グランドエピローグ 番外 茉莉花日記
うーん、上手くまとまらないけどこれ以上やってるとあまりにも間が空いちゃうし、だらだら長くなるからそのうちゆっくり書き直そう。
茉莉花日記
1
茉莉花が目を開けると、そこは見慣れた何もない世界とは全く違う、両親から聞かされていた何でもある世界だった。
「確かにこれは何でもある世界だ」
茉莉花は誰に言うわけでもなく感想を口にしたが、とはいえ今現在茉莉花は何も持っていない。そしてこのなにも持っていないという状況はこのなんでもある世界においては非常によろしくない。
まず茉莉花は父親に言われたとおりの姿に変身して寝床となる古いが安くて広い中古住宅を購入し、次に母親に習った魔法を使って家族を作った。
そして、血のつながりこそないが叔母のように自分をかわいがってくれた女性からもらったメモリを使ってネットカフェから戸籍を作り、購入した住宅と近くの中学校に入学するための手続きを行った。
「何でもある世界だけど、誰も居ない世界だ…なんてね」
全ての手続きを終え、一週間後の入学式を待つばかりとなった茉莉花は、縁側にごろりと横になり誰にいうでもなく、そう言って星空を見上げた。
入学した中学校には茉莉花が親友にならなければいけない少女がいた。
彼女と友人になること、それが茉莉花が両親から与えられた第一の使命だった。
同年代との会話などあまりしたことのない茉莉花は、どうやって彼女に取り入ったものかと、今日まで毎晩深夜まで頭をひねり、入学式の間もうたた寝をしながら考えたが良案は浮かばなかった。
「あんたこのへんじゃ見かけない子ね」
「入学に合わせて引っ越してきたからね」
「ふぅん…ええと、名前はマリカ・アモーレ?」
制服につけていた名札を見て、マリカに話しかけてきた生徒――邑田あかりは首をかしげた。
「外人さん?あんまりそう見えないけど」
「ハーフ。漢字で書くと、こう」
「うわ…画数多過ぎない?テストとかで名前書くのすごく大変そう」
年相応の教養は、両親とその友人に習った。
この教養と、未来では紙くずとなってしまっていた現金、そして彼女の身の上を証明するためのデータだけが茉莉花が未来から持ってきたものだった。
「だからハーフってことを利用してマリカって書いて通してるけどね。オーウ、ニホンゴムズカシイデース…なんてね」
訂正、こういう手の抜きかたも未来で茉莉花が家族からもらって未来から持ってきた宝物だ。
茉莉花が『自分が毎晩真剣に考えていたのは一体何だったのだろう』と拍子抜けしてしまうほどあっけなく、邑田あかりは茉莉花を親友と認識した。
それから半年ほどして、来たるべき日が来た。
その事実を、その日時を茉莉花は知っていた。
己己己己狂華の戦闘に巻き込まれ、邑田芳樹が死亡する日時を茉莉花は知っていたが、マリカはその事実を知らない。
だから、マリカには泣き崩れるあかりの手を握ることしかできなかった。
2
父が不在の戦技研の活動にはかなりの穴があった。
最近、おそらくは邑田朱莉と同期であろう魔法少女がこの地域の担当として赴任してきたようだが、彼女の素養の問題か、それとも指揮系統の乱れの問題か、精彩を欠く動きが多く現着が遅れることもままあった。
ある程度広範囲の魔力検知ができるマリカは上空から降ってくる怪人級の魔力と、深谷夏樹の魔力の反応から、自分が対処した方が早そうなときは対処を行っていた。
そして――
「こちら深谷。現着しました」
マリカが敵を完全に排除した後、遅れて現着した深谷夏樹は通信機に話しかけながら、マリカを睨むようにして見ている。
「七罪と思われる人物を発見」
こうして、たまたま相性の悪い怪人級との戦闘が長引いたその日、マリカは深谷夏樹と出会った。
「あなた、言葉は通じる?」
「・・・ええ、まあ」
逆行になっているはずなので、彼女から顔は見えていないだろう。
たとえ見えていたとしても、普段のマリカとは全く違う金髪ロング、そして仮面をつけているので深谷夏樹がマリカ・アモーレひいては家式茉莉花にたどり着くことはないだろう。
「貴女は、噂の七罪の一人ってことでいいのかな?」
「ええ。私が七罪の一人、強欲の魔法少女です」
マリカは特に深く考えずに、現在マリカが変身時にモチーフとしている、自分の師匠がかつてこの時代に名乗っていた二つ名を名乗った。
このマリカの回答が、後に根津みつきと自分自身、そして平泉和希の運命を良くも悪くも大きく狂わせることになるとはそのとき彼女は思ってもみなかった。
そしてこのときのマリカは、茉莉花は完全に深谷夏樹を見誤っていた。
深谷夏樹がマリカ・アモーレないしは家式茉莉花にたどり着くことはできなくても、平泉和希にたどり着くことができる人間であるという事実を完全に見誤っていた。
そして、深谷夏樹に追い詰められた・・・実際のところはあかりにではあるが、とにかく追い詰められた平泉和希は茉莉花が知っているよりもかなり早く戦技研へ合流した。
和希が戦技研に合流したのは、みつきやあかりの態度を見ていればすぐにわかった。
つまりそれは、自分の知らないところで和希とみつき・・・未来の師匠夫婦が親交を深める時間が出来てしまうと言うことを示していた。
そのことに気がついた茉莉花は焦った。
両親やその他の大人達から頼まれたことばかりの茉莉花が、この世界で自分のためにしたいと思っていた唯一のこと、それがこの世界では同い年の、未来の世界で自分が敬愛していた師匠、平泉和希と結ばれるということだったからだ。
そこからのマリカは学校にいる間、とにかくみつきとあかりに絡んでいった。
そしてとにかくたくさん、それでいてさりげなく和希の印象が悪くなるような話をした。みつきと和希がくっつかないように、まかりまちがって和希があかりとくっついたりしないように。それを願って。
3-1
派手に遊んだつもりはなかったが、それでも、何もない世界からなんでもある世界にやって来た少女が丸3年生きるには、未来から持ち込んだ紙幣は少なすぎた。
とはいえ、それでもギリギリ。本当にギリギリ父親から言いつかったタイミングまではカミングアウトせずひっそりと息を殺して生きてくることができた。
深谷夏樹に存在を認識されたときには詰んだと思ったが、歴史が変わってしまった部分があるとはいえ、それもなんとかやり過ごし、今日を迎えた。
茉莉花の母、狂華が邑田朱莉に対して狼藉の限りを尽くす今夜という日を。
「はじめまして、父さん。私は貴女の娘です」
「ほー…結構かわいいわね。うんうん、たしかに目元は狂華に似てるわね。眉毛は私かしら」
カミングアウトは最初のインパクトが肝心とばかりに前置きなしで本題を切り出した茉莉花に対する都の切り返しは茉莉花の予想とは全く違うものだった。
「え?いや、あの、え?どういうことですか?私のこと知ってるんですか!?」
「ぜーんぜん。でもまあ宇宙人がいて、超能力者っていうか魔法使いがいるんだから、未来人くらい来るでしょうよ」
「意味がわからないんですけど!」
「つまり私が神ってことよ」
「・・・」
ああ、そういえば自分の父親はこんな変な性格だったな。と、茉莉花は思い出していた。
3年会わないうちにどうやら自分は父親に対して思い出補正を掛けてしまったようだと思った。
「い、一応出生証明とDNAの鑑定書が。あ、これは川上博士自筆の手紙です」
「ああ、確かに翠の字だわ。了解了解。で、こんなところまでおしかけてきてどうしたの?翠からの手紙によれば、あんたの行動開始まではまだ時間があるみたいだけど」
「実はその、しばらくこっちにいる間に、未来から持ってきたお金がなくなってしまいまして…」
「あー、なるほどね…そっか…うーん…」
「や、やっぱり突然こんなこと言われても迷惑ですよね!」
「いや別にそれはかまわんのよ。娘一人養うくらいの甲斐性はあるからさ。ただあいにく病室に持ってきているお財布の中にはキャッシュカードが…ああ、一枚あったわ」
そう言って、都は一枚のキャッシュカードを取り出して茉莉花に渡した。
「高校の時に恭弥と一緒にバイトを始めたときに作った口座で、お守り代わりに財布に入れておいたものなんだけど、とりあえずそれ使って。暗証番号は恭弥の誕生日。多分現金はほとんど入ってないと思うけど、追って振り込むから」
「ありがとうございます!」
茉莉花はそのキャッシュカードにまつわる話を聞いて、数年ぶりに家族のつながりを感じてうれしくなり、いつもより丁寧なお礼の言葉が口をついた。
「ございますはいいわよ。私は堅苦しいの嫌いだし、そもそもあんた私の娘なんでしょ?未来で私に接してたのと同じでいいって」
「は・・・うん!ありがとうパパ!」
「おおう・・・自分で未来と同じようにしろって言っておいてなんだけど、十代の女の子にパパって呼ばれるのは、なんか犯罪の香りがするわね」
「あ、ごめん、父さんと一緒にいた頃の癖で」
「そういえば、茉莉花は今いくつなの?というか、いつからこの時代にいるの?一人で来たのよね?」
「今度中三で、中一になる時に来たんだけど」
「はぁっ!?痛ぅっ」
勢いよくベッドから起き上がった都があばらのあたりを押さえて唸る。
「何考えてんのよ未来の私達は・・・ちょっとこっちおいで」
「え?」
「おいでって」
「うん・・・」
都に手招きされて近づいた茉莉花は、とても怪我人の力とは思えない力で抱き寄せられた。
「ごめんね、気づいてあげられなくて。一人でよくがんばったわね、これからは私がついているから遠慮せずになんでも言うのよ」
そう言って都は茉莉花を抱きしめた。
キャッシュカードのエピソードに続いて、茉莉花の胸が熱くなる。
「あとね、私の方からもちょっとお願いがあるんだけど」
お金をもらう以上は、その対価となる労働が必要だ。
そのことについて茉莉花は納得していた。だから、玉石国籍混合の後輩四人組の指導を任されたことも、異星人の面倒を見るあかりたちのフォローを頼まれたのも別に構わなかった。
むしろ、そのくらいのことで、生活費が出てさらにお小遣いまでもらえていままでよりも懐が温かくなるのだから大歓迎だ。
そう、その二点の仕事については大歓迎だったし順調だったのだ。
あの女がやってくるという誤算以外は、全て順調だったのだ。
3-2
二学期初日。
見習い組の特訓を終え、都からの臨時ボーナスや、ジャンヌ、ユーリア、それにヒルダからの心付けをもらって懐の暖かくなった茉莉花は、登校途中で物陰に隠れるようにして前の様子をうかがうみつきをみつけた。
「なにやってんのみつき」
「うへぁっ・・・ってなんだマリカか」
「いや、なんだマリカかじゃなくてさ。なにこそこそ隠れて――」
そういいながら視線を前に向けると、そこにはだらしない顔の和希と、迷惑そうな表情を浮かべた真白が並んで歩いていた。
「――おいみつき」
「え、何、マリカ顔怖いんだけど」
「あれは一体どういうことだ。明らかに一線越えてんじゃねえかあいつら」
「マ、マリカ?怖い怖い、顔怖いって。なんか怒ったときの都さんみたいな顔になってるって」
「いいから、夏休みの間に何があったか話せ」
「え!?ここで!?」
「ここで、いま、ナウ」
みつきから聞いた和希と真白のなれそめは、完全に茉莉花の想定外の話だった。
「なんでそうなるんだ・・・博士の言ってた歴史の強制力ってやつ?」
茉莉花ががっくりと膝をつくと、みつきが隣でしゃがみこみ、心配そうにマリカの顔をのぞき込む。
「だ、大丈夫?そんなに真白のことが好きだったの?」
「なんでそうなるんだよーーーっ!」
そんなことがあってからしばらくして、茉莉花にはあまり関係のないチームでの模擬戦や、男性型宇宙人、通称『艦』との”演習”がおわり、模擬戦の優勝チームであるあかり達のお誘いで、マリカは林間学校という名のお泊まり会に行くことになった。
そしてそのお泊まり会の数日前に、茉莉花は都に呼び出された。
「でね、その旅行のついでにあんたにお願いがあるのよ」
「お願い?別にいいけど、お仕事ならそれ相応にほしいなあ、臨時手当が」
茉莉花がそう言って手を出すと、都は大きなためいきをついてから財布を取り出して何枚かの紙幣を茉莉花に渡す。
「ありがと。実は買いたい服あったんだよねー、へへへ、ラッキー」
「あんたこの半年で本当に慣れたわね。ほんと誰に似たんだか」
「間違いなく父さんだよ。母さん似だったら今頃変な男にだまされてるって」
自分の母親に対してずいぶんな言い草ではあったが、都もそこについては概ね同意だったらしく、深く頷く。
「で、頼みたいのは恵の息がかかったご当地の捕獲。一応愛純と和希には話が通っているけど、真白にはバレないようにね。あの子変に責任感が強いから、『自分が抜けた後せいで裏切り者をご当地に任命させちゃった』とかなんとか変な感じで責任感じそうだからさ」
「そう感じたい子にはそう感じさせておけば良いのに」
「同年代に甘いあんたにしては珍しく厳しいじゃないの」
「私あの子嫌い」
逆恨みなのはわかっているし、夏休み前にもチャンスがあったにもかかわらず、じっくり行こうと自分に言い訳してあまり和希に近づかなかった自分が悪いのはわかっている。
だが、それでもやはり茉莉花の中には真白に対してやりきれない気持ちがあった。
「あー・・・あの話マジだったんだ」
「あの話?」
「あんた和希が好きなんだって?」
「は、はぁぁぁっ!?何言ってるんだかわかんないんですけどっ!?」
「夏休み明けだったかな、みつきがそんなこと言ってたんだけど、その反応を見る限り本当みたいね。でもなんで和希なの?」
「う・・いやその、未来で、色々ね」
「ああ、私和希お兄ちゃんのお嫁さんになるー!・・・的な?」
「・・・的な」
「初恋は実らないって言うわよ」
「だったら私は生まれないことになるわけだけどここにいる。謎ですね」
「くっ・・・」
「ナーゾデースネー!」
そう言いながら茉莉花が顔を近づけると、都は茉莉花から目をそらす。
「べ、別に私は恭弥が初恋じゃないし!」
「へー、ふーん、ほー。娘にそんなこと言うんだー。それが通じると思ってるんだー」
「ああもう、ああ言えばこう言うんだから。ほんと誰に似たのかしら」
狂華やひなた、朱莉あたりに聞かれたら「あんただよ!」とツッコまれそうなことを言ってから、都は大きなため息をついた。
無事に沼崎朱未捕獲の任務を成功させた茉莉花が次にかり出されたのは、マリカが来年通う予定の高校での爆破テロ阻止というものだった。
もちろん今回の件についても都からのお小遣いは支給されるし、沼崎事件の時に和希と距離を詰められた(と思っている)茉莉花にとってこれはさらに和希に接近できる千載一遇のチャンスだと思っていた。
が、結果はあまり芳しくなく、三人で喧嘩をしているうちに事件は解決、しかも他のチームに比べて動きが悪かったことをとがめられてしまい、都からの臨時ボーナスを大幅に減らされてしまうと言うおまけ付きだった。
そして茉莉花がこの世界にやってきた本来の目的である、大江一派一斉蜂起の日。
「何度も言っているけど、あんたを東京タワーには配置できないの」
「なんでさ!」
「あんたの地元が手薄になっちゃうからだって言ってるでしょ。それに朱莉も愛純も朝陽もあんたよりも実力があるし、連携のとれているあの三人の中にいきなりあんたを放り込んだらかえって足を引っ張るかも知れないでしょう」
「地元はえり達がいるから大丈夫だって、それに連携がどうのっていうなら私は私で勝手にやるから」
「ダメだって。あの子達は確かに強力な戦力ではあるけれど、誰かがちゃんと指揮してあげなきゃならない。で、その指揮が出来そうなチアキさんも夏樹も身重で動けない。だったらあんたにやってもらうしかないでしょう。それにやっぱりあんたはまだまだ未熟よ。沼崎の時だってギリギリだったじゃないの」
「でもさ」
「これは私のわがままだけど、万が一にもあんたを狂華に紹介する前に死なせるわけにはいかないのよ。朱莉達がどうでもいいとかほかの子がどうでもいいとかそういうことじゃないけど、ああもう、なんか上手く言えないけどわかって。ね?」
これだけは絶対に譲らない。
この一年なんだかんだと言いながら茉莉花の頼み事を聞いてくれていた父親のそんな厳しい表情を見て、茉莉花は自分が折れることを決めた。
JK1
ヒーローというものが居るとしたら、多分それは邑田朱莉のような人間なんだろう。
それは茉莉花が未来に居たときに聞いていたお話でもそうだったし、浅草寺の決戦でギリギリ駆けつけた茉莉花の目の前で繰り広げられた彼の活躍は、ヒーローと言って差し支えないものだったと言えるだろう。
そしてそれはそのまま、彼に憧れていたという未来の和希や、中学校の入学式の日、上級生に絡まれていたくるみを何の迷いもなく助けに行こうと言い出したあかりの姿にも重なった。
浅草寺の決戦から数ヶ月後、茉莉花は中学を卒業し、予定通り高校に入学した。
「入学おめでとう」
「ありがと・・・って、父さんなんでこんなところにいるの?」
入学式の後、家族や保護者が迎えに来ていた仲間達と別れて一人で校門にやってきた茉莉花は、声をかけてきた都を見て首をかしげた。
「父親が娘の入学式に来てなにが悪いのよ」
「あっれー?私の父親って確かイタリア人になってたと思うんだけども」
そうは言いながらも、茉莉花は内心が隠しきれず顔がにやけている。そして都はそんな茉莉花の表情を見て苦笑した。
「入学するときにこっちで書き換えたわよ。まあ、法的には私はまだ養母だけど、そのへんも法改正が進んだら追々やるわ」
「そっか・・・母さんは?」
「いやまあ、その、なんというかね」
「はあ・・・まだ踏ん切りがつかないんだ」
「いや、こう、一年も秘密にしてきちゃったせいで変な罪悪感があるというか」
「うーん、じゃあさ、ヒーローに助けてもらったらどうかな」
「ヒーロー?」
「うん、ええとね――――」
◇
「という、私の期待を朱莉さんは見事に裏切ってくれたわけですよ」
改めてセッティングされた都と狂華の披露宴当日。
茉莉花は、なぜ朱莉が北海道旅行に引っ張って行かれたかの顛末を語ったあと、最後に朱莉の鼻先をついてそう言った。
「わかったって。もう何度も聞いたって。期待に添えず悪かったって。というか、そもそも俺頼みで物事がスムーズにいった試しなんてないだろうに。俺に任せると最終的にそれなりの結果に収束するものの、途中は山あり谷あり波乱ありになるって、都さんにしろ茉莉花ちゃんにしろわかりそうな物なんだけどなあ」
「なんですか?」
「なんでもありません。すみませんでした」
茉莉花が薄暗く狭い空間に差し込むわずかな光にかざすようにして『なんでも言うことを聞く券』をちらつかせると、朱莉は不承不承といった様子で謝った。
「それはそうと、茉莉花ちゃんさ」
「なんです?」
「このサプライズはないと思うんだよ。いまさらだし、止めなかった上に一緒にここにいる俺が言うのもなんだけれども」
「なんでですか、娘から両親へのサプライズとして、こんなに日本らしいサプライズはないでしょう」
「いや日本らしいサプライズって言うか、これはもはや嫌がらせの類いだと思うぞ」
「嫌がらせだなんてそんな、二人が入刀したウエディングケーキから二人の愛の結晶である私が出てくるなんて、桃太郎みたいで素敵じゃないですか」
「いや、桃太郎って名前にまったく良い思い出がない俺としては・・・というか一応一年後に結婚式を控えている身としては、朔夜がそんなことをしようとしていると知ったら、柚那がマジギレしそうだからって理由で全力で止めるぞ」
「いやいや、それは柚那さんだからで」
「都さんは笑ってくれるかも知れないけど、狂華さんは多分柚那と同じようにキレると思うぞ」
「あはは・・・まっさ・・・かー・・・どうしよ・・・」
だんだん自信がなくなっていく様子の茉莉花を見て、朱莉はやっと理解してもらえたかと胸をなで下ろした。
「わかってくれたようで何よりだ。よし、じゃあこっそりテレポートで出よう」
「そうですね、出ましょう」
「おう、出ようぜ」
それきり、二人の間にしばしの沈黙が流れる。
そしてその沈黙の間中、朱莉は茉莉花に、茉莉花は朱莉に『さあどうぞ』と言わんばかりの顔をしている。
「ええと、茉莉花ちゃん。テレポートよろしく」
「えっ!?できませんよ」
「はぁっ!?だって君の魔法って『ワールドイズマイン』だろ!?一回見た魔法を覚えるって言う、都さんと同じチートの」
「あんな魔法使えるわけないじゃないですか。私の得意魔法は『フィンガーファイブ』、見たことのある魔法をデバイスなしで5つまでストックできる魔法ですよ」
「えっと、本当にストックしてないの?」
「してないですよ、一つはこれでつかっちゃってますし」
そういって茉莉花は『なんでも言うことを聞く券』をひらひらさせる。
「ちょっと前から思ってたんだけどさ」
「なんです?」
「茉莉花ちゃんも大概ポンコツだよね。特に両親がらみのことになると」
「ぽ、ポンコツの親玉みたいな人に言われたくないんですけど!」
二人がそんな言い争いをしていると、外から司会者のアナウンスが聞こえてくる。
『それではカメラのお持ちの方は――』
「ちょ、やばいやばい」
「やばいやばいやばいどうしよどうしよ」
巨大なウエディングケーキの中で朱莉と茉莉花は手を取り合って慌てた。
「うわあっ、母さんに絶対怒られる」
「俺だって絶対おこられるっつーの!」
『それでは、ケーキ入刀ですっ』
そんな司会者のアナウンスと共に、二人の頭上から巨大なナイフが降ってくる。
「ひぇぇっ」
「んほぉっ」
取り合っていた手を離すことでナイフの直撃は避けたものの、慌てて離れた勢いで二人はケーキの内側にぶつかり、その衝撃でケーキがパッカーンと割れた。
「あ、朱莉・・・?」
「茉莉花・・・?」
「「いや、違うんですよ、これには深いわけがあってですね」」
ケーキの中から這い出てきた二人は、同時に同じ言い訳をし始め、披露宴の後で新郎新婦を始め仲間達からこってりと絞られた。
果たしてラストで狂華はキレたのか、都は笑ったのか、その他の面々は・・・。
そんなことを想像しながら読んでいただけたら良いなと。
べ、べつにみんなの反応を書くのが面倒くさくなったわけじゃないんだからねっ!?
という訳でキャラ語り。
・家式(己己己己)狂華
最初の主人公候補だったキャラ。
美少女で、華奢で、強くて、ぺったん娘で、でも仲間に冷たくて~、と、いろいろ詰め込んだ結果、こいつ主人公じゃねえなとなり、今の位置に。
都のコトに関してだけやたらとメンタルが弱く、全体的にストレスの処理も下手。溜まると爆発する。
そんなのでレンジャー部隊が務まるんかというツッコミは聞き流します。
なんというか。作者は狂華と違って華奢でもなければかわいくもないし、自衛隊の経験もないですけど、多分メンタルが一番作者に近いキャラがこの子。
安定しているときは強いけど不安定になるととことんダメになる。
作者に近いせいか、狂華はある意味朱莉以上に内面が初期プロットからブレてない。
・宇都野(家式)都
朱莉の設定に『絶対チート能力は持たせない』というのがあって、とはいえチート級の敵と戦おうと思ったときに、朱莉が負けたときの最後の防波堤がないのは後々困るかも知れない。
『最後の最後こいつが来てくれれば大丈夫』みたいな存在がほしいなと。
でも狂華はそういうキャラじゃないなということで、都が『必ず当たる弾丸』だの『一回見た魔法を自分の物にできる』だのというチート持ちに。
とはいえ戦技研でのタイマン強さランキングでは5番目くらい。言うほど無敵感はない。
・二人のその後。
『茉莉花日記』のラストの時点では狂華と茉莉花の関係も好調、都ともうまくいっていて、順風満帆。
家式さんちは、都が茉莉花を甘やかし、狂華が二人を叱るけど、二人から逆襲にあって「ふにゃーん」ってなる感じ。
そんな感じなので、茉莉花の妹か弟を作ろうとなったときに、狂華の『ボク男の子だよ!』という主張は都に『あ、男の娘ね、はいはい』と言われて通らず、お母さんに。
あんまり詳しく書くとR-18になるので子作りの課程は妄想してください。
茉莉花の下の子供の名前は「礼」。
将来咲月に「あの子は礼じゃなくて無礼だよ」と言われるくらい慇懃無礼な子に育ちます。
二人ともまだちょいちょい出てくると思うけれど、とりあえずお幸せに!




