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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第二章 朔夜編

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ex.風馬とこころ


◇ 


 いやあ、まいったまいった。まさか、他校にまで東條蜂子許さん会のメンバーがいるとは。

 まあ、とはいえ、他校勢はさすがにうちの学校の女子ほど本気ではなく朔夜と正宗の情報が混ざっているくらいの認識だったり『あいつイケメンの彼氏出来たらしいからからかってやろうぜ』くらいのノリなのでガチ勢ほどの恐ろしさは感じない。というか、同じコテージの奴らはもう既に私に男を紹介してほしいみたいな空気を出してきているので、これ以上いじられるようなことはないだろう。

 というより、私はやつらの男紹介してオーラが鬱陶しくてコテージを出てきたくらいなので、私のご機嫌取りがてら明日の朝とかはガチ勢から守ってくれるんじゃないだろうか。

 そんなことを考えながら空を見上げると、地元では絶対に見ることが出来ないくらいの星が空いっぱいにちりばめられていた。

 うーん・・・外で夕食を食べたり、ダベったりしてたときも思ったけど、この星空はやっぱり朔夜と見たかったなあ。

 いやまあ、からかうような言動で朔夜が来たいって言いづらくしたのは私ではあるけど、でもやっぱりそれでも蜂子と一緒にいたいと言ってほしかったし、あと、ぶっちゃけみんなに自慢したかった。


「あれ、東條も散歩か?」

「ああ仰木。どうしたのこんな時間に」

「うちのコテージに女子が来たから逃げてきた」

「えー、仲良く遊べば良いじゃん。彼女できるかもよ」

「冗談でもそんなこと言うのはやめてくれ、万が一関の耳に入ったら誤解されるだろ」

「誤解も何も・・・ハナにあんな酷い告白しておいて今更なに言ってんのあんたは」


 あの後正宗だけじゃなくて私達まで八つ当たりされたんだからな。


「う・・・まあ、あれは今考えるとなかったなと思うけどさ」

「だったらさっさとくっついちゃえばいいじゃん、ハナも乗り気だと思うし」

「いや、それはできない。自分で言い出したことだしな」

「そういう変に融通が利かないところはハナとお似合いだと思うわ」

「そ、そうかな」


 お似合いだって言われてそんなに嬉しそうな顔をするんだったらさっさともう一回ちゃんと告白すれば良いんだ。

 それでみんな万々歳だし、まるく収まる。


「じゃあクリスマスあたりにでも、もう一回告ろうかな」

「気の長い話ね・・・その前に彼氏作られても知らないわよ」

「そういうこと言うのやめろよな!っていうか、アレだからな、東條こそタクシー代わりにしたり、こうやって一人で旅行に来たりしてあんまり邑田のことをないがしろにしていると、こころに取られるかもしれないんだからな!!」

「いや、朔夜はああいう子は好みじゃないと思うわよ」


 じゃあ私が好みのタイプなのかと言えば、絶対の自信を持ってそうだとは言えないけれど、あいつは結構面食いなところがあるし、性格だってもっと明るい子のほうが好きだと思う。


「東條、お前はこころの恐ろしさをまったくわかってない。あいつの恐ろしいところは小学生の頃の刃物がどうこうなんて噂じゃないからな。あいつの恐ろしさは天性の嘘つきだってところにある」

「どういう意味よ」

「まず、これがあいつの真の姿だ」


 仰木がそう言って見せてくれたのはショートカットの女子生徒がいかにも男物のパイプベットに寝転がってノートパソコンをいじりながらポテチを食べている写真だった。

 ぶっちゃけ、愛純さんほどではないがルックスとしては相当いいし、化粧をしているのもあって私と・・・いや、私よりかなり可愛いと言って良いだろう。


「って、あいつの真の姿ってことは、これあんころちゃん!?全然違う人間じゃないのこれ」

「普段のアイツはメイクでわざと隈をつくって、さらにウイッグを被って前髪で顔を隠しているからな。言うなれば去年の邑田とおなじような感じだ」

「朔夜は文化祭までできるだけ目立ちたくなかったからって言ってたけど、あんころちゃんはなんで目立ちたくないわけ?」

「俺のせいだな。この状態のこころが俺といると一部の女子からいらん嫉妬を買うだろ?逆に普段のこころなら『ああ、こいつはライバルになるわけない』って感じでスルーされる」

「・・・あんた今自分がモテるって自慢してるんだけど、わかってる?」

「そのせいでこころに負担をかけたことがあるからな。そこは多少自覚あるんだよ」


 そう言って少し辛そうな表情でため息をついた後、仰木が再び口を開く。


「と、言うかな、東條」

「ん?」

「ぶっちゃけ、俺はこころを応援している」

「まあ、そりゃそうでしょうよ。ただの元クラスメイトより幼なじみの恋を優先するのはおかしいことじゃないし」


 私だって那奈の恋と去年クラスメイトだった奴の恋だったら那奈を優先する。

 だからそこについて仰木に恨み言を言うつもりはない。


「それもあるんだけどさ、こころは俺に縛られてる部分があると思うんだ」

「縛られている部分?」

「昔こころと遊んでたときに事故に遭って、こころを庇ってちょっと怪我したことがあったんだよ。で、こころは俺に対してそのことを申し訳なく思っている節があってさ」

「怪我ってどのくらいの怪我?」

「当時利き腕だった左腕がしばらく動かなくなるくらいかな。今はこうして動いてるけど、あの時はこころがずっと泣いてて、こっちが申し訳なくなるくらいだったよ」

「そりゃ友達の腕が自分のせいで動かなくなるかもってことになれば誰だって泣くでしょ」

「今となってはそのときの怪我のおかげで両利きになれたりして逆によかったかなーって感じなんだんけどそれからしばらくあいつは俺にベッタリでさ、そのせいであんころちゃん事件が起きたみたいな部分もあるんだ」

「なるほど、怪我のフォローをするためにくっついていたのが気に入らない女子がいたって話ね」

「そういうことだ。俺も子供だったからそんなことには全然気がつかなくてさ、で、あんな事件が起って、こころはかなり悪し様に言われたってわけだ」


 そういう事情を聞くと、噂に踊らされてあんころちゃんのことを誤解していたのは非常に恥ずかしいなと思う。


「あれ?でもあんころちゃんって中学の時はもうあんな感じだったわよね?中学時代からウィッグだったの?」

「ああ、中学の頃から今みたいなことやってたからな。実はあのウィッグはもう3代目だったりするぞ」


 年季入ってるなあ・・・。

 確かにこの4年とちょっと、多分小学生の頃を含めればもう少し長い期間「あんころちゃん」というキャラクターを演じきった嘘というか演技力を存分に発揮して彼女が朔夜に迫ったらかなりの脅威だろう。


「で、学校では『あんころちゃん』を演じて、あんたの前でだけは素の自分を出してたっていうわけだ」

「俺の前というか、自分の両親と俺と俺の両親の前な」

「ええと・・・それ、両家公認の仲ってことなんじゃないの?あんころちゃんも全力であんたの嫁ポジション狙いに来てない?」

「と、思うじゃん?実際、つい最近までうちの両親はこころのことを俺の恋人だと信じ込まされてたんだよ」

「え、信じ込まされてたってなにそれ怖い。何の意味があるのそれ」

「コレだコレ」


 そう言って仰木はあんころちゃんが写っている写真の一部をピンチして拡大してみせる。


「ノートパソコン?」

「そう。あいつの家、ゲームとか厳しくてさ。俺の部屋にゲーミングパソコン置いてわざわざやりに来るんだよ。で、それだと俺がいないときにゲームできないだろ?だからあいつは恋人でございって顔して、俺の部屋を掃除しに来た()()で勝手に入って勝手にゲームしてるんだ」

「・・・・・・・・・あんたの怪我に責任感じてるのか、ゲームやりたいだけなのかどっちなのそれ」

「両方だと思うんだけどな。未だに俺が左手で荷物持ってると黙って持とうとしてくるし。で、まあ邑田の件はそんなこころに降って湧いた恋の病ってわけだ」

「あんたもあんころちゃんを解放してやりたいのか、自分の部屋を取り戻したいのかどっちなの」

「どっちもだ」

「そのために私に朔夜と別れろと」

「そうは言わないけどさ、こころが俺の事なんて忘れるくらいに恋に夢中になってくれて、変な罪悪感が消えてくれたらそれでいいかなとは思っているんだよ」

「ちなみにあんたがあんころちゃんとくっついてハッピーエンドっていう線は――」

「やめてくれ。あいつエアコンをつけるほどじゃないくらいの微妙に暑い日とか俺の部屋で普通に下着でゴロゴロしてるんだぞ!?もうなんかあいつの下着姿を見慣れちゃってそういう感じの目で見られねえよ!っていうか、こころも全然そういう風には考えてないと思う」


 なるほど。

 下着でゴロゴロすれば朔夜を誘惑できると思っていたけど悪手なのか。

 そうかそうかなるほどなー勉強になるなー・・・・・・

 

 


 ・・・もう二度としないようにしよう。

 



 まあ、何にしても今の一連の仰木の話で私にとってあんころちゃんは警戒すべき相手になった。これから先、油断せずにいこう。



「あと、やってるゲームもなんか敵?を撃ち殺したりする系が多くて、しかも変な笑い声上げながらすっげえ笑顔で『ビューティフォー・・・』とか言いながらプレイしてるの見てるからちょっと無理だ」

「・・・・・・それは多分朔夜でも無理案件よ」





下校時とかに特に重そうにしてない風馬の左手の荷物を短く「ん」とか言って持ってくれるあんころちゃんちょっとイケメン。イケメンじゃない?


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