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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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グランドエピローグ あかり 1 絶望へのカウントダウン 1

5/17後編追記


 転入してきた初日。

 彼女はかなり緊張していたのだろう。

 授業中も、昼休みもほとんど笑うことはなかった。


 二日目。

 少しずつ慣れてきたのか、私達のグループ。いわゆるJK1とは大分打ち解けてくれた。

 まあ、くるみにターゲッティングされて、若干ゲッソリしているところはあったけれど、ミーナも笑っていたしあのくらいは許容範囲許容範囲。


 三日目。

 中学の頃、みつきが転入してきた時に一番最初に告ったクラスメートが、ミーナにアタックした。そしてそれに釣られて他の男子も次々にミーナにアタックを開始。

 なぜか私達がその誘導というか、交通整理のようなことをするハメになった。

 ちなみに、それをみてかなり複雑そうな表情をしていたみつきにくるみが『わかったでしょ!?男なんて猿なのよ!こっちにいらっしゃい!あかりも!』とかなんとか言ってさらに複雑そうな表情にさせていた。


 四日目

 最初はガチガチに緊張していて軍人さん然としていたミーナはよく笑うようになった。そんなミーナの顔を見ていると、やっぱりこの子も同い年の女の子なんだと改めて思った。

 ただ、時折見せる悲しそうな顔が少し気になったので茉莉花に相談したら全く気づいてなかった。あいつダメだ。あと、今日も元気にくるみはミーナに絡んで行っていた。



「って、こうやって改めて読み返してみると、なんかくるみの存在感がすごい報告書になっちゃったなあ。でも、あいつ今日もちょっとやらかしたし書かないわけには・・・」

「あの子はこれ以上一体なにをやらかしたんだ?」


 いつのまにかお兄ちゃんが私の後ろに立っていて、私が書いているレポートをのぞき込んでいた。


「ちょっとお兄ちゃん、勝手に女子高生の部屋に入ってくるなんてどういうつもり?お金取るよ?」

「そのお金を持ってきたんだよ。ほら」


 そういってお兄ちゃんは一万円札を一枚私の机の上に置いた。

 本当は今日お昼休みにもらうつもりだったお金だけど、学校には昼食代しか持ってきてないというので、放課後にこうして持ってきてもらったというわけだ。


「なあ、本当に四人で大丈夫か?」

「うーん・・・そりゃあミーナとガチバトルするっていうなら、私と茉莉花だけで、しかもくるみがいるっていう状況じゃちょっとなあって思うけど、私達はあくまで遊びに行くわけだからね」

「おまえがそう言うなら大丈夫なんだろうし、任せるよ」

「あ、もしかして、実はお兄ちゃんも女子高生に混じってワイワイしたかった的なやつ?混ぜてあげようか?」

「その提案はやぶさかではないが、今回は四人のうち二人が若干苦手な人間だから遠慮するよ。というか、ぶっちゃけそっちに混じるならエリス達とかハッチ朔夜組とか、ナッチ正宗組に混ぜてもらった方が気が楽なくらいだ」


 いやいや、休みの日にカップルの間に入り込むのやめなさいよ。って、ああそうだ。


「今の話で思い出した。その件で蜂子先輩から苦情が来てるから、学校で朔夜くんに絡むの控えてあげてね」

「え?苦情!?俺なんかした?」

「お兄ちゃんがいると緊張して朔夜くんが普段やらないようなミスするでしょ」

「あ、それでからかったのが気にくわないって話か」

「じゃなくて『ジュリが朔夜をからかう時の距離が近くてベタベタくっつくから私がジュリに朔夜を寝取られたみたいな噂が立ってるんだけど』だって」


 まあ、ぶっちゃけそれを私に言われても・・・という感じではあるし、なにより授業中にテレパシーで愚痴ってくるのは本当にやめてほしいなと思う。


「えっと、それガチで怒ってる奴?」

「授業中にわざわざ階をまたいで上の教室にいる私や真白ちゃんにテレパシー飛ばしてくる程度には」

「なんか本当にすまん、これからは気をつけます・・・」

「まあ、気をつけてくれるならいいんだけどさ」


 そんなに頻繁にとんでくるわけでもないし。


「晩ご飯はうちで食べてくの?」

「いや、茉莉花ちゃんが作ってくれてるから帰るよ」

「え?あいつ料理できたの?」

「そりゃできるだろ一人暮らししてたんだし、なにより茉莉花ちゃんが見習い組のご飯作ってたんだから」

「言われてみればそうじゃん!ってことはあいつが料理できないって言ってたのは調理実習サボるためか!」

「いや、それは知らんけども・・・そういえば玄関に靴がやたらあったけどもしかして、アビー達が遊びに来てるのか?」

「え?ああ、うん。今日は寮にほとんど人がいないからご飯たべがてら、アビーとカチューシャとベスが千鶴のとこに泊まりに来てるんだ」

「ええと、みつきちゃんはひなたさんとこで・・」

「和希と真白ちゃんは長野に帰省してて、タマは大阪。深雪は本部研修」

「チアキさんは?」

「赤ちゃん連れて旦那さんの実家に三泊四日で顔出しに行ってる」

「それほとんどっていうか誰もいないんじゃ」

「一応黒服さんとか、あと夏樹さんはいるけどね」

「あの人は産休中だから戦力外じゃん。ってことは今この地域には俺とあかりと茉莉花ちゃんと海外見習い組、あとはJK2だけか」

「ん?いやいや。朔夜くんと蜂子先輩、柚那さんとこ行ったよ」

「ふぁっ!?俺聞いてないんだけど・・・ってか、ハッチは朔夜との外泊禁止になってなかったっけ?」

「朔夜くんの部屋に泊るのはね。戦技研はOK。で、あと正宗先輩と那奈先輩は虎徹さんとこに遊びに行った」

「そっちは聞いてるけど、もう行ったのか。みんな金曜からめっちゃ動いてるな」

「GW忙しくて予定が繰り下げになっちゃったからせっかくの休日は有効に使わないとね。特にこの週末この地域にはネームド様がいらっしゃるわけだし」


 いくらこの国が治安が良い治安がいいと言っても、やっぱり長期休暇なんかになれば犯罪やいざこざ、事故の類いも増えると言うことで、今年のGWは私達JKチームは1も2もかなり働きづめだった。


「悪いな、あかりもあんまり遊べてないのにミーナのこと頼んじゃって」

「いいっていいって。ミーナは手がかからないし、茉莉花とくるみとつるんで出かけるのも久しぶりだしね」


 ほんと、あの二人とでかけるのなんていつぶりだろうか。


「まあ、でももし万が一なにか起ったら、そのときはよろしくね」

「ああ、任せとけ。文字通りすぐに飛んでいくぜ」


 そう言ってお兄ちゃんは胸をドンと叩いて笑った。






 翌日。

 私は、くるみと茉莉花、そしてミーナと一緒に近くのショッピングモールへ来ていた。

 今日も今日とてくるみは舌好調で、ミーナに対してかなりスキンシップ過多な感じ。

 対して茉莉花は少し距離を置いているように見える。

 到着して一時間くらい服や小物を見て回った後で、そろそろお昼にしようかという話になったものの茉莉花はステーキ。私はカレーライス。くるみがインドカレーでミーナがパスタときた。

 ここまでバラバラだとどこの店に入っても不満が出るだろうということで、皆が皆好きなものを食べられるフードコートで手を打つことになった。


「あ、私ちょっとトイレ行ってくるわ」


 みんなの料理が出そろった後で、茉莉花がそう言いながら席を立つと、隣に座っていたミーナも「私も」と言って席を立って二人でトイレのほうに歩いて言った。


「ふ、二人っきりね、あかり」

「いや、そんな変な空気出さないでもらえるかな。というか周りに山ほど人がいるでしょう」

「なんか反応が冷たい。私だってさすがにこんなところで何かするつもりはないわよ」


 おい待て、こんなところじゃなきゃ何する気なんだよ。


「そうね、例えばあかりがみつきとしたこととか?」

「えっ!?読心魔法!?」

「私とあんたが何年の付き合いだと思ってんの。表情読んだだけよ」


 いや、そっちのほうが読心魔法よりもよっぽど難しいと思うんだけど。

 というか、わたしとみつきの秘密のはずの話をなんでくるみが知ってるんだろうか。


「っていうか、あんたミーナのことを好きになったんじゃないの?」

「え?なに?やきもち焼いてくれるの?」

「そういうんじゃないから。もしミーナのこと本気なら応援するよって話」

「そうねえ・・・ミーナも好きよ」

「も?」

「あかりもミーナも茉莉花も真白もみつきも好き」

「節操なし」

「私が本当に節操なしだったらクラスのかわいい子の名前全員分言ってるわよ」

「正宗先輩かあんたは。っていうか、そんなに皆の名前覚えてるの?」

「もう一月以上経つんだから当り前でしょ」

「ま、まあそりゃそうか」


 いつものメンツでつるんでいたり、緊急出動することが多いせいで実は私はクラスメイトの名前を半分も覚えていない。

 一応同じクラスの子の顔は覚えているつもりけど、まだまだ名前と顔が一致しない子のほうが多いくらいだ。


「まあ、私としてはミーナが好きだからこそミーナが悲しそうな顔して隠してることが気になってしょうがない」

「ああ、くるみも気づいてたんだ」

「あかりはなんか知ってるの?」

「それがわかってたらこんなコソコソ探るようなマネしないって」

「なるほど、今日のおでかけそのものが秘密を探るのが目的って話か」


 そう言って、くるみは自分の前にあるナンをちぎって口に放り込んだ。


「もちろんそれだけが目的じゃなくて、ミーナと遊びに行きたかったってのもあるんだけどね」

「そっか、それ聞いて安心した、仕事だから遊びに来てるじゃミーナがかわいそうだもの」

「・・・くるみはさ、最近なんかアレだよね。素直っていうか、愛情表現がちょっとストレートになった。私に対しても、皆に対しても」

「んー・・・まあ、奥ゆかしい想い方もいいけど、きちんと伝えないとダメだなーって思ってさ。あかりたちは命がけで戦っているし、私だっていつどうなるかわからない。だったらさ、伝え残すことがないようにしないとじゃない。ありがとうとか、大好きとか、伝えられなくなってから言っておけば良かったなみたいなのは嫌だもん」

「前のくるみを奥ゆかしいと言うのは違うと思うけど、確かに伝えるって大・・・・・・」

「どうしたのよあかり。なんか顔色悪いけど」

「いや、もしかしたらくるみ近々死ぬんじゃないかって心配になって」


 どう聞いても死亡フラグだもの。

 なんか突然良いこと言っているもの。


「死なないわよ。少なくとも今日はあんたたちが守ってくれるでしょ?」


 くるみはそう言ってニッっと歯を見せて笑った。





 ティータイムまでの腹ごなしがてら散策を再開した私達は、モール内にあるアウトドアショップにやってきた。

 意外にもと言っては失礼だが、ミーナはアウトドア系の趣味があるらしく、珍しく「ここに入りたいです!見たいです!」とくるみの腕を引っ張って店内を歩き回っていて、それほど興味のない私と茉莉花は展示品の椅子に腰を下ろして一休みすることにした。


「ふーん、くるみがそんな事をねえ」

「茉莉花は一緒にくらしててどう?」

「それを言ったら朱莉さんも一緒に暮らしてるだろ。その朱莉さんが何もつかめてないんだから私もおんなじだよ」

「だよねえ」

「でもまあ、私もあの子がなんか隠してるってのはくるみと同意見だね」

「・・・私はさ、あの子もカチューシャ達みたいにここに残れたらいいのになって思ってる」

「それには彼女の持っている秘密を話してもらわないとだなあ」

「それもわかってるんだけど時間がないんだよね」

「時間?」

「あれ?都さんとか狂華さんから聞いてない?準備が整ったから今日の夕方、東ロシアに対して正式にユーリアさんの死亡が通達されるの。ちなみにロシアにはもう連絡してあるって」

「そっか、そういうことになったんだ」

「そういうことになったんだよ。だからミーナとはこの週末でお別れだと思う」

「父さんも母さんもそういうの全然教えてくれないからなあ」

「だってあんたって口が軽いもの。さっきだってミーナがアウトドア派だって聞いて『カチューシャと話が合いそう』って言いかけたでしょ」


 私とくるみのボディブローがあと一瞬遅れていたら一体どうなっていたことやら。


「言いかけたけど、だからって両側から本気でボディブローするのは酷くない?女の子のお腹は殴っちゃだめなんだよ?」

「魔法を使って一瞬で腹筋を硬化させた人間の言うこととは思えないわね」


 おかげで私とくるみはアウトドアショップの前でしばらく拳を押さえてうずくまるハメになったわけだし。


「いや、結局ダメージ通ってるし相打ちみたいなもんじゃん」

「相打ちって・・・はぁっ・・・あんたってほんと、どこまでも茉莉花よね」

「褒め言葉?」

「半々」

「そっか・・・あ、そうだあかり」

「んー?」

「二年間だましててごめんね、あと、色々わかったあとも仲良くしてくれてありがとう」

「何よ突然。あんたまで死亡フラグ?」

「いや、くるみ風に言うならこういうのって言える時に言った方がいいかなって思ってさ」

「じゃあ私からも。仲良くしてくれてありがとう。これから――」

「いやいや、そんな当りま――」

「は、真白ちゃんとも仲良くしてね」

「う・・・」

「和希を取り合うのは止めないから、最低限、休み時間とか昼休みに変な喧嘩の売り方をしないこと。あんた『いざ尋常に和希を書けた模擬戦だ!』とか言って喧嘩売るくせに毎回怪我して保健室送りになってるんだから」

「はい・・・すみませんでした」

「よろしい」

 

 まあ、怪我といってもたいしたものではないし、喧嘩を売られている真白ちゃんのほうも若干楽しそうだからいいといえばいいんだけど、放課後や訓練中はともかく、短い休み時間や昼休みにやられると、教室内がピリピリしてしょうがない。


「そう言えば・・・・・・って、ちょっと茉莉花、あれ!」

「げぇっ!?カチューシャとエリザベス!?ナンデ!?カチューシャナンデ!?」

「と、とりあえず二人をどこか離れたところに連れて行かないと」

「う、うん、そうだね。ちょっと行ってくる!!」

「よろし――」

「二人ともー、これ見てくださいー!」


 ぎゃああああああああっ、このタイミングでミーナが帰ってきたぁっ!!

 前門のカチューシャ、後門のミーナだぁぁっ!!

 って、『だぁぁっ!』じゃない!


「あれ?茉莉花はどうしたんですか?」

「え?あ、ああ。ええと、その、ちょっと知り合いを見つけたから挨拶に行くって」

「知り合い?・・・あ、もしかして今茉莉花が話しをしている人達ですか?」

「う、うん・・・」


 見られた。これはヤバい。カチューシャがまだこの国にいることくらいは知っていただろうけど、こうしてこの辺りにいたことは知らないはずだし、ましてや私達がカチューシャと知り合いだということも全く伝えていなかった。これは確実にミーナの不信を買う。


「かわいい子達ですね。日本人ではないみたいですけど、あの子達もどこかの国の魔法少女なのですか?」

「え?」

「え?なんですか?」

「い、いや」


 え?知らないの!?カチューシャの顔を?ユーリアさんと一緒に行動していた子が!?

 何はともあれセーフだ!ミーナがカチューシャの顔を知らないというのであればここはなんとか乗り切れる。


「茉莉花―!ミーナが二人を紹介してほしいってー!知り合いになりたいみたいー!二人にもミーナのことちょっと紹介してあげてー!」


 私が大きな声でそう言うと、茉莉花は一瞬びっくりしたような表情を浮かべたが、私の言わんとすることがわかったのだろう、二人と少し話をしてからこっちに戻ってきた。


「はじめましてミーナさん。わたくし英国MI6所属、エリザベス・キャメロンと申します。以後お見知りおきを」

「は、はじめまして、よろしくお願いします」

「ああ、二人は二つ年下だからそんなに固くなったりかしこまらなくて大丈夫だよ」

「あ、そうなんですね。ええと、そちらは」

「ミカ・アホカス。スウェーデンの魔法少女。よろしくミーナ」

「はい、よろしくお願いします」


 ・・・うーん、茉莉花から簡単に事情を聞いたカチューシャのほうはともかく、ミーナのほうは本当にミカことカチューシャが何者なのかわかっていないっぽい。

 というか、カチューシャがいつにも増して口数が少ないのは、多分設定が詰め切れてないからなんだろうな。


「私はロシアのジャスミン・ミトロファノフ。階級は少尉です。ミーナと呼んでください」

「ミーナ、所属それで大丈夫?」

「あ・・・間違えました。東ロシアの、です。ごめんなさい」


 ミーナは少し寂しそうにそう言って、自分の所属を訂正した。

























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