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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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最終話 十年後の僕たちは 8

いつものように脱線していって結果としてウソ予告になった奴。



 指定の対戦フィールドへと移動してきた陽奈は、控室での観戦中から、終始無言でここまで来ている絆菜と少し距離を置いて対峙していた。


「ええと・・・ハム菜ちゃんって、可愛いあだ名ですよね。私もハム菜ちゃんって呼んでいいですか?」

「その名前で呼んで良いのは雄太くんだけだから」


 ハム菜の由来を知らない陽奈としては場を和ませるトークのつもりで言った一言だったが、結果として絆菜の闘志に火を付けることになってしまう。


「というか、あなた名前変えてくれない?絆菜と陽奈ってちょっと被ってるし」

「はっ!?いやいや、なにむちゃくちゃなこと言っているんですか!?」

「別に本名変えてくれって言っているわけじゃなくて、プレイヤーネームを変えてくれればいいんだけどさ」

「嫌ですよ!やっと今年からプロ用になってマスコミがいなくなるから皆と本名でできるようになったのになんでそんなことしなきゃいけないんですか!」

「他の女が雄太くんに絆菜やハム菜に似た名前で呼ばれるのが嫌だからだ、よっ」


 試合開始の合図と共に絆菜が右足で地面を踏むと、その足下から陽奈の足下へと氷が伸びる。

 しかし昨年のU15ランキングトップクラスの腕前である陽奈は、すぐさま赤を基調とした、龍の翼を持つ魔法少女の姿へと変身し、空へと舞い上がって回避をする。


「い、今の攻撃試合開始って言ってからでした!?」

「反則判定されていないんだから大丈夫でしょっ、と」


 上昇が終わって文句を言う陽奈のすぐ下に絆菜が現れ攻撃を仕掛けてくる。


「くっ・・・熱くてもあとで文句言わないでくださいよ!」


 陽奈はそう言って全力全開、最高温度の炎を絆菜にぶつけるが、それは悪手だった。

 炎が絆菜に触れた瞬間、破裂音が響き、絆菜が爆発する。

 陽奈は爆発の衝撃と熱く熱せられた水蒸気でダメージを負って落下したが、地表に激突する前に持ち直し、再び上昇して絆菜を探す。


「どこ見てるのかなあ!?」

「上っ!?」


 反射的に攻撃をしようと魔力を手に集中させた陽奈だったが、先ほどの爆発が頭をよぎりすぐに炎による攻撃を中止して拳によるカウンターを狙う。


「痛ぅっ」


 陽奈のカウンターが決まったはずの絆菜は氷の塊に姿を変えており、結果として彼女の拳を傷めるだけの結果に終わる。

 そして


「残念だったねっ」


 下から上昇してきた絆菜の拳が陽奈の顎を捉える。


(これが本物か!)


 見事に顎を捉えられた陽奈だったが、ヒットの瞬間にその場でくるりと後ろに回転して衝撃を逃がすと絆菜の右手をつかむ。


「捕まえましたよ」


 陽奈はそう言うと、魔法で出したリボンを使って絆菜の右手とその右手をつかんでいる自分の左手を離れないように結びつける。


「さあ、殴り合いの時間です。わたし、こう見えて殴り合いも強いんですよ」


 そう言って右の拳を握って笑う陽奈を見て、絆菜も口角を上げてにぃっっと嗤う。


「奇遇だね、私もこう見えて殴り合いが得意なんだよ」


 絆菜はそう言いながら、魔法少女の姿への変身をする。

 白い虎を思わせる絆菜の衣装はなるほど確かに殴り合いに強そうに見える。


「いいでしょう、ならばあなたがッ泣くまで」

「殴るのを辞めない!!」




「ひええぇ・・・な、なにやってんのあの子達」


 控室で観戦をしていた左織がそう言ってモニターから目を背ける


「ノーガード殴り合いなんて、野蛮うさね・・・」

「深右先輩、うさ出てますよ」

「うるせーうさ。1年これでやってきたからもう癖になってるうさ」


 目をそらした左織の他は、深右も睦美も、雄太も紅葉も護も咲月も晴も唯も画面をじっと見つめていた。

 ただ一人、上登ラムだけは「ちょっと呼ばれたから自分の試合までログアウトしてるねー」と言って一時中断モードでログアウトしているので、座ったまま目を閉じていた。

 現在、ラムを除く控室の一同、そして入学式の会場で見守る観衆の前におかれたモニターには片手を縛り合ったまま空いている手でゼロ距離ノーガードの殴り合いを続けるふたりの少女が映し出されている。

 あくまで仮想現実であるVMWの中では顔が腫れて二目と見られないほど顔が膨れることもないし、出血などもかなりマイルドな表現になるが、それでもふたりが殴り合いで負っているであろうダメージはその拳のスピードを見ているだけでなんとなく想像がつく。


「陽奈って、あんな戦い方できたんだ・・・」

「あれ?咲月は知らなかったのか?」

「護は知ってたの?」

「咲月対策に接近戦をモノにしたいからって、何回かサンドバッグやれって付き合わされたことがあるからな」

「ひええっ、じゃあ陽奈はあれを私にやるつもりだったってこと!?」

「あたしはちょっと前に刃物の出し方を聞かれたから、そっちが完成してたら多分もっとえげつないことになってたと思う」

「ってことは陽奈は刃物出せなかったのか?」

「陽奈の家は過保護だから陽奈に刃物持たせたことないらしくて、イメージがうまく行かなかった」

「ホッ・・・」

「なので、うちの父さん秘蔵の脇差しを貸してあげた」

「なんで余計なことするの!?なんで余計なことするの!?なんで余計なことするのぉぉぉぉっ!?」

「なんか面白そうだったから」


 胸ぐらをつかんで前後に揺さぶる咲月に、紅葉は悪びれることなくそう答えた。


「紅葉って面白ければそれでいいみたいな所あるよね!!VMWの中とはいえ、私が滅多刺しにされたら可哀想とか思わないの!?っていうか、もしかしてそんな私が見たいとかなの!?そっち系の猟奇的な趣味があるの!?」

「いや、どっちかと言えば、そんな文字通りの付け焼き刃で勝てる気満々だった陽奈の刃物が咲月の防御魔法であっさりへし折られて半泣きになる陽奈の顔が見たかった」

「相変わらずお前は綾瀬とは別の方向で腐ってるな・・・」

「・・・ねえ、なんで関くんは今ここで私に飛び火させたの?」

「まあまあ、睦美が腐っているのは周知の事実だから」

「紅葉もフォローする気がないなら口を開くなぁっ!」

「うっさっさ、もうあきらめるうさよ綾瀬。お前が腐ってるのは周知の――あっ・・・ん・・」

「何か言いましたか、先輩」

「ごめんなさいうさ。ここでその攻撃するのはやめてほしいうさ・・・」

「あ、そろそろ決着がつきそうだよ」


 唯の言葉を聞いて雑談していた全員がモニターに視線を戻すと、ふたりの殴り合いは空を飛んでいる魔力も惜しいのか地上で行われており、パンチにも表情にも勢いがなくなって来ていた。

 そしてそこから全員が見守ること1分。両者は絡み合うようにしてダブルノックダウン。

 試合は引き分けに終わった。




「私さ、初恋だったんだよ」


 蓄積ダメージが心配ということで、ログアウト後に医務室で簡単な検査を受けた後、陽奈と隣同士のベッドに横になりながら絆菜がそう呟いた。


「え?」

「雄太くんのこと。結局想いは伝えられなかったけど、昔あなたのこと聞いてて。それで今日はちょっと八つ当たりしちゃったみたいな感じ。ごめんね」

「私のことって、どんな話ですか?」

「昔好きだった子と付き合えて嬉しかったのに、すぐフラれちゃったって話。あれ、あなたのことでしょ?」

「ああ・・・あれはですね」

「いい、聞きたくない。あなたは付き合えて私は付き合えなかった、それだけのことだし、雄太くんはあなたのことが好きなんだろうしあなただって雄太くんのこと嫌いじゃないでしょ?」

「嫌いじゃないですけど、そういうのじゃないですよ。というか、無理ですあの男は」

「ええっ!?」


 眉をしかめながら陽奈が首を振ると、絆菜は驚いて声を上げた。


「でも付き合ってたんだよね?」

「確かに彼は私の人生で一番最初にフッた男ですけど、その理由が理由なので、もう一度恋人にとか、その先をとかは考えたくないですね」

「どうして?雄太くんは優しいし、かっこいいと思うんだけど」

「彼がというか・・・ちなみに絆菜さん」

「絆菜でいいよ」

「絆菜、あなた想いが伝えられなかったって言っていたけれど、どのくらいいっしょにいたんです?」

「ええと、夏休み前に雄太くんが引っ越してきて、好きになって、夏休みにダイエットして、可愛くなって二学期に色々アプローチしたつもりだったんだけど、なんかうまくいかなくて」

「具体的には?」

「小学生なりにデートをセッティングして約束したんだけど、雄太くんがお家の都合で行けなくなっちゃったりとか」


 絆菜の話を聞いて、陽奈は納得したように一つ頷いてからため息をついた。


「なるほど、じゃあ彼が絆菜といっしょにいたときにはまだ改善されてなかったということですか」

「改善?雄太くんが何か悪いことしたの?」

「多分、あなたが彼と上手くいかなかったのは彼のお母さんのせいです」

「夏樹おばさん?」

「あの人、息子大好きなんですよ。で、彼女の前で雄太くんと付き合い出した私は、すぐに物陰に引っ張り込まれて彼のはずかしい秘密をこれでもかと教え込まれ、若干の嫌悪感を抱いた」

「で、別れた?」

「ええ。今となっては姪っ子の面倒を見てきたおかげで、幼児ならそういうこともあるだろうという感じですけど、当時彼氏の寝うんこの話は無理でした」

「なるほど・・・」

「その線で考えると、おうちの都合とやらは多分夏樹さんの仕業で、絆菜と雄太くんが万が一にもそんな空気にならないように小細工していたということだと思いますよ」

「・・・」

「私は万が一彼とくっついてそんな母親と一生縁が出来るのはごめんです」

「でも、さ。今は雄太くん一人暮らしなんだから、夏樹さん関係ないよね?」

「いえ、今はよくても結婚なんてして彼女が義母になったらそういうわけにも」

「雄太くんが夏樹さんより私のことを好きになってくれたら問題ないよね!」

「まあそれはそうでしょうけど」

「私が彼のごはん作ってあげて胃袋を握ればいけるよね!」

「確かにそういう話は聞きますけれど」

「よし、やる気出てきた!」

「どうしてそこまで彼にこだわるんですか?」

「初恋だからだよ!せっかくママのコネで彼の進路も住所も調べたんだから、夜這いかけて既成事実作るつもりで行くよ!」

「・・・前向きなんですね、絆菜は。私も微力ながら応援しますから頑張ってくださいね」


 陽奈は、絆菜との会話の中で少し引っかかるところがなくはなかったが、『私も素敵な初恋をしたらきっと彼女のように積極的になるんだろう』と考え、無理矢理自分を納得させた。



「そう言えば絆菜はさっきと随分キャラが違いませんか?」

「初恋成就にはキャラ作りも大事だと思うんだ!!」

「あ、そうですか・・・」




 今日も相馬陽奈は初恋というモノがよくわからないままである。


なんか予定より出番増えたので、宇佐美姉妹のキャラ語り。


個人的には二人の名前に入ってる左右の感じがすごく気に入っていたりします。


宇佐美左織

常識人。深右のわがままに振り回される双子の姉のほうにしてちょっと胸の大きい方。

振り回されているせいで左織が妹だと間違われることもしばしば。

性癖も何もかもドノーマルのドストレート。

劇中一度も言っていないけど口癖は「やだもー」。

どこかの通信手とは関係ない。


宇佐美深右

ちょっと変態。普段私様キャラで、普段はわりとわがまま放題だがそれは左織がわがままを聞いてしまうからであって、別に強メンタルとかで押し通しているわけではないので、ぐいぐい来る相手には流されて言うことを聞かされてしまう。要するに強気なチョロインである。

先輩ぶっているものの、睦美には完全に舐められている。

もちろん舐められているといってもまだ物理的にではない。


物語において重要な役割を持たせないで作ったキャラの方が動くアレですな。

え?初恋?よくわからないです。

どっちかというと初恋より深右が睦美に押し切られての初行為のほうが書きゲフンゲフン


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