インターミッション JK1
男子会をあーでもないこーでもないと考えていたら不思議と本編が進みました。ありがとうございます。
男子会の方も書いてるので一段落したら載っけます(´・ω・`)
―朔夜。
「ん……」
―起きて、朔夜。
「んー…あと五分だけー」
起こそうとする声にあらがい、僕は布団に顔を埋める。
「さーくや、起きてってば」
「あとさんぷん…ししょーおねがいあとさんぷん…」
「…それでもいいけど、私だけじゃなくて、エリスとかハナとか那奈に寝顔見られちゃうけどいいの?」
「へっ!?」
クラスメイトの名前を聞いた僕の意識は一気に覚醒した。
「っていうか、なんでその三人の名前が出てくるん………あの、蜂子さん?なんでそんな怖い顔しているんでしょうか?」
あと顔が近いです。
「なんでだとおもうー?」
「いや、わからないです…っていうか本当に心当たりがないんだが。僕は今の今まで寝ていたわけだし」
「………」
「あ!もしかして蜂子が起こした時に素直に起きなかったのに、三人の名前が出たとたんに起きたからか?だとしたらそれは誤解だぞ、僕は蜂子にだけは見られても良いと思っているんだ」
この数日、僕だってただダラダラと過ごしていたわけではない。
多少なりとも蜂子の操縦方法だってわかってきている。蜂子については寝顔やらなんやらはもう散々みられているので、今更感があるというのが本音ではあるのだけれど、こう行っておけば蜂子の機嫌も――
「ハズレ!」
そう言って蜂子は僕のほっぺたを思い切りつねる。
「じゃ、じゃあなんでそんなに怒っているんだよ」
「あんたつい今しがた寝言で私の事を愛純さんと間違えたんだけど」
「え?……あー…」
確かに言ったかもしれない。
こっちに来る前、朝起こしに来るのはだいたい師匠だったし。
「それはもう条件反射みたいなものだと思うぞ。朝は母さんじゃなくて師匠が起こしに来ていたし、その後のジョギングも師匠か朝陽ちゃんと一緒に行ってたからな」
ちなみに、母さんは朝が弱いので大体九時過ぎまで布団でダラダラしていることが多かった。
「……前々から気になってたんだけど、なんであんた朝陽さんのこと朝陽ちゃんって呼ぶの?」
「朝陽ちゃん本人からのリクエストなんだよ。僕のいた未来はあんまり平和じゃなかったから、今みたいにみんなでおしゃれとかそういうことができる生活じゃなくてさ、そんな環境だからせめて呼び方くらいは可愛らしくしてほしいって言われたんだ」
「そんな理由があったんだ…ねえ朔夜」
「ん?」
「頑張ろうね、今日」
「僕らは頑張ることなんてないだろ。生倉は父さん達のところに来るんだし、僕らは――」
「だとしても、もしかしたら朱莉さん達が苦戦して、JCJKが援軍に駆けつけて朱莉さんと師匠と朝陽ちゃんを助けるかもしれないじゃない」
「どうだかなあ」
父さん達でだめなら、僕らより狂華さんとか、それこそ司令官が直々に出てくるほうがいいだろう。
「最終的にそうなるとしても、一番近いのは私達でしょ」
「まあそうだな……ってナチュラルに心を読むのはやめてくれ」
というか、一応プロテクトしているんだけど。
「蜂子さんは日々進化してるんだよっ」
えっ!?なにそのドヤぁって感じのカワイイキメ顔。正直若干引――痛い。
「あんたがこういうの好きそうだからやってあげてるんでしょうが!」
「蜂子にはそういうの求めてないから」
「くっ…どうせ私は愛純さんほど可愛くないわよっ!」
「そうじゃなくて、なんだろうな…愛純さんが観賞用なら蜂子は……実用?」
「ちょ、わ、私を、な、なんに使うつもりなのよ…」
って、なんで急に照れながらこっちを睨んでくるんだ蜂子は……って、そういうことか!
「違う違う!そうじゃなくて、付き合ったり――」
「え!?」
失言だ。
「いや、失言だじゃなくて、そこんとこ詳しく」
「なんでもないって。ほら、着替えるから出てけよ」
一旦蜂子をおっぱらおうと思い、僕はそういってベッドから出てパジャマを脱ぎ始めてみせるが、最初の頃はこれで顔を赤くして出ていっていた蜂子も、なんだかんだ慣れてしまって出ていこうとしない。
「着替えなんてあとでいいじゃん。ほら、何が失言だったか言ってみてよ」
「………付き合ったりするなら、蜂子くらいお手軽なほうがいいなって」
「お手軽っ!?お手軽はいらなくない?」
「はいはーい、痴話喧嘩はそこま……朔夜ってそういうパンツ履くんだね」
そう言ってドアを開けて入ってきた村雨が俺の下半身のあたりに視線を下ろす。
って……なぜ村雨がここに。
「うっはー、布面積少ねー」
あの、西澤さん、ガン見しないでください。流石に恥ずかしいです。っていうか
「お前らなんでうちにいるんだよ!」
「というか、伊田のパンツを見ても動じない蜂子がもうなんかなーって感じよね」
関は、こいつらの中でこういうことに関して関だけはまともだと思ってたのに!なんで二人の背中を押して入ってきちゃうんだよ!
「せ、セクハラだぞ!」
「大丈夫よ、私はあんたのパンツに興味ないから」
「そういう問題じゃないだろ!」
「あ、あたしちょっと興味あるかも」
「あーしもー」
「よーし、お前ら外に出ろ」
そういって背後に般若のオーラを纏った蜂子が西澤と村雨の首根っこを掴んで部屋の外へと引きずっていく。
って、関が残ってますけど。蜂子さーん?
俺の心の叫びもむなしく、蜂子はふたりだけを連れて外に出てしまった。
「えっと、着替えるから出ていってもらっていいかな」
「その前に一つ聞かせてほしいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「あんたが未来から来たって言うなら、誰がその時代に居たか教えて欲しいの」
「僕がいた未来は今みたいにどこまでも自由に行けるような都市構造じゃなかったからな。もっとこう、街と街の間は壁で仕切られている感じだったんだ。だから、今いる戦技研の関係者で僕があったことがあるのは、母さんと愛純さんと朝陽ちゃんと、翠先生、時計坂さん、それに狂華さんだけだ」
「通信とかはあったんじゃないの?他の街のことは?例えば東北支部とか、関西支部とか」
「…こまちさんには会ったことがない。それに未来の関や村雨にも」
「そう……」
俺が言わんとすることがわかったのだろう。関はみるからに気落ちした様子で大きなため息をついて肩を落とした。
「ただ、すでに歴史はかわり始めていると思うから大丈夫だと思うぞ」
「未来から来た人にそう言ってもらえると気休めでも少し気が楽ね。ところで、伊田」
「ん?」
「もしかして私とエリスは文化祭で死んでいたはずだったんじゃない?」
関と村雨だけではない。あの事件は蜂子以外に取り付けられた爆弾のせいもあり、かなりの被害がでる事件になるはずだった。
それを水際でとはいえ防げたのだから、気休めではなく歴史はもうかなり軌道修正されているとみていいと思う。
「……ああ。でも生きているだろ。だから大丈夫だ」
「そっか、じゃあ伊田は蜂子だけじゃなくて、私とエリスの恩人でもあるわけだ…ありがとね。蜂子と付き合い出すまえに私がそれを知ってたら、あんたのこと好きになってたかも」
「そんなことくらいで好きとか嫌いとか、あんまり自分を安売りしないようにな」
「あんたも自分のやったことを過小評価しないように。あと、昨日言い忘れたけど最低でも卒業まではこっちにいなさいよ、あんたは私の数少ない学校の友達なんだから」
「まだ一年なんだから友達増やせばいいだろ」
「友達が増えたからって元からいた友達がどうでもよくなるってわけじゃないでしょ。この先どんな人と知り合うかわからないけど、みんなで一緒に卒業式で泣きましょ」
「そうだな」
最初はすぐに帰らなきゃいけないと思っていたが、戻る時間のポイントは同じなわけで。だったらもう少しこっちで強くなってから帰るというのもありと言えばありだろう。
まあ、それはそれとして。
「お前たちはどうして朝からうちにいるんだ?」
「ああ、ほら、どうせ浅草に行かなきゃいけないんだから、先に行って遊んでようかって話になったのよ」
「は?」
「喜びなさい、男2女4のハーレム状態。しかももうひとりの男子である正宗は私たちから相手にされてないから選び放題よ」
「いや、何言ってんだよ関。お前はそういうキャラじゃないだろ。というか、お前らと浮気したら蜂子に殺されるって」
それ以前にそんなことしないけど。
「…ふーん、那奈に聞いてはいたけど、ちゃんと蜂子のこと考えてんのね」
「いや、蜂子のことというか、本当に僕の命が危ない気がするんだよ」
「はいはい、そういうことにしておきましょうね。じゃあさっさと着替えちゃって。私はみんなと一緒にリビングにいるから」
関はそう言って笑うと部屋から出ていった。
「なんていうか…あんまり感動がなかったな」
「確かに。僕らは飛べるからな」
全員でスカイツリーに登ったものの、そもそも自力で飛べる僕と正宗はもっと高いところまでいけるわけで、ちょっと高いところから景色を見たところでそんなに感動はなかった。
「二人ともノリが悪いよ」
「そーだよ、こーいうのは皆で見るからいいんじゃん!ねえハチ?」
「まあ、でも私は朔夜の言っていることもわかるかなー。朔夜に連れて行ってもらった夜空デートのほうがすごかったし」
「え?なになにそれ超気になる!」
「あーしも気になるんだけど!」
自慢げに言った蜂子の一言に村雨と西澤が食いついた。
「なんで蜂子は余計なこと言うんだよ」
「だって嬉しかったんだもん」
「なあ朔夜……蜂子って、意外とカワイイんだな」
意外とは失礼な。
「あれ?どこかの彼氏さんがムスっとしてるけど、もしかしてヤキモチとか?」
「違うって。意外じゃなくて普通にカワイイだろって話だ」
「うひゃあ」
「すげー」
「話を振っておいてなんだけど、まさか真顔でのろけられると思わなかったわ」
「え?」
「朔夜、口にでてた…」
顔を真赤にした蜂子がそう言って目をそらす。
「って、ええっ!?嘘だろ!?」
「うーん、朔夜ってもっとこう、思ったことを口にしないやつだと思ってたんだが、意外とそうでもないんだな」
それは違う。
実際のところ、僕は思ったことを思い切り口にしてしまう事が多いし顔にも出る。
母さん曰く、そういうところは父さん似らしいが、そういう自分の悪癖がわかっていたからこそ僕はできるだけ口数を少なくしていた。
「……ゴメンな、蜂子」
「え?」
「僕が余計なことを言ったばっかりに恥をかかせた」
「恥っていうか…ちょっと照れただけよ。というか今のが朔夜の本音なら、普段からそうしてくれると変なヤキモチを焼かなくて済むんだけど」
「あー、それねー、あーしも思ってた。こいつもっと思ったこと言えばいいのになーって」
「ああ、わかるわかる。あたしもなんかこう、『伊田は顔に出てるだけにむしろはっきり言え』って思ってた」
「…そんなに顔に出てたか?」
出ないように極力無表情でいたつもりだったんだけど。
「出てたわよ。掃除当番の時にゴミ捨て頼むと口では『わかった…』とか言いながら思い切り面倒くさそうな顔してたしね」
関に言われて正宗のほうを見ると、腕組みをしながらうんうんと頷いているのでどうやら本当らしい。
「むしろはっきり言わないだけにこっちで色々想像しちゃって、やりづらいったらなかったわ」
「そうそう、ハナの言うとおりだよね、どこまで頼んだり手伝ったりしていいかわかんないっていうか」
「うんうん、なんかこう、遊びに誘っていいもんかどうかとか、ちょー悩むんだよね」
「だ、そうよ。私だけじゃなくて皆もっとあんたの本音が聞きたいってさ」
「そっか…」
それでいいのか。
「いいのよ。って、読まなくて良くなるのは楽だしね」
「だから勝手に読むなって」
「だったら隠し事しないの」
「わかった」
「みんなにもよ」
「わかった」
「よろしい。さて、そろそろお昼だけどどうする?この辺結構色々お店があるっぽいけど」
「老舗でめちゃ高いすき焼き懐石」
「浅草でクッソ高いすき焼き懐石」
蜂子の質問に、村雨と関が間髪入れずに答えた。
「いや、お前達ふたりは金ないコンビだろ」
正宗が言うとおり、関と村雨の金のなさはかなり深刻だと蜂子が言っていた。
こっちに来る時に、未来で価値がなくなった通貨をかき集めて持ってきているので僕はそれなりの額を確保してきている。だから今日すき焼きに行けないということはないが、さっき関が言ったように三年間こっちにいるつもりなら少し切り詰めないといけないのであまり高い食事は避けたい。
「それがそうでもないんだなあ。言ったげてハナ」
そう言って得意げにフッフッフと笑う村雨。
「今、私たちはリッチ!深谷さんからエリスの失恋手当がでたお陰でね!今なら全員に奢れるわよ!」
なぜかドヤ顔で関がそんなことを言った。
っていうか
「いや、それは村雨に全額使わせてあげろよ」
「う、うん。あーしもそれがいいなーって思う」
「そうだぞ、無理すんなよ。どうしても食べたいっていうなら俺と朔夜で割り勘にすれば皆におごれないことはないからな」
「わーい、朔夜、ごちそうさま」
「おいコラ、そこの二人、何勝手なこと言ってんだ」
とくにウチの彼女は友人の心配もせずになにを言っているのか。
「いやいや、どうせ使いみちのないお金だし、パーッとつかっちゃうのがいいかなって思って。それにあたしの失恋手当というよりは佐藤さんの迷惑料だから、あたしとハナのお金っって感じだし」
「だったら二人に必要なものを買うなりなんなりしたほうがいいだろ。割り勘だ割り勘」
「そーだよ。すきやき食べたいならみんなでちゃんと割り勘すれば良いんだし」
外から見ているときは関がこのチームの良心なんだろうと思っていたが、意外に西澤がJKチームの良心なのかもしれない。
「割り勘?マジで?こういうのって男が出すもんじゃないのか?いいのか?」
お前はどういう教育を受けてきたんだ、正宗。
「でもさ、あたしとハナが食べたいものに付き合わせるんだからお金出させちゃ悪いじゃん」
「いやいや、割り勘でいーよ」
「まあ、割り勘がいちばん良いんだろうけどここは、朔夜のおごりでいいと思うわよ」
そう言って蜂子はクレジットカードのマークがついた銀行のキャッシュカードを取り出した。
「何を勝手に…って、なんだそれ」
「あんたの生活費よ」
「………へ?」
僕の生活費は僕が持っているし、カードではなくて現金で部屋の金庫に入れてあるはずだ。
というか、思い切りHATCHIKO TOJOと書かれてるし。
「いやいや、僕は現金しかもっていないし、銀行口座も持ってないぞ」
「ご両親からおあずかりしました」
「そうか、父さんと母さんが………はぁ!?いや、だって二人は僕の正体をしらないはず…まさか蜂子、お前、二人に話したんじゃないだろうな」
「二人共色々察してたみたいで、私が朔夜の彼女になった時にお金を渡されてそれとなく頼まれたのよ。で、それをここに入れてあんたの家に泊まってたときはこれで支払いしてた」
「いや、僕はちゃんと使った分のお金は蜂子に渡してたよな?」
「うちのお母さんの教えでね、いざと言うときのために相手の知らないへそくりは作っておいたほうが良いんだって。だから朔夜から受け取ったのは手間賃として貰って、へそくってた」
いざというときってなんだ!?
「あー、それでハチは今日あーしが見たこと無い服着てたのかー」
思い切り使ってるじゃないか!
「まあ、これは朔夜のお金だから朔夜がうんって言わなきゃ使わないけど」
そういって蜂子は期待を込めた眼差しで俺の方を見る。
「……わかった。それでいいよ。それこそ村雨の失恋手当どころじゃないあぶく銭だからな」
「やったー!じゃああーしついでに人力車に乗りたい!」
「あー、良いわねそれ」
「いや人力車ってカード使えるのか?」
「……使えるみたいよ」
盛り上がる西澤と蜂子、そして冷静にカードの使用可否を調べる関。
「まあ、いいか…」
僕のために用意してくれたお金っていうことであれば、友達と遊ぶのに使ってもきっと二人共何も言わないだろうし……とか思ってるのもきっと蜂子の思惑通りなんだろうな。
そんなことを考えながら蜂子を見ると、蜂子は今まで見たことのないような満面の笑顔で僕の方を見ていた。




