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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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グランドエピローグ そうだ狂都、行こう9  茉莉花問答 上


 『謝罪をするならぶん殴ってしまった狂華さんのほうからだ』というのが筋だというのはわかっている。わかっているのだが、それは家式夫妻を相手にする場合の筋道とは違う。

 というか、ぶっちゃけてしまえば狂華さんに許してもらったところで、その後に都さんの攻略に失敗すれば元の木阿弥どころか状況はさらに悪化すること請け合いだ。

 なので、俺が都さんの部屋の前に立っているのはなんの不思議もない。

 不思議があるとすれば――――


「あー…行きたくない。物事には順番ってものがあるだろうに。なんだって二人一緒にいるんだか」


 なぜ二人が部屋の中で二人一緒にいるのかと言えば、さっきの邑田家の団らんと同じ理由だ。二人が家族だから。それ以外にないだろう。

 ま、いるものはしょうがない。やるだけやってダメなら柚那の言うように他の道を考えれば良い。

 そう覚悟を決めて俺が一度深呼吸をしてからドアをノックすると、すぐに中から都さんの声が聞こえてきた。


『はーい。誰かしらー?』

「あ、俺ですけど」

『え!?朱莉!?ちょっ…ちょっとまってね!』


 都さんは珍しくすぐに入室許可を出さずにそう言い、すぐに部屋の中からバタバタと慌てている気配が漏れてくる。

 そして。


「いらっしゃい朱莉さん」


 ドアを開けたのは茉莉花ちゃんだった。


「お、おう、茉莉花ちゃん。居たのか」

「居たのかなんて白々しいですね。それとも魔力の質で相手が誰だか――マスクをかぶっている相手であろうが、黒いオーラで自分を覆っている相手だろうが特定できる朱莉さんがまさか壁一枚隔てた先に誰がいるのかわからなかったんですか?不思議ですね。この壁ってなにか特殊なコーティングでもされてるんでしょうか、それとも朱莉さんが調子悪いんですかね。あ、でもつい先日この国ナンバーワンの家式狂華をワンパンでノックアウトした朱莉さんが調子悪いっていうのもおかしいですよね。ナーゾデースネー」

「いやめっちゃ饒舌に喋ってくれてるところ悪いけど、俺としては君がなぜ包帯まみれなのかのほうが謎なんだが」

「う…」


 部屋の中に茉莉花ちゃんと都さんがいるのはわかっていたし、茉莉花ちゃんの相手するの面倒くさいなと思っていたのも事実だが、それよりもなによりも今の俺は体のあちこちに包帯やら絆創膏やら貼り付けている茉莉花ちゃんが気になってしょうがない。


「あ、もしかして和希に因縁つけたら真白ちゃんに返り討ちにあったとか?」

「う……うるせー!あいつもみつきもチートすぎんだよ!なんだよあいつらのバカみたいな強さは!だいたいみつきは和希も正宗も諦めたっつってたのに、なんだって和希に良いとこ見せようと頑張ってんだよっ!」


 まあ、天才のみつきちゃんは言わずもがな、真白ちゃんだって恵が手ずからパワーアップドリンクを作って底上げしてるからね。そりゃチートよ。


「…コホン、すみません取り乱しました」


 いや、いくらなんでも取り乱しすぎだろ。


「まあ、それはいいんだけど都さんいる?」

「要るか要らないかで言えば要りますけどここにはいませんよ」

「いやいや、君がつい今しがた言ったとおり俺は魔力の質である程度個人を特定できるんだから…って、あれ!?いない!」


 厳密には猛スピードで遠ざかっているというのが正解であるけれど。


「父さんも母さんもまだ朱莉さんとは顔を合わせづらいらしいんで、当面の間、朱莉さんからのご用件は私が承りますよ」


 ああ、なるほど。

 俺に対して弱みというか恥ずかしさがある都さんや狂華さんではなく、どちらかと言えば強みのある茉莉花ちゃんが俺の窓口担当をすることで、家式さんち的には優位が保てると、そういうことか。


「いやですね。そういうんじゃないですよ」

「君もまたナチュラルに心を読むよね」

「ナチュラルに嘘をついたり失礼なことを考えたりする人に対してだけですよ」

「さっきハッチにも同じようなことを言われたけど俺はそんなに嘘つきじゃないぞ」

「ナチュラルにっていうのは自分でも気がつかないうちに嘘をつくってことです。そういう人はしらずしらずのうちに危険に足を突っ込むので、前もってこちらで把握しておかないと危ないんですよ、本人も周りの人間もね」


 そう言って茉莉花ちゃんはさっきまでの取り乱した表情ではなく、いつもの飄々としたつかみ所のない表情に戻って俺を見る。


「で、どういった御用向きでしょう」

「今日の用件はぶっちゃけ謝罪だから、狂華さんや都さんに直接伝えなきゃいけないことであって茉莉花ちゃんに伝えても仕方がないことなんだけど・・・」

「それは私が決めますよ」

「いやまあ、茉莉花ちゃんから俺が謝ってるって伝えてもらえれば多少は気持ちがつたわるかもしれないけれど、やっぱりこういうのは――」

「というより、朱莉さん」

「うん?」

「私への謝罪がまだですけれど」

「う・・・」


 そう。確かに俺はまだ茉莉花ちゃんに謝っていない。これが彼女が俺に対して持っているアドバンテージ、強みだ。

 別に謝りたくないわけではないのだ。むしろ謝るべきだと思っているし、家式夫妻の娘であり、あかりの友人であり、連絡将校組や見習い組とも親交の深い彼女とは今後も良好な関係を保ちたいと思っている。思っているのだが。


「ええとさ、茉莉花ちゃん」

「なんです?」

「ごめん、おそらく当日キャンセルで全額キャンセル料になっちゃってるであろうチャペルの料金、分割でも良い?」

「はいぃっ?」

「いや、わかってる。わかってるんだ。女子高生に百万単位の金を無駄に払わせておいて大人の自分が分割にしてくれっていうのはかなりかっこ悪い。かっこ悪いのはわかっているんだけど、ぶっちゃけ今金がないというか、都さんにクビって言われるかも知れない現状では一度に大金を使いたくないんだ」


 柚那のお金があるとは言っても何があるかわからないのが人生だ。

 クビになった後の定期検診や治療なんかはコネで直接翠にお願いするとしても、翠にも支払いをしなければならないし、咲月と朔夜の学費だってある。


「ふぅん、なるほど。確かにこれから咲月ちゃんの出産、子育て、それに朔夜先輩の進学費用といろいろとお金がかかりますもんね。でも却下です、仲間内で貸し借りはよくありませんし、そもそも仲間じゃなくなってしまう可能性のある人に対する貸しというのは回収できなくなって不良債権化するリスクだってあるわけです」

「で、ですよね・・・」

「ただ、私も全てを無碍に却下するほど冷たい人間ではないです。朱莉さん、今お財布においくら万円入っています?」

「ええと…確か8万円くらいかな」


 北海道に行く前に10万入れておいて、むこうでお土産とか買ってちょっと使ったからそんなもんだと思う。


「エクセレント!じゃあとりあえずそれは今私がもらうとして、足りない分は朱莉さんが何でも言うことを聞く券にしましょう」

「ええっ!?」

「なんです?残金も耳をそろえて返してくれるんですか?」

「いやそれはまあ・・・」


 言うこと聞く券で良いならそれで構わないけれども。


「何枚くらい?」

「朱莉さん自身が残金を踏み倒しちゃうことについて私に対してどのくらい申し訳ないなーって思っているかで決めてください」


 う、うーん…なにその自分のパンツの値段は自分で決めろ的な奴。

 まあチャペルの使用料が100万と見積もって、残り92万。一回1万だとして・・・いやまてよ、この子が一回1万相当のお願い事をしてくるだろうか。いやもっとヤバいお願い事をしてくるに違いない。

 だとすれば3万円?いやいや腐ってもこの国屈指の魔法少女かつ人気投票も高順位の俺だ。一回5万円くらいと見積もってキリが良いところで20回分――って


「いやいや、ちゃんと残金は払うよ?」

「いやあ、国内指折りの魔法少女である朱莉さんを好きに使えるなんて利子にしては高い条件ですから残金は支払ってもらわなくて大丈夫ですよ」

「ええ…なんか破格すぎない?」

「破格だと思うならその分回数を多くしてもらえれば大丈夫ですよ。チャペルのキャンセル料はキツかったですけど、一応毎月それなりの額を父さんにもらっているので生活が厳しくなると言うこともないですし、あちこちにネタバレしちゃったんで今月から私も正式に戦技研に所属になりますから」

「そう言われると茉莉花ちゃんの言葉に甘えたくなっちゃうけど、回数を増やすとそれはそれでものすごいどうでも良いこととかしょうもないことに使われそうで怖いんだよなあ」


 というか、茉莉花ちゃんの笑顔が怖い。

 年頃の女の子にこんなことを言うのは失礼だけれど、今の彼女が浮かべている笑顔はヤミ金とか悪徳消費者金融の元締めみたいな笑顔だ。

 んん…まあ、じゃあやっぱり20回だ。一回で5万円が浮くと考えれば多少の汚れ仕事は我慢できる。

  

「20回で」

「はい、了解です。じゃあチケットはこれで」


 そう言って茉莉花ちゃんは小切手帳のようなものを取り出して、そこから20枚切り離し、都さんの机から朱肉を持ってくると蓋を開いて俺の方に突き出した。


「じゃあこれ、全部拇印押してくださいね。私のボインは押させませんけど」

「いや、茉莉花ちゃんって言うほど胸なくない?」


 というか、俺の恥ずかしい過去はどこまで広まっているのか。


「・・・まあ、いいでしょう。さあさあ、拇印を押してください。桃花さんのボインを押せなかったその拇印をしっかりと」


 あれ?茉莉花ちゃんなんか怒ってる?


「ええと…なんか本格的だね」

「私はなにをするにも準備を怠りませんからさあ無駄口叩いてないで押してください」

「わかったわかった」


 茉莉花ちゃんに促されて俺は20枚全てのチケットに拇印を押すと、チケットに『なんでも言うこと聞く券』と表示された。


「あ、魔法だったんだそれ」

「ええ。そうなんですよ。前に錆山のところにいた下っ端が使っていたのを見て習得したんです」

「ふうん」

「お互いの同意が必要ではありますけど、まあハッカーの魔法に近いものだと思ってください」


 え、ちょっと待って。それ結構やばいやつじゃないですか?

 マンガとかで主人公がうっかり契約しちゃって危機に陥る系の能力ですよねそれ。


「さてさて朱莉さん」

「な、なんでしょうか」

「あれれー?なにをそんなに警戒しているんですか?私はただ朱莉さんともうすこしお話をしようと思っただけなんですけど」


 そんなことを言いながら、すすすっと近くに来る茉莉花ちゃん。


「は、話ってなにかな?」

「そんなに警戒しないでくださいよ。あ、もしかして私が胸のこと言われたくらいで怒って無茶な命令を出すんじゃないかとか思ってます?」

「えっと、悪気はなかったんだけど・・・怒ってる?」

「悪気がなかったなら・・・怒ってないですよ」


 嘘だ!絶対怒ってる顔してる!


 

 

 

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