グランドエピローグ 朱莉 2 発端
翌日も仲間達が代わる代わるお祝いに訪れ、夕方頃になって俺の両親と姉貴、それにあかり達3姉妹とみつきちゃん、それに真白ちゃんと和希がやってきて、咲月を囲んでわいわいとやっているのだが、あかりだけが妙に元気がないというか、なんだか疲れていた。
「なんか元気ないな、あかり」
「んー・・・まあちょっとね。色々あってタマと遅くまでやりとりしててちょっと寝不足なんだ」
「タマ?昨日の任務ってJCも絡む件だったのか?」
「まあ、JCも絡むというか、アビーとカチューシャに絡むというか」
「アビーとカチューシャ?あの二人が喧嘩でもしたのか?」
アビーがぐいぐい行ってカチューシャがちょっと嫌がるようなことは結構あるみたいだけど、良くも悪くも引き時が分かっていてあまり本気で揉める二人ではないので、JCチーム的にはOGという扱いになっているあかりまで巻き込むほどの喧嘩というのは想像がつかない。
というより、あかりたちが行ったのは北海道だったはずなので、アビーとカチューシャの話にはどうやっても結びつかない気がする。
というのもJK1はしょっちゅうあちこちへの出動をしているものの、JK2はご当地的な活動がメインでJCはその補佐ということになっているのでJCがJK1の任務について行くようなことはないからだ。
「んと。これからちょっと話せる?」
「俺は別に構わないけど・・・本当に顔色悪いぞ、大丈夫か?」
「私の気苦労なんてどうってことないって。それに一人で抱えているよりお兄ちゃんに聞いてもらえれば少しは気が楽になるかもなー・・・なんて」
ええい、このかまってちゃんめ。
「まあ、聞くくらいならいくらでもするし、手伝えることがあれば手伝うけどさ」
「ん?今なんでもしてくれるって言った!?」
「言ってない」
「ちぇー・・・」
「ほら、馬鹿なこと言ってないでラウンジ行くぞ」
「あ!朱莉さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
俺とあかりが関東寮のラウンジに移動すると、入口近くの席に先客がいて、俺が入ってきたのを見て挨拶をしてくれた。
「ええと・・・君達は――――」
誰だっけと言いたいけど、どっかで会っているかも知れないし、ちゃんと自己紹介も済ませているかもしれないのでそう言うわけにもいかないという中間管理職のつらさよ。
「こうしてお会いするのは初めてですね。私は襀里林檎です」
「複島まねるっす」
あ!名前を聞いて思い出したぞ!!
「――工務部コンビだね。いつもお世話になってます」
無機物なら魔力とナノマシンの許す限り何でも作っちゃう林檎ちゃんと、なんでもコピーしちゃうまねるちゃん。重文から最新兵器まで二人の手にかかれば修復もコピーも、なんだったらアレンジだって思いのままという、いわば匠コンビだ。
もちろんこの匠というのは緑色のほうじゃなくて劇的なほうの意味でだ。
「知っていてくださったんですね!感激です!」
「超嬉しいっす!」
いや、顔を覚えていなかったのが申し訳なかったどころか、本当は菓子折をもってお礼に行かなくてはならないくらい、俺たちは彼女達にお世話になっているわけで。
例えば年末に朝陽がバイク合体で殴ってちょっとひしゃげた東京タワーを直したのは彼女達だし、恵がぶっこわした浅草寺なんかも彼女達が直したと聞いた。
「いつも建物とか色々派手にぶっ壊したりしてごめんね」
「いえいえ、うちらって基本的に直したりするしか能がないんで、むしろどんどん壊しちゃってください」
「いやいや、それじゃ大変だろ。これからは少し気をつけるよ」
「あの、そう言っていただけるのは嬉しいんですけれど、まねるの言うとおり、どんどん壊していただけると私達の仕事がなくならなくて助かるといいますか」
意外と現実的というか、したたかな子達だった。
「ところで、二人はなんでここに?」
「今までは都内に住んでいたんですけど、緊急出動しやすいようにってことで、関東寮に入ることになりまして」
「あ、そうなんだ。大変だね」
「まあ、うちは林檎と一緒ならどこでもいいんですけど」
「え?二人ってそういう仲なの?」
「そういう仲ってなんですか?」
「ああ・・・一応言っておくと林檎は彼氏いますよ」
「あ、違うんならいいんだけどね」
なんだ、ただの仲良しさんか。
周りにそういうカップルが多いせいでなんとなく仲良しを見るとそういう仲なのかなって思うようになってしまったな。
「うちはバッチコイですけど」
「もー・・・まねるはまたそういう冗談言うー」
これってまねるちゃんのほうはガチの奴じゃないですかね。
あれ?でもまねるちゃんも笑ってる。どっちだこれ。
「あれ?そこにいるのはあかりちゃん?確か今日は朱莉さんの娘さんを見に行くって言っていたような」
「林檎ちゃん、あかりと知り合い?」
「昨日任務で一緒だったんです。ね?」
「あ、はい・・・」
どっちかと言えば人見知りしないあかりが俺の後ろに隠れてこの感じか。うーん・・・二人とも悪い子には見えないけど、あかり的に微妙な何かがあるって感じだろうか。
「ええと・・・ふたりはまだしばらくここにいる?」
「え?あ、はい。そのつもりだったんですけど・・・」
「そっか。これからこの寮の仲間だっていうんだったらちょこちょこ顔を合わせると思うし、よろしくね。じゃああかり、飲み物持って俺の部屋に行こうぜ」
「うん!」
この反応からすると、やっぱりこの二人の前だと話せないか、もしくは本音が出せないような話ってことだな。
となると、やっぱり昨日の任務でよっぽどのことがあったんだと思うんだけど、一体どんなことがあったんだろうか。
いつものパターンだと真白ちゃんと和希の喧嘩とか、真白ちゃんと茉莉花ちゃんの喧嘩だとか真白・・・いや、たまたま例として真白ちゃんがでちゃっただけで別に真白ちゃんに問題があるとかではないんだけれども、とにかくそういういつものパターンという訳ではないのだろう。というか、真白ちゃんは年下と揉めることはほとんどないので、真白ちゃん関係のもめ事にアビーやカチューシャが絡むことはない。
「あ、もしかして私達お邪魔でしたか?」
「いやいや。そういうんじゃなくて家族の面倒くさい話をするからさ、最初から俺の部屋でって話だったんだよ」
「そうそう、そうなんですよ。林檎さんとかまねるさんは全然関係ないんです!!」
なるほど、やっぱり関係あるんだな。
「で、どうしたよ」
ラウンジで淹れた珈琲を一口飲んで、部屋でひとごこちついてから俺がそう言うと、あかりはいつものあかりらしくない、少しおどおどしたような様子で視線を泳がせている。
「とりあえず言ってみ。なんでもはできないけど出来る限り手助けするから」
「ええと・・・これから話すことは絶対誰にも言わないでね。お兄ちゃんに話すことは都さんに許可を取ってあるけど、その他の人については絶対に秘密っていうことになっているから、柚那さんに言うのもダメ」
「こう見えて口は固いんだぞ」
俺が喋らなくても勝手に事実が漏れたことはあっても、俺が漏らして事実が露見したことは・・・・・・・ない・・・よな?
どうだろう。そう考えるとちょっと不安だな。
「え・・・ちょ、なんでそんな不安そうな顔してるの? そんな顔されるとこっちまで不安になるんだけど」
「いや、大丈夫大丈夫。俺は秘密保持に低評があるからな」
「・・・・・・なんか今、ものすごく不安になる感じがしたんだけど、なんでだろ。定評があるんだよね?」
「ああ、まかせろ。俺は情報管理には詳しいんだ」
「すごくダメな感じしかしない!!」
まあ、冗談はさておき。
「真面目な話、何があったんだ?割と図太いお前がそんなにげっそりするなんて珍しいじゃないか」
「こんなに繊細な妹を捕まえて、お兄ちゃんは一体何を言っているの?」
「敵か味方か不明の宇宙刑事彼氏を俺たち全員に内緒でかくまってたやつのどこが繊細なんだよ」
「今、龍くんは関係ないでしょ!? っていうか、私の彼氏が敵なわけないじゃない」
一体どこからその自信が出るんだ。誤解混じりとはいえ、一時期敵対してたってのに。
「まあいいや。とりあえず話してみろって」
「ええと・・・まず、話を最後までちゃんと聞いてほしいなっていうのがあるんだけど」
「俺が最後まで話を聞かなかったことがあるか?」
「私は直接みたことないけど、結構そういう話は聞いてるよ。 私が魔法少女になるならないって話で、最後まで話を聞かないで都さんに喧嘩を売って狂華さんに殺されかけたとか」
「あれは話を聞かなかったというかだな」
狂華さんがうっかり情報漏洩したのがいけないんだと思います。
「とにかく、最後までちゃんと聞いてね」
「おう」
「まず、昨日私達はこまちさんと瑞季さんからの要請で国境警備に行ったのね」
「国境警備?」
「うん。厳密には、東ロシアの魔法少女が妙なことをしないようにっていうのがメインなんだけど」
「東ロシアっていうことはカムチャッカ辺りで先週あたりに独立宣言した奴らか」
聞いている話では東ロシアは樺太とカムチャッカ半島+αといったあたり。独立したてだから当然だけどかなりのタカ派がリーダーで、日本からすると面倒な隣人が増えた格好だ。
「そう。その人達が国境付近で捜し物をするっていうんで、こっちに入ってこないように見張りをってことだったんだ」
「そいつらに何かされたってことか?」
確かユーリアがいたのもそのあたりだったから、ユーリアも東ロシアに編入されているはずで、いくら上がタカ派でもユーリアがいて、そうそう日本に・・・しかもあかりたちになにかするとは思えないんだけど。
「あ、ううん。その人達はどってことなかったんだよ。それこそMWなしの私でもなんとかなるくらいの人たちだったから。 問題はその捜し物というか、その捜し物をする事態が発生した事件というか」
「事件?」
「うん・・・ええとね、お兄ちゃん。これは本当に、本当に漏らされるとまずいことだから、絶対に柚那さんにも愛純さんにも、朝陽ちゃんにも言わないでね」
「なるほど、じゃあ深谷さんならいいってわけだ」
「なお悪いわ!じゃなくて、真面目に聞いて」
「大丈夫だって。誰にも言わないよ」
「絶対だからね。この件は真白ちゃんたちもまだ知らない話なんだけど―」




