ex.パパママ懇親会 3
「という感じで、さっきまで子供達の話をしていたんだけどさ。あかり達の世代ってどうなんだ?」
「いや、世代っていう意味だったらおにいちゃんとこの心もひなたさんとこの花月もうちの子達と同じ歳じゃん」
「いやほら、学区が違うと全然事情がわからないじゃん?」
灯騎とは親戚なので良く会うが、隣の学区とはいえ真白ちゃんちの白音ちゃんとか静佳ちゃんちの栗ちゃんとはほぼ接点がなかったりするし。
「それは朱莉さんが鈍いというか、把握してないだけだと思う」
「そうそう、子供同士は案外交流あるし、話も入ってきますよ」
「え?そうなの?ひなたさんは聞いてます?」
「・・・・・・」
「ひなたさん?」
「花月に聞いたかもしれないんだが、最近子供の名前が覚えられないというかしばらく会わないと名前と顔が一致しなくなったりしてな・・・。よく会う子とかは大丈夫なんだけど」
「わかるけど悲しくなるんでそういう話やめてください」
おじいちゃんかよ!と笑えない自分がちょっと悲しい。
俺も毎日顔を会わせるような生徒はともかく、何度か話したことがあるなぁくらいの生徒だと名前と顔が一致しないこともままある・・・いや、時々宇佐美姉妹がどっちがどっちか解らなくなるときもあるし、もうおじいちゃんだな、俺もひなたさんも。
「我は名前聞いてもさっぱりわからない!」
いやまあ、えりはそうだろうさ。
「でもあれだよね、最近の子は初恋早いよね。灯騎は幼稚園のころから花月のことが気になってるみたいだし」
「あら、そうなの?」
「うん。この間も誕生日プレゼント持って行ってたし」
「へえ、ませてるわね」
「あれ、でもあかりって幼稚園の頃和希と付き合ってたんじゃなかったっけ?あかりのほうが早くない?」
「うーん、私達よりガチかなって感じ。同じクラスなせいか、逆に灯騎からあんまり聞かないんだけど、白音ちゃんと栗ちゃんは恋愛事ってどうなの?」
「うちは花よりだんごって感じで、ケーキ作りするほうが楽しいみたい」
「白音もどっちかというとお手伝いの方が楽しいみたいで、バックヤードで色々お手伝いしてくれてるわね。将来はママみたいな経営者になるんだー。栗ちゃんと働くんだーって」
「ああ私もそれ聞いた。将来白音ちゃんとこで修行するんだって」
「あれ?真白ちゃんとこの社長って和希じゃなかったっけ?」
「そうなんだけど、和希は外回り行ってる方が多いから白音から見るとあんまりそう見えないのかも」
「なるほどな」
人生色々。同じ歳でも子供も色々だなあ。
白音ちゃんや栗ちゃんの話を聞くと、心はまだまだ子供なんだなあって感じだし。
「そういえば花月が『心ちゃんモテモテなんだよー』って言ってたけど、そうなのか?」
「ああ、なんか正宗のとこの宗近とエリスの所の夜に取り合いされてるとかなんとか、蜂子が言ってましたね」
「なになに?うちの子の話―?」
バイトの子と一緒に料理を持ってきてくれたエリスがそう言いながらテーブルの上に配膳をしていく。
和食から中華、洋食まで、基本的にはこれ全てエリスが作っていると言うのだから恐れ入る。
「いや、夜と宗近が心を取り合ってくれているって話よ」
「ああ、その話か。なんか心ちゃんはそんな二人をみて真白的な方面に目覚めかけてるとかってハチが言ってたけど」
「なるほど、蜂子先輩の娘は腐の者か。まあ誰しも通る道よの」
「うんうん、あたし達も昔正宗と朔夜で色々妄想したもんだよー」
「あの、エリス先輩?そろそろその・・・私をそっち系の代名詞みたいに言うのやめてもらえませんかね」
いや、何言っているんですか腐女子先輩。
いつの時代も腐女子先輩がそっち系の代名詞に決まってるじゃないですか。
フォーエバー腐女子先輩。
「いやいや、やっぱり腐女子といえば真白っしょ。あ、あたしちょっと休憩がてらみんなと話してくから、作り置きと住くんで対応できない注文が入ったら呼んで」
エリスはそう言ってバイトの子を下に帰すと俺の横に陣取る。
「そうそう、子供と言えば真白二人目ができたとか聞いたけどほんと?」
「あ・・・ええ、まあ」
エリスの問いに、ちょっと照れくさそうな笑顔を浮かべる真白ちゃん。
なるほど。それでさっきから真白ちゃんだけウーロン茶だったのか。
「なんだかんだ熱いよね、真白のとこって」
「いいなあ、うちも灯騎が親離れ始まっちゃって寂しいから二人目作ろうかな」
「実はうちも栗が弟か妹がほしいって言っているから考えてるところ。真白の予定日はいつなの?」
「3月末ね、もしかしたら4月にかかるかもって感じだけど・・・和希にはそれまでにもうちょっとしっかりしてもらわないと」
「でも4月になるかもってことは、今からならまだ同学年の可能性も残ってるわけだ」
「今日から始めればあるいは」
「うーん、うちも住くんとか翠に相談してみようかなぁ」
まあ、同学年に子供が固まってるとお互い色々融通し合えたり面倒見合ったりできて楽っていうのは俺も咲月の時でわかったから、あかりと静佳ちゃんの気持ちはわからないでもない。とはいえ――
「左右澤君はともかく、エリスはなんで翠に相談なんだ?」
「あたしが抜けたらこの店立ちゆかないもん。だから二人目は体外妊娠かなって」
「ああ、なるほどな。確かにエリスが抜けたら左右澤くんだけでこの店を維持するのは難しいだろうし」
「まあ料理は一次的に煮物とかの作り置きできるものだけにするとか、誰かにヘルプで入ってもらえればできるけど接客がね。バイトちゃんがもうちょっと育てばいけると思うけど、まだちょっと不安だから」
ああ、なんかこう。大人になったんだなって感じ。
真白ちゃんもエリスもしっかり経営者の顔だし、あかりも静佳ちゃんもしっかり主婦の顔だ。高校生の頃のあどけない彼女達を知っている身としては寂しいやら嬉しいやらと言った感じだ。
「ひなたさんとこはどうなんです?」
「え?何が?」
「次の子」
「いやあ、みつきと茉莉花のとこはよくわかんないな。なんだ?朔夜のとこは次の子できたのか?」
「いや、じゃなくてひなたさんと一美さんの話」
「いやいや、うちはもうないだろ」
「そうなんです?この間柚那がイズモちゃんと三人で話してたときそんな話題になったらしいですけど」
「ええ・・・じゃあお前のとこも三人目行くのか?」
「朔夜は成長してからうちに来たんで、なんだかんだ男の子は育ててないですからね。興味がないと言ったらウソですけど・・・」
「ああ、言いたいことわかるわ。今からもう一回乳幼児の相手しろっていうのはキツいよな・・・」
子供の相手をするのは好きだし、育児にも前向きであるものの、やっぱり体力的な衰えってやつはあるわけで・・・え?魔法で身体能力のブースト?そんなもん子供だってしとるわ!
「やだもう。二人とも言ってることがおじいちゃんみたいだよ」
「いや、そうは言うけどなエリス、実際俺とひなたさんはもうおじいちゃんなわけだよ」
孫いるしね。その理論で行くと狂華さんもだけど、まあそれはいいや。
「え?あ、そっか。心ちゃんと花月ちゃんって孫だもんね」
「だからまあ、これからもう一人ってのはちょっとキツいな」
「でもさ、お兄ちゃん。そういう話が出るってことは柚那さんと一美さん的にはもう一人くらいほしいんじゃないの?二人が死んだ後の生きがいっていうかさ」
「「そこまでおじいちゃんじゃねえよ!!」」
「・・・はっ!そうだ!!我はあかりの子と結婚したらよいのではないか!?」
「いや、灯騎は年相応に若い子が好きだから昔のえりならともかく、いまのえりだと厳しい」
「ぐぬう」
しばらく黙って飲んでいたえりがとんでもないことを言い出したが、あかりの一言で撃沈した。
「というか、それ前にエリスが似たようなこと言ってなかったっけ?」
「ちょ、なんでこっちに飛び火させたの!?っていうか、あれは養子を取って自分好みに育てるって話だったじゃん。えりのとは全然違うよ」
うん、全然違うけど、エリスの言ってたことのほうがヤバいからな。
「なるほど、では我は養子を取って月に連れて帰るか」
「やめなさい。なんか一周回ってその子が女嫌いになりそうだから」
「なぜだ!?きれいどころがよりどりみどりだぞ?」
「いや、それだとやっぱりえりの出番がないんじゃない?というか、えりのそばにいるってことは大なり小なり命の危険があるわけだから、女は怖いものみたいな刷り込みがされるんじゃない?」
「むぅ・・・確かに静佳の言う通りかもしれない」
えりがシスターの役職を下りて婚活に力を入れられればいいんだろうけど、人材的に難しいらしいしなあ。
「むしろ、えりの後釜に誰か据えてこの街で暮らすことはできないの?灯騎とは無理でも、普通にえりのこと好きになる人の一人や二人いそうだけど」
「ほんとに!?」
「見た目は悪くないし。ねえ、真白ちゃん、静佳ちゃん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「え、エリス先輩はそう思いますよね?」
「ええと・・・」
「え、ちょ、お兄ちゃんとかひなたさん的にどう?男性の視点でさ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
あかりの問いに頷く人間は、この場には一人としていなかった。
「うわあああん!やっぱり灯騎を月に連れていくぅっ!」
「そういうところよえりちゃん」
「えりはほんとそういう所」
「そういうこと言うならやっぱ協力しないわ」
なんというか。女の友情のもろさを見た。
ってか三人とも真顔怖いです。
オチはないです。緩く終わります




