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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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生倉 憂 2



「な、生倉!?」


 朔夜の声を聞いて最初に動いたのは佳代だった。

 ホルスターから抜いた銃の銃口を生倉に向け、引き金を引く。


「ってぇな!」


 佳代が放った銃弾は生倉に直撃したが、致命傷にはならず顔を歪ませるのが精一杯だった。そしてすぐに生倉の拳が佳代に向けられる。

 しかし、生倉の拳が佳代の頭を吹き飛ばす寸前、佳代の体がその場から消え、代わりに現れた愛純の拳が見事なクロスカウンターで生倉に炸裂する。


「愛純ちゃん参上っ!!」


 カウンターで吹っ飛んでいった生倉から目を離さずにそんなことを言いながら構えてみせる愛純。


「時計坂さんの魔法とあんまり相性良くないんですから敵から目を離しちゃダメですよ、朱莉さん」

「すまん」

「あかりちゃんと、君もね」

「すみません」

「ごめんなさい」

「よろしい」


 そう言って、愛純は満足そうに笑う。


「佳代、住民の避難を頼む。こんなところでドンパチしたくなかったがそうも言ってられん」

「……」

「佳代!」

「…了解。ここは頼むわ」


 佳代がそう言って持っていた銃を俺に放ってよこした。


「任せろ。あのな、佳代…」

「大丈夫、任せて。それとね、後でそいつ一発殴るから殺すんじゃないわよ」

「ああ、松葉にもそう約束してるからな」

「あと、死ぬんじゃないわよ」

「おうよ」

「ずいぶん仲良くやってるじゃねえか」

「お陰様でな」


 復活して襲いかかってきた生倉の攻撃は愛純がいなし、再び弾き飛ばしてくれた。


「なんだ、羨ましいのか生倉」

「ああ、羨ましいね。そして憎たらしい!!」


 再び地面を蹴った生倉の拳には目視できるほどの魔力が乗っている。


「愛純!変われ!」

「はいっ!」


 愛純のテレポートで前に出た俺はステークシールドで生倉の攻撃を受け、すぐさまその魔力を弾き返す。


「くっそぉ!俺が一番強いんじゃねえのかよ!」


 確かに強い。

 一撃の重さだけで言えばひなたさんと同等。楓にも匹敵するかもしれない。

 だが使い方が単調だ。だから愛純にいなされるし、愛純にいなしきれないような魔力を乗せた攻撃も俺が簡単に受け流してそのまま返せる。多分、朔夜なら落ち着いてやれば俺以上に効果的に反射できるだろう。

 正直言って腕っぷしの強さだけで一番強くなれるなんてのは幻想だ。実際、腕っぷしが一番強い楓は三位、一位の狂華さんは単純な腕力の攻撃力では三位の楓、二位のひなたさんにも負けるし、俺と同等か、もしかしたらもう俺のほうが強いかもしれない。

 魔法少女の強さっていうのは腕力、魔力はもちろん、運動能力に精神力に覚悟、そういったフィジカルメンタルすべてが関わってくるのだ。


「その盾が厄介だってことはよくわかった。だったら――」

「他の箇所を狙うならこっちから盾を当てに行くだけだ」

「くっ、のっ……ああああああっ!もう!うっぜええええええええ!なんでそう鬱陶しいことをチマチマチマチマと!」

「なんだ生倉、お前学校で習わなかったのか?」

「何がだよ!」

「人の嫌がることを進んでしましょうって」

「そういう意味じゃねえだろ!!」


 よしよし、怒れ怒れもっと怒れ。それで攻撃が単調になればこっちのものだ。

――にしても、割と話が通じるんだな。まあ、連続殺人犯は意外と知能が高かったりするらしいし、しかも深谷さんの話じゃこいつは几帳面に調書を直すって話だったから記憶力も良いんだろうし、頭もいいんだろうから話が通じること自体は別に変じゃないと言えば変じゃないけれど。

 ただ、やっぱり違和感は拭えない。戻ってきた愛純の顔を見ている限りエリスとナッチは致命傷じゃないんだろうし、多分先に運ばれたであろうハッチも同じだろう。

 それにあかりの様子見た感じだと、多分みつきちゃんと高山少年も気絶しているだけだ。

 シリアルキラーでスプリー・キラーの生倉が全員に致命傷を与えないで気絶させるだけ?何かがおかしい気がする。


「チッ……どうもやりにくいな、お前は。お前の息子のほうがよっぽどやりやすい」

「そりゃどうも。まあ、俺は曲者で通ってるんでね……っていうか、そこんとこまだはっきりさせてなかったのにネタバレするのはやめてほしかった」

「そこんとこ?」

「朔夜が俺の息子だって話。というか、どこで聞いたんだその話」

「ドクターがな、鏡音咲…邑田朔夜は邑田朱莉の息子でこっちの事情を探りに来ている裏切り者だって教えてくれたんだよ」


 そういえば、結局ドクターってのが、どこの誰でどこにいるのかわからずじまいだったな。

 ドクター…医者…博士…ね…まあ、言動からするとさっき東京タワーに現れた子かなって気がするけれど恵曰く戦闘能力はゼロのハズなんだよな。もし本当にゼロならすでに朝陽と松葉はドクターを拘束してこっちに向かっているということになるが――


「よそ見してるんじゃねえええ!」

「大丈夫。僕が守るからな」


 考え事をしている俺のスキを突いて攻撃してきた生倉を割って入った朔夜のシールドが跳ね返し。


「そして私が捕まえます!」


 あかりがそう言って手を伸ばすと、MWから蔦のようなものが伸びて生倉に絡みつく。


「いいのかよ!?あんまり簡単につながっちゃうと――」

「切り離せあかり!」


 俺が言うより早く、生倉に絡みついた蔦から炎が上がり、あかりへと迫る。


「うわっ!とっと」


 ギリギリで蔦を切り離したあかりは、数歩後ろに飛んで生倉と距離を取る。


「あっぶないじゃない!」

「おいおい、俺達は今敵同士だろうが。子供の命を取る気はないがそれでも多少の怪我くらいは覚悟してもらわないとな。あとあんまり抵抗されると殺しちまうかもしれないから死にたくなかったらさっさと降参してくれ」


 ……え?なんだって?


「ちょっとまて、生倉」

「あん?なんだよ」

「一つ確認させてくれ。お前、生倉憂で良いんだよな?」

「正真正銘生倉憂だが?」

「そうか、ならいいんだ」


 人違いかと思っちゃったじゃないか。


「若くて才能のあるやつはこの先貴重な戦力になるからな」


 まあ、人手不足が深刻なのはどこも同じなんだよな。左右澤くんも、この間潰した拠点の子たちもどうってことなかったし。

 まあ深谷さんとエリスを狙ってきた仁鶴円はちょっと強かったけど、それでも不意打ちでもなければ大した脅威じゃない。


「――で、結局誰も降参しないってわけか」


 短距離のテレポートらしき魔法で距離を詰めてきた生倉のパンチをギリギリのところでシールドで受ける。


「当たり前だろうが!」

「なんでそんなに必死になって大江恵と宇都野都を守るんだよ!」


 そう言いながら生倉が後ろに引いた手にはいつの間にか太刀が握られている。


「いや、都さんはともかく、別に恵は守ってねえよ」


 そう言いながら太刀を受けたシールドから嫌な音がした。


「あん?どういうことだよ」

「別にどうもこうもねえよ」


 なるほど、あの太刀は魔力での攻撃じゃないのか。

てっきり楓みたいに魔力を帯びた太刀で殴りかかって来たんだろうと思ったがどうやらそうではなく、あれはあくまで玉鋼でできた刃で行う完全な物理攻撃。つまり、ステークシールドにとってはかなり苦手な攻撃ということになる。

 欠けたのか、ヒビが入ったのかはわからないが、生倉に気付かれないように話をしながら一旦距離を取り、手探りで修復を試みる。


「俺達のボスは都さんだけど、大江恵は別にボスとかじゃないし警護対象でもなんでもないしな。これはマッスル・イコにも――」

「おい」

「何だよ怖い声だして」


 というか、顔もものすごい怖いんですけど


「イコをその名前で呼ぶんじゃねえよ」

「は?なんだいきなり」

「いいから二度とあいつをその名で呼ぶな、殺すぞ」


 なんだ?さっきまで飄々としていたのに、なんでいきなりこんな殺気立っているんだこいつは。

 もしかして、マッスル…品根衣子と生倉憂は――


「生倉」

「ああっ!?なんだよ!?」

「ちょっと落ち着け。衣子ちゃんのことをマッス―」

「ああっ!?」

「あの名前で呼んだのは謝る。謝るからちょっと話を聞いてくれ」

「んだよ、話って」

「こっちが衣子ちゃんを返すって言ったら、お前どうする?」

「………条件は?」

「お前の全面降伏だ。お前は檻に入ってもらうことになると思うけど、衣子ちゃんの安全と生活は保証する」


 生倉に関しての取引は都さんにダメ出しされたが、そもそも品根衣子は魔法少女だっただけで、かつこちらからの攻撃に反撃をしたという事実しかない。

 それでも公務執行妨害だろうとかいろいろ言おうと思えば言えるが、正直微罪も微罪だ。

 こっちサイドへの協力と簡単な監視さえ受け入れてもらえれば多分開放はできる。ただ、それには生倉が降伏して収監され、俺たちに対する脅威を取り除くというのが前提にはなるだろうが。


「悪い条件じゃないだろう?」

「信用できねえな」

「まあ、そうだろうな」


 こっちも生倉が「あ、はい。じゃあそれでお願いします」と言ってくるとは思ってないし、そんなことを言われたってそれこそ信用できない。

 問題は、生倉憂にとって品根衣子がどういう存在なのかというところだ。

 いまの答えは信用できる相手であれば取引に応じると取れないこともないのだが…もうちょっとつついてみるか。できれば鬼も蛇もでてほしくないけれど時間を稼ぎたいし


「それはそうと生倉」

「あん?」

「お前、衣子ちゃんと恋人だったりするのか?」

「はァァァっ!?な、なんで俺があんな貧弱な女と!」

「あ、すみません、もう大丈夫です」


 とはいえ、生倉の人間像が、恵や深谷さん、それに佳代から聞いていた話とはずいぶん違ってきちゃっているんだが。

 そもそも聞いていた話では、傲慢で几帳面かつ冷徹でありながら話を聞かないトリガーハッピーな人間……統失かってくらい無茶苦茶な人間ってことだったと思うんだけど、いまここにいるのはかなり人間臭い、わりといい加減で話も通じるし同じようなことをした人間だとしても、こまちちゃんやひなたさん寄りなんじゃないかなと思う。

 っていうか、サバサバしてるし、なんか楓っぽい。


「つーかよ、お前この中で一番年上だよな?」

「ん?ああ、まあそうだな」


 この中でというか、うちのメンツでは全体見回しても俺より上なのはチアキさんとひなたさん、それに九条ちゃんさんと小金沢さんくらいだろう。

 そう考えるとすごい若い組織だなうちって。


「自分はダラダラ喋ってるばっかで年下を戦わせて恥ずかしくねえのか?つーかお前隊長だよな?この中だったら」

「えーっと……」


 あかり 15歳。

 朔夜  多分16歳

 愛純  20歳

 

 ・

 ・

 ・


 うん、まあね。確かにちょっとかっこ悪いね。


「そのシールドか?の修復している間の時間稼ぎかと思えば、そうじゃねえみたいだし」


 バレバレだった件。


「いや、どうにも俺たちの間には誤解があるみたいだからさ、ちょっと話し合わないか?」

「ふぅん?」

「なあ、別に取って食おうとかそういう話じゃないんだし、話くらいいいじゃないか」

「……」


 俺の真意が読めないのか、生倉は眉をしかめ険しい表情でこちらを見ている。


「一つ、質問だ」

「いいとも、なんでも聞いてくれ」

「お前、結構口がたつよな?」

「ああ、こう見えて口先でだいたいのことを解決してきたからな。他の国ではまだ敵対関係にある月の異星人との和解も俺の口先でって部分が大きいし」

「………ちなみに、さっき俺が止められた魔法、あれがお前の魔法なのか?」

「いや、あれは他の仲間の魔法だ」

「ちょ、朱莉さん?なんで自分の魔法をペラペラしゃべってるんですか!?」

「いいからここは俺に任せろ愛純。ちょっと前にバージョンアップした俺のこのシールドは相手の魔法を跳ね返すことも、ストックすることもできるんだ。イカスだろ?」

「ほー……なるほどな…」

「便利だろ?」

「……例えば、火の魔法を受ければ火が出せるんだな?」

「ああ」

「水の魔法を受ければ水を作り出せる」

「もちろんもちろん」

「魔法で作り出した銃や、刀なんていうのも」

「簡単簡単」

「テレポートで何かを動かすことや、風の魔法で飛んでいる鳥を落とすことも?」

「当然できるな」

「……………そうか」


 そういってうつむくと、生倉は少し離れた俺からもわかるくらいに強く拳を握りしめる。


「ドクターに聞いた特徴と一致する……お前がか」

「そう、俺が」

「お前が俺の仲間を殺したんだな!?」

「そう俺が!……………え?いや、違う違う!何を言っているんだよ、だいたいお前の仲間を殺したのはお前自身―――」


 ああ……そういうことか、なるほど。ドクター…どうりで前線にでてこないし、誰も見たことがないわけだ。

いや、実際はみんな目にしていたのに、まんまとしてやられていたんだ。

 大江恵に。


「まて、生倉。話を聞け」

「問答無用だ、あいつらの魔法で俺が仇を討つ!!」

「話を聞け生倉!!」

「うるせええええっ!!」


 激昂した生倉の姿が消え、次の瞬間俺の目の前に現れた。


「死ねえええええ!」


 炎をまとった刃が振り下ろされる瞬間、再び生倉の姿が目の前から消え、少し遠くに現れる。いや、俺が少し遠くに移動させられた。


「何やってるんですか!」

「すまん…説得できそうだったんだが、ミスった」

「本気で説得しようとしてたんですか!?都さんにもやめろって言われたたのに!」

「面目ない。倒れたみんなが重傷じゃなかったみたいだったからもしかしたらあいつ話の通じる良いやつなんじゃないかなって思ってさ」

「そんなわけないでしょう。話が通じる元重犯罪者なんてこまちさんくらいしか知りませんよ」

「まあ、そりゃそうなんだが…朔夜、あかり、下がれ。あいつは殺せない、とはいっても普通に捕まえられるほど簡単な相手じゃない。だから一旦下がれ」

「はぁ!?」

「なに言ってるのおにいちゃん」

「多分俺も生倉も恵にハメられた、あいつの目的はわからないが――」


 ガンっと鈍い音がした次の瞬間、俺の目の前で朔夜が盾で生倉の攻撃を防いでいた。


「足手まといなんて言わないでくださいよ!細かいことはわからなくても手伝うくらいはできますから」

「そういうことだよ!」


 朔夜の言葉に頷きながらあかりは牽制の魔力弾を生倉に向けて放つ。


「どうすればいいかだけ言って。私も朔夜くんも愛純さんもお兄ちゃんの指示に従うから」


 あかりの言葉を聞いて、朔夜と愛純も頷く。


「…生倉を殺さずに捕まえるぞ。それと、誰も死ぬな」




えー・・・実はこの最終章始めるのに時間がかかった理由の一つがこの「生倉の魔法」でして。

プロット作り終わってさあやろうかなと2月くらいに某少年誌をパラパラしてた時に「あれ?某第一王子の念能力と被ってね?」っていうのがあって、なんか他のにならんかなーって考えていたっていうのがあるんですよね。結局話の都合上他のにはなりませんでしたが。

そんなこんなでちょっとパクリっぽく見えてパクリじゃない魔法「七宝」使いの生倉さんをよろしくおねがいします。

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