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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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伊田くんと東條さん 2.5

しょうがないにゃあ…


 那奈が変なタイミングでいきなり帰るから、妙な雰囲気になってしまった。

 いや、私が自分でお風呂がどうのとか口走ったのが良くなかった。それはわかっているんだけど。

 というか、ちょっと前までお風呂くらい余裕だと思ってたのに、なんでだろう。

 なんで私はこんなにドキドキしてるんだろう。


 今夜二人きりなのが確定したから?


 それとも朔夜が実は私のことを意識してくれていたことがわかったから?


 多分その両方だ。




「ね、ねえ朔夜」

「な、なんだよ蜂子」

「お風呂なんだけど」

「お、おうっ」

「その…冗談…だから。今更だけどやっぱりちょっと恥ずかしいっていうか」

「そ、そうだよな。うん、わかっていた。わかっていたぞ僕は」


 絶対本気にして意識してただろうとか、あれ?実は期待してた?とは言わない。

 私のほうが大人だし。ここは空気を読んで――


「まったく蜂子は……これからはできもしないこというんじゃないぞ。どうせ最後にはヘタレるんだからな」

「はぁ?」


 ―――ヘタレはオノレだろうが!!


「私は朔夜がヘタレてるから一歩引いてあげたんですけど?」

「おいおい、つい今さっき自分で言っただろう?やっぱり恥ずかしいって」

「ていうか、朔夜私がやっぱり一緒にお風呂入らないって言った時ホッとしてたよね?絶対ホッとしてたよね?絶対ヘタレてたよね?」

「そ、そんなことないぞ。だいたい朝も言ったけど胸とか僕のほうが蜂子より大きいしな」

「そんなこと言って、私の裸見て興奮するのが怖かったんでしょ!?『みゃすみんさん単推し』とか言ってたくせに私に欲情しちゃいそうだって思ったんでしょ!?」

「誰が!というか、蜂子こそ僕と入って変な雰囲気になるのが怖かったんだろ!?」

「はぁぁ?いまさら朔夜の貧弱な身体見たってどってことないし!むしろ望むところだし!?朔夜のほうが怖がってんでしょ?ほら、言いなさいよ魅力的な蜂子さんと一緒にお風呂入ったら大変なことになっちゃうって」

「大変なことなんかにならないね、むしろ蜂子のほうが言えよ。朔夜と一緒にお風呂に入ったら私メロメロになっちゃうーって」

「言ってることめちゃくちゃだしセリフにもセンスがない!今日び『メロメロ』ってなによ」

「う、うるさい!僕はお前が言ったことをそのまま返しただけだ!」



 なんてことがあり、結局引くに引けなくなった私と朔夜はそれぞれ朔夜の部屋とリビングで服を脱いだ後、バスタオル一枚で脱衣所前に集合していた。


「なあ、蜂子」

「うん?」

「僕らってひょっとして馬鹿なのかな」

「ちょっと!僕“ら”って言わないでよ。馬鹿な意地を張って後戻りできなくなったのは朔夜でしょ」

「いや、絶対蜂子も同レベルだと思う」


 まあ、それについては、正直否定出来ないなと思うけど


「と、とにかく!は、入らないと風邪引いちゃうよ」

「お、おう。そうだな」


 朔夜がそう言って小さく深呼吸をした後、お風呂のドアを開けて中に入り、私もその後に続く。


「それで、僕はこ、これからどうすれば?」

「って、あんたガチガチに緊張してるじゃないの!」

「そ、そんなことないぞ、ないね、ない…ないはず、いや、ないったらない!!で、僕はどうすればいいんだ?」


 今まで見たこと無いくらいそわそわしているし、表情も強張ってるのに何を言っているのやら。

 朔夜があんまりそわそわするものだから逆に私はちょっと落ち着いてきちゃったぞ。


「うーん、お父さんと入ってた時は最初に私が背中流してたけど」


 ただ、正直言って恋人と一緒にお風呂に入るのにお父さんと同じでいいのかはよくわからない。


「じゃ、じゃあ背中流してもらおうかな」


 そう言って朔夜はバススツールに腰を下ろすが、やっぱりどこかそわついているように見える。というか、そわそわしているのにちょっと偉そうなのが少し可愛い。

 そんなことを考えながら私はシャワーを出して温度を確かめる。


「はーい、じゃあ頭から洗うよー」

「え?蜂子は頭からなのか?」

「朔夜は違うの?」

「僕は頭と顔は最後だな。時間かかるし」


 むしろ時間かかるから私は頭からなんだけどなあ…まあこれは人それぞれか。


「ひげ剃りはどうするー?」

「ひ、髭!?いや、それは明日の朝自分でやるからいいかな」

「りょうかーい」


 そう返事をしながら私が隣でボディソープを泡立てていると、朔夜がまじまじとこちらを見ながら口を開いた。


「というか、蜂子はカミソリ使えるのか?」

「ん?まあほら、ムダ毛処理とかするしね…ほら、洗うから背中向けて」

「なんか同級生のそういう話って生々しいな…」

「あのねえ、普通の女子校生は永久脱毛とかそんな簡単にできないのよ。だから自分でなんとかするしかないの。あんたの憧れの愛純さんとは違うの」


 自分で目と手の届くところは自分でできるけど、夏、海に行く前なんかは背中の毛を那奈と二人で剃り合ったりもする。

 男子にはわからないだろうけど、女の子は大変なのだ。


「いや、あの人も永久脱毛とかじゃなくて自分で剃って――痛い!痛いぞ蜂子なんでいきなり全力で背中をこするんだよ!」

「あんたは!なんで!愛純さんの毛の処理事情を!知ってんのよ!」

「いだっ!いだっ!いだだだだだっ!!何勘違いしているか知らないけど、僕は母さんと愛純さんと朝陽ちゃんに育てられたんだぞ!?だから小さい頃は一緒に風呂に入ることだってあったってだけだ」


 あ、なるほど。そういうことか。


「でもそれならあんた愛純さんの裸見たことあるのよね?なんで写真集なんか買ってんの?あれ水着の写真集でしょ?」

「それとこれとは別だ」


 なるほどわからん。


「よくわからないけど私がイラッとしていい案件だと思うから、やっぱりあの写真集は燃やすわね」

「……まあ、仕方ないな」

「ああそうだ。あんたの電子書籍のアカウントも消すからね」

「電子書籍!?な、なんのことやら」


 そんな馬鹿話をしながら私は朔夜の背中を、朔夜は自分で腕や胸、腹に足を洗っていく。

 そして頭と顔もしっかりと洗い終わり、残るは――


「……な、なあ蜂子。ちょっと後ろ向いててくれないか?」

「じーっ…」

「口でじーっとか言うな!」

「ピトっ、じーっ」

「背中に胸を押し付けるな!そして人の肩から顔を出してタオルをまじまじと見るんじゃない!」


 顔を真っ赤にしちゃって、朔夜ったら可愛いんだから。


「興奮した?」

「………こういうのは別に蜂子じゃなくてもだな」

「だとしても…今は私で興奮してるんでしょ?」

「やめろ!コソコソ耳元で囁くな!耳に息を吹きかけるなっ!っていうか身体を押し付けながら動くな!!」


 おや?タオルの様子が…


「ウェヒヒヒ」

「変な笑い声を出すな!」

「ごめんごめん。じゃあ洗うねー」

「洗うな!洗わないで良い!いや、洗わないでくださいお願いしますっていうか後ろ向いててください!」

「だーめ」


 洗わないでとかいいつつ、顔を赤くしているだけで抵抗しないんだから、これはもう合意ですよ奥さん。

 いや奥さんって誰だ。

 だめだだめだ、私も朔夜に毒されたのか変なテンションになっているっぽい。っていうか、頭の中がぼーっとしてるし、胸がすごいドキドキしてる!!

 って!……うん。ちょっと落ち着こう。こんなの私らしくない。


「お、落ち着け蜂子。鼻息が荒いぞ

「ごめんね朔夜。私ちょっと変なテンションになっちゃってたわ」

「よかった、おかえり蜂子。僕はいつもの蜂子が――」

「こういうのはちゃんとしないとね」

「――ちゃんと?」


 うん、ちゃんとしないと。


「朔夜」

「は、はい」

「いただきます」

「え?はい、召し上が……え?」

「ウケケケケ!タオルとったどーーーーー!!」

「うっわああああああああああっ!」







「なんだか今日はふたりともホカホカしてますねえ」


 日付が変わるか変わらないかくらいの深夜にフラッとやってきたいずみさんはお風呂上がりの私と朔夜を見てニコニコ…というかニヤニヤと笑い、朔夜はそのニヤニヤをドヤ顔で受け止めて頷く。


「まあな」

「………」

「あ、もしかして、二人でお風呂でも入っていたとかですか?なーんて、朔夜くんにそんな度胸があるわけが―」

「ふははははっ!残念だったな大橋!ああそうだ、僕と蜂子はさっき一緒に風呂に入った!これでもうお前たち3人にも蜂子にも僕がヘタレだなんて言わせないぞ」

「ええっ!?蜂子ちゃん本当?というか朔夜くんはなんで半泣きになってるの!?」

「はい、本当です。一緒に入りました…まあ、半泣きなのは察してあげてください」


 半泣きですごいドヤ顔しているどこかの彼氏さんは最後の最後でヘタれて女の姿に変身してたけどね。

まあ、私も変なテンションで朔夜のタオルを剥ぎ取っておきながら実はバスタオルの下に水着を着ていたし、あんまり人のこと言えないけど、女の姿と水着だったからゆっくり一緒にお風呂に入れたっていうのはあるわけで。


 ……まあアレね。ヘタレ同士でいいカップルよね、私達。


 そんなテレパシーを送ると、朔夜はちらっとこっちを見た後、すぐに恥ずかしそうに目をそらした。


蜂子さん喧嘩っ早くていかんね(´・ω・`)

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