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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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グランドエピローグ そうだ狂都、行こう1 邑田朱莉は新婚旅行に行きたい。


 もういい加減にしてくれ!!

 そう言いたくなるくらいここのところの俺は疲れていた。

 愛純の勘違いで福島くんだりまで行かされるわ、こまちちゃんとJK寮に行けば変な事件に巻き込まれるわ…そうそう、へんな事件といえば風月ちゃん誘拐事件だ。あれが一番変で一番ヤバかった。なにせ久々に命の危険を感じたからな。

 とにかく、ここのところ立て続けに面倒ごとに巻き込まれ過ぎて俺は疲労困憊、咲月の誕生までもうカウントダウンが始まっているというのにろくに柚那のケアもできていないという有様だった。

 

「ごめんな、最近あんまりそばにいてやれなくて」

「………え!?あ…あー…大丈夫ですよ。翠やチアキさんもいろいろ世話を焼いてくれますし。それにほら、翠が言ってたんですけど旦那元気で外が良いでしたっけ?朱莉さんには咲月のためにバンバン稼いでもらわないと」


 いや、俺は普通にしていてもそれなりに稼いでいる方だし、別に頼る気はないけど虎の子の柚那の貯金もあるわけだし、個人的にはもうちょっと一緒にいたいなと思ったりするわけだけど…というか、ぶっちゃけどの事件も別に金になっているわけではないし。

 あと、亭主元気で留守が良いはこっち側からするとあんまりポジティブな意味じゃないからな。



「ってなことがありまして」

「家庭不和を私のところに持ち込まれてもねえ…」


 そう言って珍しく仕事をしていた都さんは手を止めて顔を上げた。


「持ち込むっていうか、ただの雑談ですよ。俺と柚那はラブラブです」


 ラブラブだと思う、ラブラブなんじゃないかな、ラブラブだといいなあ。


「まあ別にあんただけってわけじゃないと思うし気にしなくて良いんじゃない?ほら、マタニティブルーってやつよ」

「ですかね」

「むしろ妊娠中とか出産前後に間違った方向に気を遣いすぎる旦那は煙たがられるみたいよ。夏樹とか、あと翠も生まれたあとそんなこと言ってたし…そういうところうまくやってるのはひなたくらいかしらね。あとゆきりんも割と好感触」


 あの人ってそういう変なところハイスペックなんだよなあ。

 っていうか、家庭事情筒抜けなの超怖い。


「でもひなたさんはみつきちゃんの時に一回経験してるからじゃないですか?あと、まだ一美さんは妊娠初期だし」

「まあ、一美はつわりが軽い方だからって言うのはあるかもだけど、経験しててもだめな奴はだめみたいよ」


 あんたそういうの駄目そうよねって目で見ないでいただきたい。


「あんたは二人目できても駄目そう」

「はっきり言わないでください」 

「あ…そうだ。柚那が『邪魔だ家にいるな』っていうならあんたちょっと2泊3日で仕事しない?」

「いやそこまで言われてないですよ!?ってか、また泊まり仕事ですか?出産も近いっていうのに、あんまり家を空けるのは不安なんですけど」

「って言ったって柚那がいるのは関東寮じゃない。なんかあれば翠なりうちの医師なりが対応できるし、チアキさんや愛純、それに朝陽もいるんだから大丈夫よ」


 まあ確かに。

 ぶっちゃけ俺一人が柚那についているのと、俺がいないでみんながついているのとどっちが安心だと言われたら、俺がいないでみんながいた方が安心ではある。


「よし、決まり。じゃあ明日の朝10時に羽田のラウンジ集合ね」


 なんかあれよあれよという間に仕事が決まってしまったでござる。




 翌朝。

 特に引き留められることもなく、柚那に「あ、そうなんですね、いってらっしゃい」と送り出された俺は、羽田空港の戦技研御用達、特別ラウンジにやってきた。

 今回の俺の仕事はひらたく言えば都さんの護衛。とはいえ、都さんがどこに行くのかということはまだ聞いていない。

 いつもは高危険度なら狂華さん、そこまででなければ柿崎くん達のチームとご当地を使う都さんがわざわざ俺に護衛の任務を振るということは、おそらく狂華さんに知られたくないような用事で、柿崎君達には任せられないか、知られたくない用事なんだと思う。

 この条件と、そこそこ長くなった都さんとの付き合いから算出される答えは、今月だか来月だったかにある狂華さんの誕生日プレゼントを買いに行くということだ。

なぜなら、都さんがこういう相談を出来て、少人数で外出してもニアさんに怒られない程度の実力がある人間となると俺くらいしかいないからである。

 誕生日プレゼントを買うためにわざわざ飛行機に乗るのか?という疑問はあるが、例えば狂華さんが欲しいものが現地に行かないと入手するのが難しいものであるとか、個体差が大きく直接目で見て買い付けなければいけないものであるとか、職人がオーダーメードで作るので工房に赴かなければならないものだったりすれば、納得がいく。

というか、ぶっちゃけ狂華さんの誕生日プレゼントで、オーダーメードのものというところで、俺にはちょっと心当たりがあった。

 指輪だ。

 突然戦闘になったときに困るので外出するときはつけていないが、俺は本部での内勤などをしているときには結婚指輪をしている。

 で、狂華さんがちょっと前にその指輪を見て『ボクもみやちゃんとおそろいの…できれば結婚指輪がほしいなあ』と言っていたのだ。


「ま、どこの職人にオーダーしに行くにしても平和な任務なら大歓迎だけどな」


 俺がそんな独り言を言いながらコーヒーを口に運ぼうとしたところで、ラウンジの入口に人の気配を感じた。


「おっすおっすー、時間前に来ているとはさすがね」


 そう言って入口から入ってきたのはいつになくご機嫌な都さんと――


「え……朱莉…?」


 ――狂華さんだった。


「って、狂華さん…!?え?え?ちょっと意味がわからないんですけど、狂華さん連れて行くなら俺いらないですよね?」

「何言ってるのよ。私達は休暇で旅行に行くんだから、護衛は必要でしょ。それともなに?狂華に休暇中もずっと気を張ってろって言うつもり?」

「じゃあ柿崎くん達でいいんじゃないですか」

「プレイベートの旅行で黒服を着てサングラスをつけた男共をぞろそろ連れて歩くとか、私はどこかの金融グループの会長かなにかか!」


 まあ、機嫌悪いと理不尽に杖で叩いたりしてきそうなので概ね合っている気はする。


「えっと、みやちゃん…朱莉も一緒に行くの?」

「ん。そうよ」

「………」


 ああっ、狂華さんがめちゃくちゃ昏い目でこっちを見ている!

 もういい加減わかってほしいんですけど、毎回毎回だいたい狂華さんの思い通りにいかないのはあなたの相方のせいであって俺は巻き込まれているだけなんで、俺に対してヘイトを募らせるのやめてください!


「みやちゃん、さすがにちょっと今回のことはボクからも言わせてもらうよ」

「え、なによ真面目な顔しちゃって」

「ちゃんと聞いて。今日ボクたちはここに来る前、どこに行ってから来た?」

「区役所ね」

「じゃあボクとみやちゃんの関係は今どういう関係?」

「夫婦ね」


 は?


「いやいやいや、ちょっと待ってください。え?入籍したんですか?」

「うん、ついさっきね。一時間前くらいに入籍したばっかりよ。だから私は今日から家式都。あ、家式は己が四つの方じゃなくて、実家の家に結婚式の式ね。ちなみに披露宴はそのうちぱーっとやるから出席よろしく」


 都さんに言われてよくよく見てみれば、確かに二人は薬指におそろいのプラチナのリングをしている。

 ああなるほど、じゃああれだ。二人は今、新婚ほやほやってことだ。


「だからさ、朱莉。出来ればその…朱莉には今回、遠慮してほしいんだよね」


 うんうん、わかるわかる。狂華さんの言いたいことすげえわかる。

 あれだもんね。ハネムーンだもんね。羽田だけにハネムーン。新婚旅行。


「じゃ、じゃあ俺はお邪魔してもあれなんで、これで…」

「待ちなさい」

「なんすかもー、狂華さんがめちゃくちゃこっち睨んでるじゃないですかー」


 あの先輩、普段はいい人でも結構根に持つタイプな上に体育会系だから後々シゴキとかされるんですけどー。


「あ、あんた前に新婚旅行に行きたがっていたじゃない?」

「朱莉……?」


 狂華さんの目がさらに昏く!?

 っていうか!!


「確かに新婚旅行には行きたいって思ってましたけどそれは――」


 柚那とで。

 咲月が生まれて少ししておちついたら、新婚旅行と家族旅行を兼ねて朔夜も一緒に旅行に行きたいなってそういうことで。


「ね?き、聞いての通り朱莉が行きたがってたのよ」

「………そう」


 最悪だああああああああ!この上司ほんと最悪っ!

 最初はいつも通り強気に行けば大丈夫だと思ってたっぽいけど、想像以上に狂華さんがキレてるし、だからって今更引っ込みつかないからってことで土壇場でチキってこっちに全部なすりつけやがった!!


「だから新婚旅行は三人で行きましょう!ね!?」


 だからじゃねえよ!俺はどこぞの人気声優か!!


「……………朱莉」

「はい、邪魔はしません!護衛に徹します!」

「そう。まあそういうことなら…」

「あ、えーっとごめん…ちなみに、今は3人だけど、部屋は4人部屋なんだ…けど」

「……」


 だからぁ!

 部屋を手配したのも、俺を新婚旅行に巻き込んだのもあなたの奥さんですよ!








 ……って、4人部屋…?




なお、京都には行きません。

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