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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第二章 朔夜編

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ex.修学旅行に行こう~準備編4~


 賽は投げられた。

 いや、投げられてないし、投げられる予定もなかったかもしれないけれど、私が投げることにしたのだ。




 ショッピングの後、左右澤先輩にエリスとハナをJK寮まで送らせる役(という名の監視)をお願いした後で、私はテレパシーで呼び出した朔夜達のチームと学校の部室で合流した。


「それで?ショッピングが終わったら部室に集合ってだけ聞いてたけど、僕達に一体なんの用なんだ?」

「いや、朔夜がすごくさみしがっているみたいだったから、蜂子さんも合流してイチャイチャしてあげようかと」

「どこにいても心読むのやめてくれませんかね!?」


 あ、マジでそんな感じだったんだ。

 最初の翠とのやりとりはお互いの位置がそんなに離れてなかったからうまく読み取れたものの、その後離れるにつれノイズが多くなって読み取れなくなっていったので、そこで能力は切ってたんだけど、私が読んでいない間も朔夜がそんな風に思ってくれていたというのは・・・まあ、非常に嬉しい。


「本当にさぁ、心安まらないんだよ。数百メートル離れていても割り込まれるとか思考を読まれるとかさ」

「朔夜、蜂子の能力は実はそこまで強くないの。あれだけ人の多いところなら特定の人間に絞って干渉できるのはせいぜい10メートルくらいなの」


 実際はもう少し頑張れるけど、さすがは翠。大体正解だ。

 さっき朔夜と正宗の会話に割り込んだ時も、実は上の階にいて距離も10メートル離れてないくらいのところから割り込んだし。


「は!?じゃあ蜂子はずっと僕の後をつけてたのか!?」

「そうじゃなくてカマかけだと思うの。ね?蜂子」

「正解。さすがは翠」

「まったく、まんまと引っかかってたら世話ねーの」

「いや、でもさっき翠は『今頃蜂子は怒ってペットボトルを粉砕してる』って」

「朱莉といい朔夜といいなんでいつも私を巻き込もうとするの!!!」

「ほー、私がペットボトルを粉砕するほどのことをしたの?誰と?翠と?」

「な、那奈にしようとしたの、私は関係ないの」

「お前っ」

「蜂子の目が笑ってねーの。私は朔夜と心中する気はねーの。蜂子、私は関係ないの、朔夜が那奈の弱みにつけ込んで胸を揉むとかなんかそんなことを言っていただけで――」

「そっかそっかー・・・でもね翠、『蜂子がいないし今日は朔夜をからかって遊ぶの。ちょっとした火遊びになったらそれはそれで面白いの』って、最初の方であんたが考えてたアレについても私怒ってるから」

「ひぇぇっ、あ、あれは違うの。有閑マダムのお遊びなのっ、別に本当に朔夜と何かしようとか考えてたわけじゃないの」


 それが気にくわないって言っているんだけど。本当にこの子は頭良いはずなのにその辺が全くダメねぇ。


「それよりさ、結局ハチはなんであーし達を呼んだの?」

「ああ、そうだった。それはね――」


「(ふう・・・助かったの)」

「(バカ、余計なこと言うな)」


(二人にはあとで話があるからこの後残るように)


「「ヒエッ!?」」


 ヒエッじゃねえよ、なんで終わったと思ってるんだよ。


「で、皆に集まってもらった理由なんだけどね、みんなはハナのことどう思う?」

「どうって、いい奴じゃん?」

「俺にとっては妹みたいな存在だな」

「いや、正宗は前にそれで揉めたでしょうが」

「俺の方が強いんだから兄でいいだろ」

「はあ・・・まあ、今はそれはどっちでもいいからおいておくとして、朔夜と翠は?」

「もうちょっと青春すれば面白いだろうにと思うの」

「具体的には?」

「誰かと一夏のアバンチュールしてみるとかなの」

「まあ、翠のが一番近いかな。じゃあ言っちゃうけど――」

「アレ!?僕の意見は!?」

「いや、もう翠がほぼ正解みたいなの言ったし。でね、さっき左右澤先輩と二人で休憩してたら面白い思念をキャッチしたのよ」

「ちょっと待て蜂子、なんで蜂子が左右澤先輩と休憩してたんだ?」

「内緒。でも別にどこかの誰かさんたちみたいに手とかつないでないから大丈夫よ」

「ぐっ・・・」

「朔夜ぁ、人妻に手を出すのはちょっとマズくない?」

「さすがの俺もちょっと引いてるぞ」

「違うから!そういうんじゃないから!というか、脱線してるぞ蜂子!」

「はいはい。でね、つまり早い話がハナに彼氏を作ってあげようって話なのよ」

「いや、作ってあげると言っても関の彼氏になりたい男がいないと始まらないんじゃないのか?」

「そこで、私が受け取った思念ってわけよ」


 私の受け取った思念の主は隣のクラスの仰木・・・下の名前は忘れた。

 彼は去年私達と同じクラスで現在サッカー部のそれなりにイケメンの男子だ。

 正宗が転校してくる前や朔夜の顔の良さが広まる前はクラスの女子の人気を独り占め・・・とまではいかないものの、わりと多数の女子が好意を寄せていた。そんな男子だ。

 そんな男子が何故ハナに好意を寄せているのか、私の魔法ではそこまではわからなかったが、彼がハナに好意を寄せているのは間違いない。


「うーん、でもなんで風馬がハナと?あいつならもっとこう、性格がきつくない子もおっぱいの大きい子も選び放題だろうに」


 私の説明を聞き終わった正宗はそう言って首をかしげた。っていうか、風馬って言うんだな、下の名前。


「それを言ったらあんただってなんで那奈なのって話になるでしょ」


 別に那奈の性格がきついとかおっぱいが小さいとは言わないけれど、正宗はそれこそ千鶴やみつきクラスを狙っていけるだけの顔面スペックは備えているんだから。


「そりゃあ俺が那奈のことが好きだからとしか言えないけどさ」

「わーい!あーしも正宗愛してるぅ」


 ま、バカップルのイチャイチャは放っておくとして、だ。


「私はさ、やっぱり周りがカップルばっかりっていう状況はハナもあんまり居心地よくないんじゃないかなって思うわけよ。ましてやそばにいるのは顔面偏差値学年1位の正宗と、同級生にオギャりたくてしかたないとはいえ、結構上位の顔を持つ朔夜でしょ中途半端な男子じゃ逆にアレかなっても思うわけよ」

「あれ?でもさでもさ、こう言っちゃうのはどうかと思うけど、エリスの彼氏の左右澤先輩は」

「あの人アレで結構性格イケメンだから。あと、好みの問題でああいう濃い顔が好きって人もいるからね。私も別に嫌いってわけじゃないし」

「あー、わからないでもないの。あの人なんだかんだで結構いい人なの」

「・・・な、なあ蜂子?やっぱりお前左右澤先輩と何かあったんじゃないのか?なあ」

「内緒」

「蜂子ぉ・・・」


 くっくっく、悩め苦しめ。『なんとも思ってないよ』とか言っておきながら翠にちょっと惹かれた罰だ。


「つまり蜂子はそんな素敵な三人の男子に引けを取らない彼氏を作ってあげることでハナが居心地悪くならないようにしようとしているってわけなの?」

「平たく言っちゃえばそうよ。翠は既婚なんだし、その辺は別に大丈夫でしょう?」

「まあ確かに私はそこは別に気にならないの」

「あーしはいいと思うよ、確かに一人だけ彼氏いないとかだと話に入りづらい部分もあるだろうし」

「俺は華絵の気持ち次第って気がするけどな。あいつは別に自分に彼氏がいようがいまいがそんなところで遠慮なんてしないだろ。エリスと先輩のデートにも普通についていったりしてるし」


 いや、それはそれでどうなんだろうか。

というか、普通に三人の性格を考えればハナとか左右澤先輩の問題ではなくエリスの問題のような気がするので、ハナが遠慮しない性格ということにはならないような気がするけれども・・・あ、これもう一回朔夜の動揺を誘える奴だ。


「それって、エリスの性格もあると思うし、左右澤先輩の男気?優しさみたいなのも関係してるんじゃない?それにやっぱり三人で行動するよりダブルデートの方が行動しやすいと思うしね」

「は、蜂子?」


 よしよし、いい感じに引っかかってるな。だがここはあえて放置だ。

 放置しておくことで朔夜が悶々とするはずだ。


「まあ、そう言われると確かにエリスが一緒に来るように言って、華絵はそれに従ってるだけって気がしないでもないかな」

「でしょ?」

「というか、私は単純に彼氏が出来たハナがどんな反応するか見てみたいからハナに彼氏作るのには賛成なの」

「翠が今良いこと言った。どうよ正宗」

「うーん、まあ確かにそういう華絵は見てみたい気がする」

「あーしはさっきから賛成だから、これで全員賛成ってことでOK?」

「朔夜が意見表明してないの」

「僕も別にそれで構わないと思うけれど、それより蜂子――」

「はい。じゃあ全員一致ということで今日はここまで、明日どこかの休み時間に仰木に話を持ちかけてみるってことでいい?」

「オッケー」

「いいと思うぞ」

「楽しみなのー」

「・・・・・・」





 まずい。

 まずいまずい

 この方向性はまったく考えて居なかった。

 そりゃあ、左右澤先輩とのことを匂わすだけ匂わせたら多少気まずくなるだろうことは予想していた。とはいえ私の予想では、その気まずさに耐えかねた朔夜がヘタレてきていつもの流れでうやむやになりつつも、朔夜は私に対する執着を高める・・・となるはずだった。なのに何故!?何故朔夜の中で私がとんでもないビッチという認定になってしまったんだ!?

 

「ええと・・・さ、朔夜くん?」

「はい、なんですか(左右澤先輩と良いことして楽しんだに違いない)蜂子さん?」


 なまじ本音が見えるだけに、笑顔と敬語が辛い。

 でもだめだ。ここで誤解を解いてちゃんと謝らないと、私達は本当にダメになってしまうだろう。


「え、ええと。多分朔夜は誤解してるんじゃないかなあって思うんだけど」

「誤解?(はっ、何言ってんだか。どうせ今までも左右澤先輩だけじゃなくて、もっと他の奴とも色々してんだろ。正宗とか、さっき話に出ていた仰木とかそのへんとも!)」

「だから、それは誤解で」

「それはって、どれのことですか?(げーっ、また心読んでるのかよ、ほんと懲りねえなこいつ)」

「っ・・・」


 確かに、この現状は私が調子に乗って魔法を自分勝手に、自分のために使って朔夜を都合良く動かそうとした結果だ。だから懲りないって言われるのもその通りだ。

 そして、朔夜の誤解を解きたいと、そう思っているこの期に及んでもまだ私は能力を使ってズルをしようとしていた。


「ごめん・・・」

「?」


 『そんなこと言いながら、まだ魔法使っているんだろう?』だろうか。それとも『気持ち悪い、近寄るなビッチ』だろうか。

 半年と少し前には当り前だった、相手の本音が見えないというのがこんなに恐ろしいなんて


「今、魔法使ってないから的外れなこと言うかも知れないけど、本当にごめん。私、朔夜が慌てたりとか、嫉妬したりとか、そういう気持ちになるのをみて楽しんでた。そんな酷いことしても悪意を向けない朔夜に甘えてた」

「・・・・・・」


 その表情はどういう表情なの?困惑?軽蔑?哀れんでる?怒ってる?


「本当に酷いことしたと思う・・・本当に、本当にごめん」

「はあ・・・蜂子」


 一つため息をついた後、朔夜は自分の胸をトントンと叩いた。


「・・・いいの?」

「いいよ」


(今回は僕の勝ちだな)


「は?」

「蜂子が僕の心を読んで調子に乗っていたのは解っていたからな。今回はそれを逆に利用させてもらったってわけだ。これに懲りたら僕のことをあんまりからかわないようにな」

「・・・・・・」


 ほーん・・・。


「まあ、僕くらいになると、ああやって自分の心を偽ることも・・・いひゃいっやめおっ!ほおおひっはるは!!」

「あんたは!私がどんだけ・・・・ほんとさぁ・・・」


 私が言えることじゃないのは解ってるけど、私がどれだけ・・・いや、私が悪い、私が悪いんだ。

 私に朔夜を責める権利なんてない。


「・・・ごめんな。今回は僕もちょっと意地悪しすぎたと思う」

「う゛う゛ん、わ゛だじがわ゛る゛がっ・・・」


 ダメだ、絶対今の私は可愛くない。ちょっと落ち着こう。せめて泣きそうなのをなんとかしてから――


「蜂子も僕も同じくらい悪かったってことで、今回は仲直りだ」


 そう言って、朔夜は私を抱き寄せた。


「心を読むなとは言わないけど、そればっかりに頼らないで、ちゃんと僕やみんなと向き合ってほしいんだ。そうじゃないと、僕らは無意識に頼ってしまうことが多くなるかもしれないし、いつか蜂子と距離をおかなきゃいけなくなっちゃうかもしれないからさ」

「朔――」

「それと、泣かせてごめんな」


 うう・・・なんだよこいつ・・・こいつイケメンかよ・・・もう、本当に、本当にこいつはぁぁぁっ!


「ほんっとうに!そういう所よ!ほんと!!朔夜はね、そういうとこなのよ!!」

「え?僕、今なにか失敗したか?」

「あんたのそういうところが好きって話よ!!!」

「なんでキレてるんだよ!!」

「キレずにこんなこと言えるかああっ!もうほんと朔夜好きいいいいっ!!!」

「キレるかデレるかどっちかにしてくれ!」


蜂子が強すぎるのでちょっと弱体化調整。

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