グランドエピローグ 朱莉 12 十年後の君たちへ 4
20/3/10 文中で小花の所属があっち行ったりこっち行ったりしていたのを修正。
小花は西のほう出身で東と一緒に来てます。
完全に余談だけど香港とかコロナとか蝗とか、なんかマジで中国分裂とかあり得る情勢になってきてビビるなど。
寿ちゃんの結婚式から数日後。
関係各所との会議のあと、送りの車を遠慮した俺がブラブラと街を歩いていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。
「なんだこはっ・・・八十島先生か」
俺が振り向くとそこにはお前もうちょっと自分の立場を考えて隠れるそぶりぐらいしろよと言いたくなるチャイナドレス姿の八十島花子教諭。というか、李小花が立っていた。
「そうそう、八十島ヨ」
「そのしゃべり方、学校始まったらやめろよ」
「ハイハイわかってるネ」
「・・・別に今やめてくれてもいいんだぞ?」
それがキャラ作りの結果だということは俺もみんなももう知っているわけだし。
「アイヤー、やめたらワタシ誰だかわからなくなるアルネ」
「いや、だとしてもお前昔はそこまでステレオタイプな中国人キャラじゃなかったろ!?」
「加減がむずかしいネ」
元々連絡将校ときてやってきてこの国を気に入っていた小花が舞い戻ってきたのは3年前。
亡命を希望し、まんまと都さんにかくまわれた小花は世界大戦が終わって晴れて自由の身となりこの町の中学体育教師(魔法専任)に収まったというわけだ。
「そういえば、そもそもお前って確か西の方出身だったよな?なんで東の軍勢に紛れてきたの?」
「確かに私の出身は成都だけど、モスクワ出身のユーリアだって東ロシアの叛乱の時に似たようなことしたって前に聞いたけ・・・ヨ」
「そんなに簡単にブレるならキャラ作りなんてやめてしまえ!!それと、ユーリアのは上からの命令でやってただけだし、あいつは今も母国にいるぞ」
「まあほら、アレよ、ひとつの中国ってやつよ。広くても同じ国ネ」
「あの時も今もお前の母国は三つに割れてるけどな」
世界大戦前後のどさくさに中国は三国志の再来のような形で西中国、中中国 (語呂が悪いと思う)、東中国の三つに割れた。
ちなみに小花はそのうちの沿岸部の都市が集まってできた東中国の攻撃に乗じてやってきて、投降して亡命した。
「まあ、ずっと昔から似たようなことやってきたんだし、そのうちまたどこかが一つにまとめるでショ。どっちにしてももうワタシカンケイナイヨ」
さもありなん。
というか、キャラ付けが悪化してるんですけどそれは。
「で、今日はどうしたんだ?」
「別に、ブラついていたら知り合い見つけたから声かけてみただけヨ。朱莉は?」
「俺も仕事終わりに街を見ようと思ってブラついていたんだけど・・・」
「どうしたの?」
「いや、あそこにいるの、喜乃君じゃないか」
「ああ、ほんとネ」
「あんなところでなにをこそこそやって・・・あっ!」
喜乃君の視線の先にいる人物を見て、俺は喜乃君を呼ぼうとしていた小花の口をあわてて塞いだ。
「むぶぅっ!?」
「ちょっと静かにしててくれ。どうやら今仕事中みたいだから」
喜乃君の視線の先にいた人物。それはだれでもない、ハナの養子『関 護』だった。
現在の時刻は午後6時過ぎ。
彼の年齢と街の規定を考えれば、すでに帰宅していなければいけない時間であるが、まさかこの街の警備部門における最高責任者の喜乃君がそんなことくらいで彼の様子をうかがっているなんていうことはないだろう。
と、いうより今の彼のように保護者らしき大人と一緒にいる時点で補導を行う必要はなかったりする。・・・まあ、その保護者らしき大人が本当に保護者なら、であるけれど。
「喜乃くふぅんっ!?」
「ああ、なんだ朱莉さんでしたか」
「ま、護君がなんかした?あと朱莉さんも別に悪さしないから腕をひねり上げるのやめてもらっていいかな」
完全に油断していたとはいえ、あっという間に腕をひねり上げられちゃって朱莉さんは痛いやら恥ずかしいやらだよ。
っていうか前より確実に強くなっている喜乃君より強い楓とか、喜乃君から一本取れる紅葉ちゃんってどんだけ強いんだよ。
「あ、ご、ごめんなさい」
「で、どうしたの?護君がなにかした?」
「いえ、彼が何をしたというか・・・彼の隣にいる奴がですね」
「ああ、やっぱり」
なんか問題ある大人なわけだ。
というか、あのおっさんは多分護君の故郷の生き残り・・・ですらない善意の他人って奴だろう。そしてその善意の他人は俺たち、この街に対しては悪意の他人。
人はそれをテロリストと呼ぶ。
「ちなみに大物なの?」
「大物の右腕って奴ですね。なので、何人かで距離をとりながら見張ってる感じです」
「そっか。小花」
「アイヨー」
「今度食べ放題奢ってあげるから喜乃君達を手伝ってあげて」
「アイヨー」
「え、いや、助かりますけどいいんですか?僕らの仕事なのに」
「うちの教育部門のモットーは、子供に悪い影響を与える大人には容赦しないだからね。子供がらみのことならうちも協力は惜しまないよ」
「ソウヨー気にしないでいいヨ」
「じゃあ小花さんは向こうの橋にいる楓さんと合流してください」
「アイヨー」
って、楓を動員してんの!?マジで大物じゃん。
「で、一緒にいる鈴奈に南ゲートへ移動するように言ってください」
鈴奈ちゃんまでいるの!?何者なんだあのおっさん。
「了解。じゃあ行ってくる」
短くそう言った次の瞬間、もうそこに小花の姿はなく既に何事もなかったように対岸を歩いていた・・・あいつがうちの国と戦おうとしないでくれたのは本当にラッキーだったな。
「で、あいつ何者なの?」
「多摩境特務警部補の情報によれば『共に革命』とか『深紅の御旗』とかそのへんの相互連絡をしてる連絡員みたいな奴ですね」
「なるほど」
なんとなく今回の素性が見えてきた。
つまり、専守防衛を声高に叫んでおきながら、いざそうしてみればなぜ先に攻撃をしなかったのか、後手に回ったから被害が出たのだ。と声高に主張していた輩だ。
「・・・なんなんでしょうね、僕らはこの国を守るために戦ったのに。なんだっていつまでもこんな」
「俺たちが犠牲を出したのも間違いないことだからね」
だから、護君が俺たちを憎いというのなら、それは仕方のないことだ。
「ただ、その被害者の感情を利用して、私利私欲のために平和を壊そうとする奴を許すわけにはいかない」
「・・・・・・」
「10年後の誰かのために。な」
それは、3年前に俺たちが出撃する時に皆で決めた言葉だ。
自分のパートナーや子供や兄弟、そのほかの誰かの未来を守る。そのための言葉。
そんなものは自分たちのための自己満足の免罪符でしかないかもしれないけれど、それでも俺たちはその言葉を胸に戦った。
「そうですね。うちの子のためにも、僕がクヨクヨしてちゃだめですよね」
「ああ、そうだな・・・っと、動いたぞ」
「各隊警戒。じゃあ朱莉さん」
「ああ、護君のほうは俺に任せろ」
「よろしくお願いします」
そう言って喜乃君は護君から離れたおっさんを尾行しはじめた。
「さて、俺の方も護君を保護しないとな」
一人歩き出した護君に、不自然にならない速度で追いついて声を掛ける。
「おや!?君は確かハナのところの護君じゃないかぁ」
「!?」
え、なにそのうさんくさい人をみる目。ジト目の時のハナの顔と完全に一致しているんですけど!?
「はぁ・・・もうバレちゃったっていうことですか。・・・あのおっさん使えねえ」
「バレたっていうことは、君は・・・」
「これが爆弾です。あなたか、宮本楓さんか、相馬ひなたさんがターゲットです。つまりこの街の象徴ですね」
そう言って護君は掌にのせたカプセルを俺に見せた。
「そこで一つ、取引をしたいんですけど」
先日の結婚式で見た、あどけなさの残る少年でも、こまちちゃんの言う気色悪いくらいの優等生でもない顔でそう言いながら彼は掌を突き出す。
「ここで死んでもらえないですかねぇ?ほら、僕、失敗すると怒られちゃうからさぁっ!この爆弾に魔力を込めればそれで爆発するからさぁっ!」
追い詰められた彼は乱暴な口調でそう言いながら――泣いていた。
「・・・君は、ハナのことが嫌いかな」
「そんなこと、今は関係ないだろっ!!」
「少なくともこまちちゃんのことは好きだよね」
今、この街の象徴としてあげるのであれば、俺と楓とひなたさん、それにこまちちゃんだ。
にもかかわらず、彼はこまちちゃんの名を挙げなかった。
「こまちちゃん自身がというよりは、響君が悲しむからかな?」
「うっ・・・」
「ははは、酷い話だな。寿ちゃんの結婚式の時、うちの咲月や紅葉ちゃんや陽奈さんとも遊んでただろ」
「そ、それは、みんなお父さん嫌いって言ってたから」
「え・・・??」
あれ!?パパすごいショックなんですけど!?いや、あれだろ?お母さんごっこの一環。な、そうだよな、咲月!?
・・・って、そうじゃない!今は護君に集中しないと。
「この街で爆弾なんてものを使ったら、響君やハナ、それに咲月達だって巻き込まれるかもしれない。君はそんなことをしたいのか?」
「そうだ・・・」
「そうか。で、本当の理由は?」
「本当の、理由?」
むやみに誰かを傷つけるということは、固い意志がないとできない。
それが、シリアルキラーやサイコパス、普段から暴力的な思想を掲げている人間でも暴力を振るっている人間でもなく、こまちちゃんをして薄気味悪いほどの優等生だという彼ならなおさらだ。
その固い意志の源は一体何なのか、本当に復讐心なのか。
あんなに楽しそうにしていた彼が復讐心のために全てを捨てられるのか。
「・・・」
「やっぱりなにかあるんだな。聞かせてくれ。俺はずっとそうやって話を聞いてきたんだ」
信用していいものかどうか。
護君はそういう顔で俺を見ていた。
俺が護君の目を見つめかえすと、しばらくしてからぽつりと口を開いた。
「どうせ信じてもらえない」
「信じる信じないの前にちゃんと調べるから君が嘘をつかないなら大丈夫だよ」
「調べてなにも見つからなかったら?」
「お母さんに言いつける」
「えっ!?」
俺の言葉を聞いた護君の顔色が傍目にも解るくらいに変わった。
ええと、これはどっちだ?お母さんに嫌われたくないってことか?それとも何か体罰的な・・・いや、ハナにかぎってまさかそんなことしてないだろうけど・・ああ、でも1回へそ曲げると長いししつこいからなあ、あれはある意味で虐待といえば虐待かもしれないけれど。
「えっと、お母さん怖い?エリスとかから叱ってもらったほうがいい?」
「母さんは、怖いですけど。すごく優しい人だと思います」
「そっか。じゃあお母さんに心配掛けないようにしないとな」
「・・・妹が、いるんです」
それが本当であれば、ハナは一緒に引き取るはずで――
「・・・ハナは知らないんだな、その子のこと」
「さっきの人の仲間が、妹は死んだことになっているって言ってました。それに、母さんに話したら妹を殺すって言われていました」
俺の質問に護君は頷きながらそう答えた。
なるほど。つまり、あの日、あの時から今このときまで、護君にこんな無茶なことをさせるためだけに組織は彼の妹を人質に取り続けていたということか。
災害地のボランティアと称して盗人が入り込む話はわりとあるし、考えてみれば盗人がくるなら人さらいだってくるわな。
「こんな事は聞きたくないんだけど、本当にその子は生きているのか?」
人を一人活かしておくことのコストとリスク。それを考えると、とてもじゃないが3年以上子供を活かしておくとは思えない。というのが正直なところだったりする。
「この街に来る前に会わせてもらいました。それと、さっき電話で話しました」
そこまで活かしておいたということは、奴らは彼だけではなく彼女も同じようにテロに使うつもりなのだろう。
彼女がまだ生きているのなら、彼がここで死ねば彼女に俺たちに対する恨みという動機を植え付けることができる。
そして、俺たちに恨みを持った彼女は第二の矢となって俺たちに向かってくるだろう。
つまりここで護君に提供してもらった情報を元に彼女を救出することができれば、後顧の憂いを立つことが出来る。そしてなにより子供の安全を第一に標榜するこの街で、今の護君や妹ちゃんを見捨てるというのはあり得ない。
「・・・よし。言い訳が立った」
「え?」
「なんでもない、大人は色々面倒くさいんだよ。それより、今まで一人でよく頑張ったな。君が頑張って俺に情報を伝えてくれたおかげで、この街の平和は守られるし、君の妹も助けられる」
「えっ!?でも僕は・・・」
「君はまだ何もしていないだろう?大人顔負けの潜入捜査をして、俺たちに爆破計画を教えてくれただけだ」
「でも、僕は・・・」
「今回悪いことをしそうになったことを気にしているんなら、これから先そんなこと帳消しにできるくらい良いことをすればいい」
「・・・・・・はい・・・ごめん・・・なさい・・・」
「ははは、泣くな泣くな。じゃあちょっと電話するから待っててくれな」
護君の頭をポンポンと軽く頭を撫でてから俺は電話を取りだし、緊急回線で彩夏ちゃんを呼び出す。
『はいはい、どうしましたー?』
「コードアンバー発生。うちの部隊を動かすぞ」
『アンバーですかそれは大変・・・って!?いやいや、完全下校時刻にスキャンをしたとき、子供達は皆家にいましたけど』
「トランスポンダーを家に置いて出歩いてる悪い子がいてね。その子からの情報提供だ。それと、これは警備部が追ってる事件と関係しているから警備部との連携もお願い」
『了解です。ちなみに被害者の名前わかりますか?』
「ええと・・・護君、妹ちゃんの名前は?」
「攻です」
「え?なんだって?」
「攻です」
すっげえ攻めた名前だな。
「被害者は、えっと・・・関 攻。女の子だ」
『はぁ・・・なんとなく事情は読めましたけど勝手にそんな事言って後で華絵ちゃんに叱られてもしりませんよ?』
「ハナなら引き取るだろ」
『でしょうけどね。で、今回その華絵ちゃんはどうします?』
「今回は外す。護君が関わっていることだから現場には出せない」
『了解。現場指揮官は朱莉さん、救出作戦ならサブで時計坂さん、あと包囲要員に若手を何人かと・・・ついでなんでうちのソファーでゴロゴロしてるこまちさんも連れて行ってください』
「なんでこまちちゃんがそこにいんの?」
『うちとこまちさんとこで飲み会しようって話になって、実は今準備の真っ最中だったんですけど、斗真さんより働かないし子供の相手もしてくれないんで正直邪魔で』
邪魔はひどくないっ!?と、抗議の声が聞こえた気がしたが無視しよう。
『あと、ひなたさんとかあのへんにも声かけます?』
「いや、警備のほうで喜乃君の他に楓と鈴奈ちゃんもいるから戦力は大丈夫っていうか、多分ひなたさんは知ってる。人質救出用に時計坂さんがいて、突入要員でこまちちゃんがいるなら、あとは若手だけでいいよ」
『うっわ、オーバーキルもいいとこですね。じゃあとりあえずうちのチームに招集かけて喜乃と連絡を取った後で折り返しますんで』
「よろしく。俺は護君を家に送ってから行く」
そう言って電話を切った俺の服の袖を護君が強く引っ張った。
「僕も連れて行ってくださいっ!攻を助けたいんです!」
「いや、ダメダメ。気持ちはすごくわかるけどダメだって」
護君を事件現場になんて連れて行ったらハナに怒られちゃうから。
「助かった時に妹一人じゃ寂しいし不安だと思うんです!」
いや、だからハナに怒られ――
「攻は僕の大事な妹なんです!」
・・・・・・まあ、俺も護君の立場だったらそう言うだろうしなあ。気持ちはよくわかるよ、うん。
「お願いします!」
「・・・・・・はぁ、わかったわかった。わかったけど、全部終わったら一緒にハナに叱られてくれよ」
「はいっ!!」
後でこまちちゃんあたりに現場でダメだしされそうだけど、お兄ちゃんの気持ちはよくわかるからね。しかたないね。
◇
驚いたことにこまちちゃんではなく鈴奈ちゃんにダメだしされた後決行した突入作戦は見事成功し(時計坂さんがいる時点で救出作戦の失敗はあり得ないんだけど)、救出された攻ちゃんと付き添いを申し出た鈴奈ちゃんの乗った救急車を見送ったのとほぼ同時に連絡を受けて駆けつけてきたハナが護君の両肩に手を置いて語気を強めて叱りつけた。
「護!あなた何をしたの!?何かあるならなんで最初に私に相談しないの!!」
「ごめんなさい・・・」
「私はそんなに頼りない?私は信用できない?」
「いやいやハナ、それは違――」
「朱莉さんは黙っててください!」
「・・・」
そう言われても、俺はまだ詳しい話をハナにしていない。
これで万が一誤解が解けず、すれ違ってしまったら・・・そう考えると、どこかで口を挟まないわけにはいかない。
「ねえ、どうして話してくれなかったの?私のこと、嫌い?信用できない?」
「お母さんを、巻き込みたくなかった。お母さんがすごく優しい人だから、僕が悪いことをしているって知ったら、すごく悲しむと思ったから」
「・・・」
「あのな、ハナ――」
ハナに説明しようと俺が口を開きかけたところでポンと肩を叩かれた。振り返ると、こまちちゃんが静かに首を横に振った。
「ありがとうね。でもハナももう大人だし、これはハナと護君の話」
「・・・そうだな。悪い」
沈黙が続いた後で、しばらくうつむいていたハナが顔を上げて護君を見た。
「護、あなたが悪いことをしたら私は悲しい。それは間違いないわ。でもね、あなたが悩んでいることを知らないことのほうが私は何倍も辛いし悲しいの。私をあなたのお母さんと認めてくれるなら、何でも話をして。困ったこと、辛いこと、悲しかったこと、嬉しかったこと楽しかったこと、何でも一番に話をして。私は絶対にあなたのことを嫌いにならないから、絶対に見捨てたりしないから」
「ごめんなさい・・・ごめんなさいお母さん」
そう言って泣き出した護君を、ハナは強く抱きしめた。
うんうん。これで丸く収まったな。あとは攻ちゃんの件をどう伝えるかだけど。まあこれは後日で良いだろう。今この空気を壊すこともあるまい。
「何帰ろうとしているんですか、朱莉さん」
「・・・おや、どうしたんだい彩夏ちゃん、こんなところで」
「どうしたんだと思います?」
「いや、マジでどうしたの?」
「華絵ちゃんに例の件、伝えてもらえました?」
やっぱりその件か!!
「え、いやその・・・今、ハナと護くんの良いシーンなんだけど」
「攻ちゃん、時計坂さんのおかげで命に別状はないんですけど一応検査入院しなきゃいけないんですよね。で、意識があって命に別状がない以上、検査やら入院やらもろもろするためには保護者の同意が必要なんですよ」
「ええ・・・今じゃなくてよくない?それにほら、総合病院の副院長って恋じゃん?とりあえず保留で後日承諾ってことで話つけてよ」
「そう言うだろうと思ってあらかじめホットラインで恋さんに連絡したんですけど『朱莉は後日後日といって後回しにするから、秘書ならちゃんと仕事させてください』って突っ返されまして。で、ぶっちゃけ私も恋さんに同意なんでこうして出向いてきたわけです」
ぐ。なんも言えねえ。
「でもほら、もう今日はお役所閉まっちゃってるから養子の手続きとかできないし特例措置ってことで」
「ニアさんに連絡してスタンバってもらってます」
「あの人も大概一人ブラック企業だよな!!」
在宅とはいえ、子供もまだ小さいのに働き過ぎだよ。
「ええと、ハナ。ちょっと話いいかな?」
「あ、はい。さっきはごめんなさい。なんでしょう」
「今回の事件の話ってちゃんと聞いてる?」
「いえ、帰ったら護がいないことに気がついて警察に問い合わせたら、なぜかひなたさんから護が事件に巻き込まれたからここに行くようにって連絡があって、それでここに来たんですけど」
やっぱりか。
まあ、普通に考えれば喜乃君から警察に連絡をしておいたんだろうし、もしかしたらどっかでひなたさんの息がかかった子が見てたのかもな。まあ、別にいいけど。
「ええと、護君は事件に巻き込まれたというか――」
「僕、すごく悪いことをしたんだ」
「ちょ、護君!?ハナ、俺から話すよ」
「・・・すみません朱莉さん、護から聞きます」
「朱莉ちゃん信用ないねえ」
「ないですねえ」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど・・・護、何があったか話してくれる?」
「うん」
護君は包み隠さず、ハナに引き取られる前のこと、引き取られてからのこと、今までの気持ち、今の気持ち、自分がしてしまったことを全部ハナに話した。
そして。全部聞き終わった後、ハナは護君と一緒に俺たちに向かって頭を下げた。
「ごめんなさい。護がしたことは母親である私の責任です。私が責任を取りますので、護には寛大な措置をお願いします」
「それについては護君にも言ったけど、一切罪には問わないよ。事件が起きる前に情報を伝えてくれて未遂に済んだ。被害らしい被害もないし人質も無事だ」
「でもそれは・・・」
「護君は反省が出来る子だし、同じ間違いを繰り返す子じゃないと思う。だからきっとこの先、街の力になってくれると信じている。だから罰は科さない。そしてそれはこの半年間護君をそういう子に育ててきたハナの功績だ。だから君にも罰を科す必要はない」
「・・・」
「どうしてもっていうなら一つ。罰じゃなくて、お願いがあるんだけどさ」
「なんでしょう」
「護君の妹の攻ちゃんを引き取って護君のような良い子に育ててもらえないだろうか」
「それはもちろん、そのつもりですけど」
「はい決まり。攻ちゃんを引き取るならハナは罰なんて受けてる場合じゃないだろ」
「・・・ありがとうございます。朱莉さん。それと、今まで酷いことをしたり言ったりしてごめんなさい。これからも息子、娘ともどもご指導ご鞭撻、よろしくお願いします」
もう一度頭を下げた後、そう言って顔を上げたハナの顔はすごく晴れやかで、初めて会った頃の少女の笑顔とは違う、大人の女性の母性を感じさせる素敵な笑顔だった。
そしてその笑顔から、改めて今のハナはあの頃のハナとは違うんだなということがわかり、俺は嬉しいやら寂しいやら・・・なんとも言えない複雑な気持ちになった。
「こ、この話はこれで終わり。オールオーバー。全員撤収。あ、彩夏ちゃんニアさんに連絡して養子手続きのほうよろしく」
「了解です・・・って、あれ?朱莉さんなんか顔が赤くないです?」
「おやおや、奥さんがいる身で人の妹に懸想ですかにゃ?」
「ちがうし!そうじゃなくて・・・その、ハナとは色々あったから」
「色々ねえ」
何かこう、朱莉さん状態とジュリ状態で全然違う対応されててそのギャップで傷ついたり気持ちよくなったりしたってだけで別に何もないけどね!!
でも朱莉さん状態でデレられるとやっぱり嬉しいよね!!
「・・・変な誤解を生みそうだからこの話本当におしまい!ハナも子育て大変だと思うけどがんばってね。なんかあったらみんな相談に乗るから」
「そうだよ。お姉ちゃんを頼っていいからね!」
「いや、こまちさん家事も子育てもほとんどしないじゃないですか。セナが愚痴ってましたよ『毎週とは言わないけどたまには一人で響をどこかに連れてってくれると助かるんだけど』って」
「今ここで言わなくてよくない!?っていうか、私は家族みんなで出かけたほうが良いだろうと思って、よかれと思ってだね!」
「いや、真面目な話、主婦って大変だからたまには一人の休日をとらせてあげたほうがいいですよ。愛想尽かされる前に」
「はい・・・善処します」
「まあ、でもおじさんとしてはあれだね、ハナもそろそろパートナーを見つけて二人で子育てっていうのもいいんじゃないかと思うけどね」
「朱莉さん、それ下手するとなんかのハラスメントに引っかかりますよ。それにこまちさんみたいなパートナー引いたら結局苦労しちゃうじゃないですか」
「だからなんで彩夏ちゃんは今日私に対するディスが強いの!?」
「あ、でもパートナーだったら実はずっと気になる人がいて」
「私かなっ!?」
「姉さんじゃないわよ!!てか、変なこと言うとセナさんに言いつけるわよ!?」
「ごめんなさい・・・」
はいはい、マッチポンプマッチポンプ。どうせこういう展開を望んでたんだろ、こまちちゃんは。
「それで、誰なの華絵ちゃんのパートナー候補って」
「候補っていうか・・・時々、またジュリと一緒に暮らせたら楽しいかなって思うんです。エリスも一緒だともっと楽しいかも知れないけど、もうすぐ左右澤先輩と結婚するって言ってたしそれは難しいかなって」
「え?いや、エリスは左右澤くんと別れたでしょ?」
「いえ、実は裏でくっついたり離れたりしてて・・・確か蜂子に子供ができたころに『そろそろ子供ほしいから婚約した』って言ってましたけど」
ほんとエリスって深谷さん二世な!!!そんなことを考えていると、突然こまちちゃんが俺の耳元に顔を寄せてきた。
「(・・・朱莉ちゃん、この後、過去にあったハナとの色々について色々聞くからそのつもりで)」
ヒェッ!?ち、違うんですよ、こまちさん。
「朱莉さん、ジュリって今どうしているか知りません?たまにフラッと現れてエリスと三人で食事したりするんですけど、実は3年前のどさくさで連絡先をなくしちゃって、それからなんか聞きそびれちゃっていて」
「え、ええと・・・エ、エリスに聞けばいいんじゃないかな?エリスは連絡取ってるみたいだしさ。それに俺ももうジュリとは上司部下ってわけじゃないから、連絡先知らないし」
ここで君にジュリというか俺の連絡先を教えたりすると、俺の後ろに立って『フシュルルルル』とかって謎の声を上げている君のお姉さんが襲いかかってきそうなんです。気づいてください華絵さん!!
「あ、連絡先は知らないけど、近況は私知ってるかも。確かちょっと前に結婚したとかって話を・・・誰だったかな、愛純から朝陽が聞いて、それをセナが聞いたとかって言ってたっけかな」
「そうなの!?朱莉さん全然知らないんだけど!!」
「なんで朱莉ちゃんが知らないのに彩夏ちゃんが知ってるの!?」
って、そうか。助け船を出してくれたのか!!ジュリにはもうパートナーいるから諦めようねってそういうことか!
理解した、理解したぞ彩夏ちゃん。だからその『察しろやバカ共』って顔やめてください、めちゃくちゃ怖いです。
――後日談。
ハナにジュリのことをちゃんと諦めさせるために行った茶番劇で、旦那役を頼んだ愛純が調子に乗って演じた旦那がチャラすぎて「あんな男とは別れなさい!!」と、ハナのジュリに対する執着が強くなってしまい、調子に乗って計画をぶち壊しにした愛純は柚那とこまちちゃんにめちゃくちゃ絞られた。
あと、なぜか護君には一発でジュリの正体がバレてしまい、昔のハナの事を根掘り葉掘り聞かれた。
キャラ語り
前回突然名前から入っちゃいましたね。もうしわけないです。
・宮本 楓
初期の初期。魔法少女狩りの時の精華のポジション(裏切り者のリーダー)の候補の一人でした。
とはいえ、こいつの頭でジェーンの思想に賛同して裏切るようなことはないよなあと思い直し(楓というキャラを作った当時はもっと戦闘狂というか、妖怪首おいてけみたいなキャラを想定していた)
結果として朱莉の良きライバル(?)ポジションに。一応接近戦最強ではあるけれど、ルールありの試合ではこまちにも負けている上朱莉にも負けているし、なんでもありだとひなたと狂華にも負けているという、結構負けの多い戦績だったりします。
あと、楓は本名の雅史、通して『ミヤモトマサシ』って音が宮本武蔵の偽物っぽくて嫌いだったりします。なので第1回武闘大会で喜乃が『宮本雅史に初めて勝った』と言いかけた時にブチ切れて必要のない二段変身までした。という裏話があります。
・宮本 イズモ
もっとこう、楓とバカップルするはずだったんだけどなあ。
カウンタータイプという出番が限定される能力の上、後半インフレするみんなについて行けなくて後方担当になり、出番が激減してしまった。もうしわけない。
元々は幼なじみではあるものの楓より年下で、喜乃と同じ歳、喜乃が楓に挑戦するのはイズモの気を引きたいがため。みたいな設定もあったんですけど、面ど・・・複雑にしても解りづらいかなと思ってその設定はなくなりました。
・その後の宮本家
十年後の~にも出ているので今更ですが、朱莉、ひなたと同様に楓は娘大好きパパに。
大真面目に『自分より強い奴にしか娘をやらん』とか言っちゃって紅葉とイズモに呆れられる毎日。
・津田喜乃
楓のライバルキャラ・・・というか、楓の圧倒的な強さを表現するはずが、あっさり負けるわ、何度も挑戦するはずが何故か舎弟キャラみたいになるわと、割と散々な子。
ずっと武道をやってきて男子校に通っていた女免疫ゼロなDTが自分にだけ心を開いてくれる(勘違い。イズモと楓にも開いているし、なんだったらルナリアンの二人にも開いている)女の子と恋愛すればそうなるわなという感じで鈴奈に対する独占欲がすごい。イチャつきが鬱陶しいので二人揃っての登場はほぼなし。劇中で鈴奈が離してくれない、独占欲がすごいみたいなことを匂わせているが、全部ブーメランで実はいつも後頭部が酷いことになっている。※鈴奈が独占欲を発揮するのは喜乃の浮気とかそういう疑いがあった時のみ。
てか、ミュンヒハウゼン症候群なんじゃないかこいつ。
・津田(菊池) 鈴奈
本文中どこ探しても彼女の苗字がない気がするんだが…確か菊池だったと思う。うん、菊池で。見せ場もなく圧倒的な力の差で無理やり引き釣りこまれたせいでものすごく弱いように見えるけれど決して弱くはない。
偽七罪時代はいつも何かに怒っている子だったが、楓にコテンパンにされて、喜乃とラブついてからはそうでもなくなってきた。
もともとはとあるスポーツの有望株の選手だったが、選手生命を絶たれるような怪我をさせられ引退した。そのスポーツでの活躍を当て込んで借金をしてまで鈴奈に金をつぎ込んでいた両親は彼女を残して心中してしまったという過去があり、彼女の怒りはこの世のすべての理不尽に対するもの。
槍の扱いがイマイチなのはもとも槍術を学んでいたわけではないため。この世の全てに絶望し、自殺未遂をしたところをユウに助けられ偽七罪→魔法少女となった。
・津田家のその後
実は宮本家とお隣同士。子供は今回の話から3年後に男の子が一人生まれる。
名前は雅喜。雅史から一文字喜乃から一文字取った名前で、津田夫婦と楓は良い名前だと喜んでいたがイズモだけ内心『名前一字ずつもらうとか戦国武将か何かかよ』とちょっと引いていた。




