襲撃
東京タワーのお膝元、封鎖された芝公園で俺達はこの日のためにコウさんと恵が開発した魔力探知レーダーとにらめっこしていたのだが…
「……こないな」
「来ないですね」
「来ないですわねー」
「来ないね」
生倉が来ないのだ。
生倉がというよりは、今現在ここから半径2キロ内には俺達以外の魔力反応は魔力の魔の字もない。
「もしかして、例の鏡音ちゃんに担がれましたかね」
「いやあ、そんなことはないはずなんだけどな」
そもそもあいつがこちらと敵対するつもりならさっさと本部を攻めるだろうし、戦力を削るつもりなら俺達をここに呼び出しておいて何もしないなんてこともないだろう。
「まあでも、まだ日付が変わるまでには少しあるしな。もうすこししたら来るだろ」
「一応、魔力の探知半径を3キロに広げておきますわね」
「ああ、よろしく」
あんまり範囲を広げると精度が下がるとか言っていたけど、最大射程が5キロであることを考えれば、限界性能の半分よりちょっと上くらいなら問題ないだろう。
「さて、じゃあどうしましょうね」
「トランプでもする?」
いや、なんでそんなもの持ってきてるんだよ松葉は。
「新しい魔法に使おうと思って」
「お、マジか。珍しくやる気満々じゃないか」
やっぱり今回の敵はお兄さんの仇なわけだし、普段はあまりやる気を見せない松葉も――
「……ゴメン、嘘。嘘だからそんなキラキラした目で見ないでなんだか自分が悪い子としているみたいな気になるから」
って嘘かよ。
そんなどうでもいいやり取りをしていると、通信機からポーンという音が聞こえ、その後オペレーターのお姉さんがやや無機質な声で『札幌、交戦開始。現状一般市民に被害なし』と告げた。
「始まりましたわね…」
「始まったな」
不安なのだろう。朝陽が少し暗い表情で俺を見る。
そして札幌を皮切りに、千葉、青森、広島と接敵した地区と交戦の状況がどんどん読み上げられていく。
そして―
『東北支部、敵襲』
「やっぱり来たか」
「大規模な襲撃なら本部支部の襲撃もありそうとは言ってましたけど本当に来ましたね」
全国津々浦々、広範囲にこれだけ人材を配置して更に支部の襲撃ができるとは、この人材不足の世の中で羨ましい限りだ。
「でもこれ、例の鏡音からの情報にはなかったんだよね?」
「松葉が言いたいことはわからないでもないけど、ハッチの話だと鏡音は生倉の顔すら知らないらしいからな。あいつが知らないことがあってもおかしくはないって」
俺だって都さんが何かを画策しているだろうなというのはわかっていても全貌はしらないわけだし。
『関西支部、敵襲』
そうこうしているうちに今度は関西支部が襲撃を受けているようだ。
まあ、松葉がこっち来てしまっているとはいえ、今関西には楓達はもちろん、タマ、それにひなたさんと深海姉妹もいるし、京都の守りには九条ちゃんさんもいる。はっきり言って守りは東北や本部よりもよっぽど盤石だろう……というか、おかしくないかこれ。宣戦布告したいなら、まずは魔法少女相手にっていうのはわからなくもないけど、支部に攻撃を仕掛ける意味がわからない。いや、それが1支部ならまだわかる。戦力をそこに集中させて1拠点でも落とせばかなりのプロパガンダになるだろうから。
だが彼らは東北だけではなく、関西にも、いやそれどころか全国津々浦々に攻撃を仕掛けている。
というか、そもそもの襲撃計画もおかしいのだ。攻撃を仕掛けてこちらの数を減らしたいなら、まずはあちこちで一般市民を標的にして攻撃を仕掛け、その救助や救援に出てきた魔法少女をバラバラに討つほうが効率がいいし、俺たちを倒した後、恐怖政治をしくならそのほうが効果的だ。
俺も都さんも鏡音から詳細を聞くまではそうなんだろうなと思っていたし、実際鏡音からのリークもそういう内容だったのだが、接敵の状況を聞いていると敵はむしろ最初から魔法少女を狙ってきているように感じる。
『東京第一、接敵』
「あれ?第一って、私達じゃないです?」
「そうだな」
「でもおかしいですわね。レーダー上は周りに何も映っていませんわよ」
「周り……っ!直上だ!!」
空を見上げた松葉が叫ぶと同時に空を覆う雲を切り裂いて魔力を帯びた光の雨が降り注ぐ。
だが―
「甘いんだよ!」
俺はこれでも国内ベスト4、国内四天王の中では最弱だが、地球全体で見ればかなり上位になる国でシングルナンバーをはっているのだ。
さらに今日はついこの間大怪我扠せられたジュリの姿ではなくベストコンディションの朱莉状態。この程度の魔力の雨、防ぐのは造作もない。
「この程度か生倉!」
「……なるほど、やっぱりそうだったんだー」
俺が挑発すると上空に浮いている魔法少女が不敵に笑う。
「生倉さんの読み通り、やっぱり鏡音が裏切り者だったんだね」
「え……?」
『東京第二、接敵!生倉発見の報あり!!』
通信機からオペレーターの緊張した声が聞こえ、すぐに北東の空から轟音が響く。
「キャハハハは!生倉様だと思った!?ざーんねん、はっずれー!!
」
裏切りがバレていた場合、鏡音…というか朔夜に何かしらの刺客が差し向けられるだろうとは思っていたが、まさか直々に生倉が行くとは思わなかった。
この、『生倉が行くとは思わなかった』というのはなにも希望的観測に基づいたものじゃない。殺しそびれた最後の事件の関係者を殺しにかかるのに自分で出てこなかった人間が出てくるとは考えにくいと思ったからだ。。
というか、同じ理由で今日ここに来るのはそもそも生倉じゃないだろうと思っていたし…って、今はそんなことをどうこう言っている場合じゃない!!浅草から一番近いのはここなんだからさっさと救援に行かないと。
どうする?浅草に誰を行かせて誰にこいつの相手をさせる?
浅草に行くべきは俺と、もう一人、三人のうち、誰だ?松葉の気持ちを考えれば松葉だが、これは気持ちでどうにかなる問題じゃない。
若い世代をどうにか助けて生倉を倒さなければいけないのだから、情では連れていけない、あとは愛純と朝陽をどっちに配置するかだ。
「改めて自己紹介をするよ。私の名前は――」
「なにかごちゃごちゃと考えているようですけれど、朱莉さんは愛純と一緒にデバイスを使ってあかりちゃん達の救援に向かってください。ここは松葉さんと私が引き受けます!」
「朝陽!?」
「大丈夫、すぐに追いつきますから、トドメは松葉さんに残してあげておいてくださいましね」
「最後に美味しいところだけもらうから」
そういって朝陽と松葉は変身して敵の魔法少女と対峙する。
「ふん、二人で私の相手をするつもりとはいい度胸ね、私の名前は――」
「無理はするなよ」
「大丈夫。恋がいるから私たちはほぼ不死身状態だし」
「私はこれでも国内10位くらいの実力者ですわよ」
本当に自分の順位をはっきり覚えていないのか、それともガチ10位の愛純に対する対抗心か何かか、はたまた場の空気を和らげるためか朝陽はそんな風にうそぶいてちらりとこちらを見る。
「私の名前は――」
「朱莉さんと柚那さん、それに後輩たちのことは任せましたわよ、親友」
「任せといて。朝陽も気をつけてね…って何変な顔してるんですか、朱莉さん」
「あ、いや」
(´・ω・`)しないんだなって。
「って、そんなこと考えている場合じゃない!朝陽、松葉、後は頼んだぞ。愛純、ひとっ飛び頼む」
「はいっ!」
「ちょ、私の名前――」
「名前はベッドで聞かせてもらいますわ!」
朝陽が何処かで聞いたようなセリフを言いながら、電撃を纏った拳を振りかぶり敵魔法少女に殴り掛かる。
「ふざけるなっ!まだ名乗ってもいないのにっ!」
「名前?何?お友達ごっこでもしにきたの?」
そういった次の瞬間、松葉の姿がその場から消え、次の瞬間敵の魔法少女が蹴り飛ばされた。
「…だったら友だちになってあげるからさっさとギブアップするといい」
「私達としてはあなたへの事情聴取をどこでやることになっても構いませんのよ?」
なんて冷たい目をするの、この子達。
「朱莉さん!ぼーっとしてないで行きますよ!」
「あ、ああ」
デバイスを持ってきた愛純はなんか凧に乗る忍者みたいになってるけど、俺はこれにどうやって乗れば良いんだ。
「さあ、背中に乗ってください」
そう言って愛純がぬりかべの如く前に倒れ込むとデバイスの背中側についたプロペラがくるくると回りだし愛純ごとふわふわと宙に浮く。
その様はまさに空飛ぶ絨毯…というよりふすま改め畳のようだ。
「これ、乗って大丈夫?やっぱり俺は自分で飛んでいこうか?」
「テストしたときは朝陽と狂華さんを乗せても普通に飛べたんですから大丈夫です!ほらほら!柚那さん達が危ないんですからさっさと乗ってください」
なるようになれと飛び乗った愛純のデバイスは、そのまま落っこちるどころか沈んだりもせず、思っていたよりも安定感がある乗り物だった。
「行きますよ!」
愛純がそう言うと、空飛ぶ畳はぐんぐんと高度とスピードを上げ、曇天の夜空を走り出した。




