グランド・エピローグ JK 未来は僕らの手の中 2
「お、朔夜だ。いらっしゃい…いや、おかえり?」
「あれ?どうしたの、みんな揃って」
私達が戦技研本部の敷地内にある翠さんのラボに到着すると、検査着を着た朱莉さんと狂華さんが出迎えてくれた。
……って
「なんで帰ってきてるんですか!?」
「え?いや、精華さんが昼過ぎにこっちに来られて、都さんは出張中だっていうから早めにでてきたんだけど」
「はは……」
ああっ、朔夜ががっくりと膝をついて落ち込んでるーー!!
「あ…もしかしてボクらがでてくる時に出迎えてくれるつもりだったんじゃ…」
「あ、そういうことか!すまん朔夜」
「いえ、いいんです。無事でよかったです……」
「気にしないほうがいいわよ朔夜、この人あれだから」
「そうだよ朔夜、ハナの言う通り朱莉さんって前々からちょっとあれな所あるしさ」
ハナとエリスがそう言って朔夜を慰めるが、朱莉さんが朔夜の父親であることを考えると、あんまり慰めになっていない気がする。
「二人共酷いなあ」
いや、ことの元凶が楽しそうに笑いながら何を言ってるんだか……うん、ここは一つお仕置きが必要ね。
「ねえ、そう言えばジュ―」
「わああああああああっ!!」
「どしたの、朱莉さん」
「何を慌ててるの?」
「いや、ジュース!!ジュース飲みたいなって…俺がお金出すからみんなの分買ってきてもらっていいかな?あとほら、せっかく来てくれたんだし、お菓子とか、あとほら、なんか夕食に食べたいものあったら出前でもテイクアウトでもさ」
そう言って朱莉さんは検査着のポケットから財布を取り出して私達の方に差し出した。
「行くー!!ほら、正宗も朔夜も行くよ!ハナとエリスも」
おっと、那奈の奴、さてはさっきのことまだ引っかかってるな?
まあ、ここはそのほうが都合がいいんだけど。
「……ナッチ、ハッチと喧嘩でもしたの?」
「え?ハッチって誰?」
「ナッチの真顔怖っ!」
うーん……まあ、来る途中もからかった私が悪いけど、本気で怒ってるな、これは。
とりあえず今はいいけど後でちゃんと謝らないとなぁ。
「じゃあ行くよー」
そう言って那奈は朔夜たちの背中を押して研究室をでていった。
「えっと…ハッチ、なんかあったの?」
「来る途中で、ちょっと正宗と那奈のことをからかっちゃって」
「え?あの二人付き合ってるの?」
「付き合うかも、ってところですけどね。結局千鶴ちゃんには振られちゃったみたいですし」
「あ、そうなんだ……ハッチは行かなくていいの?」
「ええ。ちょっと翠さんにお願いがあるんで」
「え?俺じゃなくて翠?」
「はい。どこにいます?」
「ここにいるのー」
奥の部屋から能天気そうな翠さんの声が聞こえてきた。
「ちょっと手が離せないから話があるなら来てほしいのー」
「と、言うことらしいんで、行ってきます」
朱莉さんと狂華さんにそう言ってから、私は奥の部屋へと向かい、そして奥の部屋では、翠さんが―――
「なんでその人がここに?」
「色々と後始末をね」
「始末をつけないまま牢に入るわけにはいかないのでな」
―――大江恵と一緒にいた。
「と、いうことなのー」
「なのだ」
「ですか」
二人の説明によれば、大江さんはまだいくつかの計画を残していて、その計画を潰して精算するために協力しているのだとか。
「まあ、計画があって手下がいたと言っても、今一般人が使える程度の魔法持ちがほとんどなのだがな。ただ、ひなたと一美を襲った教団のように独自の進化を遂げている集団もあるかもしれないからな、万全を期すために協力しているというわけだ」
「なんで他人事みたいにいってるのー。そもそも余計な計画立てたのはあなただし、一般人の魔法少女化もあんたが手下を使って年末にダムというダムにナノマシン化を促進する薬をばら撒いたのが原因なのー」
「別に私だけではなかったではないか。それに私がやっておかなかれば日本は世界から取り残されているところだったぞ?むしろ感謝されてしかるべきだろう」
「もー、本当にああいえばこういうんだからー………ほんと、更年期ババアうぜえの」
「え!?こうねん……?」
「?何も言ってないのー」
「そうか?そうだよな…少し疲れているのかもしれないな…」
最初はなんか仲良さそうに見えたけど、それほど仲良くはない…のかな?
「それで、蜂子ちゃんは何の用なのー?」
「あ、そうでした。お忙しいとは思うんですけど」
「私達同じ歳だし、タメ口でいいの。あと名前も呼び捨てでいいの。逆にこっちも呼び捨てにさせてもらえると楽なの」
「OK。じゃあ、翠にお願いがあるんだけど」
「はいはい、なにかなー」
「私達にデバイスを作って欲しいの」
「無理なの」
「そこをなんとか!」
「正式にデバイスを作ろうとしたら、都ちゃんはじめ色んな人の決裁が必要になってくるの。私に言われても、はいやりますよとはいかないの」
「………」
「はっはっは、ならば私が作ってやろうではないか!」
「あ、大丈夫です」
「なぜだ!?」
うちの彼氏とか友達を人間爆弾とかマッチョにされても困るからだよJK。
「でもまあ、正式にデバイスを作らないのなら問題ないの。例えば作った試作品がたまたまJKに適合しちゃうとかそういうことなら…」
「ほんとっ!?」
さすが同学年!話せる!
「でもまあ理由によるの。必要なら作るけど、必要ないと思ったら作らないの。だから理由を聞かせてほしいの」
「その…朔夜を救いたいのよ。朔夜には言ってないけど、私達はチームみんなで一緒に未来に行って、未来と朔夜を救って戻ってきたいなって考えてる。そのためにはご当地くらいの能力じゃまだまだ足りないから、だからデバイスがほしい」
「なるほど……そういうことなの」
翠はそう言って少し悲しそうな顔で小さくため息をついた。
「……JKのみんなはこの後時間あるの?」
「え?うん。明日は土曜日だし、別に泊まろうと思えば泊まれるから」
「そっか。じゃあちょっと朔夜くんの件についてみんなに話すの。夕食をとったらみんなまたここに集合してほしいの」
「別に今でも全然構わないけど」
「そういうわけにもいかないの。……多分、すごく長くなるから、もうあとは寝るだけだーって状態で集まってほしいの。えっと、今日、JKはみんないるの?」
「うん」
「じゃあ、悪いんだけど朱莉と柚那っちとみゃすみんと朝陽を呼んでおいてほしいの」
「つまり関東チーム?」
「あ、狂華はいなくてへーきなの」
「チアキさんも?」
「大分お腹も大きくなってきてるし、あんまり変なストレスかけたくないから呼ばなくていいの」
「了解。じゃあ柚那さん達に声かけてくるね!」
「ちょっと待て東條蜂子!!」
部屋を出ていこうとした私を大江さんが呼び止めた。
「はあ…なんです?」
「デバイスなら私が作ってやると言っているではないか」
この人は…
「さぁ!どんなのがいい!?」
「翠」
「んー、朱莉が甘やかしたからって蜂子まで甘やかす必要はないと思うのー」
「わかった…大江さん」
「よしこい!」
「朱莉さんがあなたに対してどう思っているか、何を言ったか、そんなことは私にとってはどうでもいいことなんですよ」
「え…?」
「あなたが朱莉さんの影響で、前向きに頑張ろうとしているのはわかります。改心したのかもしれない、償おうとしているのかもしれない。でも、それでも私は、あなたの被害者は、まだまだ仲良しこよしでやろうって気分にはなれないんです」
「……」
「自分が心の狭い人間だってことはよくわかっています。それでも私は…」
あのときの恐怖を。
自分が死ぬかもしれない、誰かを巻き添えにしてしまうかもしれない、ハナやエリスを殺すかもしれないという恐怖を笑い飛ばせるほど強くない。
「そうだな…すまなかった」
「すみません、空気を悪くして」
「いや、全面的に私が悪い。君の言うとおりだ。朱莉が許してくれたからといってそれで私のやってきたことが帳消しになるわけではない」
「ま、これも人生経験なの。これから頑張っていくしかないの」
そう言って翠はうつむいている大江さんの肩をポンポンとたたいた。




