる。


 9()()の相手をしている邑田と奈南には目もくれず。大回りをして風馬を独占せんと、こちらに向かってくる一人の影人間。

 小学生の頃から変わらないその髪型はあの日私の左腕を折ろうとしたいじめっ子のものだ。

ここで私があいつと差し違えることができれば。

 差し違えられないまでも時間を稼げれば、こちらの異変に気づいた邑田朔夜がやって来て風馬を守ってくれる。そういうシナリオだ。

 邑田朔夜が先に来てはいけない。そのパターンは失敗する。それは予知夢でわかっている。だから私はここで死ななければならない。


 死ぬ。


 死ななきゃ。


 なのに、なんで――


「今日初めてまともに喋った君に対してこんなことを言うのはズレているのかもしれないけれど」


 ――なんで邑田朔夜が影人間の攻撃を受け止めて、私と風馬を守るように立っているんだ。


「僕はもう、仲間を、友達を、周りの人間を誰一人死なせないって、この間そう誓ったばかりなんだ」


 そう言って邑田朔夜は影人間を力任せに払いのけたあと、追いかけるように跳躍し倒れ込んだ影人間の顔のすぐ横にある地面を殴って大きなクレーターを作ってみせる。


「僕と詩子だけならともかく、安藤さんや仰木に手を出すつもりならただじゃおかない・・・・・・わかったら消えてもらえるかな。消えないなら次は地面じゃなくて君の顔に今以上のパンチを当てる」


 邑田が小さな声ながら重さと迫力のこもった声でそう言うと、いじめっ子の影人間は小さい悲鳴を上げて消滅し、奈南詩子が一人で相手をしていた残りの影人間も同じように消滅した。


「・・・二人とも、怪我はないか?」

「ああ、助かったぜ邑田」

「安藤さんも大丈夫?」


 ・・・・・・


「安藤さん?」

「あ・・・う、うん、へ、平気」

「蜂子は?」

「こっちには来てないから平気よ」

「はいはーい!ちょっと今の朔夜の対応について審議するべきところがあると思いまーす!」

「え?何?僕なにかマズいことした?」

「ボクの心配は!?」

「いや、詩子は全然平気だろ。本気を出せばあの程度の敵に負けることはないだろうし」

「だとしても仲間として――」

「僕は詩子の強さを信頼してるんだよ」

「・・・・・・朔夜はそういうとこほんとズルいよね、計算しないでそういうこと言えるのほんとズルい」

「は?何だよズルいって」

「朔夜」

「ん?」

「そういうところよ、ほんと」

「蜂子にまで!?っていうか、ズルいって、僕のなにがズルいんだよ!」


 そう言って心底納得いかないような顔でうんうん唸っている邑田朔夜は・・・・・・・・・私もズルいなって思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ