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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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ex.JK2-Xmas4


 かれこれ一年以上の付き合いになるが、関華絵は東条蜂子という人間のことを未だに理解できているとは言えない。

 もちろん十年来の親友と喧嘩別れするなんてケースもあるだろう人生というものにおいて完全に他人を理解することなんてできないのだろうが。




「ねえ蜂子、どう見てもこいつら素人じゃないと思うんだけど」


 そう言って無残に割られたリビングのガラスと朔夜が制圧した、どこかのマンガに出てきそうな全身黒づくめの男達を見てため息をつく華絵。

 

「そりゃそうよ。こいつらは魔法の潜在能力が高い子が多いってことで闇市場で高値のつく日本の子供を売りさばく人身売買シンジケートのみなさんだからね」

「だったら先に言っておいてよ。そうすればガラス割られる前に防げたし、なんだったらベランダから侵入しようとした時点で防御魔法使って入らせないってこともできたんだから」

「そんなことしたらそいつらが無理やり他のところから侵入しようとして上とか下に住んでいる人に迷惑かかっちゃうじゃないの」


 飄々とした表情でそんなことを言う蜂子。


「ハナなら銃声聞いてからでも対応出来ると思っていたし、朔夜が普通の銃を持たなきゃ戦えない程度の人間に負けるとも思わないし、実際二人は私が想定した通りにしっかり働いてくれたしね」


 ここ半年ほど蜂子のテレパシーによる指示に反射的に応える訓練をしていた華絵は銃声が鳴るか鳴らないかのタイミングで飛んできたテレパシーを受けて自分達はもちろん守護とラブの二人にも一切怪我をさせることなく守り、朔夜は朔夜でテレポートを使って回り込み、背後から襲撃者を急襲して全員の制圧をした。

 そんな感じだったので蜂子の言う通り結果は出ているのだが、それでも華絵としては色々と納得がいかないし、銃弾で割られたガラスやひしゃげたサッシを自腹で直さなければいけないのか、それとも経費で落ちるのかが気になって気が気じゃない。


「あ、もちろん窓は必要経費だから経費で落とせると思うわよ。ね、朔夜」

「いや、僕に言われても」

「お義父さんに事情話せばきっとなんとかしてくれるって・・・ジュリ経由で」

「・・・お前なあ、さすがの父さんでもそろそろ怒ると思うぞ」

「え、もう朱莉さんとジュリは関係ないでしょ?なんで朱莉さんからジュリ経由なの?」

 

 蜂子が言っているのは、『ジュリの正体についてちらつかせればなとかしてくれるわよね』ということなのだが、未だにジュリの正体について気がついていない華絵からすればどうして退職している朱莉からジュリに話を通すのか理解ができない。

 ちなみに、朔夜にも蜂子にも、当然華絵にも甘い朱莉は全力で蒔菜にこの件ねじ込むのだがそれは別の話である。


「それはそれ、弟子と師匠の関係はどっちかが仕事を辞めても続くっていうわけよ」


 そう言って話を打ち切ると、蜂子は守護とラブの方を向く。

 

「さて二人とも、こいつらに狙われるこころあたり、あるんじゃない?」

「・・・・・・」

「・・・僕から話します」


 黙って腕にしがみつくラブを見て、守護が意を決したように口を開く。


(ちょっと蜂子。あんた事情わかってんでしょ?わざわざこの子達に話させる意味あるの?)

(自分達の事情を全部解ってる女なんて警戒の対象でしかないでしょうが。だから、彼らの口から話してもらわなきゃいけないのよ。たとえキツい話でもね)


 華絵と蜂子はテレパシーでそんな会話をしてから守護の話に耳を傾ける。


「ラブと俺は、実は本当は兄妹じゃなくて」

「でしょうね。私でも解ったわ」

「ハナ、話の腰を折らない。うん、それで?」

「ラブの新しいお父さんが悪い奴で、俺とラブは逃げてきたんだ」

「その新しいお父さんって奴がこいつらの関係者だったってわけね?誰か助けてくれる大人はいなかったの?」

「うん。最初は近くの交番に行ったんだけどそこのおまわりさんもそいつらの仲間で・・・ラブのお母さんは、その」

「あの人は、私よりあいつが大切だって言ったの」

 

 守護が言い淀んだ言葉をラブが続ける。


「あんたがいなくなればもっと幸せなんだって、そう言われたの」

「うちの両親も人の家のことは放っておけって、そう言っていて、じゃあ二人で逃げるしかないって、そう思って逃げてきたんだ。そしたら結局交番に連れて行かれちゃって」

「今に致るっていうわけね」


 蜂子はそう言いながら華絵と朔夜に目で『これで全部よ』と合図をした。


「そっか、それは辛かったね。でももう大丈夫。さっき見た通りハナはどんな攻撃だって防いじゃうし、うちの彼氏もここいらじゃ最強だって評判なんだから」

「そ、そんな見え見えのおだて方しても僕は喜んだりしないんだからなっ」

 

 誰の目から見ても、それこそ今日はじめで会った守護とラブから見ても飼い主に褒められて尻尾を振って喜んでいる犬にしか見えない朔夜のツンデレを無視して蜂子が話を続ける。


「それに、さっきの淵上巡査長。あの人も悪いこととは無縁の正義の味方だからもう大丈夫よ。ねえ、ハナ?・・・ハナ?」

「そうね」


 蜂子の問いかけに短くそう応えると、華絵は不機嫌そうにひとつ鼻を鳴らしてソファに腰を下ろした。

 

  



 パァンと甲高い音が交番の中に響いた。


「何すんのよっ!」


 華絵に頬を叩かれたラブの母親が華絵の頬を叩き返そうと腕を振りかぶり、思い切り振り抜く。


 再び甲高い音が交番に響くが叩かれたのは華絵の頬ではなく、淵上巡査長の側頭部だった。


「ま、まあまあ奥さん、子供のすることですから」


 ラブの母親と華絵の間に割って入った淵上巡査長がヘラヘラと笑いながらそう言って二人に距離をとらせる


「ふん、親の顔が見てみたいわね。他人の家庭に口だしした挙句、人の顔を叩くなんて、さぞかし荒れた家庭なんでしょうね!」

「・・・っ、なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよっ!」

「待て関、ブレイク、ブレイクだ。って、おい蜂子も見てないで手伝えって」

「やーよ。私もその女ムカつくし。もう一回くらい叩いちゃえ、ハナ」

「煽るな!!」


 相手を殺しかねないような顔でもう一発お見舞いする機会を狙う華絵を必死で抑える朔夜。


「ああ、そうか。そうだそうだ。お巡りさん、あたしこのガキ訴えます。傷害罪で」


 ラブの母親がそう言ったところで、今までヘラヘラと笑っていた淵上巡査長の口元から笑みが消えた。


「そうですか」

「それで慰謝料をたっぷりもらうつもりです」

「なるほど解りました。では被害届けを出す手続きをしますのでそちらにおかけください」


 そう言ってラブの母親に席を勧めると、淵上巡査長は一瞬蜂子を見てからその向いに座る。そしてああだこうだと、尾ひれを付けて大げさに話すラブの母親の言うことを真剣な表情で書き留めていく。


(なんで?私、間違ったことした?)


 真剣な表情で頷きながら調書を書いている淵上巡査長を見て、愕然とする華絵。

 いつだって少し頼りないニコニコとした表情をたたえている彼の表情はまるで能面のように無表情でもあり、見方によっては華絵に対して怒っているようにも見える。

 実際、華絵が間違ったことをしたかどうかと問われれば法的には間違ったことをしているし、その華絵に対してラブの母親が罰を望むのであれば淵上巡査長の立場上彼女の手助けをしなければならない。

 そのことに思い至った華絵は彼女に対する怒りよりも、自分のせいでやりたくもない仕事をするハメになった淵上巡査長への申し訳なさで一杯になった。


「以上でよろしいですか?」

「ええ。それで、うちの娘はどこにいるんでしょうか?ああ、そうだ。うちの大切な娘を連れ出したガキの家も訴えないと」

「・・・・・・」

 

 何が大切な娘だ。

 お前がラブに何を言ったかしらない人間はこの交番には一人もいないんだ。

 華絵はそう叫んでやりたかったが、それを叫んだところでどうにもならない。

 むしろ口に出したら自分はもう一発あの女を殴るだろう。平手ではなく、今度はグーで。

 そんなことをしたところでラブは救えないし、みんなに迷惑を掛けるだけだ。そんなことはよくわかっている。わかっているが――



  あの女は、あの(おんな)と被る。



  その言葉が頭に浮かんだ瞬間、華絵は自分の中からスッと熱が引くのが解った。

 

「関?」

「なんでもないわよ。悪かったわね朔夜、もう大丈夫」

「僕は構わないんだけど・・・」

「大丈夫、ハナはもう暴れないと思う」

「そっか」


 蜂子が太鼓判を押すのを聞いて朔夜が華絵を抑えていた手を放す。


「それに、そもそももうハナにはあの女を殴る時間はなさそうだからね」


 蜂子がそう呟いたところで、ラブの母親の主張が終わり、淵上巡査長が「ふぅっ」と一つ息を吐いた。

 そして。


「ああ、もうしわけない。私としたことがボールペンの芯が出ていないことに気がついておりませんでした、いやいや失敬」

「ふざけんじゃないわよっ、あんたこのガキ共とグルなのね!?」

「いやいや、本官はどちらかというと奥さんの味方ですよ」

「どこがよ!!」


 ラブの母親はそう叫びながら淵上巡査長の襟をつかむ。


「あー・・・奥さんマズいですよ、この手はマズい。警官への暴行は非常にまずい。暴行しなくてもこんなことをされては公務執行妨害がつきかねません、ただでさえあなたはこれから取り調べ、裁判、服役とやることが盛りだくさんなのですからこれ以上罪を重ねてはいけませんよぉ」


 ヘラヘラとした頼りない笑顔ではなく、狡い大人のニヤァとした笑顔でそういう淵上巡査長の顔を見て、ラブの母親は慌てて手を放す。


「そうそう、メモがないのでどなたが言ったか覚えていませんが、確か親の顔が見てみたい。そう言った方がいたような気がするのですが、実は同じことを言っている私の仲間いまして」

「仲間?」

「ええ、少年課と児童相談所というんですがね」

「児童相談所なんて怖くないわよ!何度も追い返しているんだから!」

「おや、先月施行された新児童福祉法をご存じないんですか?」

「は、はぁ?何それ」

「いえねぇ、そうやって追い返された後で殺害されてしまったり、行方不明になる子供が結構な数いるということで、五十鈴総理の肝いりで作られた法律なんですけどね。まあ、平たく言えば強制執行が容易にできるようになったってだけの話なんですけど」

「し、知らないわよそんな法律!!」

「奥さん、法律っていうのは知らないじゃすまないんですよ」


 そう言って淵上巡査長が交番の入口に目をやると、スーツの男女が立っていた。

次回でオチまで持って行ければギリXmasに更新終わるかもしれない(かもしれない)

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