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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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インターミッション JC



「本当にごめんね。私から言い出したことなのに」


 ベッドの上で上半身だけ起こして謝るチアキに、みつきは「ううん」と首を振る。


「指揮車の中って言っても無理しないほうがいいって。それに私達の今日の相手は敵じゃないらしいし大丈夫だって。チアキさんは赤ちゃんのことだけ考えていてよ。」

「大人になったわねぇ」

「そりゃあ、来年高校生だもん。小学生の頃とは違うよ」


 自分でもかなり子供だったと思っている小学生時代を思い出して、みつきはすこしバツが悪そうな笑顔を浮かべる。


「そうね、みつきもそんな年なのよね…そういえば高校の入学祝いは何がいいか決まった?」

「あ!そうそうそれなんだけど、バイクとバイクの免許がほしい」

「また随分と極端なものを欲しがるわね。なんでバイクなの?」


 チアキ自身は別にバイクに対して良くも悪くも思うところはないのだが、心配症のひなたがなんというか。

 一瞬だけそんなことを考えたが、『まあほったらかしの父親がなんと言ってもいいか』チアキはそう思い直してみつきに視線を向ける。


「ゴールデンウイークとか、夏休みとかにバイクでお父さんを探しに行こうかなって思って。車だと18まで免許取れないしね」

「なるほどね。じゃあもしもお父さんが見つかったら、バイクの免許はいらなくなるってこと?」

「うっ…実は朝陽を見てたらちょっと乗ってみたくなっちゃったっていうのがあるから、それはそれとして免許は取るかも…だめかな?」

「いいんじゃない?やれることややりたいことは若いうちにやっておいたほうがいいわ」

「チアキさんが言うとうんちくがあるねえ」

「多分含蓄ね。はぁ…そういうところは変わってないんだから」

「あはは…私って頭悪いからね」

「そんなんじゃ、免許の試験落ちるわよ」

「あ、そっか。試験あるんだよね…まあ、それは受ける段階になってから考えればいいや」

「まあ、みつきがいいならいいけど」

「じゃあチアキさん、私はそろそろいくからゆっくり休んでてね」

「はいはい」

「じゃあね」




「さて、集合時間までどうするかなーっと」


 チアキの部屋を出たみつきは、そんなことを言いながらエレベーターに乗り込むと中継階のボタンを押す。

 黒服たちも今晩の対応のために出払っているので、今この寮にはみつきとチアキしかいない。

 もともとほぼ自分専用、たまにあかりがくる程度だったこの寮、このエレベーターを今はチアキ、タマ、和希、真白、それにえりたち異星人組に後輩達…たくさんの人が訪れ利用するようになった。


(ほんと、この一年ちょっとで色々変わったなあ……)


 仲間が増えて嬉しいはずなのに、みつきの心はなんとなく晴れない。


(私は、変われたのかな…強くなれたのかな)


 みつきはこの約二年ほどの間に大勢の強い人に出会った。

 その中でも特筆すべきはあかりだろう。

 普通の生活を送っていたのに突然片腕を失い、成り行きで魔法少女になったあかりは最初こそ半人前にも届かなかったが、今では誰に聞いても一人前の魔法少女だと言われるほどになったし、朱莉ゆずりの交渉力でえりとの交渉もやってのけた。

 あかり以外にも、少し不調だったとはいえ朱莉に正面から挑んで勝った和希。

暴走状態だったとはいえ、上位の魔法少女達を相手にして誰とやっても互角以上に渡り合ってみせ、その力をしっかり制御できるようになった真白。

 島しょ部奪還作戦の時、龍騎と共に敵の魔法を打ち破ってくれたタマ。

 彼女達に比べて自分はどうか。と、みつきは考える。

 えりとの戦闘も、南アフリカでの戦闘も、全部みつきさんまかせだったではないか。と。


(私がナンバー7なんて、絶対ウソだよ…こんなんじゃ、何かあったときにみんなを守れない…)


 みつきが拳をギュッと握ると、ちょうど到着階についたエレベータが「チン」と軽い音を立てた。


「あ、みつき。ちょうどよかった今迎えに…って、何!?何で泣いてるの!?」

「え……?あれ?なんで…?」


 エレベータホールにいたあかりに言われてみつきが自分の目に手をやると確かに目尻が薄っすらと濡れていた。


「あ、えっと…違うんだ。これはその……誰もいなかったから油断してあくびして―」

「嘘をつかないの」

「う、嘘なんかじゃないよ!」

「はぁ…あんた嘘つく時“違うんだ”から入るの気づいてる?」

「うそっ!?」

「嘘よ。で?なんで泣いてたの?」

「あ、えっと…ほら、和希が近くにいなくて寂しいなーなんて」

「はい、嘘」

「なんでわかるの!?」

「教えない。で?ちゃんと話さないと私はずっとなんでって聞かなきゃいけないんだけど」

「実はさ…自分で言うのもなんだけど、私って今回うちのチームの主力じゃん?」

「というか、そもそもJCの主力はいつもあんただけど…それで?」

「自信ないなあって思って」


 みつきの言葉を聞いて、あかりは大きくため息をついてからおもむろにみつきの眉間にチョップを繰り出す。


「嫌味か」

「だって…だって私今まで重要なときになんにもできてないじゃん!えりの時戦ったのは私じゃなくてみつきさんだったし最後はあかりが説得しちゃったでしょ。南アフリカの時も私は操られてただけだし、正宗先輩達の島に行った時も結局最後にみんなを助けたのはタマだったじゃん!それに真白のときだってあかりが真白と和希を助けたようなもんだし、私なんて本当は全然強くなんかないんだよ!だから、もし今日なんかあったら私みんなを守れる気がしないし…敵に勝てる気もしないよ!」

「うーん…まあ…そっか…よし!じゃあやめちゃえ!」

「え……?ちょ、ちょっと待ってよあかり」


 あかりの返事を聞いたみつきは、あかりがあまりにあっさりしていたせいで一瞬呆けた後、すぐにうろたえだす。


「いや、だってみつきは主力っていうプレッシャーが嫌なわけでしょ?じゃあやめればいいじゃん」

「だってそれじゃあ…」


 『私はいらないじゃん』喉元まで出かかった言葉を、みつきは慌てて押さえ込む


「主力はなし。みんなが主力。それで大丈夫でしょ?変に気負わなきゃみつきは十分強いんだからさ」

「え?そういうものなの?」

「そういうものじゃない?まあ、結局みんなみつきより弱いから、もしなんかあったときは頼ることになるとは思うけど、なにかあってもみつきのせいじゃないよ。これはみつきが主力とかそういうことを抜きにして、私たちは一人前、悪くても半人前以上だから選ばれているんだから、なにかあっても自分のせいだよ。というか、私や龍くんはともかく、華絵先輩やエリス先輩、蜂子先輩に那奈先輩は年上だよ?年上の責任なんてみつきがとらなくていいって。ほんとみつきって真面目なんだから」

「……あかりってさ」

「うん?」

「ときどき言ってることめちゃくちゃだよね」


 みつきの顔には、もうさっきまでの憂鬱そうな色はなかった。

 その代わりに晴れやかな笑顔が浮かんでいる。


「あと、意外と不真面目」

「じゃなきゃチームリーダーなんて務まらないって。こっちがガチガチだったら、チームみんなガチガチになっちゃうでしょ。結局何事も全部100点を取らなきゃいけないってわけじゃないんだから、40点でいいとこは60点を目指すくらいでいいのよ。というか、40点は流石に言い過ぎだけど、あんたは50点の結果を出せればだいたいOKくらいの実力があるんだから気楽にいきなよ」

「あは…あははははは」

「何よ急に笑いだしたりして」

「いや、あかりってお兄ちゃんに似てるなあって思って」

「う…それはちょっと…というか、考え方がうちのママに似てんのよ、私もお兄ちゃんも」

「ああ、たしかにそうかも」

「いい加減な家だからね」

「確かに良い加減(・・・・)だよね、力の抜き方が」

「あのみつきがうまい例えをするようになるなんて、私ちょっと感動しちゃったよ」

「私だって成長してるからね。主に胸とか」

「お?なんだ?喧嘩の移動販売か?よーし買うぞー」


 そう言って笑いながら、あかりはみつきにヘッドロックをかけ、みつきも笑いながらあかりの腕をタップする。


「あはは冗談だってば……痛…ねえ、あかり?冗談だって冗談、ちょ…痛い!痛いってば!」




「うう…ひどい目にあった…」

「みつきがひどい冗談言うからでしょ」

「それは悪かったけど、何も本気でヘッドロックとか関節技とかしなくてもいいのに…」


 あかりとみつきがJKとの集合場所であるみつきのマンションの前の歩道に据え付けられたベンチに座りながらそんな話をしていると、1日限定でJCチーム扱いになった龍騎が現れた。


「あれ?先輩たち早いですね。僕が一番だと思ったのに」

「早く来てみつきの部屋でちょっと技の練習をしてたの」

「技ですか?」

「そうなんだよ!聞いてよ高山くん!あかりったらひどいんだよ。私をベッドに押し倒して無理やりプロレスごっこに巻き込んたのに、自分がやるだけやってスッキリしたらもう行くよとかいうんだから!ほんとひどいんだから!恋人の君からもちゃんと注意してよ!」

「ちょっとみつき!それだとなんか誤解受けるでしょ!?」

「誤解?…って、どうしたの高山くん、鼻なんか抑えて」

「いや、なんでもないです。僕ちょっと鼻血が出やすいんです」


 あかりの心配どおりの誤解を誤解なく受け取った龍騎はそう言って上を向きながら首の後をトントンと叩き、あかりはそんな龍騎を白い目で見る。


「龍くん…」

「すみません、あかりちゃんの思ってる通りのことを想像しました」

「え?なになに?何を想像したの?」

「根津先輩は知らないほうがいいことです」

「ねえ、この間みんなで真白の実家に泊まったときにタマにも同じようなことを言われたんだけどなんかみんなして私の事を子供扱いしてない!?」

「してないって」

「してませんって」

「なーんか怪しいんだよなあ…」


 そう言いながらなおも食い下がろうとするみつきの気配を察したあかりは話題をかえることにした。


「それはともかく、華絵先輩たち遅いね」

「あかりちゃん雑!」

「いくらなんでもその話のそらし方は不自然すぎるよ!私だって馬鹿じゃないんだからね!」

「う…ま、まあいいじゃないの。それより今日来る鏡音咲…というか、伊田朔夜って人の事なんだけどね」

「だからそんな話のそらし方じゃ私は―」

「実はお兄ちゃんの子供らしいんだよね」

「ええーーーっ!?」

「そうなんですか!?」

「じゃああかりは、その人のオバサンってことになるんだ」

「私もそこどうなんだろうと思って…関係的には従兄弟なんだと思うんだけど、でも家系図とかだと叔母になるのかな。とは言っても血のつながりはないしなあ」

「というか、その話どこで聞いたんですか?」

「そうそう。お兄ちゃんに隠し子がいるなんてちょっと信じられないんだけど」

「一昨日柚那さんが泊まりに来たときに教えてくれたんだよね」

「ええっ!?じゃあホントなんだ…誰との子供なの?」

「柚那さん」

「…………???」


 あかりの回答を聞いたみつきは頭がオーバーヒートを起こししきりに首を傾げていて、あかりと龍騎はそんなみつきの頭の上に大量のクエスチョンマークが浮いているのが見えたような気がした。


「まあ本人に聞いたわけじゃないらしいんだけど、お兄ちゃんが言うには、あの人は未来からやって来た息子なんじゃないかって」

「あれ?でもあかりちゃん、朱莉さんの子は女の子って言ってませんでした?」

「そうなんだよね。そこがちょっとわからないんだ。というか、その朔夜さんは蜂子先輩と付き合ってるから蜂子先輩も姪になるのかなとか、色々複雑なんだよね」

「う…うう…ごめんあかり、私の頭じゃもうついていけない」

「いいんだよみつき。作戦開始まで少し休んで、難しいことは全部忘れちゃいな。ほら、肩貸してあげるから」

「ありがと…」


 そう言ってみつきはあかりに促されるまま、素直にあかりの肩に自分の頭を載せ、そんなみつきをみてあかりはしめしめと心のなかでほくそ笑んだ。



お察しの通りスランプです。

さらに私生活のゴタゴタとかあってしばらくペースは回復しないと思います

というか、最終章の結末がまだ全然決まってなくて本編だけやってくとすごく時間がかかりそうなので、感想欄からでもなんか「こんなの読みたい」とかってお題いただければ、気分転換とリハビリをかねてちまちま書かせていただきたいと思います。


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