ex.パパママ懇親会 2
喜乃多め。楓少なめ。
虎徹彩夏。
本名、旧姓から変わらず大引彩夏。
斗真が婿養子に入ったにもかかわらず、虎徹という名字がかっこいいからという理由で、わざわざ通称として虎徹姓を名乗っている、ちょっとぶっ飛んだ女性。
喜乃君は彼女のことを甘く見ていた。
いや、喜乃君だけではない。俺たちも甘く見ていたと言って良いだろう。
いい歳こいた俺たちは・・・いや、いい歳こいた俺たちだからこそ他人の家庭のゴシップネタは大好物で、そういう話にわりと寛容な彩夏ちゃんとこまちちゃんが相手という今日この日は、ゴシップネタや下ネタを振っても許される。
そんな甘い考えがどこかにあったのだろう。
「――それで、その時私が知的好奇心を満たすために斗真さんにしたことと同じようなことを永も響にしてみたいって言ったんですよってだけの話なんですけどね。ああ、もちろんその手前のあれこれはなしでなんですけど」
彩夏ちゃんがそう話し終えたて紙コップに手を伸ばしたとき、俺を始め、元男性魔法少女の面々は、もうそこにいない息子を守るように両手で股を隠していた。
久しく味わっていなかった玉ヒュン。おびえた息子が文字通り縮み上がるあの感じ。
ああ、そうか。これが幻肢痛。
すごいなあ、彩夏ちゃんは。トークだけで全員に幻肢痛を味合わせ・・・なんでもともと生えてなかったはずのこまちちゃんまで股間をおさえてるんだろうか。
「でも斗真くんはほら。結構頭おかしいところあるから、『彩夏ちゃんが望むならいいよ』とか言ってくれちゃって。ほんとあの人私のこと好きすぎでぇ」
なんか満足げにノロケ話したったみたいな顔してるけど、それノロケ話じゃないからね。ただのエログロヤンデレ話だから。
「あとはそうですね。永のオリジナルというか、その事件の前に、一回響が泣きながらお風呂を飛び出してきた時の話は――」
「もういい!もういいから彩夏。ごめん、僕が悪かった。僕が悪かったからもうやめて」
股間をおさえ、若干腰がひけている喜乃君がそう言って彩夏ちゃんの話を遮った。
「そう?じゃあ次は誰にしようか」
そう言って彩夏ちゃんがみんなの顔を見回すと元気よく手を上げる人間が一人。
「はいはい、私私」
「こまちさんとか確実に地雷だし、僕的にはできれば他の人がいいんですけど・・・」
「ん?」
「な、なんでもないです」
「ああ、そういえば喜乃君はセナに恋してたことがあったんだったよね」
「昔のことですよ、昔のこと」
まったく昔のことって感じじゃない顔で喜乃君が目をそらす。
まあ、昔のことでも好きだった子や付き合った子のことが忘れられない。なんだったらそこまで好きじゃなかったり、付き合ってないあの子やその子のことも忘れられない。
それが男ってもんだもんな。解る。解るぞ喜乃君。
「・・・ベッドの上のセナのこと、教えてあげようか・・・?」
「えっ!?」
おい。わかりやすく鼻の下が伸びてるぞ喜乃君。
「でもそんな話聞いちゃって大丈夫かなぁ?好きだった子のそんな話を聞いて興奮しちゃったりしたら・・・変な性癖に目覚めちゃうかもしれないよ?」
耳元で艶っぽくささやくこまちちゃんの声に、ゴクリと生唾を飲む喜乃君。
そして――
「通報しました」
「そんなー」
無慈悲にこまちちゃんに自分の端末を放る彩夏ちゃんからの、受け取った端末の画面を見て青くなるこまちちゃんというここ数年わりと見た光景が繰り広げられる。
「ちょ、彩夏ちゃんこれどうすんの!?セナマジギレしてんじゃん!!」
「知りませんよ。自業自得じゃないっすか」
彩夏ちゃんによって喜乃君の性癖は守られた。めでたしめでたし。
「なんで自分は関係ないみたいな顔してるんです?こまちさんはリタイアですけど、私が話したんだから狂華さんとひなたさんと朱莉さんもちゃんと話をしてくださいよ」
「いや待て彩夏。それならまず楓からだろ!?」
「いや、楓さんとこってあんまり面白い話なさそうじゃないですか。この人浮気とか絶対しないし、性癖もドノーマルでしょ」
「はいはーい、ボクもしないよー」
「ああ、確かに狂華さんもしないですよね。まあ、うち以上にアブノーマルなことしてそうですけど」
「そ、そんなことないよぉ」
幼女先輩は一体なにを思い出して恍惚とした表情になってるんですかね。
「ちょっとまて彩夏。それだと俺と朱莉は浮気するみたいに聞こえるぞ」
「別にガチで浮気したって話じゃなくてもいいんですよ。一緒にいる同僚女性にちょーっとこころときめいちゃったーとか、相手の弱みにつけこんで身分を隠して娘の同級生の母親とデートしたーとか」
おい待て。その悪意ある誇張が見られる話は一体誰のことを言っているんだ?そして君の後ろで端末とにらめっこしている眠れる猛獣に何をさせる気なんだ?
いやまあ、確かに言い方によってはそういう見方もできなくはないけど、俺はやましいことを何もせずに彼女をちゃんとエスコートし、息子のことで悩む彼女の相談にきちんと乗り、子供達が寝る前にちゃんと家に送ったし、自宅に帰ってから柚那With蜂子のチェックも受けてセーフの判定も受けている。
なによりもう数年前の話なわけで――
「「もう時効だろ?」」
期せずして俺とひなたさんの声がハモる。
「「ほう、ひなたさん (朱莉)は心当たりがあると」」
「やだなあ何言ってるんですかひなたさん、自分が後ろ暗いことがあるからって俺まで同じだと思わないでくださいよ」
「確かに昔の俺はそんなこともあったかもしれないけど、今は一美一筋だからな」
「「ははははははは」」
「そんで彩夏、実際どうなんだ?」
「どうなんですかね。朱莉さんは数年前に華絵ちゃんとデートしたりしてたけど、ひなたさんのほうはノーデータなんで」
「というか、そのデートの件は蜂子に調べられて白判定だったんだから、いつも彩夏ちゃんと行ってるランチと変わらないからな」
「俺だって一美同伴で飲みに行ったことはあってもそれ以上はない」
「え?一美さん同伴で気になる子とデートしたんですか?」
「一緒の席じゃなかったけどな」
あ、プロストーカーの方ですね。はい。
まあ、ひなたさんちは陽奈さんにしろ花月ちゃんにしろ見てくれる大人にことかかないから、一美さんは結構自由に動き回れるよな。
「なんかあれだな。旦那も大変だな」
「若くて可愛い奥さんがいるのに浮気なんかしようとするからだよ?」
「というか、僕ちょっとついていけてないんですけど、それって奥さんずっと黙ってついて来て、最後に家に帰ってから怒られたとかなんですか?」
「いや、後ろの席でずーっと息を殺してこっちの会話を聞いていて、最後にデート相手に挨拶して帰って行ったよ。すっげえにこやかに・・・」
怖い。柚那も怒らせると怖いほうだとは思うけど、一美さんのほうが数段怖い。
「あー、でもそういう話、ちょっと前にボクも礼に聞いたかも。なんか咲月ちゃんから聞いたとか言ってたんだけど」
「咲月ですか?」
「ええと・・・ほら、翠のとこのハレちゃんとチアキのとこの唯くんが付き合ってるでしょ。それで唯くんが他の女子生徒と一緒にいたりするといつの間にか後ろにハレちゃんが立っているとかなんとか」
「ああ、それあたしも聞いた。紅葉がやられたらしくて『あたしが後ろを取られるなんて・・・』とか言って落ち込んでてさ」
「・・・もしかして、紅葉が最近やたらと雅喜の後ろに回ってカンチョーを狙うのって」
「修行だって言ってたな。『いつかハレ先輩の後ろを獲る』って息巻いてたし」
紅葉ちゃんが本気でハレちゃんにそんなことしたら大問題になりそうなんだけど大丈夫だろうか。
あと、後ろを獲るだと百合というか菊というか。なんか色々危ない感じがする。
「うちの息子がそっち系の変な趣味に目覚めたらどうするんですか!今だって『紅葉姉のそういうとこ、きらいじゃないんだ』とか言ってはにかんでるのに!」
「え?目覚めたら普通に喜乃になるんじゃない?」
「彩夏は僕のことそんな目でみてたの!?」
まあね。普通に紅葉ちゃんの子を雅喜くんが産むんじゃない?って感じだよね。
◇
帰って子供達のご飯をつくるという狂華さんと喜乃くん、それにセナのご機嫌伺いのためにさっさと帰らなきゃいけないというこまちちゃんと別れ、さらにまだ今日の仕事が残っているという彩夏ちゃんと楓が離脱し、残った俺とひなたさんは二人で飲みに行くことにした。
会員制と言ってしまうとちょっと大げさだけど、2階席はなじみの客だけ通すという居酒屋、『左右村』は元戦技研、特に15年前あたりに所属していた初期メンバーのたまり場のようになっている。
「ふはははは、いらっしゃいであるぞ」
「ちょっと、住くん。それお客さんに評判わるいから辞めてって・・・ああ、朱莉さんとひなたさん。いらっしゃい」
出入り口に一番近い場所で焼き鳥を焼いていた左右澤君が俺たちを出迎えてくれた後、奥から女将兼料理長のエリスが出てきてそう言ったあと、ジェスチャーで『2階にする?』と聞いてきた。
俺とひなたさんは軽く頷いてからカウンター席の後ろを抜けて、2階へ。
大体、いつでも誰かしら顔見知りがいるので、二人で一緒に飲んだりして友達に噂とかされると恥ずかしい相手と飲むときにはもってこいの場所だ。
そんな場所にいたのは――
「お。今日はJK1か」
「やだ、それもうかなり昔の話ですよ、朱莉さん」
「おひさしぶりであるな、朱莉さん」
「わーい、お兄ちゃんとひなたさんなら飲み代を遠慮なくたかれる!」
「これは、スイーツと焼き鳥食べ放題の予感・・・!」
順に真白ちゃん、えり、あかり、静佳ちゃんである。
俺とひなたさんは荷物を座敷の端っこの方に置いてから、四人が飲んでいるところにテーブルをくっつけて座った。
「というか、えりはいつ地球に下りてきたんだ?」
「シスターリオがまたミスター理央のところから出戻りしたのでな。暇をもらって下りてきた。まあ、最近またちょっと情勢が不安定だが、聖さんがついてるし大丈夫だろう」
それは聖の胃が大丈夫じゃない奴ではないだろうか。
「それに私もそろそろ子をなさなければと思っているしな」
「ということは、そういう相手がいるんだ」
「はっはっは・・・実はいないのだ。昔はシスターリオや聖さんのことを行き遅れだなんだかんだと言っていたがシスター業務は激務でな。出会いとは無縁だわ、いつのまにか同級生はみんな母親になっているわで、これでも結構焦っているのだ。そこでモノは相談なのだが、もしも朱莉さんのところやひなたさんのところで同じ歳くらい・・・いや、ちょっと若いくらいの良い感じの男性がいたら紹介してもらえないだろうか」
「うーん・・・うちの学校ってほぼ戦技研出身者だからなあ」
元女性の比率が高い上に、若く見えるが平均年齢もえりより結構上だ。
「ひなたさんとこはどうっすか?若い警官の子とか」
「うちも若いのとはあんまり接点ないからなあ」
「やっぱ署長さんってそんな感じなんですね」
「お前のとこもだろ?」
「そうですね。実務は大体彩夏ちゃんに任せて、俺は愛純と二人でキメラプロジェクトのほうやってるんで、新任の子なんかとはあんまり接点ないですね。むしろ校長なのに生徒との接点のほうが多いくらいです」
「くっ・・・何故私には良縁がないんだっ」
「学生時代に山ほどラブレターもらってたのに、真面目に取り合わないで友達の彼氏にコナかけてばっかりいたからでしょ」
冷たくそう言って静佳ちゃんがジョッキを空ける。
「うぐぅ・・・」
「あと、昨日うちのホテルで夫婦揃って部屋に呼ばれたと思ったら『和希の子種だけでいいからっ!』ってベッドの上で土下座された件は和希も私もドン引きしたからほかでやっちゃだめよ?」
「うわあ、それはないわ・・・」
「・・・間違ってもうちにきて店先で和幸の子種がどうこうとか言わないでね。子供の教育に悪いから」
「だってだってぇ」
ああ、なんだかえりが可哀想になってきた。
「ええと。俺が紹介できる相手はいないけど、朔夜とか蜂子に聞いてみようか?」
「うわあああん、朱莉さん優しい!好きぃ!結婚してぇっ!」
「ごめん。俺は既婚者だし君とは親子ほど歳が離れているからちょっと無理だな」
「うわぁぁん」
「というか、あかりと真白と静佳にはいないのか、そういう男」
「うちの同年代の従業員はほぼ既婚者ですし」
「私はほぼ専業主婦だから、あんまり外で男の人と会わないから人脈がない」
「私も旦那とお義母さんと三人でお店にいることが多いからそういう知り合いいないです」
「はっ!散々くさしてくれたけど、お前達だって私とあんまり変わらないじゃないか!」
そう言って突然立ち上がり、高笑いをするえり。しかし――
「あら、0と1は大きな違いよ?」
「大切な人が一人いれば十分でしょ」
「愛する夫と優しい義母と可愛い娘の他になにが必要なの?」
「くそがぁっ!!」
・・・・・・なんていうか、そういう怒り顔しちゃうからダメなんじゃないかな。えりは。
ネタが思いついたときにexは続けるとして、並行して次に書くのを魔法少女はじめましたNG(ネクストジェネレーション=咲月達)にするか魔法少女はじめましたJK(朔夜達)にするか。それとも温めていた新作にするかで悩む。
あ、もちろんexは最低500話までは行きます。




