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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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散歩する"元”侵略者 3 東北支部

 東北寮・兼東北支部。

 仙台市内の山中にあるこの建物では現在、二組のお説教大会が実施されていた。


「あのなあ、健人…」

「はい、なんでしょう斗真さん」

「総統に叱られているときくらい桃花ちゃんから離れろ!」

「嫌です」


 犬山健人は虎徹に怒鳴られても悪びれることもなくそう言って膝の上に抱いた若松桃花を後ろからギュッと抱きしめる。


「お前な…」

「そもそも叱られるいわれがないじゃないですか。僕らの仕事はパートナーを見つけて繁殖をすること。そして今僕はパートナーと絆を深めている。つまり絶賛仕事中ということです」


 堂々と、真っ直ぐな視線で理央と虎徹を見ながら犬山はそう答えた。

 犬山に抱きすくめられている桃花は無言で居心地の悪そうな顔をしているが、抜け出ようとする意思はなさそうなので現状に消極的賛成といったところだろうが。


「その仕事熱心さについて、苦情がきているから言っているんだろう」

「斗真さんだって変わらないじゃないですか。いつも彩夏ちゃんとイチャイチャイチャイチャ」

「はぁっ……すみません寿さん……」


 何を言っても暖簾に腕押し、ああ言えばこう言う犬山の態度に辟易した虎徹は同席していた寿に任せることにした。


「はいはい……あのね、犬山くん。あと桃花」

「なんでしょう」

「あなたの仕事はそれで捗るかもしれないけれど、あなたと付き合うようになってから桃花の仕事がはかどらないどころか全滅してるのよ」


 これについては思い当たるところがあるのか、桃花が寿のほうから顔を背ける。


「斗真さんと彩夏もたしかに一緒に仕事しているとイチャイチャイチャイチャ、それはもうイチャイチャしているけれどね、二人共ちゃんと仕事はしているの。ああ、ここで言う仕事っていうのは、給料に見合った仕事ということね」

「………」

「何が言いたいかと言えば、あなた達二人は現場仕事をしていない、それどころか稼働していないのにこの施設を使って生活しているということは、赤字を垂れ流している。そういう状況なわけ」


 そう言ってメガネを外すと、寿は大きなため息を付きながら目頭を抑える。


「あなたたちにわかるかしら?自分に全く非がないのに、毎週、毎日、数時間置きに蒔菜から『あれ?まだ働かせられないの?』だの、『』『マネジメントがなってない』だの、『やめちゃえば?』だのと突き上げを食らう私の気持ちが!」


 蒔菜に言われたことを思い出して、わなわなと震える寿。

 桃花は蒔菜の『やめちゃえば?』は東北なんてやめて本部にこいってことなんじゃないだろうかと思ったが、余計なことを言って火に油を注いでも嫌なので口をつぐむ。 


「桃花」

「は、はい」

「柚那がそろそろ産休と育休に入るから関東チームの人が足りなくなりそうなのよ」

「…………いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいそれはおかしい、それは駄目ですって」


 寿の言わんとしていることを理解した桃花が慌てて首を振る。


「犬山くんと離れて、単身赴任で柚那と愛純のところに行きたい?そうね…期間はだいたい一年くらいかしらね」

「いやあああああああっ!あの二人本当に怖いんです、やめてください!それだけは、本当に!」


 どうやら犬山と離れることよりも柚那と愛純のところに行くことのほうが嫌であるらしい桃花はそう言って犬山の膝の上から降りると、床に這いつくばるようにして寿の足にすがりつく。


「それに朱莉さんが上司とか本当に嫌です。っていうか、あそこでまともなの朝陽ちゃんくらいじゃないですか!」

「え?そ、そう?」


 朝陽も相当なものだと思うけど、と寿は喉まで出かかった言葉を飲み込む。


「と、とにかく、今のままなら二人をセットで置いておくわけにはいかないって話よ。あと、もう良いからちゃんと椅子に座りなさい」

「はい…」

「健人」

「なんでしょう」

「お前も、あまり東北チームに迷惑をかけるようなら艦に戻す」

「ええっ!?さっきも言ったように僕はちゃんと仕事を――」

「それだけが仕事じゃないだろう」

「ううっ…」

「というかお前の仕事についてはかなり譲歩したよな?お前の仕事はなんだ?言ってみろ」

「イベントや外出時の桃花ちゃんの護衛です…」

「そうだな。普通にやっていれば桃花ちゃんと一緒にいられるし、お前にとって何の不満もない仕事のはずだし、戦技研も桃花ちゃんの護衛に黒服さんの人数をさかなくて良くなるからウインウインの仕事だな」


 なのにだ。と虎徹が続ける。


「イベントでいちゃついているところをスタッフに見つかって結局黒服さんに記憶操作をお願いしなきゃいけないのは本末転倒だろうが!」

「すみません……」


 流石にこれには反論できないと思った犬山は、今度は素直に謝った。


「理央さんも何か言ってやってください」

「構いませんから桃花にもバシッとお願いします」


 ここまで黙って目を閉じていた理央に虎徹と寿が話を振るが、当の理央は話を何故かすこしビクッとした後、バツが悪そうな顔で口を開いた。


「ん…?あ、あー…まあ、節度は守ろうな」

「理央さん!?」

「まあまあ落ち着け。犬山も反省しているようだし、これからは気をつけるよな?」

「は、はい!」

「だったら今回は口頭注意で、経過観察でいいんじゃないか?まだ付き合いたてと言っていいくらいだし、もう少ししたら落ち着くだろう。それに犬山のせいで桃花ちゃんを嫌がっている所に行かせるというのもしのびないしな。どうだろう虎徹、寿さん、ここは俺の顔に免じて」

「理央さんがそこまで言うなら、まあ…」

「しかたないですね…」

「すまんな。犬山、桃花ちゃん、そういうことだからこれからは気をつけるようにな」

「い、いい人だ!うちの隊長とか、司令官とかに爪の垢を煎じて飲んでほしい…」

「…桃花?」

「なんでもありません!」



――同時刻、東北支部別室。


「……というわけで、経済的にはともかく、あまり余裕のない人員的に結構な被害が出ているというのが現状です」


 彩夏の説明を聞いて、流石の聖も自体の深刻さに青ざめた。


「夏緒、あんた本当になにしてんの?」

「え?もちろん旦那探しだけど」

「旦那候補を何人も疲労で休職に追い込んじゃいかんでしょ!?」

「何人もって、まだ二人よ?今彼はフィジカル強いから大丈夫そうだし。それにそういうことばっかりしているわけじゃないわよ。ちゃんとこの国の奥さんっていうのを学んでいるし、そういうノウハウをまとめて、次来る子のためにハンドブックだってつくってるもの。あと左手で暴徒鎮圧なんかの治安維持活動にも参加しているし」

「くっ…夏緒のそういう『仕事だけはちゃんとやる』ってところが逆に腹立つ!」

「いや、聖はもう少し仕事しなさいよ?」

「ぎゃふん」


 夏緒を叱っているつもりがいつの間にかリオに叱られていた聖が藪蛇だったと顔をしかめる。


「でも聖さんの言う通りで、夏緒さんって仕事はちゃんとやるんですよね…余計なこともしますけど」

「あら?この間虎徹くんと一緒に私の私室に閉じ込めたことを言ってるのかしら?」

「催淫付きでね!こっちは覚えてないのにこてっちゃんに『ああいう彩夏ちゃんも好きだよ』とか言われた私の気持ちがわかりますか!?」

「わかんなーい」


 悪びれた様子もなくヘラヘラと笑う夏緒。


「ああもうほんと腹立つなあこの人!!」

「いやでもね、彩夏。私のこの魔法、催淫なんて言ってるけど正しくは欲望開放なのよ?つまり、その人の隠し持っている願望を表に出やすくするってだけ」


 そう言って右手をわきわきと動かす夏緒。


「え?」

「つまり、虎徹くんの言う『ああいう彩夏ちゃん』はあなた自身の欲望ってことよ」

「嘘だ!……とは、まあ…言えなくもない…ような…」

「ね?」

「うう…認めたくねー……」

「勝った!」

「いや、勝ってないから。あんたはとりあえずその懲罰房に入れられるようなことをするのとか、彼を使い潰すのやめなさい」

「だから今彼は大丈夫だし、懲罰房とか言ってるけどあそこはもう私と彼の部屋なんだからあそこに帰るのはあたりまえなんだって」

「まあ確かに懲罰房というよりすでに夏緒さんと彼氏さんの同棲部屋ですけどね」


 夏緒がどうでもいいところで聖に反論し、彩夏がそれを肯定する。


「この資料を見ると、東北チームのメンバーへの被害は収まっているっていうことでいいのかしら」


 黙って資料に目を通していたリオの確認に彩夏がうなずく。


「そうですね。それに夏緒さんの言う通り今の彼氏さんは丈夫というか、夏緒さんについていけているようなので人的被害も新たには出ていないです」

「そう。なら夏緒のことはもう少し様子見でお願いしてもいいかしら?」

「ええ、さっきも言ったように仕事はちゃんとしてくれていますので、こちらとしては黒服つぶしさえなければぜひいてほしい人材ですから」

「私は聖と違うからね」

「くっ…反論したいのに反論できない。でも働きたくない…」

「勝った!」

「負けた…」

「聖に勝ったとは言っても仕事をしなかったり、あまり人に迷惑をかけるようだったら月に戻しますからね。それは忘れないように」


 リオがそう釘を刺すと、夏緒はニッコリと笑ってうなずく。


「もちろんです。私はここが気に入っていますしね」

「そう、だったらいいのだけど」

「迷惑をかけたりいたずらをするのは月の仲間(・・・・)だけにします」


 そう言って夏緒はリオに握手を求めるように右手を差し出す。


「あまり酷いいたずらはしないようにね」


 リオはそう言って夏緒の右手を握って握手をする。


「じゃあこれでおしまいってことで、私は彼ピッピのところに行きますねー」


 夏緒はパッと手を離して部屋の入口に移動し、ドアノブを掴んだところで振り返る。


「リオさんも、早く彼氏ができると(・・・・・・・・・)いいですね」


 妖艶な笑顔を浮かべてそう言うと、夏緒は部屋の外に出ていった。






















…東北淫獣しかおらんやんけ。


ということで、エピローグシリーズ恒例のキャラ語り。

名前のあるキャラはできるだけ語ってくよー。



・犬山健人

 健人は犬人にしようかなと思っていたけど犬犬しすぎなので健人に。

 基本温厚だけど欲望に忠実で、なついた相手にはとことん尽くす。普通に犬。

 結局本編では一回も戦ってないけれど得意魔法は回復魔法と獣人化。


 みつきさんの予言した未来では獣人化で大暴れ。力任せだけに小細工が通用しないガチムチパワー系なので戦うなら単純にパワー勝負で押し切る必要があるが楓や狂華の最大出力より硬い上に自分で回復魔法をかけるので、戦技研にはタイマンで犬山に対抗できる人間はおらず、数で追い込んで大損害を出しながらなんとか倒した…という設定。

 島しょ部編で朱莉が犬猫との戦いを避けたかったのはみつきさんからこれを聞いていたから。


 ちなみに桃花は獣人化した後の彼のもふもふした感じも好きでそっちともいちゃつく。

 ……獣人化した犬山と桃花のことを考えると本が薄くなりますね。



・若松桃花

 じつはこまち並に初期設定から設定が変わった子。

 最初は柚那と愛純の後輩(もともと女)で、どちらかというと朱莉に二人の過去・弱点を教えてくれる役回りだったはずなのに、男の娘になるわ、柚那と愛純が強すぎて逆に二人が桃花の弱点になるわ、蛇食わされるわ、女好きだったはずなのに男と結婚することになるわで酷い役回りに。まあ、これはこれでいいキャラなので良しとします。

 容姿のイメージは幸子。どこのアイドルの幸子とは言いませんが幸子です。

 犬派猫派で言うと犬派。

 実家は福島のトマト農家で、息子がご当地魔法少女をやっているだけでも複雑だったのに、婚約者(男)を連れてきてさらに困惑するも、犬山が(表向き)好青年だったので、まあ別にいいかとなった。田舎の農家が別に良いかとなるかどうかは突っ込んではいけない。

 桃太郎トマト、美味しいよ!


・涼風夏緒

 サボり魔だけど怒られたくないので表向き優等生してる聖と真逆。

 仕事はするけど、怒られてもいいから余計なことをしたい人。いたずら好き。

 洞察力があるだけに周りから本気で殺意を抱かれるようなギャンブル的ないたずらはしていない。

 最後の一回を除いて

 

 異星人チームの中では大人組(容姿は20代)なのでリオのことは聖同様リオさんと呼ぶ(年少組は役職の『シスター』呼び)。

 最初のメモには異星人版チアキさんって書いてあるけど、ずいぶんかけ離れた人になった。

 地球版七罪の設定がなかった頃(都すらいない本当に最初の方)は最初の敵幹部として出てきてチアキさんと更年―――大人の女同士の戦いを演じる予定だった。そのころの設定は四十路だったので、現在より大分年齢が高い。

 

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