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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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決勝戦 2 

「さて、じゃあぱぱっと勝ってイーブンにしてきますか」


 鼻歌交じりでそう言いながら立ち上がって一つ伸びをすると、目を赤くして帰ってきたセナとタッチをして彩夏ちゃんが舞台に上がる。


「完全に準決勝で気を良くしてるなあ」


 彩夏ちゃんは、準決勝で寿ちゃんがギブアップしたのは自分の力に恐れをなしたからだと思っている。

 これは俺の妄想でもなんでもなく、本人が得意げに言っていたので間違いない。

 別にそれで気を良くして気持ちよく試合に臨めるならいいのだが、気が大きくなって余計なことをしてしまうと、思わぬ怪我をしたり、相手に足をすくわれたりするものだ。


「イズモも舐めてかかれるような相手ではないんだけど、その辺わかってなさそうなのが気になるな」

「この試合、楓さんはどう見ます?」

「イズモ8、彩夏2」


 なんだかんだ言って自分の恋人であるイズモちゃんの事を過大評価しちゃう辺り、この人イズモちゃんの事大好きだよな。

 ちなみに俺の見立てでは6対4。彩夏ちゃんが本気を出せば楓さんが言うほどの戦力差はないと思っている。

 舞台の上の範囲くらいならイズモちゃんはどこにでも棘を出すことができるが、彩夏ちゃんは空を飛ぶことができる。

 舞台の上ならほぼすべての範囲に攻撃可能なイズモちゃんと、空に逃げて攻撃を無効にできる彩夏ちゃん。互角に見えるが、飛び続けるには魔力の消費がかさんでいくため彩夏ちゃんが若干不利。俺の言う6対4はそこから来ている。

 なので彩夏ちゃんが勝てるかどうかは、速攻をうまく決めることができるかどうかにかかっていると言っていいだろう。

 彩夏ちゃん自身もそれはわかっているはずなので、おそらく勝負は長くても1分か2分。勝つにせよ、負けるにせよセナの試合とは違う一発勝負になるはずだ。

「始め!」


 桜ちゃんはそう言って試合開始の合図をすると、即座に舞台を降りた。

 同じ関西チームということで、イズモちゃんのやりそうなことは想像がついたのだろう。

 そしてその桜ちゃんの想像通り、次の瞬間には舞台の上は針山になっていた。

「あっぶな!」


 イズモちゃんの棘の影響を受けない高さまで飛び上がった彩夏ちゃんがマスケット銃にまたがって舞台を見下ろしながら胸をなでおろす。


「でもま、予想通りこの高さまでは届かないみたいっすね。これでイズモさんは――」


 言いかけた彩夏ちゃんにイズモちゃんが肉薄する。


「は!?なんで!?」

「ステッキを壊させてもらう」


 棘の上から跳躍したイズモちゃんは薙刀を一閃させると、見事に彩夏ちゃんのステッキであるマスケット銃を一刀両断にした。これで彩夏ちゃんは変身状態が一旦解除され、棘の上に落ちてくる。

 イズモちゃんもそう思ったのだろう、口元が緩む。


「……勝った」

「いやあ、それはどうでしょう」


 イズモちゃんが一刀両断したマスケット銃が、いや、乗っていた彩夏ちゃんも含めてマスケット銃がポフンと間抜けな音を立てて煙と共に消え去る。。


「にひっ、影分身の術……的な」


 少し離れたところに現れた彩夏ちゃんはニィっと悪そうに口元を吊りあげて銃弾を放つ。


「くっ……」


 ガンッと大きな音をたてて、イズモちゃんはその銃弾をなんとか薙刀で弾き飛ばしたものの、重力によって自由落下を始める。


 「さあ、トドメですよ!」


 準決勝の時よろしく、飛んでいる彩夏ちゃんの後ろに大量のマスケット銃が現れ、棘を消して舞台の上に着地して悔しそうに空を見上げるイズモちゃんに照準を合わせる。

「フルバースト!」


 彩夏ちゃんの号令にあわせておびただしい数の弾がイズモちゃんに向かって降り注ぐ。

 対して、イズモちゃんはまったく動かず、なすすべなし、戦意喪失かと思われたが、すぐにそれが彼女の戦術だったと気づかされることになる。


「全弾撃墜!」


 降り注ぐおびただしい数の銃弾に向かって、おびただしい数の棘が向かっていき、次々に弾をはじいていく。


「あぶねっ!」


 棘がはじいた弾の一部は彩夏ちゃんのほうへと跳ね返り、一部は舞台の横で待機している俺たちのほうへも飛んでくる。

 そんな中でも楓さんは跳弾を慌てて避けるでもなく、直立して腕組みをしたまま試合を見守っていた。途中跳弾が何発か髪をかすめ、楓さんの髪が数本宙に舞うがまったく気にする様子もない。

 そして楓さんは最後の銃弾をイズモちゃんが薙刀ではじいたときに、大きなため息をついた。

 おそらくそのため息が示すのは彩夏ちゃんの負け、イズモちゃんの勝ちという試合結果だろう。

 彩夏ちゃんのフルバーストは文字通り全弾発射。後の事なんて考えない一発勝負の技だ。

 つまりこれをやり過ごされてしまった以上、空を飛んでいるのがやっとの状態である彩夏ちゃんにはもうなすすべなし。魔力が切れて落ちてきたところを刺で刺されるか、ギブアップするかしかない。


「これで終わりよ」


 あとはもう待っているだけで勝てるのだが、イズモちゃんはさきほどと同じように棘を使って大ジャンプし、再び彩夏ちゃんに肉薄する。

 彩夏ちゃんはもう浮かんでいるのがやっとなのか、逃げるでもなく、ただそこにぷかぷかと浮かんでいる。


「強かったけど、詰めが甘かった」


 そう言ってイズモちゃんは薙刀で彩夏ちゃんのステッキに切りかかる。


「はぁ……確かに詰めが甘めえんだよな」


 そう言って楓さんが俺の横から姿を消すのと、イズモちゃんの薙刀が彩夏ちゃんのマスケット銃にぶつかるのがほぼ同時だった。

 ガキンという鈍い音を立てて、攻撃をしかけたイズモちゃんの薙刀のほうが砕け散る。


「え……?」


 ステッキが壊れてしまったために変身が解除され、落下を始めるイズモちゃん。

 変身が解除されてしまっているため、舞台にある無数の棘を消すこともできない。

 いくら普通の人間よりも強靭な肉体を誇る魔法少女といえども、変身していない状態でナノマシンでできた棘の上に落ちてくれば、大怪我は免れない。いや、下手をすれば死んでしまう。

 しかし、間一髪というところで一つの影がイズモちゃんを抱きとめ、そのまま見事に棘の上に着地を決める。


「最初に銃弾はじいたときにヒビが入ってただろうが。まったく、自分の武器の状態ぐらいちゃんと把握しておけ、このバカ」

「な………なんで敵チームのあんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!てかなんであんたが助けに来るのよ!もう降ろしなさいよ!みっともないでしょ!?」


 お姫様抱っこをされたままイズモちゃんが手足をじたばたと動かすが楓さんがしっかりホールドしているらしく、楓さんの腕から逃れることはできていない。


「何言ってんだ。敵チームである以前に、お前は俺の大切な女だろ。あたしが守りたい女を助けて何が悪い」


 やだ、何この人かっこいい。中身はおっさんの俺が不覚にもキュンとしてしまったぞ。

 普段ぶっきらぼうで無神経でイズモちゃんの事をなんとも思ってなさそうな楓さんがちらりと見せたホンネにキュンとしたのは俺だけではなかったようで、つい今の今までじたばたしていたイズモちゃんは顔を赤くして大人しく楓さんの腕の中に収まっているし、こういうのが好きそうなセナや柚那はもちろん、なんと愛純まで目がちょっとうるんで顔を赤くしている。

 この場で唯一不満そうな顔をしているのは、空中で完全に置いてけぼりをくらった彩夏ちゃんくらいだろうか。


「おい、桜。勝敗はどうする?俺が助けに入ったからこっちのチームは反則だけど、その前に勝負は決まってたよな?」


 楓さんの問いかけに、他の子たち同様、ちょっと呆けていた桜ちゃんがはっと我に返って首を振る。


「あ、楓さんの行為は救命行為なので問題ないです。空中でイズモの変身が解けた時点で勝負ありなので、次鋒戦は朱莉チームの勝利!」


 そう言って桜ちゃんが楓さんの手を持ち上げて宣言するが、勝利者は今やっと空中から降りてきた彩夏ちゃんだ。

 桜ちゃんは降りてきた彩夏ちゃんの顔を見てすぐに自分の間違いに気づいて改めて彩夏ちゃんの手を取って勝利宣言をしたが、舞台を降りて戻ってきた彩夏ちゃんの表情はどんよりと暗いものだった。


「おつかれ彩夏ちゃん」

「……勝ったのに咬ませ犬の気分っすわ」

「いやいや。見事だったって」

「何がです?噛まれっぷりがですか?」

「いやそうじゃなくて……って、珍しくネガティブだな」

「だってたまたま運よく相手のステッキが壊れただけで、私はなにもしてないですもん。こんなんで勝ったとか言われても……はあ……私ももうちょっと訓練頑張ろうかな」


 なるほど、たしかにこの子はチアキさんの言う通り負けず嫌いだ。

 それに普段はちょっと怠けていてやる気がないようにしていても、負ければ悔しいと感じられるし、そこで腐らずに悔しいことを悔しいと認めて努力ができる。とてもいい子だと思う。


「頼りにしてるよ。彩夏ちゃんが本気で訓練して頑張ってくれれば、きっとすぐに俺なんて追い抜かれちゃうだろうから」

「なんすか、それ。嫌味ですか?」

「いや、ホンネだよ。狂華さんがセナを評した言葉じゃないけど、俺は彩夏ちゃんにはすごい才能があると思うぜ」


 俺は、俯いたまま泣きそうな声でつぶやく彩夏ちゃんの頭をポンポンと軽く叩きながら慰めの言葉をかける。


「くっ……あなたも楓さんも……ほんとうにもう!」


 半ば怒鳴るようにそう言って、顔を上げて俺を睨みつけた彩夏ちゃんの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「え?なんで俺は睨まれてるんだ?」

「うるせー!そういうことされると萌えるだろー!」


 そう言って服の袖で目のあたりをぬぐうと、彩夏ちゃんは俺の脛を思い切り蹴ってセナのほうに歩いていってしまった。

 脛を蹴られた激痛で俺は思わずうずくまる。

 ていうか、萌えられて脛を蹴られるとかすごい理不尽なんですけど。


「ん、どうした朱莉。なんでそんなところで涙目でうずくまってるんだ?」

「多分原因の半分は楓さんです……まあ、それはおいておいて、どうして戻ってきてるんです?次の試合って楓さんですよね?」

「ああ、イズモの回復を待って原状回復をしてから始めるってさ」

「なるほど。次、楓さんが取ってくれれば優勝にリーチがかかるんで、頑張ってくださいね」

「あたしがそう簡単に負けるわけないだろ。任せとけって」


 そう言って、楓さんは割と豊かな胸をドンと叩いた。

 確かに昨日ジャンヌ相手にあれだけむちゃくちゃやった楓さんが研修生に負けるとは思えないんだけど、この人の場合、彩夏ちゃん以上に慢心しまくりだからなあ。


「楓さんの相手って、セナと彩夏ちゃんのツレでしたよね?なんか話聞いてます?」

「あ?聞いてねえよ。そんなことしたら試合がつまらなくなるじゃん」


 この人は本当にバトル大好きというか、アホというか……


「でも相手の特性くらいわかっておかないと楓さんといえど負けるかもしれないし、そうなったら愛純とのデートもなしになっちゃうかもしれないんですよ」

「ヤベエ、そうだった!ちょっと次の相手の特徴聞いてくるわ!」


 そう言って楓さんは慌ててセナたちのほうへと走っていった。


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