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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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グランドエピローグ TESTAMENT 4 邑田朱莉と開野純香

 ミーティングの後、開野ちゃんとペアになった俺は佳代のチームの人間で、そのうえ誰とも因縁のない人間である彼女の意見を聞いてみることにした。

 始まってそうそうサボろうよというのは少し気が引けたが、駄菓子屋の軒先のベンチを借りて少し休憩しようと提案した俺の言葉に彼女は意外と素直に頷いてくれた。。


「え?私から見た係長の印象ですか?」

「ああ。あと他のみんなのことも。どう?いじめとかされてない?」

「ないですないです!みんな良い方達ですし。・・・ああ、でも衣子さんはもうすこしこう、いろいろ控えてほしいかなとは思います。その、生倉さんと恋人同士なのはわかるんですけど、こう人目もはばからずにくっつきたがるというかですね。逆に生倉さんはそういうのを嫌がるわけじゃないですけど、けじめをつけようとしているというか」


 そう言って苦笑しながら小さくため息をつく開野ちゃん。


「うん、それは松葉からも聞いてる。『あいつそういう所はちっとも言うこときかねー』ってこの間の面談でキレてた。ちなみにあの二人って見た目は女同士なんだけどそこについては抵抗とかない?」

「それはないですね。というか、世の中的に結構そういう人増えていますよね。ある程度魔力が溜まった後、エステに行って溜まった魔力をつかって変身魔法をかけてもらって性別変えた状態で性別を固定するっていう・・・うちの課にも結構いますよ。でもなぜかそれをやるのっておじさんばっかりなんですよね」


 今の世の中はおじさんという生き物にとってはとても生きづらい世の中なんだよ。

 バ美肉どころか、リ美肉できるんだったら喜んでしたいっていう人、結構多いんだよ。

 まあ、そういう人が増えたせいで身分証という身分証が信用できなくなっちゃって魔力の波形と生体認証で情報を表示するようにするっていう更新が世界中、全ての身分証に対して必要になっちゃったんだけどね。

 まあ逆にごまかしがきかなくなっちゃって不法移民やなんかに対しては絶大な効果があるとかないとか。


「あと、女性同士っていうのについては、私にもその気がゼロってわけじゃないのでまったく理解できないっていうわけではないです」

「え?そうなの?」

「昔、思春期のアレでちょっと」

「ああ、思春期のアレかぁ・・・」


 厄介だよね、思春期のアレ。


「ちなみに松葉はそっちでちゃんとやれてる?浮いてない?」

「松葉さんは戦技研との連絡係みたいな側面もありますから、係長と同じで居ないことも多いですけど、浮いているってことはないですね。というか松葉さんがうちの係のバランサーだと思います。私にも気さくに話しかけてくださいますし、生倉さん達とも結構仲が良いんですよ。私も一緒に、四人で飲みに行くこともありますし」

「え、そうなの?松葉の奴一言もそんなこと言ってなかったけど」

「昨日も一緒にカラオケに行っていたんですけど急に顔色変えて帰っちゃって」

「ど、どうしたんだろうね。きっとものすごい急用があったんだろうね」


 すまん松葉。

 そのうちなんか補填するから勘弁な。


「いやむしろあかりんさんのほうがどうしたんですか?目がすごい動きをしていますけど」

「な、なんでもないって。じゃあさ、佳代はどうだ?チームが変わってなんか困ってるような感じは受けないか?」

「係長ですか?うーん・・・配属前の研修で係長の逸話はいろいろ聞いていたんですけど、ちょっと聞いていたのと印象が違ったと言いますか」

「印象が違って、思ったより仕事ができないとか?」

「いえ、仕事はすごくできる人だと思いますし、それは評判通りなんですけど・・・係長って、なんか生倉さんに対して冷たいなって」


 俺もさっきのミーティングの間に佳代と生倉が普段どんな感じなのかがなんとなくわかってしまったくらいだし、いつも近くにいる人間ならそりゃ変だなと思うよな。


「あ、でも別に係長が生倉さんに対して意地悪しているとかそういうことじゃないんですよ。ただ、すごく事務的というか、それで生倉さんもそれに対してどうこう言うわけじゃなくて。あかりんさんはご存じかもしれないですけど、生倉さんってもっとこう、直情的っていうか嫌なことは嫌って言うタイプだと思うんです、でも係長に対してだけ自分を押し殺して従っているというかそういう感じがして、すごく違和感があるんです」


 彼女が言っていることを信じるなら生倉は生倉なりに気を遣っていると言うことなのだろう。

 佳代自身も問題であることはわかっているようだし、生倉としても奴なりにかなり気を遣っている。だったら解決してしまうのが一番良いのは間違いし、そのためのパートナーとしては開野純香は最高の人材であることは間違いない。間違いないんだが、問題は。


「あれ?どうしたんですか、真面目な顔をして」


 この子に佳代と生倉、生倉と衣子ちゃん、それに松葉と佳代と生倉の話をするべきかどうか。だな。


「私、なにか気に障るようなこと言いましたか?」

「いやそういうんじゃないんだ、ところでさ、開野ちゃん」

「はい」

「めちゃくちゃ面倒くさい話していい?」

「ええと・・・今そういうことを言い出すっていうことは、生倉さんか、衣子さんか、松葉さんか・・・もしくは係長の話っていうことですよね?」

「ああ。全員に関わる話」 

「誰が悪いとか、そういう話ですか?そういうのだったら私は聞きたくないです。誰かを悪者にして、それでチームがまとまっても私は嬉しくありませんから。まだ短い付き合いですけど、私は今のチームが好きなんですよ。チームのみんなが好きなんです」

「そっか」


 面倒くさい話を嫌がるわけでもなく。

 手っ取り早い解決法に飛びつくわけでもなく。

 開野純香は仲間全員が好きだと、正直俺でも面倒くさいと思うような面々を好きだと言い切った。 

 ああ、この子は多分俺側の人間だ。

 だったらきっと大丈夫だろう。

 佳代のことも生倉のことも衣子ちゃんのことも松葉のこともまとめて任せられるはずだ。


「だったら大丈夫だ、今から話すのは誰も悪くない話だから。その話を聞いてもらった上で俺は君にお手伝いをお願いしたい」

「そうですか。そういうお話なら是非聞かせてください。」

 開野純香はそう言って初対面の時の頼りない新人の顔ではなく、一人前の警察官の顔で笑った。




 生倉優の強盗事件に端を発した一連の因縁は込み入った話ではあるけれど、情感たっぷりに聞かせなければいけない物語というわけではないということもあり全てを話しても10分もかからず終わってしまった。

 そして全ての顛末を知った開野ちゃんは、ゆっくりと目を閉じ、そのまま空を仰ぐ。

 そして深くため息をつくと・・・


「登場人物みんな頭がおかしい・・・」


 と言った。

 って、あっれええええええええええっ!?


「え、ちょ、開野ちゃん?だ、ダメだった?みんなのこと嫌いになった?だ、だとしたらあのその、ほら、戦技研に記憶消す装置あるから、大丈夫だから」

「全然大丈夫じゃないんですけど!?なんですかそのヤバそうな機械は!」

「昔俺たち魔法少女が戦っているのを見ちゃった人の記憶を消すための装置なんだけどね」

「怖っ!なんですかそのどこかの映画に出てくる黒ずくめの人が持っているような装置」

「まさにあんな感じなんだけどね、黒服の人が持ってくるし。で、その・・・やっぱり無理だった?佳代達のこと嫌いになった?」

「あ、違います違いますそうじゃないです。係長とかうちの生倉さんとか衣子さんとか、松葉さんのことを言っているんじゃないんです。その周りが変な人ばっかりだって話です」

「周りって言うと、俺とか?」

「あかりんさんほとんど出てこないじゃないですか。おかしいっていうのはうちの人達じゃなくて、そもそもの原因である生倉優とか、あとは衣子さんに酷いことをした大江さんとか、あとはむかしうちの課に居たって言う佐藤さんとか」


 まあ、生倉優はいわずもがな、恵も佐藤くんもわりとイカれているからな。


「あとなんですかその、魔法少女でもないのに銃弾を見て避ける公安に協力している囚人とか、一人で造幣局から紙と印刷機を盗み出しかけた大泥棒とかって。あかりんさんの妄想とかでないなら頭がおかしいというか逆に天才ですよそんな人間」

「だって、本当にいるんだもの」


 今は北方領土守ってたり関東チームの隊長代理をやってたりするよ。


「本当にいるんでしたらその二人についてはもう言及しませんけど、そういう人達がいるなら、まず佐藤さんは命令違反する必要はなかったんじゃないですかね」

「まあ、たしかに。とはいえ警察官の本能みたいな物なんじゃないかなと思うんだよね、佐藤くんのは」


 佐藤くんが大けがして深谷さんが突入した直後にこまちちゃんが取り押さえて、恋が拘束したらしいので佐藤くんが助けに入らなくてもエリスは助かっていたかも知れないけれどね。

 というか、生倉優の件については前にひなたさんが自分の手柄みたいに語ってたことがあったんだけど、あの人実は何もしてないよな。


「確かに私が佐藤さんの立場でもそうしちゃう可能性はありますし人としては正しいと思いますけど、やっぱり警察官としては正しくないと思いますよ、あと、大江って人は、もうこれはフォローのしようがないレベルで頭おかしいですよね。なんですか『マッチョになりたくない』って言ったら『マッチョでいることが楽しくなるようにしてあげる』って」

「そうだね」


 そこは否定しない。

 あいつはもう本当に頭がおかしいと思う。


「あとは、生倉優。私は人を平気で殺せる人間が嫌いです、特に快楽殺人者の類いは大嫌いです」


 開野ちゃんの顔に影が差し、ペットボトルを握る手に力を込めたのがわかった。


「普段生倉さんを見ているかぎりまさかそんなことはないとは思いますけど、生倉憂が生倉優。なんてことはないですよね?」

「俺はお人好しに定評があるし、うちのトップも柔軟な対応に定評があるけど、そこまで甘い組織じゃないよ、うちは」


 生倉優は生倉憂ではない。それは間違いないしそれについては俺が保証しても良い。

 俺が断言したことで、開野ちゃんに笑顔が戻る。


「そうですか・・・それで、私は何をすればいいんでしょう」

「そこなんだよなあ。下手になにかすると佳代に気づかれて余計かたくなになられちゃうだろうし」

「ああ、確かに係長はそういうところありますよね」

「むしろ開野ちゃんはどうしたら良いと思う?」

「まさかのノープラン!?」

「うん、ノープラン。事情を話してみたもののどうすれば良いんだろうなって・・・あ、やべ、佳代がこっちに来る」

「え?どこですか?」


 開野ちゃんはそういってキョロキョロとあたりを見回すが、佳代は見当たらない。

 そりゃそうだ。佳代はまだこの通りと交差する通りを歩いているんだから。


「魔法でなんとなくわかるんだよ」

「へええ、すごい魔法があるんですね」

「というわけで関係ない話をしておこう。佳代も簡単な読心魔法を使えるから、生倉達のことを考えていると何を話してたかバレるとおもうし」

「そ、そうなんですね!ええと、どうしましょうか」

「じゃあさ、お兄さんの話聞かせてよ」

「くー兄ですか?」

「いや、本名知らないからあれだけど、君のお兄さんだったら多分そのくー兄さん」


 個人情報消された状態で渡されるからね。


「というか、なんでくー兄さん?」

「ああ、本名は開野十字架(クルス)って言うんですよ。だからくー兄」

「いや、クルさないだろあの顔は」

「クルすんですよ、あの顔で」

「十字架はわかったけど、でもなんで『悪の』なんだろ」

「それはたまに開野を『あくの』って読む人がいるからですね。私も中学生の頃はあくのすみかなんて言われたものです。そんなこと言ってきた男子はぶん殴りましたけど」


 開野ちゃんさん顔怖いです。


「ああ、なるほど、それでラジオネームが悪の十字架さんなのか」

「そうなんですよ。そうやって使うくせに実はくー兄は結構名前にコンプレックスがあって――」

「んんっ!ずいぶん楽しそうねぇ、二人とも」


 おっと、佳代対策の雑談のつもりが普通に話に集中してしまっていた。


「か、係長!」

「いや、別にこれはサボっているわけじゃなくてだな、休憩だ休憩。そこの駄菓子やさんに聞き込みにいったついでに水分補給をかねて買っただけで」


 実は聞き込みなんてまったくしてませんでしたすみません。 


「そ、そうなんですよ。今休憩し始めたばかりで」

「息抜きが不要、水分を取るなとはいわないけれど、まだ聞き込みを初めて30分でしょう?本当に必要だった?邑田くんのほうが年上で場慣れしているとは言っても、本職のあなたがしっかりしなきゃいけない場面なのよ」


 ああ、これはまずい流れだ。とりあえず佳代の怒りを俺の方に向けさせないと。



「俺が休みたいって言ったんだよ。開野ちゃんのせいじゃないって」

「悪いんだけど、ちょっと黙っててもらえるかしら。これはうちの問題なの」


 ヘイト管理失敗!ごめん開野ちゃん!


「・・・すみません、係長の仰るとおりです。本来私がしっかりしなければならないところでした」


 そう言って佳代を見つめる開野ちゃんの目は少し潤んでいた。


「ごめん、強く言ったつもりはなかったんだけど言い方が悪かったかもしれないわね」

「いえ・・・わたし、しっかりします。私はこれからもっと強くなります!」

「そ、そう?うん、がんばってね」

「はい!頑張ります!」


 そう言って涙を拭って顔を上げた開野ちゃんはさらに続ける。


「私が係長もみんなも守りますから」

「ちょちょちょっと開野ちゃーん?こっち、こっち来ようか。あ、佳代はそこで待ってて」

「ちょっと邑田君、うちの子と何をコソコソしてんのよ」

「い、いやなんでもない、なんでもないぞお」

「あ、なるほどね。そういうことか。わかったわかった」


 バカな!俺は完全にブロックしたはずだぞ!この間茉莉花ちゃんの読心魔法だって防いだのにまさか佳代に破られたって言うのか!?


「お、俺は生倉のことなんて話してないからな!」

「はあ・・・やっぱりね。ま、いいわ。開野にもそのうち話さなきゃいけないことだったし、手間が省けた。開野」

「はいっ」

「聞いての通り、私は小さい女よ」

「そんなことないです。誰だって、私だって係長と同じ立場だったら、同じように生倉さんを遠ざけたんじゃないかなって思います。でも生倉さんは、憂さんは生倉優じゃないです。だから、だからその・・・上手く言えないんですけど、私、みんなのこと好きだから頑張ります!もっとみんなが仲良くできるように頑張ります!だからなんでも言ってください!もっと頼ってください!」

「・・・そうね、私だけじゃ無理っぽいし、よろしくお願いするわ」

「はい!」


 うんうん、丸く収まったな、めでたしめでたし。


「邑田君。なんかめでたしめでたしって顔してるけど、私が開野の言葉を聞いてちょっとうるっときているのと、あんたが開野に情報をリークしたっていうのは別だからね」

「いや、手間が省けたって」

「ん?」

「ごめんなさい・・・」


 この後佳代に情報管理の重要性についてめちゃくちゃ叱られた。



おおお・・・なかなか超えなかったのにブックマークが700超えている。

記念になにかしたほうがいいのかしら、男子会とかまたやったほうがいいのかしら。


それはさておきキャラ語り!


・高前 恋

 魔法少女になる前は大泥棒。ただし今回朱莉が作中で語ったような、馬鹿みたいな大物ばかりを狙うため実は盗みは全て失敗している。

 彼女が捕まる寸前まで佳代の班が専任で追っていてギリギリまで追い詰めたが、最後の最後偶然恋が落っこちたところに陽太の班がいて御用となり、その後彼方同様陽太の手伝いをしていたが陽太がいなくなった後拘置所から忽然と姿を消し、その後ひなたに見つかり魔法少女に。

 回復魔法が得意でその腕前は国内トップクラス。柚那の回復魔法は彼女仕込みなので柚那にとっては同期でありながらお師匠さま。

 松葉と仲がよいが、恋は松葉が佳代の義理の妹だとは知らなかったし、逆に松葉も恋と佳代の因縁は知らなかった。

 しばらく後に艦への連絡将校に志願。その後、艦に永久就職をする。


 名前は出てくるけど出番がない人の筆頭みたいになっちゃってごめんね。

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