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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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グランド・エピローグ JK 未来は僕らの手の中 5

「あんたほんとに最悪ね」

「それ、褒め言葉なの」


 私の言葉に、翠はヘラヘラと笑いながら答えた。

 未来の柚那さんが朱莉さんと柚那さんと愛純さんと朝陽さん、それに朔夜にだけ伝えたいことがあるということで退室した私達は、関東寮のラウンジに移動して一休みすることにしたのだが、今回の首謀者である翠に文句の一つでも言ってやろうと色々言っているが、何を言っても暖簾に腕押しで聞きやしない。


「まー、ハチは熱くなりやすいし単純だから、頭いい人からしたら操りやすそうだよね」

「那奈にだけは言われたくないわ、それ」

「二人は仲良しだねえ」


 ちなみに、ハナとエリスは別で都さんに呼ばれているのでラウンジには私と那奈、そして少し離れた所にこちらに背中を向けて座っている正宗だけだ。


「そっちの彼…えーっと…正宗くんはどうなの?っていうか、こっちおいでよ」

「あ…いや…なんというか…後で行き…ます」

「とりあえず、晴ちゃんにおっぱいあげるのやめなさいよ。いくら正宗だってこの状況でこっち来られないって」

「そーだよ、正宗ゆーわくすんのやめてよね」

「あっはっは、ケープの下だし、こんなの服着ているのとかわんないの」


 いや、変わるって。

 その下おっぱい丸出しなんでしょう!?

 

「……まあ、それはいいとして、なんで黙ってたわけ?朔夜が未来に戻れないって」

「サシでそんなこと伝えてヤケ起こされても面倒くさいの」

「あんたねえ……」


 性格が悪いと言うか、黒いと言うか…。どうせ何言っても堪えないんだろうから言わないけどさ。


「でもまあ今日やったのはメンツがいたからっていうのもあるけど、蜂子を信頼してのことなの。あそこで怒ってくれるのは、ああいうとき冷静になっちゃう柚那っちでも、瞬発力がない朱莉でもないと思ったの」

「また怒りづらい言い訳を」

「まあ、ハチは義に厚いっていうか身内に甘いからね」

「そうそう。なんかJKの中だとお母ちゃんって感じなの」

「リアルお母ちゃんに言われたくないわ!」




 授乳も終わり、正宗もやっと話の輪に入って来られるようになったが、朔夜たちはまだ戻らない。


「それはそれとして、翠さ」

「ん?なんなの正宗」

「ぶっちゃけどうだ?朔夜は未来に帰れないのか?」

「………」


 正宗の質問に、翠は驚いたような顔で一瞬固まった後、小さく『嫌なこと聞くなぁ…』とつぶやいた。


「彼がこっちにきた以上、不可能ではないと思うの。ただ、そもそもタイムパラドックスが起こって未来が改変されていたら彼の帰る場所は存在しないし、よしんば同じ座標に帰ったとしてもそこには彼の居場所はないと思うの」

「思うってことは、戻る場所がある可能性はあるんだよな?」

「観測できないものはないものとして考えるべきだと思うの。特に今回みたいに人の命がかかっている以上は、ね。多分、未来の私もそのへんを考えて戻れないって言ったんだと思うの。それに改変された未来に朔夜が戻ったとして、そこに彼の居場所がないだけならまだいいけど、戻った瞬間存在が消える可能性だってゼロじゃないの」

「そんなこと起こり得るの?」

「起こっていたとしても観測できないの。誰も朔夜を知る人がいない世界で朔夜が消えたとしてそれを誰が観測できるの?」

「あ、そっか。誰も知らない人が消えても誰も気が付かないのか」

「そうなの。人間は全知全能じゃないの。まだまだわからないことはたくさんあるし、それを探求することは大事だけど、同時に何かをする時に畏れを忘れてはいけないと思うの」

「人間って無力だよな。せっかく友達になったのために朔夜に何もしてやれない」

「そんなことないわよ。朔夜はあんたのおかげでスッキリしたって言ってたし」

「え?」

「先日うちの、朔夜が『泊まり』で『色々』お世話になったみたいで」


 まあ私や愛純さんや朝陽ちゃんや朱莉さんの愚痴を聞いてもらっただけらしいけど、本人的にはいいガス抜きになったらしい。


「ちょ…なにそれ、あーし聞いてない」

「おい蜂子、わざと誤解を招くような言い方するな!」

「ねえ、正宗、朔夜と何したわけ?」

「誤解だって、俺は別に朔夜とはなんもない!っていうか男同士だぞ!?」

「大晦日の時朔夜ならイケるって言ってたじゃない!あれは嘘だったの!?」

「そういえばそうじゃん!……正宗ぇ?」

「顔がこわいって!というか、ここでその話を引き合いに出すとか、蜂子は悪魔か!?」

「失礼な」



 私はどっちかといえばあんたの背中を押してあげているんでしょうが。ここでちゃんと朔夜のことを否定して告ってあげれば那奈は安心するし、あんたも恋人できるでしょって話よ。

 そうテレパシーを飛ばすと、ハッとした顔で正宗がこっちを見たので、私はその視線にサムズアップで答える。

 これで二人が付き合うようになれば休みの日に腰が重い朔夜をダブルデートの口実で連れ出しやすくなるし、もしかしたら最近朔夜がバカ正直に報告したせいで親に禁止されてしまったお泊りのアリバイ作りをお互い様ってことで那奈に頼みやすくなるかもしれない!


「あ、あのな、那奈」

「あによー」

「俺は那奈のことが好きだぞ。那奈とは本当にいい関係を築いていきたいと思うし、これから先も」

「よくわかんない」

「だから、その、俺と付き合ってくれって話だよ」

「………え?」

「付き合ってください」

「ほ、ほぅ、つまりあーしが、正宗と、っきぁぅ………と」


 おーい、なんか動揺して目がすごい動きしてるけど大丈夫かー


「駄目か?」


 ここで無駄に顔面偏差値が高い正宗のとっておきのキメ顔での追撃だー!


「い、いいいいけど、あーしそくばつくよいからね!?」


 おい、セリフ誤字ってんぞ。


「お弁当もあーしの作ったの以外食べちゃ駄目だから!」

「もちろんだ」


 おい待て、それは命にかかわるぞ正宗。


「でもあーし、あんまり料理とくいじゃないかんね!?」

「俺は華絵が作ったカレーをちゃんと残さず食べた男だぞ、どんとこい」


 なら安心だ。


「それはそれで複雑なんですけどーーー!!」

「どうしろっていうんだ!?」


 ほんとにね。





 結局遅くなってしまったということで今日は寮にお泊りということになったので、私と朔夜は朔夜にあてがわれたゲストルームで一緒にダラダラとストリーミングで音楽を聞きながら、本を読んだりスマホをいじりながらダラダラと話をしていた。



「なるほど、それであの二人はなんか変な空気になっていたわけか」


 私からさきほどラウンジで起こった那奈と正宗の告白の顛末を聞いた朔夜は、以前の彼はしなかった、年相応の男子が友達のゴシップネタを聞いた時にするようなニヤニヤとした顔で頷いた。


「というかあんたがそんな空気を読めるっていうのがちょっと驚きだわ」

「失礼な、僕はこれでも恋愛ごと、特にこと女心についてはわかっているつもりだぞ」

「…あんたのそういうとこ、朱莉さんに似てるわよね」

「そ、そうかな?ま、まあそれほどでもあるけど」


 褒めてない褒めてない。このファザコンめ。


「そう言えば、関と村雨はその時どうしてたんだ?」

「別件で、都さんのところに行ってたのよね」

「そうなのか、何の話だったんだろうな」

「うーん、結局戻ってこなかったからわからないんだけど…聞いてみようか?」

「いや、いいよ。プライベートな話だったら悪いし」

「なになに?まさかそれが女心がわかってる僕ってやつ?」

「そういう言い方するなよ!」

「あはは、ごめんごめん…………ところで、その…大丈夫?」

「うん?なにが?」

「その…未来に帰れないってこと」


 私は意図的にこの話題を避けていたのだが、朔夜もまったく触れないので逆に不安になってしまって、私の方から思い切って聞いてみることにした。


「ああ……まあ、正直ショックだし、まだちょっと整理できてない部分もあるんだけどさ。でも、あのビデオレターの後半おかげで救われたと言うか、がんばらなきゃなって思ってさ」

「そっか」


 意図的に未来の話題を避けていたのだから当然だけど、ビデオレターの後半の内容についても、特にこちらからは聞いていない。

 朔夜が話してくれるようになったら聞こうかなとは思っているけど、私が朔夜と一緒に歩いていくのは朔夜がきた未来とは違う未来だし、多分、朔夜だって未来の柚那さんから託された思いはあれど、それはわかっていると思う。

だから別に無理して聞かなくてもいいかなと思っている。


「ねえ朔夜」

「ん?」

「未来の柚那さんに言われたからってわけじゃないけど、私は多分あなたのそばを離れないし、多分この先もずっと付き合って、大人になったら結婚するんじゃないかなって思っている」

「そうか」

「うっわ、すっごい淡白だよ、うちの彼氏」

「いや、僕はその未来を『多分』じゃなくて絶対実現するつもりだからな」


 何こいつすごく可愛いんですけど!

 うちの彼氏マジでかわいいんですけど!?


「もちろんそれは、母さんに言われたからとかそういうんじゃなくて……僕がそうしたいと思ってるからだ。年末の事件の前にも言ったと思うけど、蜂子のおかげでこうして今僕は幸せに過ごしているし、友達もできた。そのもらった幸せの分、いや、もっともっと、それ以上に蜂子を幸せにしたいと思っている」

「いいのよ、そんなの気にしないで……なーんて、私は言わないわよ」

「知ってるよ。っていうか、むしろ間違っても『気にしないで朔夜の幸せを探して』とか言ったりするなよ?もっともっと幸せにしてくれって言ってくれ。そしたら僕は蜂子を幸せにするために頑張るから、だから――」


 私はまだ喋っている朔夜の頬を抑えて、自分の口で朔夜の口を塞いだ。


「言葉も大事だけど、行動でも示してね」

「ん、わかった」


 そう言って朔夜は普段の彼からは想像がつかないほど強い力で私の身体を抱き寄せ、今度は朔夜のほうからキスをしてくれた。


「幸せにする」

「『幸せになろう』のほうが嬉しいわ」

「そうだな」


 そして、私達はどちらからともなく。今日三度目のキスをした。

 その時流れていた曲は全然ムーディーな曲ではなかったけれど、私はその曲のタイトルを一生忘れないだろう。




To Be Continued…?



これにてJK Aパートおしまいでございます。



蛇足という名の裏語り


 正直、蜂子がここまで物語に食い込んでくるとはまったく思ってなかったんですよね。

 そもそも、最初はジュリ編をもうちょっと長くやるつもりで、那奈と蜂子は7番目、8番目に出てくるモブキャラのつもりで適当にデザインした子達(今見ると名前酷い。那奈はともかく蜂子は最初は蜂ですらなく『八子』になってる)なのでまさかこの子達のエンディングを書くことになるとはまったく思ってなかったし、朔夜も当初は死ぬ予定(もっと刹那的な性格で、腕がだめになった朱莉の代わりにステークシールド使って特攻して戦死する予定でした)で、柚那のお腹の子も朔夜になる予定だったんです。

 だけど、蜂子が朔夜を引っ張って引っ張って、那奈や華絵、エリスに正宗も巻き込んで年末の皆で遊ぶ話の時、作者に『あ、この朔夜は特攻なんてしない。ちゃんと未来を見てる』って思わせることに成功。こんな感じに着地しました。

 本当は華絵とエリスもこっちに入れたかったんですけどこっちの二人はまた別のエンディングがあったりするのでこっちではサラッとした扱いになってます。


 心残りがあるとすれば那奈と正宗もうちょっとちゃんと書きたかった。

 でも時間も場も足りなかった。



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