グランドエピローグ JK2-7 ジュリとティアラ 2
問題の空き倉庫へ向かう途中で、俺とティアラは目の周りを怪しげなマスクで覆った少女に出くわした。
なるほど『少佐』ね。金髪でこういうマスクをかぶっていれば確かに見た目は少佐って感じだ。どこの少佐とは言わないけど。
「え、えっと、なんですか?私は怪しいものではないですよ」
そんなマスクをしているやつが怪しくないなら世の中から職質が消えてなくなるわ。
「なんですかって・・・むしろなんでこんなところに君がいるんだ?」
「・・・・・・わ、私のことを知っているような口ぶりですね。あなたとは初めてあうはずですけど」
「オーラでわかるとは言わないけど、知っている子なら魔力の質で変身していてもなんとなく誰かはわかるからとぼけようとしても無駄だよ」
「ジュリはこの子のこと知っているの?」
「知ってるも何も、この子はあかりの友達だよ。んで、イタリアの連絡将校」
「・・・・・・ってことになってましたけどね。はぁっ、朱莉さんも大概チートですよね。なんすか魔力の質って」
俺に正体を見破られたことで、マスクを外して少佐モードを解除した茉莉花ちゃんが大きなため息をつきながらそう言った
「失礼な、俺はチート能力なんて持ってないぞ」
「うちの両親が言ってましたよ。『あいつのチート能力はギャルゲー主人公みたいに口八丁で相手を好き勝手操ることだって』」
「ひどい両親だな。っていうか、茉莉花ちゃんのご両親って俺のこと知ってるの?」
「え?」
「え?」
「私の両親、知らないんですか?」
「イタリア人と日本人だろ?そんな組み合わせの夫婦の知り合いいたかな・・・」
いや、本当に心当たりがないんだけど。
「・・・・・・わからないならいいです。そのほうがおもしろいし」
「面白い?」
「そのうちわかりますよ。それで私がなんでこんなところにいるかというと、都さんから依頼を受けたからです。元々は左右澤一派に探りを入れろっていう話で内偵していたんですけど、朱莉さんが左右澤一派を壊滅させた後は錆山のほうを探ってたんです」
まあ結局壊滅どころか解散すらさせられなかったんだけどね。
「それで中から出てきたのか。ちなみにハナとエリスは中にいる?」
「ああ、そうだった。関先輩と村雨先輩、それに左右澤が中で錆山とバトってるんで助けに行かなきゃいけないんでした」
「それを早く言ってよ!ほら、朱莉ちゃん行くよ!」
「あ、うん。ちなみに茉莉花ちゃん、錆山の魔法ってどんな魔法?」
「金属をさび付かせるんだったかな、なんか錆の魔法でしたよ。直接見たことないですけど」
「え、錆びるの?」
確かこの義手ってステンレスとかアルミだけじゃなくて鉄も含んでいたはずだから――――
『また壊してきたのー?え?錆なの?なんでお手入れしないの?お手入れしていれば防げるはずなのー持ち主がお手入れしないのになんで私がお手入れしてあげなきゃいけないの?』
――なんかもう翠にチクチクやられる未来しか見えない。
「ねえ、こまちちゃん、今回の敵お願いしてもいい?」
「あ、うん。かまわないよ。義手が錆びると大変だもんね。じゃあほら、早く行くよ」
「ああ、こまちさんが出てくれるなら私が出なくても安心だ」
「え?どういうこと?」
「錆山カルマは喧嘩慣れしているし結構強いんですよ。普通に魔力を使った身体能力のブーストもできるんで、たぶんあかりよりは強いかな」
今の俺とこまちちゃん・・・ジュリとティアラはあかりよりも弱いんですけど
「私でギリって感じですね」
「嘘つけ、君は絶対奥の手を隠してるだろ」
昨年末にいいところまで俺を追い詰めた美雪たんとエリザベスの連携魔法・・・・・・いや、まあエリザベスが役に立っていたかどうかは置いておくとして二人をあそこまで育てたのは彼女な訳で、俺としてはジャンヌ、ユーリア、小花クラスとまではいかなくても、和希とか朝陽、悪くても桃花ちゃんクラスの実力はあると思う。
「・・・奥の手はギリギリまで出さないから奥の手っていうんですよ」
なるほど、都さんとは真逆の考え方だな。あの人は最初から全力で叩き潰すっていう主義だし。
「その状態でも二人がかりなら楽勝だと思いますよ。ということでわたしはこれで」
「さっきも言ったとおり義手が錆びるのはちょっと勘弁してほしいなと」
「なんか言いたげな目でチラチラこっち見るのやめてくださいよ。私は戦わなくていいなら、できれば戦いたくないんですから」
「まあまあ、そう言わずにさ」
「ちょ、なんですか!?何で捕まえるんですか!?」
「俺の代わりに戦ってくれないと君の正体をあかりに言うぞ」
「いや、あなた私のこと何もわかってないでしょうが」
まあそうなんだけどね。
「じゃあ、あかりに黙って危険なことをしていたって言うぞ」
「って、脅されたってあかりに言いますよ」
「くっ・・・卑怯な」
なんていいカウンターを撃つんだこの子。
そんなの絶対俺が怒られる奴じゃないか。
「じゃあ――――」
「朱莉ちゃんさあ、ハナが危ないんだけどいつまでべちゃくちゃしゃべってる気?」
「あ、ごめんなさい」
怒ったこまちちゃんの顔超怖い。
本当に帰ってしまった茉莉花ちゃんと別れ、俺とティアラが茉莉花ちゃんに教えてもらった錆山たちのたまり場になっているという倉庫の扉の前にやってくると、中からややハスキーな、宝塚の男役のような聞こえてきた。おそらく錆山だろう。
「・・・だから私は、シードから入ったにわかじゃないんだ。だからこそのこの格好、この髪型、そしてあの相方」
あなたの相方、こっちのスパイでしたけどね。
「そう、私はORIGINから入った、いわば超古参なんだ」
ORIGINからとか、シードなんて話にならないくらいにわかじゃないですかやだー。
「一体何の話をしているんだろう・・・」
「何の話をしてるんだろうね、わからないね」
「・・・なんか知ってるって顔してるけど」
「みんなどうして俺の顔で考えていることがわかるんだろ」
「朱莉ちゃんが単純だからでしょ。で、話の内容がわかってる朱莉ちゃん、このまま突っ込んで大丈夫だと思う?」
「大丈夫だと思うよ。錆山はただたんに自分の好きなアニメの話をしているだけだし、罠があるような気配もない」
とはいえ、ハナたちの声が聞こえないのでハナたちがここにいるのかどうはよくわからない。茉莉花ちゃんはハナたちと入れ替わりに出てきているし、こまちちゃんに怒られたように俺は茉莉花ちゃんと少し話し込んでしまった。それにすこし魔力が回復するまでまっていたのでその時間もかかっている。
なのでもしかしたらハナとエリスと左右澤くんはすでにやられてどこかに連れ去られているという可能性もある。
「ねえ、こまちちゃん。本当にその格好で行くの?」
「行くよ」
「田中ティアラじゃなくて、能代こまちでいいんだね?」
「だってティアラじゃ勝てないんだもん、しょうがないよ」
茉莉花ちゃんに二人なら勝てるけどティアラだけじゃ勝てないと断言されたこまちちゃんは変身を解除して、さらにそれから少し時間をおいて魔力を回復させていまここにいる。
だから普通に戦って錆山に負けるようなことはないと思うし、それどころか、たとえ罠が張ってあったとしても負けることはないだろう。
ただ、ここでこまちちゃんが登場する、それだけならいいが、こまちちゃんが登場し、さらにこの近くにいるはずのティアラが現れない。
そうなれば、さすがのハナだって、ティアラの招待が誰なのかと言うことに思い至るだろう。
ティアラの正体がばれてしまえば、そこからなし崩し的にジュリの正体もばれるかもしれない。いやそれはいい。それで二人に嫌われたとしても、自分の利益のためにジュリとして二人を長くだましてきた俺の責任だ。だが、ティアラは、こまちちゃんがティアラになっていたのは、妹と仲良くしたい、仲直りしたいという思いがあってのことだ。
やりかたは褒められたものではない。でもその思いは本物だと思う。
「やっぱり俺がやるよ」
「義手壊したら翠におこられるよ」
「だとしてもさ。君とハナにはまだ時間が必要だと思うし、そのためにせっっかく積み上げてきたものをここで崩すべきじゃない」
「・・・・・・はぁっ、そんなこと言われたら絶対朱莉ちゃんにやらせるわけにいかないじゃない」
「え?」
「そんな格好いいこと言われて、見事に妹を助けてもらったら私が惚れちゃうって」
「ええええっ!?」
「あはは、うそうそ。でもそんな格好よく活躍する朱莉ちゃんをみたら、せっかくあの子が朱莉ちゃんに近づかないようにって私が頑張って吹き込んできた悪評が吹っ飛んじゃう」
犯人はおまえか!!
「いや、そんなことくらいでハナは俺に惚れたりしないよ」
「やーだよ。私がやるったらやるの」
「こまちちゃん・・・」
「・・・ありがとね。それと、無理やり何度も付き合わせちゃってごめん」
「無理矢理なんてことはないよ。俺も楽しかったし」
「そういうところ、ほんと優しいよね朱莉ちゃんは」
「いやいや、本音だよこれは」
JKの二人のところに来るのは楽しかったし、もちろんティアラと一緒に過ごすのも楽しかった。これは紛れもない俺の本音だ。
「だからできれば、ティアラの正体もばらさないで済むようにしたいんだ」
「でもそれだと錆山カルマには勝てないんだよ?」
「そうなんだよなあ・・・」
だから本当は茉莉花ちゃんにティアラに扮してもらいたかったんだけど、「もう魔力切れ」だとか「もっと頼りになる人がそばにいるでしょ」とかなんとか適当なこといって帰っちゃったからなあ。まあ、あながち全部が適当ってわけでもないんだけどさ。
たしかに今、この地区には頼りになる仲間は多い。
とはいえ、あかりたちに頼むとハナたちの立つ瀬がなくなっちゃうし・・・あとは手伝ってって頼むと後が怖いんだよなあ。
「あーあ、だれか秘密が守れて、俺とこまちちゃんのために働いてくれてさらにはあかりよりも強い魔法少女でもいないかなあ。多少の報酬だったら払うのもやぶさかではないんだけど」
俺はダメ元で『多少の』を強調して、誰に言うともなくそんな独り言を言ってみた。
すると――――
「朱莉さん、今何でもするっていいました?」
「いいましたよね?」
いやそこまでは言ってない
そこまでは言ってないけど
「最大限努力はするから手伝ってもらえるか、朝陽、愛純、それと――セナ」
「って、え!?セナ!?いつからいたの!?」
って、こまちちゃん気づいてなかったんかーい。
「お姉様が、朱莉さんに惚れるとか惚れないとかのあたりです」
うそやん。俺が茉莉花ちゃんにジェスチャーで尾行している三人のことを教えてもらったときにはいたんだから、もっと前からいたじゃん。
「あ、あれはその・・・ちがうよ、本気で言っていたんじゃなくて、リップサービスだから」
「ええ、ええ。わかってますよ。大丈夫ですよ。一人で華絵ちゃんのところに行くと言っておきながら朱莉さんを連れて行ったことも、日帰りだって言ってたのに一泊してたこともぜーんぶサービスなんですよねー」
「や、やましいことはないよ!やましいことはないけど・・・ごめんなさい」
「はい。いいですよ。今回は特別に許してあげますし、手伝ってあげます」
「セ、セナぁ」
よしよし。仲良きことは美しきかな。いつの間にか最初の頃と主従関係というかイニシアティヴが逆転してるけど気にしないようにしよう。
「で、こっちも頼めるか、朝陽、愛純」
「もちろんですわ」
「いいですけど高いですからね」
頼りになる二人はそう言って頷いてくれた。




