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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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ex.朱莉の結婚前夜 2




「と、いうわけでここからは俺が責任持ってお前をエスコートしてやるからな」


 得意げにふんぞり返って胸を叩きながらそんなことを言うひなたさん。


「それはいいんですけど、一体どういう風の吹き回しですか?ひなたさんがエスコートとか・・・」

「風の吹き回しもなにも、今日はお前独身最後の日だろ?バチェラーパーティだ、バチェラーパーティ」


 いや、だから俺は入籍しているし、つい先日まで妻と娘と一緒に住んでいましたけれども。というか、ひなたさんももう入籍してるはずなんだが。

 ・・・あ!!


「そんなこと言って、また俺に面倒事を押しつけたりとか、拉致したりするつもりなんじゃないですか?」

「おいおい、俺がそんなことしたことがあるか?」

「めっちゃあるでしょうが!!そもそも用事があるなら直接電話掛けてきてくれれば良いのに、直接呼び出すんじゃなくて探し回ってたのが怪しい」

「いや、お前この間戦技研辞めてから電話番号変わったろ?探し回ってたのは単純に俺がお前の新しい番号を知らなかっただけだよ」

「・・・・・・言われてみれば端末はおなじだけど番号変わったんだった」


 つまり、こっちから電話かけた人には伝わっているけど、メッセージアプリでやりとりしているだけの人には番号が伝わってないわけで。

 さらにひなたさんは電話派かつメールとショートメッセージ派だからメッセージアプリで友だち登録をしていないので連絡もつかないし、戦技研時代のメールアドレスはもう閉鎖されちゃっているし、俺から電話することはまずないのでひなたさんは俺の番号を知るすべがない。さらにひなたさんの性格的に誰かに、例えば都さんとかに俺の電話番号を聞くのもはばかられたということだろう。・・・うん、これは俺が悪いなこれは。


「えっと、番号教えますね」

「いや、メッセージアプリはじめたからそっち教えてくれ。そっちなら番号変わっても基本的に大丈夫なんだろ?」

「え、ひなたさんアプリ使えたんですか!?」

「俺は別にできないわけじゃなくて、やってなかっただけだからな」


 そう言いながら端末を俺に差し出すひなたさん・・・やっぱりできないんじゃないか、この人。


「へー、そうなんですね・・・ってあれ?一美さんと花鳥風月姉妹しか登録してないじゃないですか」

「風月に設定してもらって、今日はじめたばかりだからな」


 え、もしかして俺の連絡先を登録するためにはじめたとかそういうこと?だとしたらこのおじさんちょっとかわいいんだけど。


「何か勘違いしてそうだから言っておくけど、別にお前の連絡先を聞くためとかじゃなくて、明日会う奴が多いから今日のうちになれておいて連絡先交換をスムーズにしようっていうだけだからな」

「ですよねー」


 はいはい、ツンデレツンデレっと。






「俺は常々思ってきたんだ。給料にそれほどの差がないのに俺たちばかりが女どもより多く支払うのはおかしいんじゃないか、と」


 うわぁ、ちっちゃいなあ、この先輩。

 ちなみにひなたさんがエスコートという建前で俺を連れてきたのはいわゆる相席居酒屋だ。つまりひなたさんが大仰に主張をしているのは相席居酒屋の入っているビルの前。場所と主張内容が酷すぎてかっこ悪いことこの上ない。



「今日は俺たちのこの見た目を活かして、ここで安く飲むぞ」

「いや、結局ここって男が多く払うシステムじゃないっすか。そういう制度自体がおかしいっていうならここに来るのは違わないですか?」

「俺が払わないなら他人の財布なんて知ったことじゃねえよ」


 マジでかっこ悪いなこの先輩。


「さあ、今日は嫁のことも娘のことも忘れて食い放題飲み放題だ!」

「その台詞、ひなたさんのおごりだったら最高にかっこいいんですけどね」


 まあ、ひなたさんも色々溜まっているんだろうし、俺もこういう店にちょっと興味はあったので付き合うのはやぶさかではない。

 狂華さんならともかく、ひなたさんは結構酒に強いのでうっかりつぶれてお持ち帰りされるようなことはないだろうし、俺が介抱するハメになることもないはずだ。

 そんなことを考えながら雑居ビルのエレベーターに乗り、相席居酒屋の入っている階を目指す。

 もちろん万が一にも男にお持ち帰りされるつもりなど毛頭ないが、実は俺にはひなたさんのいうのとはちょっと違った観点で、女側で飲んでみたいという思いもあったりする・・・まあ、『あったりする』なんてもったいぶった言い方をやめてぶっちゃけてしまえば、ちやほやされながら飲みたいというだけだったりするんだけども。

 俺には本当にそっちの気はないが、基本俺に対する愚痴ありきの愛純や深谷さん、それに恋や松葉との飲みとは違う、見ず知らずの男に『朱莉ちゃんかわいー』『朱莉ちゃん素敵ー』『朱莉ちゃんかっこいー!』と言われながら飲むおいしい酒。

 たまにはそういう飲み会を楽しみたいと思うのはそんなに変なことではないだろう。

 いざ、そんなささやかな、夢とも呼べないような願いを叶えてくれる店へ。そう思ってエレベーターを降りようとした俺とひなたさんは驚きの光景を目にした。


「女が溢れてやがる・・・っ!」


 そう、ひなたさんの言う通り、ウェイティングスペースの椅子はもちろん、店の外まで女性が列を成しているのだ。


「いらっしゃいま――あ、女性の方ですか」


 そう言って出てきたウェイターはみるからに残念そうな顔で俺たちを見る。


「申し訳ございません、ご覧の通り女性のお客様はただいま一時間程度お待ちいただくことになってしまうのですが・・・」

「ええと、これは一体どういうことなんでしょう」

「いえ、整形魔法や変身魔法が一般的になってからというもの、毎日ごらんのような有様でして。男性のお客様でしたらマッチングもすぐにできてご案内できるのですけれど」


 まあ、自分が自分好みの女になれる以上、好き好んで知らん女におごりにくる男は少ないわな。もしいたとしても俺とかひなたさんみたいに奢られる気満々で来ている女もどきもいるわけだし、実際、この中の何割が生物学上の女性なのかもわからない。つまり男性にとってはもはやリスクしかない。


「あ、じゃあ大丈夫です。私達は別のお店に行くので」

「申し訳ございません」


 そう言って頭を下げまくる店員に別れを告げ、俺とひなたさんは再びエレベーターに乗った。


「どうしましょ」

「そうだなあ、ちょっと早いけどカラオケでも行くか」

「カラオケに早いも遅いもない気がしますけど」


 むしろどっちかというと、まだ飲むには早い時間だからね。


「・・・まあ、行けばわかるさ」




 ひなたさんに連れてこられたカラオケボックスはピンクと白を基調としたとてもフォトジェニックな感じの内装で、カラオケだけでなくCS・BSも見られる大型テレビがとても座りごこちの良いソファの正面に据え付けられていた。

 それだけではない、なんと室内にきれいなトイレがあって、カラオケで一汗かいた後はジャグジー付きの広いバスルームやプールでリフレッシュすることができ、さらにはそのまま寝てしまえるようにふかふかのダブルベッドが・・・ってここラブホやないかーい!!


「いやあ、よかったな、予約していた時間よりちょっと早かったけど入れてもらえて」

「いや、よかったじゃないですよ!?え。なんすか、まさかひなたさんって俺のことそういう目で見てたんですか!?」

「アホか!そんなわけないだろ!」

「そんなこと言っていやらしいことする気なんでしょう!!彩夏ちゃんの描いた薄い本みたいに!!」

「あ、その話で思い出した、一美が『風月に変な本渡さないでください』って怒ってたぞ」

「それは俺じゃなくて彩夏ちゃんと風月ちゃんの問題でしょうよ」


 案外仲いいんだよなあの二人。というか、彩夏ちゃんって何気にコミュ力高いんだよな。

 あと、風月ちゃんはもう18歳を超えた立派な大人なわけだし、多少はね。


「ちなみに、変な本って知ってるってことは一美さんも読んだんですか?」

「花鳥によれば、たまに花鳥に陽奈を預けて俺受けの本を探し回っているとかいないとからしい」


 さもありなん。

 柚那も一時期そんなだったしな。


「それよりひなたさん、これはいったいどういうことなんですか?なんで俺をこんなところに?」

「だからさっき言ったろ?バチェラーパーティだよ、もうすこししたら狂華と楓も来るから遅くまで騒ごうぜって、そういう話だ」


 ■バチュラー

 1 米国・英国で、大学卒業者の称号。学士。

 2 独身の男性。独身者。


 ・・・なお、今回の参加者は皆既婚である。


「だからってなんでラブホ!?」

「いや、温泉とかも考えたんだけど、あんまり式場から離れすぎても明日大変だし、都内の高いホテルだと騒ぐとかそういう感じにならないだろ?だから花鳥に相談して女子会に良い感じのホテルを教えてもらった」

「・・・・・・」

「どうした?」

「なんか花鳥ちゃんが女子会にしろなんにしろこういうホテルを使ってるのがちょっと不思議な感じがして」

「一美と風月には内緒だけど、あいつ案外経験豊富だからな」


 そういう話を聞くとなんかこの部屋全体が生々しく見えてくるなあ。


「っていうか、まさかひなたさん・・・」

「相手は俺じゃねえよ。アホな想像するな」

「いやいや、そんなこと言って、一美さんの妊娠中に性欲を持て余したひなたさんは、一美さんの目を盗んでひとつ屋根の下、無防備に眠る花鳥ちゃんの部屋へと忍び込み・・・痛えっ!!何するんですかひなたさん」

「全部声に出てんだよ!・・・まったく、ほら二人がくるまで歌うぞ」


 そう言ってひなたさんはマイクを取りに行くと、俺の方に1本放ってよこした。


「マイクは精密機械なんですから乱暴に扱わないでくださいよ」

「何をアーティストみたいなことを言っているんだか」

「ひなたさんと違って一応アーティストですからね、俺」


 愛純と柚那に思い切りリードしてもらった上でのこととはいえ、一応曲だって出しているわけだし。

 ・・・ちなみに、あの当時ひなたさんは「春井桜.feat.相馬ひなた」名義でCDを出しているにもかかわらず、曲中で歌を歌わず、間奏の台詞しかなかったということでひなたさんは仲間内でアーティストとは認められていなかったりする。

 とはいえひなたさんは別に音痴というわけじゃないし歌自体はちゃんと歌えるんだけど、何故かひなたさんがうまく歌えるのは昭和の歌謡曲ばかりで、平成のJPOPや、俺たちがやったようなアイドルソングのようなものはまったく歌えない。青春時代はもう平成だったろうに不思議な話だ。






このシリーズは顔画像あり(次話で狂華と楓も)で行こうかなと思います


2024/10/13久々に読んで気になったところを修正

2024/10/14顔画像を削除 次話のAI画像に差し替え

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