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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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伊田くんと東條さん 2

「あ、私もうすぐ出かけるけど、帰りに何か買ってくるものあるー?」

「……」


 急遽決まったJCとの再打ち合わせに出かける前に掃除機をかけながら隣の部屋にいる朔夜に声をかけるが返事がない。

 掃除機の音で聞こえなかったかな?

 しょうがない。掃除機を止めて隣の部屋まで行くか。


「朔夜?」

「聞こえてる。っていうか、なんで蜂子は今日も僕の部屋に帰ってくる前提なんだよ」

「え?だって私しばらく戦技研で泊りがけの研修してることになってるんだもん」

「なってるんだもんじゃない!親に嘘ついて男の家に泊まるとか親不孝にも程があるだろ。っていうか、クリスマスからほぼうちに泊まってるじゃないか!」

「朔夜ってそういうところほんと真面目だよね」

「うるさい。蜂子が不まじめすぎるだけだ」


 そう言って朔夜はぷいっとそっぽを向いた。


「まあほら、男の部屋って言っても毎日いずみさんとか瞳さんとか英里紗さんとか来てるし、ほぼ二人っきりの時間なんてないわけだし、親不孝ってほどでもないって」


 むしろ私が泊まる日は3人に頼み込んで誰か一人に来てもらっている朔夜のヘタレ具合のほうが彼女不幸にも程がある。


「あ、そうそう。言い忘れてたんだけどさ、ちょっと頼み事があるのよ」

「頼み事?なんだって僕が蜂子の頼み事なんか――」

「今日朱莉さんとエリスにちょっとした仕事をお願いしたんだけど、エリスは知っての通りの実力だし、朱莉さんはジュリに変身してるからちょっと本調子じゃないしっていうことで、こっそりついていってヤバそうだったら手を貸してあげてほしいの」

「ま…まあ、そういうことなら、仕方ないな。うん、仕方ないから手助けしよう」


 とかなんとか言って口元がにやけてるんですけど。

 本当にファザコンだなあこいつ。


「よろしくね」

「任せておけ。村雨と朱莉さんは僕が守る」


 ………んー…これはこれで面白くないんですけどー。


「浮気しちゃだめだからね?」

「浮気も何も僕と蜂子は別に―」

「は?」

「……なんでもないです。浮気とかしないです。はい」

「絶対だからね」


 と言いつつ私は朔夜の腕に抱きつくようにして胸を押し当てるというご褒美を――


「って、なんで平然としてるの!?」

「え?何が?」

「ほら、腕見て、というか感じて!?蜂子さんのおっぱい当たってるでしょ!?」

「いや、だってなあ」


 朔夜は私の胸の感触なんて意に介さないような表情で変身してみせる。

 そして―


「ほら、僕のほうが大きいだろ?」

「死ね!」



 と、そんなことがあったのが今日の朝。

 案の定と言うかなんというか、最初からこの組み合わせならなんかしらトラブル起こすんだろうなと思っていたエリスと朱莉さんに加え深谷さんも居たということもあって、3人プラス佐藤さんは見事敵の襲撃を受けた。

 私たちはその襲撃を受けたという一報を受けて大急ぎで戻ってきたのだが。


「公園のど真ん中でエリスがよってたかって泣かされていたとかいう件」


 みんなに囲まれて泣いていたエリスを見たハナが激怒。

 深谷さんと佐藤さんは取り逃がしたものの、どうやら正体が解禁になったらしい朔夜とこちらはまだ秘密が継続中らしいジュリを座らせてその前に仁王立ちになり、二人を睨みつける。


「ちがうんだよハナ。これには深い事情があってね」

「あら、そうなの?エリス本当?」

「ジュリがあたしを面白半分に弄んだの。あと伊田も」


 おっと、朔夜くん?どういうことかな朔夜くん?


「ふぅん…朔夜?」

「違う!断じて違う!僕は――」

「あ、こいつエリスが腕に抱きついたときに興奮してました」

「ちょ…あか…田村!?」

「っふぅーーーーーーーーーーーーーん?」


 どういうことですかね。

 私とエリスの胸のサイズはそれほどかわらないんですけれども、変身後の朔夜みたいに馬鹿みたいに大きいわけでもなければ、ハナとか愛純さんみたいな絶壁でもないんですけれども!?


「ちがう!あれは興奮したとかじゃなくて、狼狽していただけだ!」


 だからなんで私の時は動じなかったのにエリスだと動じるんだっていってんだけど。


「なんで狼狽するわけ?」

「それはその、僕は一応蜂子の彼氏ということになっているわけだし、後々僕の正体がバレた時に蜂子の手前、お互い気まずいだろってそういう話で」

「だったら別にいつもみたいに平然として知らん顔してればよかったじゃない。僕はそんなの気にしませんって感じで。というか、私がそういうことしても全然動じないくせになんでエリスだと動じるわけ?」

「だから、こういう面倒なことになるのが目に見えていたからだろ」

「だったらいつもみたいに『僕は貧乳派です』って顔してればよかったのよ!それだったら正体がわかっても『ああ、朔夜は女子に興味ないんだな』ってなるだけなのにエリスの時だけ動じるなんてどういうことよ。100歩譲ってハナならわかるわよ!?愛純さんと同じ絶壁だもの!でも私とそんなにサイズの変わらないエリスで動じるってどういうことよ」

「ちょっと待て、どうして僕が女子に興味がないとかそんな話になるんだ。あと愛純さんは関よりはある。写真集で見た」


 写真集でみたっていう愛純さんはともかく、なんでハナのサイズ知ってんだよ。うちの学校プールねえぞ。

 っていうか


「そんな微かな差なんてどうでもいいのよ!」

「はいはいはーい、ややこしくなるからふたりはあーしと一緒にあっちねー」

「ちょ、ナナ!?」

「おい、やめろ西澤!襟首をつかむな。なんか屈辱的だ」

「はいはい、わかったわかったー」




「…で、なんで西澤まで僕の家にいるんだ?」

「いいじゃんいいじゃん。正体がバレた以上、あーしが来たって問題ないっしょ?てか、あーし一度男子の部屋ってきてみたかったんだよねー…あ、ねえエロ本どこ?」

「それならマットレスの足元側の裏地を剥がすとタブレットがあるから多分そこの中よ」

「なんで知ってんだよ!?」


 パソコンの中にしか無いとか言ってたのが怪しかったからどうせ写真集と同じような隠し場所だろうとあたりをつけたらあっさりでてきただけで、しかも朔夜がずーっといるから中身を確認できてなかったんだけど反応から察するにどうやらあたりらしい。


「むしろ毎日この部屋の掃除をしている私がなんで知らないと思ったの?」

「ヒュー、毎日部屋の掃除してるとかラブラブじゃん」


 とか言いながら手際よくタブレットを取り出す那奈。


「ふーん、こういうのがいいん……あれ?」

「どうしたの那奈」

「これハチに似てね?」

「え?どれどれ?」

「やめろ!今すぐそれを元の位置に戻せ!そしてふたりとも帰れ!」


 那奈が見せてくれた写真は少し年上のモデルではあるものの、雰囲気が私に似ている感じはあった。

 なーんだ、朔夜の奴め、全然気にならないとかそういうことを言いながら、多少は私のことを―


「あ、こっちエリスに似てる。あれ?こっちハナっぽくね?げ、あーしっぽいのもいる…っていうか他のクラスの女子っぽいのもいるじゃん」

「……朔夜?」

「ち、違う!そういうつもりはないというか、それはクラスの男子が冬休み前に強制的に押し付けてきた画像だ」

「それを後生大事に取っておいている理由は?」

「理由ってほどたいしたことはなくて、ただそのままになってただけっていうか…そもそも蜂子がずっといるから消す暇が―」

「うっわ、朱莉さんとか本職の人たち似のもある。男子ってこーいうのどこから拾ってくんだろーね」

「朔夜」

「違う!誤解だから!本当にクラスのやつに押し付けられただけで」

「どうせあれでしょ!?夜な夜な朱莉さんとか愛純さん似の画像をいやらしい顔で見てたんでしょ」

「違うって、誤解だ」

「まー、でもさー『誤解だー』って言ってハチに言い訳してるってことは、伊田はハチに嫌われたくないって思ってるってことっしょ?」

「は?どういうこと?」

「いや、例えばこれを伊田がいやらしい目で毎晩ながめてたかどうかは別として『ぐへへへ、お前らをおかずにしてやってるぜー』とか言えばハチは愛想つかしそうなもんっしょ?でも言い訳してるってことはつまり伊田もハチのこと好きか、好きじゃなくても嫌われたくないとは思ってるってことっしょ」

「いや、僕は断じて蜂子のことなんて―」

「っていうか、愛純さん似のやつは入ってないよー…って、あ、画像受信した。本当にクラスの男子から送られてきてんだね」

「だ、だろう?わかったらそれはもうしまってくれ。一応、一時的とは言え付き合っているんだから、僕は蜂子に対してそんな不誠実なことしないさ」


 そっか、やっと愛純さんをあきらめて私のことを――


「――あ。ゴメン嘘だった。愛純さんっぽいのだけ別フォルダにあったわ」

「消しといて」

「ほーい」

「うわああああああああああああっ!」





「じゃあ、あーしはこれで帰るから後は若い二人で楽しんでちょーだい」


 夕食まで食べたのでこのまま泊まっていくのかと思っていた那奈はそう言ってソファーから立ち上がった。


「いや、むしろ蜂子も連れて帰ってくれ」

「ちょ、それどういうことよ朔夜」

「あっはは、仲いいねえ。ってか、来てよかったよ。しょーじき朔夜ってばハチのこと好きじゃねーんかなーって心配してたけど、今日の感じだとその心配はいらなかったね」

「おいまて西澤、わかったような気になるな」

「まあまあそう意地を張らずにあーしの親友を頼むよ」


 そういって那奈は朔夜の肩をポンと叩く。


「ああそれと、あーしのことは那奈でいいよ」


 そんなこと言ってもどうせこいつは意地っ張りだからそんな簡単に那奈を名前で呼んだりしな―


「だからちょっと待てよ那奈」

「おいテメエこの野郎どういうつもりだ」

「蜂子はなんでいきなりキレているんだよ」

「私の時は名前で呼ぶの超渋ったのになんで那奈のときはあっさり呼ぶわけ?」

「あれ?もしかしてハチ嫉妬してんの?」

「してるわよ!」

「はっはっは、朔夜の彼女かわいいねぇ」


 おめえも普通に人の彼氏を朔夜とか呼び捨てで呼んでんじゃねえよ。


「まあ、かわい…くなくもないこともないかな」

「わかりづらいからはっきりいいなって」

「……まあ、悪い気はしない」

「はっきり言ってそれかい!!…でもまあ、あんたが悪いやつじゃなくてほんと良かったよ。面倒くさいやつだけど、これからもハチのことよろしく」


 そう言ってニッと笑いながら那奈が朔夜の胸に軽く拳を当てる。


「いや、さっきも説明したように僕は――」

「あーしは未来とか過去とか、ぱらどっくす?とかそういう難しいのよくわかんない」

「難しいことなんてなにもなかっただろ」

「それでも理解できない。あーしは使命を果たすなんていうことよりも友達とずっと仲良くしたいし、それが恋人だったらなおさらだと思うし、逆に未来の柚那さんからしたって危ないところに帰ってきてほしいなんて思わないんじゃない?」


 那奈がそう言うと、朔夜は私の方をちらりと見た。

 なんとなく『お前が言わせてるのか?』っていう意思が視線から伝わってきたので、私は首を振る。


「まー、ハチのためにだけじゃ弱いなら、あーしとかエリスとか、ハナとか、あとはクラスのみんなとか、友達のために残るって選択も考えておいてって話」

「おい、いつから僕はお前の友達になったんだよ」

「一度あったら友達だし。むしろ毎日教室で会ってたんだからもう兄弟みたいなもんだよ」

「お前なあ…」

「とにかく、あーしの幼馴染のことたのんだぜぃ」


 そう言って会話を打ち切ると、那奈は「バイバーイ」と言って玄関を出ていった。


「なんか、勢いで頼まれてしまった…」

「で、どうするの?」

「いや、どうもしないって」

「今日は那奈がずっといると思ってたから、いずみさんに来ないで大丈夫ですよーって言っちゃったんだよね」

「もしかして……僕、今日の夜蜂子に襲われるのか?」

「なんでそうなるのよ!別に襲わな……」


 そうかなるほど、こっちから襲ってしまえばいいのか。


「まて、読心魔法がそれほど得意じゃない僕でも今お前が何を考えているかくらいはわかるぞ」

「いや、ほら一緒にお風呂はいるくらいだから」

「だからなんでお前はやたらと一緒に風呂に入りたがるんだよ!」







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