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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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インターミッション JK2

蜂子は懐の深い女。

ひとつわかったことがある。

 いや、わかったことというか、わかっていたけど目をつぶっていたことが正しいだろう。

 

 昼食を食べる前に見せた蜂子の笑顔。

 あれは単純にただですきやきが食べられるからというわけではなかった。

 あの笑顔はその後西澤が言った「人力車」にかかっていたのだ。


「じゃああたしはハナとで」

「ま、妥当ね」

「んー、じゃああーしはまさむ――」

「那奈は私とね」

「え?ハチは朔夜と乗るんじゃないの?」

「いいのよ。私が那奈と、朔夜が正宗と」

「え、ええー…」


 若干口元を引きつらせながら『いいの?』と目で僕に訴えかけてくる西澤。

 そして、若干鼻息が荒い蜂子。

 まあ、なんだ。

あれだ。


 ――うちの彼女、腐ってやがる。


 いや、改めて言うまでもない、僕はこいつがそっち系大好きだというのは知っていた。

 いつだったかの昼休み、僕がいつものように机に突っ伏し、寝たふりをしてクラスの様子を伺っていた横で開催された合コンごっこの王様ゲーム。

 その中で蜂子は男子生徒二人を的確に指名し、指を絡めて手を繋がせて何かを買いにいかせたり、本来男女の組み合わせなら嬉し恥ずかしになるはずのポッキーゲームを、野球部員とアメフト部員でやらせるという阿鼻叫喚の地獄絵図に変えたりと………いや、おかしい。いくらなんでもあれは男子を的確に指名しすぎだ。もしかしてこいつあの頃からテレパスだったんじゃ…


「なに?どうしたの朔夜」

「いや、なんでもない」


 僕があれこれ考えている間、ニヤニヤしながら西澤に耳打ちしていたせいか、今回、蜂子は僕の心を読めていないようだ。

 まあ、さすがにこれで「そうよ」って言われても怖いし、蜂子が何をしてても読まれるんじゃ心が休まらないから、他のことをしていると読めないというなら読めないままでいてくれたほうがいい。


「じゃあこの組み合わせで」

「ちょっとー、あーしはどーせなら男子と一緒がいーよー」

「そうだぞ、俺だってどうせなら女子がいい!」

「話がわかるー。じゃあまさむ――」

「なんか今日は蜂子カワイイし、どうせなら蜂子とがいいな」


 特に理由のないごめんなさいが西澤を襲う!!


「に、西澤?僕と乗るか?」

「うー…それは魅力的な誘いだけど、あーし、親友はうらぎれねー…」


 いい子か!いや、いい子だけど。


「ね?だから私が言った組み合わせがいいのよ」


 と、ドヤっとした顔の蜂子。

 別に正宗は西澤が嫌というわけではないだろうが、つい今ポロっとでた失言のせいで西澤的には今正宗と乗っても楽しめないだろうし、それは僕と乗っても同じだ。

 そうなるとやっぱり僕と正宗というのが一番しっくり来るのではあるが。


「ん?」


 蜂子の思惑通りに動くのはなんか癪に障る。

 ………ああ、そうか。その手があった。


「何が?」

「だから勝手に読むなって」




「おまたせー」


 僕がちょっとした買い物を済ませて戻ってくると、正宗だけではなく、西澤と関、それに村雨も「おおっ」っと声を上げた。


「い、意外とこう、いけるな。うん、俺いけそうだ」

「あーしもいけない世界に踏み込めそう」


 そっちへ行くな。戻ってこいバカ野朗共。


「……わたしね、男子ってなんかこう、見た目がなーって思ってたけど、意外とそういうのもありね。どうかしら、朔夜は蜂子ので、咲は私のっていうのは」

「あ、ずるいよハナ。あたしもちょっと同じこと思ってたんだから」


 何を血迷ってるんですか関さん、村雨さん。


「いや、血迷ってるのはあんたでしょうが。何よその格好」

「女装だが?」


 そう。こうして僕が女装してしまえば、正宗と二人で人力車に乗っても蜂子の描いたようなバラ色の世界を展開することにはならず、パッと見はまるでカップルのようにも見え『あれ?男同士で人力車乗ってる?』という周囲の好奇の目もシャットアウトできるのだ。


「私、朔夜ってもうちょっと頭の切れる子だと思っていたんだけど、過大評価だったみたいね」

「ふん、作戦失敗だからって負け惜しみか?」

「いや、私は男×男の娘もいけるクチだから今の朔夜も全然ありよ」

「………こ、こうなったら変し―」

「あ、TSもどんとこい」


 やだもー、うちの彼女ってすごく守備範囲が広い。




 結局蜂子に服を奪われ、村雨と関の手によって奪われた服をどこかのコインロッカーに隠された僕は正宗と一緒に人力車に乗っていた。

 僕の声を聞いた車夫さんは最初こそ驚たような表情をしていたものの、なぜか僕にデレデレしている正宗と、不機嫌な僕を見て何かを察したらしく黙って走り出した。

 まあ、いろいろなお客さんがいるんだろうな。お仕事ご苦労様です。

 ともかく、スタートがそんな感じだったからか、車夫さんは気を使ってそんなにしゃべらないわ、正宗はなんかもじもじしてるわでかなり微妙な空気だ。


「そ、そう言えばさ、朔夜」

「ん?」

「お前どんなパンツはいてんの?」


 あ、車夫さんがつまずきかけた。

 っていうか


「ずっと黙ってて、最初の話がそれってどうなんだ…というか僕は男だぞ?」

「いや、なんかエリスが『朔夜ってすごいのはいてるんだよー』って言ってたからさ…あれ?というか、なんでエリスは朔夜のパンツを知ってるんだ?」

「今朝あの四人が部屋に押し入ってきたんだよ」

「なんか楽しそうだなそれ」

「微塵も楽しくないな。こうやって遊びに行くとかならともかく、プライベートスペースに立ち入られるのは好きじゃない」


 僕がそう返事をすると、正宗は小さく「くくっ」っと笑った。


「何だよ」

「いや、こうやってみんなで遊びに行くのは楽しいんだなって思って」

「……まあ、嫌ではない…かな」

「じゃあこれからは一緒に色々行こうぜ。男子にもお前と仲良くしたがってる奴いるし。あと、お前の前髪で顔を隠してない写真が出回ってから女子にも人気出てるしな」

「ちょっと待て。なんで僕の写真が出回っているんだよ」

「いや、だって蜂子がグループトークで自慢してたし」


 あいつ僕のこと好きすぎだろ。

 さっきから無理言って並走してもらってはこっちの写真撮ったりしているし。


「で、結局どんなパンツなんだ?トランクスとかではないのか?」

「いや、それだと変身―じゃなくて女装した時色々面倒くさいんだよ。だから紐パン」


 変身後の衣装についてはけっこう人によって違うらしく、下着まで全部変身できる人も入れば、僕のように下着はうまく変わらない人もいる。


「なるほど、そういう理由か」

「そういうことだよ」

「で?紐パンってなんだ?」

「こう、ヒモで脇を」

「脇?」


 まあ、男同士だし別にいいか。


「こういうのだよ」


 僕は膝にかけていたブランケットで周りから見えないようにガードしつつスカートをめくってみせた。


「おおぅ…」

「僕の衣装は横にスリットが入ってるからあんまり脇に面積あるの履いていると目立つんだよ」

「でもなんだってわざわざそんな衣装に?」

「子供の頃から今のタイプだったからなんかいまさら変えるのも変な感じでさ」


 ちなみに、蜂子には洗濯の時にパンツを見られて聞かれた時にこの理由は話してある。


「俺もそういうのを履こうかな、ズレなくてよさそうだし、ブリーフみたいにかっこ悪くないし。今度選ぶの付き合ってくれよ」

「履くのは好きにしたら良いと思うけど、僕はあんまりメンズは詳しくないんだよな…」

「……ん?メンズにくわしくない?朔夜のはメンズじゃないのか?そういえばなんかフリルがついてたような…」

「っ………ぼ、僕はブラもいるんだよ」


 僕は変身すると胸が出るんだから。

 別に僕の趣味ってわけじゃないんだ。

 本当だぞ!


「お、ホントだ」

「って、勝手に人の服の襟を伸ばすな!!」


 とかやっていたらすぐに蜂子から「ごちそうさま」とかいうテレパシーが飛んできた。

 もうやだこいつら。



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