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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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決戦・浅草寺 1

「なあ!そう思うだろう!?!?!?!?邑田朱莉!!!!!」

「知らんがな」

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 いや、知らんがなと言ってしまって良いものかどうかちょっと迷うけれども、それは貴女の勘違いですよと、俺は声を大にしてそう言いたい。

 第二幕の幕開けを宣言した恵は何を思ったのかちょっと高いところに移動し、演説を開始した。

 まあ、高いところに移動したこと自体は別にいい。正直俺も都さんも他の皆も恵が一人で何もできないということはわかっているので放置して様子を見ていたのだが……


「というか、やめたら?その計画」


 恵の演説によれば、操ることこそ失敗したものの、俺は恵に心酔しているはずなので、まだ負けてないとか、ここから一発逆転があるとか、恵についた俺についてくる人間がいっぱい居て彼我の戦力はひっくり返るはずだとかなんとか。

 もちろんそんなトンデモ理論が実現するはずなどはなく「裏切る」と言った瞬間俺はみんなにボコボコにされるだろう。

 いや裏切らないけどさ。


「裏切った俺についてくる人間がいるっていうのもだけど、そもそもその俺がお前に心酔しているっていうのはいったいどこから出てきた話なんだ?」

「それは前に」

「前に?」

「喫茶店で、二人で話をしたじゃないか」

「ええっと……」


 ……ああ、あれか!魔白ちゃん事件のときか!


「真白ちゃんのジュースの件の時か?」

「そうだ!!あの時お前は、能力があるものが国を統べるべきだと言ったよな?」

「ああ、言ったけど」


 それは立法府なのにろくに立法もせず検察ごっこしてばっかりしている今の国会議員が総理大臣になるくらいなら都さんのがいいよなって意味だったんだけども。


「あとは、愛くるしさは正義だと」

「言ったな」


 おいおい、まさか自分が愛くるしいとか言うつもりじゃないだろうな。確かに恵は美人系よりはかわいい系だし顔の作りもわるくないんだが、なんていうか…お前ちゃんと手入れしてないよなっていうのが女の体からみると丸わかりで、もうちょっとこうスキンケアとかそういうのをしたほうがいいなって思う。

 あと愛くるしさ云々は狂華さんのことだ。


「正義のためならちょっとくらいのルール違反はみのがしちゃってもいいかなーって」

「言った」


 ひなたさんのことな。


「力に憧れると」

「言ったけどさ」


 それは楓のことな。


「母のような愛のある人間に憧れると!」

「うーん…」


 チアキさんな。


「それでいてちょっとスキがある人間が好きと、ラッキースケベは最高だと」

「あ…いや…」


 みんなの視線が痛いけどそれは精華さんのことなんです、みなさんのことではありません。本当です信じてください。


「それらすべてここにあるではないか!」


 そういって得意げに胸に手を当て、カッと目を見開きながら恵が吠える。


「いや、ねえよ」


 まったくねえよ?


「お……お前の目は節穴か!?」

「お前こそどんだけ自分大好きでプラス思考なんだよ。最初のは都さんだし次は狂華さんで、あとは順にひなたさん、楓、チアキさん、精華さんのことだよ」

「…………」


 あ、顔真っ赤。


「あんたって、ほんとに皆のこと好きよねぇ…」


 都さんも恵は今ので戦闘不能だと思ったのだろう。俺の隣にやってきてニヤニヤしながらそう言った。


「いや、そりゃまあ好きですよ。じゃなきゃこんな癖の強い人達のそばにいないで、柚那と二人でさっさとどっか外国の駐在に行きますって」


 実際、そういう話も水面下ではあったし、ひなたさんの様に国連預りという話も出ていた。

 しかし、俺は都さんに頼み込んでなんとかそれを回避してもらっていたのだ。


「まあ、そういうわけだから俺がお前についていくようなことはないし、もうあきらめろ」

「……諦める?」

「ああ。諦めろ。もうお前の負けだ」

「諦めるだと?この私に諦めろ!?冗談じゃない!私はいままで何事も成し遂げてきた人間だぞ!天才だぞ!?」


 たしかにコウさんと一緒にこの国での魔法少女化の基礎を築き上げたり、手術なしで魔法少女化させるということをやってのけたりしている以上、天才ではあるのだろう。

 天才ではあるが、天才であるがゆえになにかが欠落していると言うか、自分の得意分野以外ではとんと駄目というか。


「だとしても、もう無理だ。諦めろ。知ってる人間に怪我されるのはあんまり気持ちいいもんじゃない」

「……けるな…ふざけるなああああっ!!」


 恵が叫ぶと、浅草寺の本堂が下から押し上げられ、巨大な何かが姿を現す。

 巨大な蜘蛛のような下半身の上に生倉そっくりの上半身がついたそれは、ギリシャ神話に登場するアラクネのようだった。


「私に力がないと思って侮ったな!?バカにしたな!?」


「なるほど、これがお前の奥の手っていうことか」

「まだだ!楽に死ねると思うなよ、邑田朱莉!!そして、宇都野都!」


 そう言って恵が手に持っていたスイッチを押すと、今度は五重塔が吹き飛び、中から見覚えのある種のようなものが飛び散った。


「あれは……」


 聖達が使っていた怪人の種――!


「非戦闘員は退避しつつ市民の避難誘導!!戦闘員は孵化した怪人の撃破!急いで!」


 都さんの言葉に弾かれるようにして全員が動き出す。


「良いのか、雑魚にかまけていて」


 恵はそう言って嘲笑いながら指示を出すために背を向けた都さんに向かってアラクネを突進させる。

 初動の早かった狂華さんはすでに都さんから離れていて、一番近いのは俺だ。


「させるかぁっ!」


 持てる全ての力を足に込め、アラクネと都さんの間に走り込み、全力の盾を展開して踏ん張る。するとすぐにドンっと盾全体に強い衝撃が加わり、数メートル押される。


「良く受け止めた朱莉!」


 都さんの声が聞こえ、俺の右肩に重い金属の筒が置かれた。


「肩借りるわよ」

「了解!」


 引き金を引く気配だけがして、発砲音を全く出さずに俺の肩に置かれたライフルから弾が発射される。

 そのままいけば俺のシールドにぶつかってしまいそうなものだが、都さんの魔法である弾丸はぐるりと通常ありえない軌道を描いて俺のバリアを回り込むと、見事にアラクネの上半身である生倉の心臓を撃ち抜く。

 心臓を撃ち抜かれた上半身は大きく後ろにのけぞるが、すぐにまた起き上がり、胸の傷もみるみるうちにふさがっていく。


「倒したと思ったか!?この天才の作品をお前ら凡人ごときが倒せたと思ったかァ!!」

「だと思ったよ」


 俺は受け止めた魔力をそのまま大きな槍のようにしてアラクネに叩き込む。

 今度は弾丸とは比べ物にならないほどの大穴が空き、穴から身体が裂けてアラクネが身体を地面に落とす。


「これで少しは時間が稼げんだろ」

「ナイスよ、朱莉」

「こんなことで私の作品は終わらないっ」

「倒せてないのはわかってる。今は怪人が優先だからな」


 多分、あのアラクネにはマッスル・イコの魔法か、細胞が埋め込んであるか。とにかく超再生能力が備わっているのは間違いない。

 コアになっているのが生倉なのは、マッスル・イコ同様生倉の魔法を応用しているからということだろう。とはいえ、大きさからいって前のように俺と恋では…いや、柚那まで協力してもらっても魔力を吸い上げるのは厳しいだろう。

 最悪恵の魔法無効化まで入ってれば時計坂さんの接近も厳しい。

正直言って今の所勝てる気がまったくしないが、とにかく戦力が再集結するまでの時間稼ぎ。それが今の俺の仕事だ。


「都さんはみんなの指揮を」

「任せたわよ。それと…翠から言われたこと、忘れないで」

「…了解」


 都さんを見送ったあと、俺は恵のほうに向き直る。


「さて、と。どうやって時間稼ぎをしようかなっと」

「ふん、お前一人で私の作品を抑えられると、本気で思っているのか?」

「んー…まあそれはな…」

「それとも、人払いをして私の軍門に下る相談でもするか?」

「いや」


 背中のほうで強大な魔力が動くのを感じた。

 そして――


「何度も言うけど俺はお前の軍門に下るなんてことはないし、オレ一人で抑えられるとも思ってねえよ」


 回復したアラクネが轟音を立てて転がり、そのうえに経つ人影、いや、機影が一つ。


「秋山朝陽、参上ですわ!」


 朝陽の声でそう喋るロボットは、そう言って顔も見えないのにドヤ顔してそうなポーズと声色でアラクネを踏みつけた。



「そういえば朝陽の新技ってなんなんだ?」


 東京タワーのお膝元、芝公園のベンチで俺がそう尋ねると、朝陽は「ふっふっふ、そんなに知りたいのならしかたありませんわね」と得意げに笑った。


「ヒント、着想を得たのはアニメからですわ」


 ヒント少なっ!!


「…歌を歌いながらバイクの先からでっかい剣を出して突っ込んでいくとか?」

「なんですの、それ」

「いや、そういうのがあるんだよ」


 朝陽の反応からするとどうやら違うみたいだけど。


「それもちょっと格好いいですわね、今後の参考にしたいのであとでタイトル教えてくださいな」

「お、おう…」


 しまった!朝陽がSAKIMORIになってしまう!あんな朝陽は嫌だ!

 JCとかJKに先輩と風をふかす朝陽なんて嫌だ!


「まあ、それはそれとして、結局何が元ネタなんだ?」

「これですわ」


 そう言って朝陽が見せて来たスマートフォンの画面には勇者ロボットが写っていた。


「これってつまりバイクと?」

「ええ。ゆくゆくは翠さんに色んな武器を作ってもらうつもりなんですけれど、間に合わなかったのでとりあえずバイクと合体して敵をぶん殴りますわ」


 朝陽は今まで見たこともないようないい笑顔でそう言って、俺達とは別送でやってきた愛車が納められたコンテナをちらりと見た。


 ………あれ?ってことはつまり朝陽は東京タワーに現れたあの子をあれでぶん殴ったってことか?大丈夫か?死んでないかあの子。


「朱莉さん、どうすればいいんですの?これは敵ってことでいいんですわよね?」


 起き上がってきたアラクネにキックをかまして引き倒しながら朝陽が聞いてくる。


「ああ、そいつは敵で間違いない。俺とお前の役目はそいつをしばらくここで抑えることだ。そいつは多分複数の魔法を同時に使えるから気をつけろよ!」

「了解ですわ」


 そう返事をすると、朝陽はアラクネとの戦闘に戻る。


「そんな鉄くずで私の作品を倒せるつもりになられてはこまるなぁっ!」

「だから、倒せるとは思ってねえって」



 あくまで俺達の役割は時間稼ぎだからな。



朝陽&松葉の話は書いたものの挟み込むタイミングを逸したままここまできちゃいました。


東京タワーに出てきた魔法少女は「石橋心愛」。

得意魔法はゴム化で、打撃と電撃が中心の関東チーム用にと恵が見繕っていた魔法少女。

良いところまで朝陽と松葉を追い詰めましたが勇者合体した朝陽にワンパンでKOされました。

もちろん死んでません。

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