ex.JK2-Xmas3
◇
この街のパトロールは昼間は黒服が、JKは放課後になる夕方を、夜は警察が担当する。
そしてそれは夏休み冬休みといった長期休暇中も変わらない。
「あれ、今日は三人でパトロールだったのかい?」
三人が引き継ぎのために朔夜や華絵の住むマンション群のほど近くにある交番にやってくると、顔なじみの巡査長が仕事の手を止めて三人を見てそう言った。
「ハナは非番だったんですけど、途中でたまたまあったんで巻き込んじゃいました」
「あはは、それは災難だったね、華絵ちゃん」
「まあ、特に予定もなかったんで別にいいんですけどね」
華絵はそう言いながら空いている椅子を持ってきてストーブにあたる。
いつもは交番の中にもう1人か2人はいるのだが、見当たらないところを見ると引き継ぎを待たずにパトロールに行ったのだろう。
華絵がそんなことを考えて居ると、引き継ぎをしながら巡査長と談笑している蜂子の様子を見て、まだかかりそうだと見たらしい朔夜が華絵とおなじ様に椅子を引っ張ってきてストーブにあたる。
「そういえば、今日村雨は?」
「聞くまでもないでしょ。左右澤とデートよ」
「ああ、なるほど」
「左右澤は誰かさんみたいに突発の仕事入れたりしないだろうし、どこかのカップルと違ってきっと今頃楽しくやってるんじゃないの?なんかスカイツリーの見えるレストランに行くんだとか言ってたし」
「ぐっ・・・ち、ちなみに関は本当に予定なかったのか?」
「姉から誘われたんだけどセナさんの手前もあるし、冬の北海道なんて行きたくないっていうのもあって断ったのよ」
「ほんとに北の方嫌いだよな、関は」
「雪ではしゃぐ歳でもないし、寒いの嫌だもの。まあ沖縄とかならちょっと考えたかもしれないけど」
「なるほど。じゃあセナさん云々ってのは言い訳か」
「全部言い訳ってわけでもないけどね、あの人私がいるとすごく気を遣ってくるからあん
まり負担かけるのも良くないなって思ってるのは本当だしね。あんただって蜂子のお父さんがデートについて来たら嫌でしょ」
「むしろ蜂子の暴走を止めてくれるなら是非きてくれって感じだけどな」
「誰の何がどうしたって?」
「げっ、蜂子。も、もう引き継ぎは終わったのか?」
「引き継ぎは終わったんだけど、雑談の途中で淵上巡査長とられちゃった」
朔夜と華絵が巡査長の方を見ると、さきほどまで居なかった兄妹らしい二人の子供の前にかがみ込んで話をしている。
「迷子みたいだってことで連れてこられたんだけど、どうやらこの辺りの子じゃないらしくて」
「蜂子の魔法でもわからないのか?」
「うーん・・・・・・まあ、事情とどの辺から来たかっていうのはわかるんだけどね」
「事情?」
「どうやら両親が離婚したときに離ればなれになったお父さんの家を二人で訪ねて来たっぽい」
「で、その場所がわからないってことか」
「そうね。そんなところ」
蜂子は含みのある言い方でそう言ってから兄妹をチラリと見る。
「何かあるの?」
華絵にそう聞かれた蜂子は表情を変えることなく二人の顔を見てから
「言わない。あんたたちすぐに顔に出るから」
「僕と関が顔に出すとまずい問題があるっていうだけで、もう厄介ごとの匂いしかしないんだけど」
「家出してきた兄妹から厄介ごとの匂いがしないなんてことはないでしょうけどね」
「ちなみにハナ、今日って家きれい?」
「うちはいつだってちゃんと掃除が行き届いているわよ。この私のね!」
そう言って胸に手を当て、これ以上ないというくらいのドヤ顔をしてみせる華絵。
料理では残念ながらエリスの足下にも及ばないということは華絵自身が一番理解している。だったら、共同生活においてそこでエリスに張り合うことはやめよう。
そして自分は自分の得意なこと、つまり掃除でエリスより上を行こう。そう考えて彼女が丹念に丹念を重ねて考案し、磨き上げ、実践してきた華絵流の掃除術。その掃除術はもちろんというかお約束というか、一周回ってやっぱりいまいちな出来で、実はそのことに気づいているエリスがこっそり手直ししていたりするのだが、華絵はその事実を知らない。
「そんなこと言って下着そのへんに散らかしていたりしない?」
「してないわよ。エリスが突然左右澤つれてくることだってあるんだから、その辺りはちゃんとしてるわ」
ウソである。
雨の日以外は乾燥機を使わないという未だに貧乏くさい習慣が抜けないエリスと華絵の共同生活において取り込んだ洗濯物をそのままソファーの上にちらかしたままにしているということはままあるし、なんだったら正宗にも左右澤にも華絵の下着を見られたことはあるのだが、エリスのものと違って簡素で質素で無地無臭の華絵の下着はせいぜいジムで使うトレーニングウエアにしか見えないので二人も華絵もまったく気にしていないだけだ。
「多分、保護者が迎えにくるまで時間がかかると思うから、一旦JK寮に連れて行こうかなって思っているんだけど」
「え?どういうことよ」
「どういうことだ?」
「多分、そろそろ淵上さんに電話がかかってくると思う」
蜂子が二人にだけ聞こえるくらいの小声でそう言うと、無線機ではなく、淵上巡査長の携帯電話が鳴った。
「それでね、緊急出動しなきゃいけなくなるけど、警察官がいなくなって交番が完全に空いちゃうことになるから鍵を閉めたい。でも子供達がいたら閉められない」
「それでJK寮に二人を連れて行くっていうわけね」
「ん。そういうことでもう淵上さんとは話がついてる」
蜂子がそう言い終わるのとほぼ同時に淵上巡査長は電話を切って三人のほうを向いた。
◇
(んー・・・兄妹ってあんなにベタベタするものなのかしら)
一人だったら食べきれなかっただろう料理を淵上巡査長から預けられた二人の子供と蜂子と朔夜の力を借りて食べきった後で、華絵は預かった兄妹、守護とラブを見てそう思った。
知らない高校生の家に突然連れてこられたのだから、心細い妹のことを思い兄が手をつなぐ。そのくらいのことはあるかもしれない。
ただ、手をつないだまま時折交わす二人の視線は兄妹というよりはもっと深い、それでいて蜂子と朔夜のようになんか穢れてはいない恋人達のような――
(誰が穢れてんのよ)
そんなテレパシーが飛んできたので、華絵は一旦考えるのを辞めることにした。
「さてと。なあ、関、この家ってゲームとかないのか?時間潰せるようなやつ」
朔夜が、一年前のとがってた(自称)、キレたナイフ()だった(蜂子談)頃の彼では考えられないような緩い発言をする。
「佐藤が来てた頃はあったんだけど、夏樹さんが全部回収していっちゃったのよね。あ、トランプならあるけど――蜂子がいると勝負にならないからだめね」
「だな・・・あ、正宗の家に人生ゲームがあるな」
「あいつはなんでそんなもの持ってるのよ、っていうかあんたはなんでそんなこと知ってるのよ」
「前に和希んとこと僕達と正宗のとこで遊んだことがあってさ。ゲーム機のゲームじゃ味気ないからってみんなで遊ぶ用に買っておいていったんだよ。なあ、蜂・・・子・・・?え、何?どうしたの蜂子、僕何かしたか?」
「ううん。『ああ、そういえばあのとき朔夜は最初那奈と結婚して、離婚したと思ったら真白と結婚してたなー・・・』って、ちょっと当時の思い出にふけってただけよ」
「あれはルーレットの目がそうなってたんだから仕方ないだろ!?」
「そんなこと言って那奈とめっちゃ子作りしてたくせに」
「人生ゲームでな!!」
「現実でそんなことしてたらあんたを殺して私も死ぬわよ」
「蜂子の愛が重い!!」
この二人、子供の情操教育によくないなあ。
華絵がそんなことを思いながら兄妹の方を見ると、子作りがどういうことかわかっているのだろう。守護とラブは少し顔を赤くしながらお互いの手をぎゅっと握ってすこしもじもじしていた。
その様子を見て、華絵はどうやらこの二人が兄妹ではなさそうだ、それどころか恋人かそれに近いものだろうと確信した。
だとすれば、父親のところ云々はウソでXmasに駆け落ちでも気取ったのだろうか。
そんなことを考えていると、蜂子とイチャイチャしていた朔夜が立ち上がった。
「じゃあ僕が今から合鍵をつかって正宗の部屋から人生ゲームを取ってくるからここでもう一回やろうじゃないか。それで僕が蜂子とくっつけば文句ないんだろ!?」
イチャイチャの結果、どうやらそういう方向に折れたらしい朔夜が、そう言ってコートからキーホルダーを取り出してジーンズのポケットに押し込む。
「ハッ、果たしてそう上手くいくかしらね」
何故か勝ち誇ったようにそう言う蜂子と、『いや、くっつきたいんだろ?』と心の中でツッコミを入れる華絵。どうやら強制的に参加させられそうだということで少しそわそわし始める守護とラブ。
そして30分後
「わ・・・わーい、か、かっこいいお兄さんと夫婦だぁ・・・」
お約束のように蜂子をスルーしてラブと結婚して固まる朔夜と、気を遣って場を和ませようと棒読み気味にそんなことを言うラブ。
「あ、あの、お、穏便に、喧嘩はやめましょう、ね!?お姉さん!っちょ、やめ、やめましょう!ほら、お姉さんの番ですよ!」
怒りを通り越して無表情になり、今にも新婚夫婦に襲いかかりそうな雰囲気でジッと二人を見つめる蜂子に何かを感じたらしい守護が蜂子の視界を遮るように彼女の前に身を乗り出してパタパタと手を振る。
「・・・」
さすがに大人げないと思ったのか、一つ深呼吸をした後でルーレットを回す蜂子。
現在地は朔夜が止ったのと同じ結婚マスで、出目によっては朔夜を略奪できる可能性も1/3ほど存在している。
そして。
「わ・・わぁい、きれいなおねえさんと夫婦だぁ・・・」
引きつった表情で守護がそう言ったところで、5人は誰からともなく片付けを始めた




