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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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しあわせ家族計画

それは武闘会の収録の次の週の土曜日のことだった。

 撮影のために赴いた学園で、俺はこの場にそぐわない子を見つけた。

「あれ?みつきちゃん?」

 彼女は武闘会をきっかけに劇中で劇的な復活を遂げたものの、普段の出番はないということで、基本的には撮影には来ないという話だったはずだ。

「おーい、みつきちゃーん!」

 みつきちゃんがいることに興味が湧いた俺は何度か呼んでみるが、どうやらみつきちゃんだと思った子は別の子だったようで、みつきちゃん似の子は振り返ることなくそのまま行ってしまった。


(もしかしたらエキストラの子なのかな)


撮影の予定も押していたので、俺は自分の中でそんな結論を出して、次のシーンの収録場所に指定されている教室へと向かった。


 そして、翌日。

 部屋で柚那と一緒に朝食を取りながら魔法少女クローニクを見ていると本編終了後にテレビからみつきちゃんの声が聞こえてきた。


『みつきだよー』

『あかりでーす』

『『二人揃って、魔法少女JC!』』

『さてあかりちゃん、今日から私達が予告担当なわけだけど』

『うんうん、そうだね』

『私はともかく、あかりちゃんが何者かイマイチわかってない人もいるかもしれないので、自己紹介をどうぞ!』

『はーい、今日の準決勝第一試合、惜しくも朱莉さんに負けてしまった仮面の魔法少女が、私、田村あかりです。あかりんって呼んでくださいね』


 いや、おい。ちょっと待て。あかりんとか、あかりのキャラじゃねえだろ!…じゃなくて


『はーい、名前だけでも覚えて帰ってあげてください』

『なんで売れない芸人キャラやねん!』

『あ、もう時間だ。じゃあ次回サブタイトル行くよー』

『『次回、大武闘会その2!』』

『実は私達のJCは女子中学生の略じゃないんだよ』

『さて、ではなんの略でしょう!?正解者の中から抽選でみんなのステッキをプレゼント!宛先は番組の最後、答え合わせは次回の次回予告で!』

『次回の次回予告ってなんかわかりづらいね!じゃあまた来週も見てねー!』


 なにこれ……何シスターズで何物語だよ。しかも出来が悪い。


「……なんですか、これ」


 あまりのことに俺が喋れずにポカンとしていると、柚那がかわりに疑問を口にしてくれた。


「柚那も聞いてないか……まあ、都さんに聞けば一発なんだろうけど」

「前回のことがありますから、下手なテンションで近づくと一緒にいる狂華さんに制圧されちゃいますよね」

「まあ、予告に出てくるくらいなら別にいいかなと思うんだけどさ」


 たった今思い出したけど、俺があかりの契約禁止を言うのをすっかり忘れていたのは間違いないことだし、都さんに文句をいうのはちょっと違うかなとは思う。

 それに実際戦ってみて、七罪相手はともかく、あかりは普通の怪人程度なら十分戦えると感じた。なので、それほど心配することもないだろうと思っているというのもある。


「意外と冷静ですね」

「まあ、決勝で勝った時に舞い上がってて、あかりのことに言及しなかった俺の負けだろ。これは」

「ですねえ」

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!」


 お兄ちゃんを連呼しながらみつきちゃんが乱暴にドアを開けて乱入してくる。


「予告編、見てくれた!?」

「ああ、見たけど……どういうこと?ああいう仕事になったの?」

「そう!とりあえず本編には出ないけど、まずは予告編から初めてじわじわとミニコーナーとかやるんだって!」


 朝からテンション高いなあ、中学生。


「で、あかり。なんでお前そんなところに隠れてるんだ?」

「え……あはは、やだなあ。別に隠れてないよ。ただ、廊下の壁に寄りかかっていただけで」


 そう言ってごまかし笑いを浮かべながらあかりがひょっこりと顔を出す。

 開け放たれたドアからずれた位置で声を殺して寄りかかっていたのが隠れていた以外のなんだというのか。


「朱莉さんは別に怒ってないから大丈夫だよ。おいで、あかりちゃん」

「ほ…ほんとに?」

「お前がこうやって堂々と出てるってことは、どこまで聞いたかはともかくとして、おやじとおふくろも、それに姉貴と義兄さんも承知してるんだろ?だったら俺がどうこういうことじゃないからな」


 都さんたちがどういう説明をしたのかはわからないが、保護者がOKだしているものを俺がとやかく言うこともあるまい。


「うん…それでね、お兄ちゃん。実はその……ママが問題で」

「姉貴?」


 あかりは、養母である俺の母のことはお母さん。実母である姉貴のことはママと呼ぶ。


「今のお兄ちゃんの背格好が高校生の頃のママそっくりで、仕草とか言い回しが芳樹そっくりだって言ってて、あいつなんか怪しいからもっと近くで探ってこいって」

「………マジでか」


 あかり同様、昔から勘のいい人だったとは思ってたけど、どういう論理の飛躍をしたら俺が邑田芳樹かもしれないなんて発想に行き着くんだろう。そもそも、俺の遺体はみんなの前で骨になっているはずなんだから、子供のあかりならともかく、大人ならもう納得せざるを得ない状況のはずだというのに。


「似てるって…朱莉さんとお姉さんってそんな疑いを持たれるくらい似ているんですか?あかりちゃんとはそんなに似てないのに」

「ん……ああ、まあ。あかりは義兄さん似だから。ちょっと待っててくれ」

 俺は自分のスマートフォンを操作して、昔の姉貴の写真を呼び出して柚那に見せる。


「………あの、朱莉さん」

「はい」

「これはもう似てるっていうか、本人じゃないですか!」

「しかたないだろ!最終調整の段階でどういう容姿にするかっていう話になった時、説明に使えるような女の人の写真を他に持ってなかったんだから!」


 柚那に言われるまでもなく、当然自覚はあったし、あかりを送って行ったりしておやじとおふくろに合う時はわざとゴテゴテしたメイクをしたり、なんだったら魔法で微妙に顔を変えてごまかしたりしていた。


「まあ、そういうわけで、私は今二重スパイみたいな感じなんだ」


 俺に言われた家族の様子を教えてくれっていう話と、姉貴に言われた俺の正体を探ってこいっていう話の板挟みってことね。


「ていうか……朱莉さんはなんでお姉さんの高校生のころの写真なんか持ち歩いているんですか?」

「え………そ、そりゃあ家族の写真は、持ち歩く……だろ?なあ?」

「私持ち歩いてない」

「私もー」


 あかりとみつきちゃんがそう言って首を振る。

 頼むから空気読んでくれよJC達!


「あの………朱莉さんとお姉さんって、血がつながってないんですよね?」

「………はい」

「ふうん……そういうことですか。もうなんか……なんかもう朱莉さんの事、わかった気がします」

「わかった。認めよう。俺は確かに昔々姉貴のことが好きだった。でもそれはもう10代の甘酸っぱい思い出というか、黒歴史だ。考えてみてくれ。10代でいきなりちょっときれいなおねえちゃんが一つ屋根の下で暮らすようになったら、そりゃあ意識するだろ?ピンと来なかったら逆で考えてみてくれ、あかりだっておやじとおふくろの養子になって、いきなり俺がお兄ちゃんになった時ちょっとは意識したろ?」

「いや、お兄ちゃん別にイケメンじゃないし、養子になる前から普通に叔父さんだったし、意識も何もないでしょ」


 うおおおっ、面と向かってイケメンじゃないとか、子供とはなんと残酷な生き物なのだろうか。


「じゃあ、想像力で補え!イケメンのお兄ちゃんが突然一つ屋根の下だ!」


 俺に言われて、想像し始めた三人の反応はそれぞれだった。

 柚那はニヤニヤとしだしたし、みつきちゃんは楽しそうだ。ただ、二人とは対照的にあかりだけはちょっとうんざりといった表情をしている。


「どうしたあかり。イケメンで優しくて頭も良くてスポーツも出来る理想のお兄ちゃんを想像していいんだぞ」

「うん……想像したんだけど、なんかあんまり出来る人過ぎてかえってストレスというか、胸焼けしちゃって。わたしはお兄ちゃんくらい手がかかる人のほうがいいや」


 あかりはそう言って、少し照れ笑いの混じった苦笑を浮かべる。

 うちの妹は天使か!?いや、天使かなんて聞くのは失礼だ。

 うちの妹は天使だ!


「あかり、何か欲しいものがあったら遠慮なくいうんだぞ」

「うんっ!」


 いいんです!別に一連の流れがあかりの計画通りだったとしても、俺が満足しているから良いんです!


「わ、私も朱莉さんくらい手がかかるほうがいいなって思ってますよ!」


 さっきまでニヤけきってた人間のいうことなんて信じられるか!


「ヤバい、うちのお兄ちゃんかっこ良すぎてやばい!理想的!」


 そりゃあ、君の理想のお兄ちゃんなんだから理想的だろうさ。


「まあ、これで柚那とみつきちゃんはわかってくれたよね?」

「うーん……まあ、確かに。そんなお兄ちゃんがいたら鬼母やクソ野郎から守ってくれたでしょうし、私の人生も変わっていたと思います……」

「重い!!みつきちゃんは?」

「お兄ちゃんと結婚したんだけど、お兄ちゃんが事故で死んじゃった……なんでお兄ちゃん死んじゃったの…」


 両目いっぱいに涙を溜めたみつきちゃんはそう言って服の袖でゴシゴシと涙を拭った。


「君は想像力が豊かすぎる上に重い!……とにかく、今はなんとも思ってないから。二人はわかったと思うけど、当時は突然歳の近い異性が家にやってきたから驚いただけ!黒歴史なの!」

「ならいいんですけど……親子丼とか?」

「ねえよ!」


 柚那がつぶやいた不吉なワードを俺はすぐに打ち消した。


「親子丼?」

「何、親子丼って」

「ん?あー……今日のお昼の話だよ。柚那はチアキさんにこの間習った親子丼をお昼に作れと。で、俺は材料がないからねえよ!って言ったんだ」

「あの短い会話でそんなに複雑な話してたんだ!阿吽の呼吸ってやつだね!」


 みつきちゃんはいい意味でお子様で素直だからお兄ちゃんは大好きだぞ!


「なんだそういうこと。お兄ちゃんが私とママでそういうこと考えてるのかと思っちゃった」

「お前はちょっと耳年増すぎやしませんかね!?」

「お兄ちゃんの部屋にそういう本があったからだよ。ああ、でもなんか親子丼食べたいな。材料ないなら買いにいこうよ。買い物行って帰ってくるとちょうどお昼くらいじゃない?」

「ん、まあ。確かに……柚那、それでいいか?」

「私は朱莉さんが作ってくれるならなんでもOKですよ」


 まあ、柚那に作れとは言わないけどね……コロッケで懲りたし。


 


 気を使ってくれたのか、はたまた本当に用事があったのか。珍しく二人を送っていくのについていかないと言い出した柚那を置いて出てきた俺は、みつきちゃんをマンションに送った後、あかりと二人きりになった。


「ごめんね、勝手に決めちゃって」


 みつきちゃんをおろした後、助手席に移ったあかりはしばらく黙っていた後、短くそれだけ言ってまた黙った。


「……別に。お前はちゃんと物事を考えられる大人だと思うし、怒ってはいないよ。ただ、できれば相談して欲しかったかな。頭ごなしに怒ると思ってて、相談しづらかったのかもしれないけど、そこだけちょっとさみしかった」

「これからはもうちょっと相談するようにする」

「おう……さて、それはさておき姉貴のことだけど……ぶっちゃけごまかしきれる?」

「どうだろう。私はそれなりに嘘をつくってことには自信があるけど、ママの勘は尋常じゃないからそのうち、私が嘘付いているのもバレるかも」

「そっか……まあこれからはあかり絡みで姉貴も関係者っていうことになるし、姉貴まで情報公開できないか都さんに聞いてみるわ。変に騒がれるよりいいだろうし」

「まあ、でもお兄ちゃんのこと知ったら知ったで大変だと思うよ。あの人ブラコンだし」

「仲良し姉弟だからな」

「周りがちょっと引くくらいね」


 あかりがそう言って笑ったところで、赤信号が目に入ってきた俺はブレーキをかけて車を停車させる。

 実家まではあと一区画ほど。


「……ほんとうは、ママだけじゃなくて、みんなに話せるといいんだけど」

「そうだな……」


 結婚もしない、孫も見せないダメな息子だったけど、それでもおやじもおふくろも俺のことをちゃんと大切に思っていてくれたんだろう。この間見かけたおやじはめっきり老けこんでいたし、おふくろも少し痩せていた。

 かと言って、じゃあすぐに話して安心させてあげようと言えるはずもなく、そのまま車は実家の門の前に到着した。


「来週、またくるんだろ?」

「ん。土曜日にまた行くよ。実はラジオの方も今週から私達のミニコーナーが始まるから、その録音もしにいかなきゃいけないからね」

「そっか。そりゃあ楽しみだ。じゃあ、また土曜……げっ、姉貴」


 車が停まった音を聞きつけたのだろうか。実家のドアを開けて姉貴が出てきた。


「ちょ、早く降りろあかり。今捕まるのはまずい。ごまかし切る自信がねえ!」

「う、うん…あれ?シートベルトが、えっとこのボタンが…」


 あかりがもたもたしている間に、家から出てきた姉貴は、ぐるりと俺の愛車を回りこんで運転席の窓をノックした。

 さすがにこの状況では一言も挨拶せずに帰るというのは無理だろう。

「こ、こんばんわー……」

 俺がウインドウを開けると、姉貴はにっこりと笑って「はい、こんばんわ」と言ってロックを解除して運転席のドアを開けた。

「いつもあかりがお世話になってます。長距離の運転でお疲れでしょう?少し休んでいってくださいな」

「い、いえ。大丈夫です。自分、運転大好きなんで、5時間でも6時間でも続けて運転できますから。それに駐車場……」

 ……が空いているだと!?いつもおやじの車が停まっている駐車場が、空いているだと……!?


「今ちょうどうちの亭主が娘たちをつれて出かけているので空いているんですよ」

「いえ、でもいつ戻ってくるかもわからないじゃないですか」

「今さっき出かけたところなのであと2時間はもどりませんから。あ、車庫がちょっと狭いですし私が入れますね。ささ、朱莉さんはあかりと一緒に先に中へどうぞ」


 姉貴はそう言って、車のキーを抜いて取り上げてしまった。

 これは、俺のことを追求するつもりだ。自分の娘に探らせるモーションを取ることで、本人が動くことはない。そう思わせる作戦。

 思えば姉貴は昔からこういう姑息な作戦をよく使ってきた。

 くそ、油断した。なぜここに考えが至らなかったのか。

 姉貴に車からつまみ出された俺は、あかりと一緒に死刑執行直前の死刑囚のような気分でリビングへと向かう。

 ああ、できればちゃんと都さんの許可を取りたかった。許可さえ取れば姉貴にちゃんと説明出来たのに。まともに説明できない状態で話をしたって姉貴を苛つかせるだけだ。

 部屋に荷物を置きに戻ったあかりと一旦別れ、一人憂鬱な気分でリビングのドアを開けると、そこにはおやじとおふくろ、そして、都さんと狂華さんがいた。

「ファッ!?」

「おかえり。遅かったね。朱莉」

「遅かったねって…どうして二人が?」

「あかりちゃんを正式に魔法少女として迎え入れる以上、ちゃんと話をしておかないといけないでしょう?その説明に来ていたのよ」

「ああ。なるほど」


 そういえば都さんは、芸能プロダクションの代表という肩書も持っているんだった。もちろん偽物だけど。


「今、ちょうど説明が終わったところ。労働条件とか、もろもろね」


 そう言って都さんはニッと白い歯を見せて笑った。


「いろいろ苦労したのよ……では私達はこれで失礼します」


 そう言って、ソファから立ち上がると都さんと狂華さんはビシッと右手で敬礼をする。

 って、あれ………?


「都さん?」

「都さんではない。宇都野陸将補である」


 普段とも変身後ともちょっと違う、一本芯の通ったような声で、狂華さんが俺の発言を窘めるように言う。


「邑田特曹」

「は、はい!」

「……これまでの経緯はちゃんと話しておいたから、今日は実家でゆっくり骨休めをしなさい」


 都さんはいつもの砕けた口調でそう言うと俺の肩をポンと軽く叩いて回れ右をする。


「では、お父様、お母様。芳樹さんとあかりさんは私達が責任をもってお預かりします」


 そう言って俺の両親にもう一度敬礼をすると、都さんと狂華さんはリビングを出て行った。


「えーっと……」


 つまり


「芳樹……」


 やっぱりそういうこと……なのか?


「芳樹…!」


 自分が魔法少女になった時も、もう家族に会えないとわかった時も泣かなかったのに、いまさらになってなぜか涙が出た。

 大の大人がわんわん泣いているのは、リビングに戻ってきたあかりから見たら異様な光景だったかもしれない。

 それでも、俺も姉貴も、おやじもおふくろもわんわん泣いた。つられてあかりも泣いて、帰ってきた義兄さんも、姪っ子達も泣いた。

 結局、落ち着いて話ができるようになったのは、子どもたちが疲れて寝入ってしまった後の日付が変わる頃だった。


 


「朱莉さーん!」


 家族と感動の再開を果たした翌日。寮に戻ってきた俺は、いきなり柚那の襲撃を受けた。


「もう嫌です!愛純が気持ち悪すぎて無理です!」

「また、愛純がらみかよ…もういいかげん慣れろって」


 この間の彩夏ちゃん主催の愛純置き去りコンパ(コンパじゃないと思うけど)の後、良くも悪くも反省して覚醒した愛純は、隙を見ては俺や柚那にセクハラまがいのスキンシップを求めてくるようになった。

 俺としては大歓迎だけど、柚那としてはやはりちょっと嫌であるらしい。


「嫌です!無理です!生理的嫌悪を感じます!」


 訂正。ちょっとではないようだ。


「お、朱莉さんおかえりなさい!その手に持っているビニール袋はなんです?」

「ああ、おみやげ。埼玉銘菓だぞ」

「まさか……うますぎるやつですか?」

「ああ、うますぎるやつ。それとゼリーな」

「朝陽ちゃーん、朱莉さんがおみやげ買ってきてくれましたよー」


 ヒャッハーとか言いながら俺の手からビニール袋を奪い取って頭の上に掲げると、愛純は朝陽の部屋の方にかけていく。


「ちょ……おみやげは私も食べるからね!」


 生理的嫌悪がどうこう言っていた柚那も愛純の後を追って走りだす。


「……うん、日常だ」


 家族でいるのも日常。そしてこれも、俺の日常。


「いい顔してんじゃない」

「はっ、これも陸将補のおかげでございますよ」


 俺はそう言って振り返り、後ろから忍び寄って声をかけてきた都さんに敬礼をする。


「こそばゆいからやめてよ」

「この間は、ほんとにすみませんでした」

「え?ああ、あれはまあ……ちゃんと説明しなかったあたしのせいでしょ。この先追い込まれてギリギリのところであかりちゃんをいきなり実戦で使うなんてのは嫌だったからさ」


 いくら俺が拒否しようとも、敵が本気で襲ってきた時には、みつきちゃんはもちろん、あかりに戦ってもらう必要が出てくることも考えられる。そうなった時に何処かのロボットアニメのようにいきなり実戦!というのではなく、比較的余裕のある今のうちに経験を積ませたい。どういうことなんだろう。なんだかんだ……というか、いつだってこの人は俺達の事を考えくれている。


「……まあ、朱莉の話になったのは、ついでよ、ついで」

「それでも、ありがたいです」

「な、何!?素直な朱莉とか超気持ち悪いんだけど」

「いや、真面目な話俺は今、都さんのこと抱きしめたくてしょうがないです」

「あんたがそんなことしたら、あたし柚那に殺されるわ」

「俺も狂華さんに首をはねられますね」

「抱き合うだけで心中できるとか、なにげに便利ね」

「まあ、でもどうせ心中するなら、俺は柚那とがいいですけど」

「あたしだって……いや、まあこの話はもういいや。それで、今回実は裏で大活躍していたあたしに、うますぎるおみやげは?」

「まんじゅうだったらさっき愛純が全部持って行きましたよ」

「はあっ!?どこ行ったのあの子」

「朝陽の部屋だと思います」

「よし、行ってくる!じゃあね!」


 都さんはそう言って走りだすと、あっという間に廊下の奥へ姿を消した。

 あれって、確かに美味しいけど、目を血走らせるほどだとは思わないんだよなあ。

 俺は都さんが戻ってこないことを確認してから、持ち合わせ不足で3個しか買えなかった、俺おすすめの、目を血走らせるほど美味しいお店のケーキが入った箱をトートバックから取り出し、取っ手をしっかりと持ってチアキさんの部屋へ向かった。


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