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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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423/809

グランドエピローグ お見合い『ぶっ潰し』大作戦 2

具体的に場所がイメージできると書きやすいですね。取材大事。

18/11/09めっちゃコピペミスって後ろがぬけてましたすみません。

 難攻不落かと思われた時計坂さんは、俺が寿ちゃんの秘蔵写真を差し出すと驚きのチョロさを見せてくれ、朝陽の行き先をあっさりと教えてくれた。

 教えてくれたのだが・・・。



「なあ、愛純」

「はい、なんです?」

「なんで俺たちはこんなところで蕎麦食べてるんだ?」

「え、だってほら、ついでですし」


 そう言いながら愛純は箸代わりのネギと一緒に自撮りを決めた。



 時計坂さんの情報によれば、朝陽が向かったのは福島県は喜多方市。

 さすがにプライベートのことを根掘り葉掘り聞くわけにはいかなかったららしく、喜多方市のどこかまではわからなかったが『お土産にラーメンを買ってきますわねー』と上機嫌だったらしいので、まあ嘘ではないだろう。

 というか、食べ物の名物があるところに行ったなら、お見合いとかじゃなくてただの一人旅なのではないかという気もしていたのだが――


「ほいっと。投稿完了~ ・・・またいつもの変な顔してどうしたんですか朱莉さん?」

「いや、報酬も出ないのに愛純はSNS好きだなーと思って」


――愛純は頑として譲らず『絶対行く絶対行く 』と暴れたあげく『ついでですし途中でSNS映えする写真撮っていきましょうよ』とか言いだし、俺たち二人は途中で東北自動車道を降りて山間の村で二人仲良くこうして蕎麦を食べているという訳だ。


「これは投資ですよ。こうやって露出することでファンを増やす、それがゆくゆくは自分の将来につながる・・・って、小崎Pが言ってました」

「なんだかんだ小崎のこと好きだよな、お前も柚那も」

「小崎Pのおかげで芸能界で食えるようになったわけですし当たり前ですよ」

「柚那が聞いたら『半分は私のおかげですよ』とか言いそうだけどな」

「それも間違ってないです。・・・小崎Pがいて、ゆあちいがいて、宮野愛純はその後をついて行っただけですから・・・って、なんですか!?なんで人のおでこに手を当てるんですか!?」

「いや、珍しくしおらしい事言うから熱でもあるんじゃないかなと思って」

「朱莉さんってほんと失礼ですよね!」

「その自覚はあるけどさ・・・なあ、愛純。お前本当に自分の悩みはないのか?朝陽のことだけか?」

「私に一体何の悩みがあるって言うんですか」

「それはわかんないけどな。柿崎くんとは順調だっていうし、お金に困ってるって事もないだろうし」


 ・・・そういえば、愛純の実家の話って聞いたことがなかったな・・・。


「ね?私に悩みなんてないんですよ」


 笑いながらそう言うと、愛純は残っていた最後の蕎麦をちゅるんと啜った。

 

「ならいいんだけどな。さて、じゃあそろそろ行こうか。あんまり遅くなると朝陽を探す前に真っ暗になっちゃうからな」


 絶対なんか隠してると思うが、今はとりあえず朝陽のことが優先だ。

 俺はそう考えて席を立った。






「田舎の夜を甘く見てたな」

「ですね・・・」


 来る途中で気がついてはいたけれども、日没後の田舎の暗さは関東の中でも南部、東京に近いところで育った俺や愛純にとってはかなり衝撃的なものだった。

 いや、いままで田舎に行ったことがないかと言われればそんなことはないし、旅行なんかでも何度か行ったことはあるのだが、結局それは『旅行で行った』でしかなかったのだ。

 会津若松市内を抜け、会津縦貫北道路に入ったところで日没の時間を迎えると、あたりはすぐに暗くなり、しばらくいくと民家もまばらになってあたりはほぼ真っ暗になってしまった。


「・・・そんな会津縦貫道からお送りしております魔法少女★レディオー。パーソナリティの邑田朱莉でーす」

「ふぇっ!?アシスタントパーソナリティの宮野・・・って、ちょっとどうしたんですか?前々からポンコツ気味だなあとは思っていましたけど、ついに壊れたんですか?」

「いや、暗さと沈黙に耐えきれなくなってな」


 慌てて出てきたもんだからCDの類は積んでないし、つい今し方スマホのバッテリーも切れてしまった。

 じゃあラジオでも聴けよって話になるのだが、この間自分でナビを付け替えたときに、どうせ聞かないからいいかと面倒くさがって配線しなかったのだ。


「沈黙ってほど沈黙でもなかったじゃないですか」

「いや、お前暗さにまかせて、今ちょっと寝てたろ」

「ね、寝てませんよ。ええ、寝てませんとも」

「うそつけ。かなり規則的な寝息が聞こえてたし、俺がラジオをはじめたら『ふえっ?』とか言ってあわてて飛び起きたろうが」

「いや寝てないです。あれです。仮眠ごっこです」

「・・・・・・」

 

 ツッコミたいけどもういいや。市街地の灯りも近づいてきたし、今夜はあと宿を探して泊まるだけだなので一人でも大丈夫だろうし。

 

「ちょっとぉ、言いたいことがあるなら言ってくださいよ」

「いやもう別にいいんだけどさ・・・じゃあ一応聞くけど仮眠ごっこってなに?」

「寝たふりして、その間は何をされても覚えてないという体でかわりばんこにお互いの身体にいたずらしていくという私と柿崎さんお気に入りのプレ――」

「言わんでいい!!」


 なんて事してるの君たちは。っていうか、そんなプレイを純情な朱莉さんに教えないで!?柚那としたくなっちゃうじゃないの。


「朱莉さんが聞くから教えてあげたのに・・・まあ、それはともかくお腹空きましたね」

「え?」


 まだ大内宿出てから二時間ちょっとよ?


「いや、だって中途半端な時間だったから小さいサイズのおそばでしたし」

「まあ確かに蕎麦は小さいサイズだったけど、お前蕎麦の前にもSAでいろいろ食べてなかったか?」

「消化しました」

「・・・・・・」


 また太るぞ。


「ていっ!」


 突然叩かれた。


「なんかすごくイラッとするオーラが出てたので」

「また太るぞって考えてましたすみません」

「ちょっとくらい太ったっていいんですよ。収録中は変身魔法でごまかせるし、それに柿崎さんはちょっとぽっちゃりしている私も愛してるって言ってくれてましたから」


 それ、本当に言ってくれたの?愛純が無理矢理言わせたんじゃないの?


「ていっ!!」




 そんなこんなで愛純の機嫌を損ね続けてしまった俺は喜多方ラーメンをおごるという約束をさせられてしまい、おそらくメインストリートであろうところをゆっくり走っていた。


「あ!あそこいいんじゃないか?黒い看板のとこ」

「ええーっ・・・さっき隣の市で見ましたよ。チェーン店じゃなくてなんかこう、この土地のお店って感じのところがいいです」


 愛純の店に対する要求は結構厳しく、あの店もいや、この店もいやと言っているうちに市街地を抜け住宅街に入ってしまった。

 もうこの先はどう考えても山に入っていく道だというところまできたところで、俺はUターンをして市街地に戻ろうと考え、一旦スーパーの駐車場に車を入れるために左折した。


「あ!あのお店にしましょうよ!なんかお店自体もちっちゃくてかわいいし、割と好みです」

「ここでいいんだな?よし入ろう」


 ぶっちゃけ、愛純がラーメンラーメン言い続けていたものだからいつの間にか俺もラーメンを食べる気まんまんになってしまっているのだ。

 どのくらいラーメンが食べたいかと言えば『好みのお店がないんでやっぱりやーめた。ファミレス行きましょう』なんて話になったとしても、ファミレスでラーメンを頼むレベルだ。

 そんな状態だったので、俺は今までにないくらいにスムーズな車庫入れを決め、愛純と共に店ののれんをくぐった。


「いらっしゃいませー、何名さ・・・ふぁぁ・・・」


 おっと、店員の若い女の子に気づかれてしまったようだ。

 変装をしててもあふれ出す俺と愛純のオーラは隠せな・・・あ、暗くなったからサングラス外したの忘れてた。

 愛純も同時に同じ事に思い当たったらしく、片手で目のあたりを隠すようにしている・・・って、なんかそういうビデオのパッケージみたいだからやめたほうがいいぞ。

 店内には俺達の他に一組の老夫婦がいるだけで、幸いなことにそっちには気づかれてないっぽい。


「えっと、二名なんですけど、あっちの小上がり大丈夫ですか?」

「あ、はい!どうぞどうぞ!」


 若い店員の女の子そう言って俺と愛純を小上がりの席に通してくれた。


「さて、どうしようかな」

「チャーシュー麺一択ですよ」

「むむむ・・・たしかにラーメン食べたいってなっているときにこのビジュアルはヤバいな、いや、でもこの豚バラチャーシュー麺も」

「これ絶対厚みがヤバい奴ですよね!うっはあ、アガるー!」

「お冷やとおしぼりですー」


 さっきの女の子がそう言って俺と愛純の前にコップとおしぼりを置いた。


「これ、これってチャーシューどのくらいなんですか?」

「ええと、厚さがこのくらいで、大きさはこのくらいですね」


 店員さんはテンションの高い愛純の質問にそう答えた後で

 

「姉子ちゃんも、うち来るといつもそれ頼むんですよ」


 そう言ってにっこりと笑った。

 

「そっか、姉子のお気に入りなら間違いないな・・・」

「ですね、姉子のお気に入りなら・・・」


 ・・・・・・・・・・・・え?なんだって?


「・・・店員さん、今誰のお気に入りって言いました?」

「えっと、姉子ちゃんですか?」

「え、ええと、蛇ヶ端姉子の話してます?他の子じゃなくて」

「あ、そっか、秋山朝陽ちゃんのほうがわかりよがっだですよね」

「ここって朝陽が来るんですか!?」

「え?ええ、ここ一年くらいはわりと頻繁に」

「今日来ました!?」

「来てませんけど・・・何かあったんですか?」

「あったんです!詳しい話は後でするんでとりあえず豚バラチャーシュー麺をください!」

「は、はい」

「あ、俺は普通のチャーシュー麺で」

「承りましたー」




 チャーシュー麺を食べ終わった俺と愛純がくつろいでいると、先ほどの店員さんがやってきて、コップにお冷やのおかわりを注いでくれた。


「あの、お仕事中にもうしわけないんですけど、姉子のことをすこし聞かせてもらっても良いですか?」


 俺と愛純の知らない朝陽の時間を知っている人がせっかく近くに来てくれたのだ。このチャンスを逃すとマジで朝陽の足取りがつかめなくなるかもしれない。

 

「はい、大丈夫ですけど・・・姉子ちゃんなにかあったんですか?」

「なにかあったというか、これからなにかありそうというか」

「あの子、お見合いさせられそうなんですよ」

「はぁ・・・お見合い、ですか?」


 店員さんはいまいちピンとこないのか、少し首をかしげた。


「ああ見えてあの子って結構いいところのお嬢様なんですよ」

「ええ、それは知っていますけど・・・お見合い・・・お見合いですか・・・」


 店員さんは腕を組むと「うーん・・・」と唸って天井を見上げる。


「多分、ないと思いますけどね・・・」

「だって、私ちゃんと聞いたんですよ!?」

「だとしても、今はもう蛇ヶ端さんとこの本家はこっちじゃないですし、お見合いをするにしてもわざわざこっちでお見合いをするっていうことはないんじゃないでしょうか」

「蛇ヶ端さんの・・・」

「・・・本家?」

「あれ?ご存じじゃありませんでした?」

「え、ちょっと待ってください。朝陽・・・姉子ってここの出身なんですか?」

「はい、そうですよ。小学校にあがるくらいまではこっちにいたんですけどお父さんの仕事の都合で、ご隠居さん夫婦をのこして引っ越したんです」


 朝陽のことはほとんど知っているつもりだったけどそんな話全然聞いたことがなかった。


「でも、そんなことを知っているなんて、店員さんは一体・・・」

「あ、ごめんなさい。私は長澤澪。姉子ちゃんのはとこで、いわゆる幼なじみという奴です」


 そう言って澪ちゃんはどことなく朝陽に似た印象の笑顔で笑った。

この間食べたばかりなのに書いてたらラーメン食べたくなってきた。

ちなみに今回のラーメンのお店はさくら亭さん。あっさり目のスープとこってりながらもさっぱり食べられるチャーシュー、他のお店やよくお土産で売っている奴とはちょっと違う、もちもちの中太縮れ麺がたまりませんぞ。

もしも喜多方に行かれた際には是非。

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