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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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483/809

ex.朱莉の結婚前夜 4

次くらいでまとまるかな、まとまるんじゃないかな、まとまればいいな、ちょっと覚悟はしておいてください。

あ、100万PV達成しました。

いつも読んでくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます。

 時刻はまだ9時少し前。

 とは言っても早い時間から飲み始めていた俺たちは酒も食事もトークもひと段落してしまい、少し手持ち無沙汰な、やや退屈な時間を過ごしていた。

 一応、ポツリポツリと会話は続いているが、先ほどまでのような盛り上がりはない。とはいえ、俺たちの間に気まずい空気などはなく、ぶっちゃけてしまえば「嫁との印象的なプレイ」だの「嫁の1番かわいいところ」だの「嫁のここが好き」だのという話をしているうちに、みんな嫁に会いたくなってきてしまったのだ。

 その中でも1番アレな状態なのが狂華さんで、話しているうちに都さんとの何かを思い出したのか、足をもじもじさせながら顔を赤らめ、お臍の下あたりを撫でている。ハート目と相まって非常に扇情的だ・・・って、いや本当に何思い出してるの?

 次にアレなのがひなたさんで、メインは一美さんの話なのは間違い無いんだが、ちょくちょく花鳥風月姉妹や陽奈さん(初代)、それに陽奈さん(二代目)の話をするもんだからみんなに会いたくなってるっぽい。妻子はもちろん、明日の式の間、陽奈さんの面倒を見てくれる予定の花鳥風月姉妹、さらにはみつきちゃんまで一緒にいるっていうんだから帰りたいって気待ちはわかる。まあ、多分そういう時に入って行っちゃうお父さんは白い眼で見られるんだろうけど。

 そういう意味では物理的に今夜嫁のところに帰れない楓が1番冷静だったりする。

 が、そうは言っても楓もスマホをチラチラ見てるのでビデオ通話か何かしたいのかもしれない。

 

 うん、あれだな。

 これは俺の仕事だな。

 

「あ、あー・・・柚那に会いたいなー。いやもう本当に申し訳ないんだけど、今日は解散にしません?」

 

 そう言った瞬間、三人が同時にバッとこちらを向く。

 

「きょ、今日の主賓は朱莉だからね。朱莉が柚那に会いたいって言うんじゃしょうがないよね!」

 

 と、満面の笑みでうなずく狂華さん。

 

「しかたねーな。まあ、本当は一泊の予定だったからちょっともったいないけど、主賓がいないんじゃ部屋だけ残しておいてもしょうがないしな。引き払って俺も一美のとこ帰るかな」

 

 と、頭をかきながらどことなく嬉しそうな表情のひなたさん。


「あ、でもボクらはともかく楓は・・・」

「喜乃の泊まってるJC寮に空き部屋一つくらいあるだろうから大丈夫っすよ。あいてなければ喜乃が泊まってる部屋に泊まるし」

「よし、じゃあ決まりだな。俺と狂華でゴミを片付けてからいくから、朱莉と楓は先でて良いぞ。帰るのに一時間くらいかかるだろ?」

「マジっすか!?ひなたさんって実はいい人だったんですね」

「こんなことぐらいで評価が上がるって、俺は朱莉の中でどんな人間だと思われてるんだよ」


 悪人ではないけどいい人でもない。くらいかな。






 うちの地元の地理に明るくない楓を寮に送ってから、朔夜のマンションに向かって一人街を歩く。

 半年前、咲月が生まれた五月のころに比べてかなり冷たくなった風が俺の頬を撫で、俺はブルッと震えて立ち止まった。

 かけ忘れていた防寒魔法を身にまとい再び歩き出すと、交差点でよく見知った二人と出くわした。


「よう朔夜、ハッチもこんばんは」

「あれ?父さん今日はひなたさんたちと一緒だったんじゃないんですか?」

「そのつもりだったけど、柚那や朔夜の顔が見たくて帰ってきた。まあ、ひなたさんも狂華さんも帰りたがってるみたいだったから解散したってのも半分くらいあるけどな」

「それだと私だけ蚊帳の外なんですけど」

「いや、蜂子はまだ家族じゃないだろ」


『まだ』ね。

 もうなんか、そう言っちゃっている時点でそうなるのは時間の問題って感じだけどな。

 さすがに来年度在学中ってことはないだろうけど、この二人は大学生で学生結婚くらいはしそうだ。

 ちなみに朔夜が無意識で言ったであろう『まだ』の部分に気づいたのは俺だけではなく、ハッチも気づいたらしく『朔夜冷たーい』とかいいつつ、ニコニコ顔で朔夜の背中をバシバシ叩いている。


「ところで、二人はこんな時間にどうしたんだ?」

「私達はパトロールの帰りです。今日は2年生のシフトだったんで」

「そっか。じゃあ頑張った二人にコンビニで肉まんでも奢ってやるか」

「やったー!」

「ちょ、おい蜂子。お前少しは遠慮しろよ」

「目上の人が言ってくれたのに辞退するのはかえって失礼ってもんでしょ。ね、朱莉さん」

「まあ、そうだな」


 遠慮することが悪いこととは言わないけれど、やっぱりこっちがこうしたいって言ったことは受けてもらえると嬉しいからな。


「うぅ・・・父さんがそう言うならしかたないけど」


 おいおい、不本意そうな顔しても嬉しそうにしている尻尾が見えてるぞ。可愛い奴め。




 コンビニで肉まんやコーヒーを買い込んで近くの公園のベンチに腰掛けてひとごこちついたところで、俺は前から朔夜に聞いてみたかったことを聞くことにした。


「あのさ、朔夜」

「なんですか?」

「未来の柚那は俺と結婚して幸せだったのかな」

「どうなんでしょう。本気の恨み言とかは聞いたことがなかったですね・・・まあ、結婚生活自体もかなり短かったみたいですけど」


 朔夜はそう言って肉まんの最後のひとかけらを口に放り込む。


「というか、それを今日このタイミングで朔夜に聞くのってどうなんです?」

「いやまあ・・・そうだな。ハッチの言う通りなんだけど、なんというか」

「え、まさかのマリッジブルー!?この期に及んで!?」


 言いにくいことを読んでもらえるのは助かるんだけど、声に出されるとちょっと恥ずかしいな。

 ハッチの言う通り俺は今、というか今朝あたりからマリッジブルーで、柚那のことを愛しているのも、朔夜や咲月のことを想っているのも間違いないんだが、俺の気持ちはともかく柚那や朔夜や咲月にとって、本当に俺が父親でいいのかという自信が持てずにいる。

 

「なるほど、柚那さんや朔夜、それに咲月を愛するために自信がほしいってわけですか」

「平たく言うとそういうことです、はい」

「だってさ、朔夜」


 ハッチに話を振られた朔夜は、缶コーヒーを一口飲んでから空を見上げ、少しして口を開く。


「うーん・・・そうですね、父さんのことは母さんより、師匠と朝陽ちゃんが結構話してくれていましたね」

「愛純と朝陽?なんかもう嫌な予感しかしないんだけど」

「師匠いわく、朱莉さんは外面がいい、釣った魚に餌をやらない」

「ぐおっ」


 心当たりがないとは言えないどころかありすぎてハートアタックだわ。


「朝陽ちゃんいわく、敵に同情して隙を突かれる」

「ぐぬぬぬ」


 最初期の朝陽にしても愛純にしても、その他どの敵勢力に対しても心当たりがあるのでなんも言えねえ。


「って、笑いながら話していたんですよ。母さんはそんな二人をたしなめて、父さんのフォローをしてて。小さい頃の僕は、三人ともなんでそんなろくでもない人間のことを笑って話せたり、フォローできるんだろうって不思議でしょうがなかったんです。

「さ、朔夜君?オブラートって知ってるかな?父さんもうライフが尽きそうなんだけど」

「あ、これは別に悪口を言っているわけじゃないんですよ。結局三人が言っていたのは、誰に対しても一生懸命親身になれて助けになろうとして。それが味方だけじゃなくて、敵のことも信じちゃうお人好しな邑田朱莉だったんだなって、そんな父さんのことが三人とも大好きだったんだろうなって、今となってはそう思うんです」

「朔夜・・・」

「今の母さんも、未来の師匠と同じようなことを言ってましたよ。『私よりも他の人の世話ばっかりして』って」

「うっ・・・反省します・・・」

「でも、外でどんなにお節介をやいて色んな人に良い顔しても、本当に疲れて家に帰ってきた時、安心して寝ている時の顔は私だけのものだってノロケてました」


 え、俺ってもしかしなくても嫁に愛されすぎじゃない?


「私は朔夜と朱莉さんに助けられた経験があるから、朔夜や未来の愛純さんと朝陽ちゃんの言っている意味がすごくわかるわ。去年の文化祭の時、ハナとエリスの顔を見て諦めかけていたところに二人が来てくれて、口では酷いことを言いながらも私を見捨てられなくて助ける方法を探していた朔夜と、半分自業自得みたいな私にまっすぐ向き合って助けてくれようとした朱莉さん。ベクトルはちょっと違うけど、そういうところ親子なんだなあって思って、いろんなことが腑に落ちたっていうか、普通だったら信じられなかっただろう朔夜のバックグラウンドとかがストンと腹落ちしたんだよね。あとはほら、ハナ達の件だってそうよね。こまちさんとの仲を取り持ってあげたりとか、エリスの失恋話に付き合ってあげたりとか」

「そう。だからですね、父さん。父さんはもっと自信を持って良いんだと思いますよ。僕も母さんも咲月も」

「はいはい!私も私も」

「蜂子、僕の心を読んで家族の話に割り込ま――」

「みんな朱莉さんのそういう優しいところ大好きですから」

「って、言うなよ!!今僕が言うところだっただろ!?なんで言っちゃうの!?」

「未来からきた息子の朔夜と、近い未来義理の娘になる予定の私。どっちが言っても同じでしょ」

「違うんだよ!っていうか、なんだよ義理の娘って、僕らは恋人同士だけどまだそういうんじゃないだろ!?」

「お義父さん、うちの旦那、あんなこと言うんですけど」

「こら朔夜。蜂子はうちの娘だぞ」

「父さんまで何言ってるんですか!!というか、別に僕は蜂子とずっと一緒にいるつもりなんて――」

「あらうれしい」

「心を読むなぁ!!」


 朔夜のこういうハッチに手玉に取られちゃうところ、なんとなく自分と重なって辛いけどちょっと可愛いなと思う。

 ただ――

 

「朔夜」

「何ですか!!」

「父さん、今時ツンデレはちょっと古いんじゃないかと思うんだが」

「ツンデレじゃないですよ!!」

「そうですよ、朔夜のこれは全部含めてヘタレ受けです」

「それも違う!!」


 そんな感じでしばらくハッチと二人で朔夜と(朔夜で、とも言う)遊んだ後、ハッチを家まで送って行こうと思ったら、ハッチからストップがかかった。


「今日は朔夜は正宗の家に泊めますんで朱莉さんは柚那さんとゆっくり過ごしてください」

「え、何それ僕聞いてないんだけど?」

「さっき連絡しておいたから大丈夫よ。それと、ついでに私もハナとエリスの家に泊るわ」

「それって後で西澤が知ったら『仲間はずれにされたー』って面倒くさい奴じゃないか?」

「那奈も呼ぶから大丈夫よ・・・ただ、それだとちょっと部屋と布団が足りないかな」

「ハナの部屋もエリスの部屋もダブルベッドだし大丈夫だろ。俺もこまちちゃんと一緒に泊ったときハナの部屋で寝て、ハナはエリスの部屋で寝てたし、あとはほら、最悪佐藤くんが使ってた部屋に布団を敷けば大丈夫でしょ」

「・・・」

「・・・」


 え、なんで二人から軽蔑のまなざしで見られてるの?・・・・・・あ!


「いや、別にこまちちゃんとはなんにもないからな!?」

「ええと、それ以前にですね、僕らの同級生の家に泊ってさらにこまちさんと一緒の布団というのが、もうなんていうか」

「そ、それにほら、柚那と別れてた時期だから」

「いやそういうことじゃなくて」

「なんだか『蜂子と付き合う前だから未来で愛純さんの裸をガン見してたのはノーカン』とか言うどこかの彼氏の言い訳そっくりね。・・・偶然かしら、遺伝かしら?」

「蜂子は変なところで思い出し激怒するのやめてくれ! 」


 怖っ。ハッチの激怒顔、柚那と同じくらい怖っ。


「裸なら私のを見ればいいでしょ!?」

「そういうことじゃないだろ!?大体蜂子と師匠じゃ全然違うし」

「はーそうですか!はーーーーーーーーーっ、どうせ私じゃ愛純さんほど――」

「今の僕は蜂子のほうがいい」

「・・・・・・」


 ハッチが顔を赤くしているところを見るに朔夜のは本心なんだろうけど、つまりそれって・・・いや、まあいいや。


「昔、未来にいた頃の僕と今の僕、蜂子が好きになってくれたのは今の僕じゃないのか?」

「それは・・・今の朔夜だけど。本当に愛純さんに未練はないの?」

「ない」

 

 すごいぞ朔夜。あれほど怒り狂っていた荒神様を口先だけで鎮めてしまうなんて、本当に俺の子か?俺の子だな。

 

「僕だってTPOはわきまえているからな。師匠や朝陽ちゃんからからかい半分で誘われたときはちゃんと断ったし」


 ああ、そういえばそんな話もあったなあ。


「この間たまたま和希と一緒にお風呂に入る機会があったときは僕も変身していたからな」

「それは話が違くない!?」

「あ、も、もちろんやましいことは何にもないんだぞ!?」 


 ・・・うん、やっぱこいつ俺の息子だわ。


 

  

11/15 蜂子の台詞など修正。義母を呼び捨てにしてはいけません。

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