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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第二章 朔夜編

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ex.修学旅行に行こう エンディング 1 君のその手が護ったもの


 そこからの話は、大筋は前に朔夜が話してくれた死衣子の話をなぞる様な話で、今回襲撃してきた雫石や詩子のような敵の幹部になりそうな人物の情報はわからずじまいだった。

 違っていたのは、これまでの話にも出てきたように死衣子とレジスタンスがつながっていたこと、期を待つべきだという柚那さんの説得を聞かずに独自に起こした死衣子の叛乱は、街を破壊して住民を殺し、さらに友人であったキュウビを殺した死尽に対する復讐という面が強かったことくらいだろうか。

 まあ、何にしても・・・詩子に対しても、朔夜に対しても、()()()()()()()としては非常に申し訳ないなといった感じだ。

 

 最初、私はキュウビというコードネームは九尾の狐から来ていると思っていたので、狐のようなつかみ所のない性格というところからこまちさんだったり、雫石との戦闘での必殺技から見て華音だったりするのかなと思いながら記憶を覗いていたのだけどどうにも二人とは印象が違う。

 じゃあ知らない人なのかと思って見てみてもやっぱり知っているような気がする。そんな感じでずっとひっかかっていたのだけど、死尽の言った「キュウビィ」でストンと腹落ちしたのだ。

 『キュウビィ』は『QB』。なんとなくどこからともなく魔法少女を見つけてきてはその魔法少女を奈落の底に突き落としそうなコードネームではあるが、これは私が戦技研に所属した時に魔力的には10位以内ということが解った時点で朝陽ちゃんが考案してくれたコードネームだ。

 もちろんQBはそのままキュウビーではなく、もちろんキュウベーでもなくて『クイーン・ビー』。つまり女王バチだ。私の蜂の字と司令塔の役割ということをあわせたという朝陽ちゃんが渾身のドヤ顔でプレゼンしてくれたコードネームだったのだが、ネームド制度に登録する人選は戦闘力主体で考えるという方針になったため使われることはなかったのだけど、朔夜のいた未来では私がそのコードネームを使って戦闘をしなければいけないほど人員不足だったのだろう。


「結局僕は誰も守れなかったんだよな・・・」

「でも私を守って、命を助けてくれたじゃない」

「確かに蜂子はそうだけどさ」

「詩子もそうでしょ」

「詩子もそうだけど」

「朱莉さんも朔夜のおかげで生きてるじゃないの」

「でも――」


 朔夜がさらにネガティブな何かを言おうとしたところで、私のスマホがピロンと音を立ててメッセージの着信を知らせた。


「朔夜ストップ。一応確認なんだけどさ」

「うん?」

「隊長、こんな顔じゃなかった?」

「え!?あれ!?なんで!?」


 私がお父さんにお願いして送ってもらった写真を見せると、朔夜は混乱した様子でそう言った。

 

「これ、うちのお母さんの若い頃の写真。で、私はお母さんのさらに若い頃にそっくりなわけ。これがどういうことか解る?」

「・・・・・・・・・まさか蜂子が、隊長・・・?」

「だと思うわよ。私のコードネーム候補にQBっていうのがあったし、多分それがどこかでなまったか変化したかしてキュウビになったんじゃないかな」

「酷いオチだ」


 そんなことを言いながら大きなため息をついた朔夜の顔からはさっきまであった陰のようなものが消えているように見えた。


「酷いオチだけど、素敵な今じゃないの。なんて言ったって憧れの隊長と付き合えてるんだから」

「べ、別に憧れてないし。そもそもあの人ってすごい年上だったしさ」

「初恋がキュウビと同じ歳の翠、性の目覚めが二人よりも年上の愛純さんだった人がそれを言うの?」

「ううっ・・・・・・そ、それは・・・」

「あははは、顔真っ赤!朔夜って本当にいい反応するわね」

「う、うるさい!」

「照れるな照れるな。・・・・・・あのね、あのとき朔夜がしっかり生き残ってくれたから今私はこうして五体満足で平和に、楽しく過ごせてるの」

「それは別に僕が何かしたわけじゃないだろ、父さんを助ける上でたまたま、その」

「だとしても、私はあんたがいる日常が楽しくて、何より嬉しいのよ」

「は・・・蜂子はそうやって時々直球投げ込んでくるのズルい・・・」

「あら、こういうの嫌い?」

「嫌いじゃない・・・」

「ん?」

「・・・好き、だけど」


 素直でよろしい。よろしいし可愛いんだけどこういうところがJK2の中で朔夜が一番乙女力高いんじゃないか疑惑の元な気がする。


「って、それはどういう表情なんだ、蜂子」

「あんたが私より可愛いことについて複雑な気持ちになっている顔よ」

「可愛いとか言うなよ!」

「いやでも可愛いし」

「そんなこと言うのお前だけだ!」


 いや、環も言っていたじゃないの。『可愛いねぇ、綺麗だねぇ』って。


「まあでも真面目な話ね、朔夜は誰も救えてないなんてことはないのよ。私はもちろんだし、朔夜のおかげで大江さんの野望がくじかれて平和な世界なわけよ。それで今の世界を維持して行ければ環も葉月も同じ空の下で平和な世界を生きられるわけでしょ」

「それはそうだけど」

「だからがんばりましょ。あの二人が幸せな世界で生きられるように」

「・・・僕は多分、隊長や蜂子のそういう所に惹かれたんだろうな」

「え?なに?」

「なんでもない。愛してるぞ蜂子」




 翌日。


「お、おはよーハチ」


 部屋に朝帰りすると、多分昨晩正宗と何事かあったのだろう那奈が私の部屋のベッドで眠っていて、起きるなり非常に気まずそうな、何かを『察した』といった顔をした。

 実際は那奈が察したようなことは何もなかったし、私も朔夜も清い身体のままだ。

 まあ、とはいえこういう誤解をされるのは昨日の夜部屋に戻らなかった自分が悪いのはわかっている、わかっているんだけど『お前絶対する寸前までいってなんか問題があったから私の部屋に逃げてきたんだろ』という那奈に『察し』という顔をされるのは本当に納得がいかない。

 そして何より納得いかないのは、そんな那奈から皆に『蜂子朝帰りしてきたんだよ、ヤバいよヤバいよ』という話が朝食前に広まったことだ。さすがに先生には広まらなかったのか、大人の対応をしてくれたのかは知らないけれど、特にお説教などがなかったのは幸いだった。


 そして朝食後、この旅最後の自由時間がやってきた。自由時間とはいえチェックアウトまでの一時間くらいしか時間がなく、宿の周りくらいしか見て回る時間はない。なので私達はみんな一緒にホテルからほど近い大室山に行くことにした。


「んじゃ先に行ってるねー」

「那奈も蜂子も何の用事かしらないけど早く来ないと上に登ってすぐ降りることになっちゃうわよ」


 そう言ってエリスとハナが最初にリフトに乗り


「 ♥ ♥ ♥ 」

「かわいいなぁ栄子は」


 なんかハートを振りまいている栄子と詩子が次にリフトに乗った。

 なお栄子の彼氏君改め元彼君は左右澤先輩と一緒に荷物の積み込みなんかを手伝っている。偉い。たとえ栄子と別れた手前一緒にいると気まずいからだとしても偉い。

 今この期に及んでも告白すらできず、さりとて諦めることも、彼のように作業を手伝うこともせずにウジウジしている仰木とは大違いだ。


「で、どーすんのさー、仰木」

「うーん・・・どうしたもんだろう」


 エリスに頼んで先にハナを山頂に連れて行ってもらったのはこうして那奈と一緒に仰木の相談に乗るためだったのだけど、仰木はどうにも煮え切らない様子でうんうん唸っている。


「というか、俺なんかが告っていいのか?」

「スクールカースト的にはあんたのほうが上だし別にいいんじゃないの?」

「いやそういうのじゃ・・・え、そんなのでダメとかあるの?」

「私や那奈なんかは許さん会とか作られちゃってるでしょ」


 仰木本人がどう思っているかはともかく、少なくとも私達から見れば仰木がハナに告白すること自体は何の問題も障害もないと思うし、みんなやハナ本人の話を聞いている限りハナは告られ待ちだろう。


「うーん、そう言う話じゃなくて問題は俺の気持ちっていうか」

「えー、ハナのこと興味なくなったのー?」

「いや、それはない。いや、ないって言うのは関への興味がなくなったんじゃなくて、興味がなくなることがないっていう意味でな」

「だったらさー」


 ・・・まあ、あとは那奈に任せておけばいいだろう。仰木のアレは多分最後に誰かに背中を押してもらいたいだけなんだろうし。

 ということで。


「さーくや、何してんの?」

「見ればわかるだろ。父さんと母さんにお土産選んでるんだよ」


 私が一人寂しく売店を物色していた朔夜の背中に飛び乗ると、朔夜は面倒くさそうにそう言った。


「何買うの?」

「このクッキーとか父さん好きなんじゃないかな。というか降りろ」


 そう言って朔夜が見せてくれたのは、女の子がキャンプをするアニメとコラボしたクッキーだった。

 うん、朔夜ってばよくわかってる。朱莉さん的には割とストライクのチョイスと言えるだろう。


「ふーん、いいんじゃない?柚那さんには?」

「母さんにはこっちの富士山の箸置きなんかどうかなって考えてるんだけど」

「良いじゃない。どうせなら朱莉さんとあんたの分と、将来を見越して咲月と私の分も渡したら良いと思う」

「ああなるほど・・・って、おい。咲月のはともかくなんで蜂子のが入ってるんだよ」

「だから将来を見越してよ」

「・・・・・・はぁ」


 ため息をつきながらかごにちゃんと5個入れてくれる朔夜ってば本当に可愛いなあと思う。


「ちなみにこういう時って蜂子の家にもお菓子とか買った方が良いのかな?」

「いらないと思うわよ」

「そうなのか?」

「そうなのかって言われると自信ないけど・・・私もお土産は買ってくし、似たようなおかしとかもらってもね」

「じゃあやめとくか」


 そんな話をしていると、少し離れたところで三歳くらいの女の子が私達の方をジッと見ているのに気づいた。


「ええと、どうしたの?お母さんとはぐれちゃった?」


 私がたずねると女の子はフルフルとクビを横に振った後で、朔夜の方に向き直る。そして――


「きのうはありがとうござました!」

「え?昨日?僕、君になにかしたっけ?」

「ごはんたべているときにわるいやつからみんなをまもってくれてありがとう」

「ああ、昨日のドライブインにいたのか。どういたしまして。君が無事でよかったよ」


 朔夜はしゃがんで女の子と目線を合わせてからそう言ってにっこりと笑う。


「・・・朔夜ってそんなに素直に笑えるのね」

「僕はいつだって素直に笑ってるだろ」

「いや、自発的にって話よ。流れでそういう笑顔するのは見たことあるけれども」

「あのねあのね わたし おねえさん?おにいさん?みたいにかわいくてかっこよくてみんなをまもれるひとになりたい なれるかな?」

「ごはんをちゃんと食べていっぱい運動したらなれるよ」

「わたしがんばる!」


 グッと拳を握りフンスと鼻息荒くそう言った後、「それでね」と言ってから女の子は少しもじもじとした様子で朔夜を見る。


「うん。何かな?」

「へんしん! もういっかいみせてほしい、です!」

「ああ、いいよ」


 そう言って朔夜はその場で変身してみせる。


「うわぁ!おねえちゃんかわいいねぇ、きれいだねぇ」


 変身した朔夜を見た女の子はそう言って大喜びで手を叩く。


「わたし、ほんとうにがんばるから!おねえちゃんみたいになるから!」

「あ!こんなところにいた。一人でどこかいっちゃダメって言っているでしょ」

「あ、おかあさん!」


「おかあさんじゃなくて、言うことあるんじゃないの?」

「ごめんなさい・・・」


 売店に入ってきたお母さんに叱られて、女の子がしょぼんと肩を落とす。


「もうしちゃダメだからね・・・あら?あなたもしかして昨日ドライブインで・・・」

「あ、はい。怪我とかしませんでしたか?」

「ああやっぱり。ありがとうね、あなたのおかげで娘も私も主人も無事ですんだのよ」

「いえ、そんな。当然のことをしただけで」

「この子ったら、ものすごく感動しちゃってね、昨日から『もしおねえちゃんに会えたらお礼を言うんだ』ってずっと言っててね。()、ちゃんとお礼言えた?」

「うん!ちゃんとおれい いえたよ! ね?おねえちゃん・・・あれ?おねえちゃんなんでないてるの?」


 環ちゃんという名前の女の子は少なくはないだろう。

 だとしても

 それでも朔夜は昨日、環を救ったのだ。


「どこかいたいの?だいじょうぶ?」


 朔夜は袖で涙を拭ってから、心配そうな顔で朔夜の顔をのぞき込んでいた環ちゃんに私が今まで見た彼の笑顔の中で一番やさしい笑顔を向ける。


「そうじゃないんだ・・・環ちゃんが無事だったことが嬉しいんだ。すごくすごく嬉しいんだ。元気でいてくれて・・・・・・生きていてくれてありがとう、環ちゃん」


 






このくらいのご都合主義はゆるしてやってください。

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