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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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霜天に舞う冬桜 5

「おや、エリス先輩ではないか」

「あら、ごきげんよう先輩」


 エリスがジュリの言うとおり壁を背にして周囲を警戒していると、見知った二人の女子中学生がエリスをみつけて近寄ってきた


「あ、深雪ちゃん、それにベスちゃん」


 エリスはもともといわゆる正規JC、和希や真白とは正宗つながりで交流があったが、この二人は忘年会の時にJCチームにくっついてきていたところから交流が始まったばかりで、知り合ったばかりというのあって、ここ数日は真白や和希よりも連絡を取っている。


「ちゃんはいりません。エリス先輩は先輩なのですから堂々と呼び捨てにしてください」

「呼び捨てにするのが堂々としているのかどうかはよくわかんないけど、ベスがそう言うならそうするね」

「はい。それで先輩はこんなところでキョロキョロと何をされていたのですか?」

「えっと、自分でもよくわかんないんだけど、ジュリがなんかここでじっとして怪しいやつがきたらすぐ逃げろって電話で言ってて、それで一応周りを見てたんだけど」

「不審者を探しているというより、むしろエリス先輩のほうが不審じゃったぞ」

「……」


自分でも薄々そう思っていたエリスは反論をせずに深雪から目をそらす。


「まあでも、警戒して不審者を探せといっていたということはもしやまたエリス先輩が例の犯罪集団に狙われているのでは?」

「いやいや、あたしを狙ったってしょうがないじゃん」

「しかし、我々が捕まえたボマーはJKが弱い……こほん、狙いやすいから狙ったと言っておったし、再び狙われたとしてもおかしくはあるまいよ」

「私も同じことを考えていました」


 普段はボケ担当の二人ではあるが、こういう時に限ってどういうわけか勘が働くらしく、深雪とベスは頷きあうとそれぞれエリスの手を取った。


「え?どうしたのふたりとも」

「先輩は」

「我らが守るのじゃ」

「え……えーっと…」

「大丈夫です」

「な、なにが?」

「確かに我々はJCの中でも最弱!」

「しかし、エリス先輩よりは強い自信があります!!」

「ひんっ……」






 なーんてことがあったんだろうな。俺が走ってくる間に。

 目の前には敵意むき出しの深雪たんとエリザベス。そして、目が死んで半笑いのエリス。

 そしていきなりのMフィールド展開である。


「あの、これは一体どういうことかな、深雪た…ちゃん?なんでMフィールド展開して、変身してるの?」

「ジュリ先輩、あなたは本当にジュリ先輩ですかな?」

「ジュリに決まってるじゃない。他の誰に見えるっていうの?」

「ジュリ先輩と入れ替わった敵…という線も考えられますね」

「何を言っているの、ふたりとも」

「エリス先輩が敵に狙われているという連絡をしてきておいて『何を言っているの?』じゃと?ますます怪しい」


 やっぱりか!やっぱり俺が考えたようなことがあったんだな!?


「あなたがジュリ先輩であるという証拠を出してもらいましょうか」

「えー……ほら、エリスが証明してくれると思うし。ねえ、エリス?」

「ふふ…あたし弱いもんね、そうだよね、どうせ弱いもんね…だから佐藤さんにもふられちゃうんだもんね…」


 だめだーーーーーーーーー!!

 なんかエリスが落ち込んだときの深谷さんみたいになってるーーーーー!!


「…ほら、ハナが証言してくれると思う」

「なにを言っているのですか、今ここで証明できなければ意味がないではないですか」

「でも絶対証言してくれると思うから」

「ならばそのハナ先輩とやらを連れてきてもらおうではないか」

「そうですそうです!」


 何山の金さんだよ。

 というか、ハナ先輩とやらって。

とやらもなにも君たち最近仲良しでしょ。妹が欲しかったっていうハナが嬉しそうにしてたわよ。


「最近はMフィールドの中も安全とは言い難いし、さっさとJK寮もしくはJC寮まで移動したいんだけど」

「そんなことを言ってエリス先輩を連れ去るつもりでしょう?あの薄い本のように!」


 どの薄い本だよ。

っていうかエリザベスはどこで覚えたんだそんなの……ヒルダはそういうの読まないし、アビー経由でジャンヌからって感じか。

まったくあいつはいたいけな娘さん達にとんでもない悪影響を与えやがって。


「まあいいや。今ここで君たちの私に対しての信用についてガタガタ言ってても始まらないし、私が本物かどうかはあとで寮に着いてからじっくり話し合おう」


 この二人にはアビーがジャンヌから習ったような必殺技もなければ、守りのスペシャリストであるユーリアの懐に入り込んで関節技、寝技を狙うような技術もない……はずだ。

 なので、力づくでおさえこんで、一緒に寮に連れて帰ってから誤解をとけばいい。


「来るぞベス」

「油断しないでください、深雪」


 そう言って二人はエリスをかばうように立つと魔力を高めていく。


「ゆくぞ、ジュリ先輩!」

「いきますよ、ジュリ先輩!」


「ホワイトアウト!」

「ナイツオブラウ…クシュン!さ、寒いです深雪!」

「ええい、我慢せい!というか、この間真白に魔力カイロのやり方を習ったであろう」


 コンビネーション悪いなあもう。

 とはいえ、無傷で捕まえたいいこちらとしては好都合だ。


「急いでるからちゃっちゃと決着つけて寮にいくよ」


 寒いだの我慢しろだの言っている二人に構わず、俺は変身して二人を制圧することにした。


「かかった!」


 言い合ってたのは演技だったらしく、俺が飛んだ瞬間、深雪たんは普段の可愛らしい顔とはまったく違う鋭い表情を浮かべると魔法を発動して俺の行く手に雪と氷でできたネットを出現させる。


「なんっっとおっ!?」


 空中で身を捩って紙一重でなんとかネットをかわしたものの、俺が着地をしたときにはあたりの景色は白で塗りつぶされていて視界は30センチもなくなってしまっていた。あと超寒い。

 なるほど、これが深雪たんの魔法『ホワイトアウト』というわけか。こいつはかなり厄介だぞ。

 なんて言ったって五体満足な人間が普通に生きていてまずいちばん頼る情報っていうのは視界からの情報だ。その情報をあたり一面雪で真っ白に塗りつぶすことによって遮断し、寒さで触覚もダウン。ビュービューと吹き荒れる風で聴覚からの情報もかなり制限されるし、嗅覚なんて言わずもがな。こんな中普通に息をしていたら多分鼻毛も凍る。というか、寒さ対策でわずかずつではあるが魔力も使わなきゃならないので常に状態異常がかかっているような状態だ。


「はっはっは、驚いたかジュリ先輩。これが我が奥義ホワイトアウト!本当はスノーホワイトにしたかったのに朝陽ちゃんがその名前をすでに使っていたせいで登録できず、カチューシャに泣きついて名前を付けてもらったという逸話のある技じゃ!」


 それ逸話じゃねえよ。


「さあ、おとなしくその手錠をつけるのじゃ。そうすればこの魔法を解除してやろう」


 深雪たんがそういった後、俺の足元に手錠が滑ってくる。

 うーん、最初は二人に化けた刺客かなと思ったけど、このツメの甘さ本物の深雪たんっぽい。


「さあ、どうした?早く手錠をかけねば凍え死ぬぞ」


 どっちかというと、俺よりエリスのほうが心配なんだけど。あの子ちゃんと魔法で暖取れるのかな。

 とか考えていると


「ちょ、ちょっと深雪、エリス先輩の唇が真っ青なんですけど!?」

「ええい、世話のやける先輩じゃ!ちょっと待っておれ」


 あ、やっぱりできないんだ。


「これでよし。では戦闘再――」

「ごめんね深雪ちゃん。声で位置がバレバレなんだよ」


 俺は気絶している深雪たんにそう謝って地面に寝かせ、ブルブル震えているエリスを手探りで引っ張り寄せてホワイトアウトの解除を待つことにした。


「深雪?深雪!?おのれ田村ジュリ!私の…その、親友になんてことを!……キャーーーー言っちゃいました!言っちゃいました!」


 いや、今絶対深雪たんが気絶しているであろうことを確認してから言ったよね?何?親友って言うと嫌がられたりするの?……まあいいや。とりあえず今の声でエリザベスの場所は割れた。

 照準を合わせて、確かあかりが「ベスは見習い組のなかでも最弱」とか言ってたから最小限の威力で適当な魔法を、と。


「あれ!?」


 手応えなし!?おかしい、ぜったいあそこにいると思ったのに

 

「かかりましたね、田村ジュリ!今の弾道であなた達の位置はわかりましたわ!」

「こっちだって今の声で君の位置は掴んだよ!」


 俺は再び、最小限の威力でエリザベスを狙い、そして


「はずれです!」

「なんで!?確実に音のしているところを狙っているのに!」

「ふふふ……こんな格言を知っています?『当たらなければどうということはない』」


 シャア・アズナブルですね。

じゃなくて!今絶対目の前で声がしたぞ!?


「そんなにキョロキョロしても私はみつかりませんよ」

「………ていっ」

「ああっ!?ランスロット!!」


 足元を見たらなんかちまっこい鎧の人形がエリザベスの声で喋っていたので思わず反射的に蹴ってしまったが、やはりあれはエリザベスの魔法で間違いないようだ。


「くっ…なんて非道な!あんなに可愛らしいランスロットを蹴っ飛ばすなど…この野蛮人め!」

「ねー、もうやめようよエリザベスちゃん。私はここで真っ青になってブルブル震えているエリスを連れて帰らなきゃいけないし、君たちも一緒に遊んでいたところだったんじゃないの?」

「そうでした!アビー達と約束していたんでした!」

「じゃあもうやめて君たちは予定通り遊びに行く、私とエリスはJK寮に帰るっていうことでよくない?なんだったら深雪たんには私がエリザベスちゃんに負けたって言ってもいいし」

「な、なんという悪魔の囁き!しかし、深雪の仇もとらずにおめおめと引き下がることなどできません!さあ!いざ尋常に勝負です」


 エリザベスがそう言うと、先程の人形を筆頭に30体近い人形が俺達をぐるりと取り囲む。


「かかれー!」


 集団で襲い掛かってくるとか騎士道の騎の字もねえなこいつら!………って、あれ?たいしていたくないぞ?


「さあ、どうですか?もう降参したくなってきたでしょう?」


 高笑いでも聞こえてきそうなくらいのドヤ声で、吹雪の向こうのエリザベスが言った。

 だが、


「あの、全然痛くないんだけど」


 痛くないだけじゃなくて、目測を誤った…というかコントロールしきれてないっぽい人形がエリスに襲いかかって蹴っ飛ばされたり、気絶している深雪たんの口を引っ張ったりしているんだけど


「そ、そんなはずは!」

「いやいや、それどころか一部が深雪たんに攻撃をしかけてるんだけど」

「ええ!?それはまずいです!鬱陶しいから全部出すなって昨日も叱られたばかりなのに!万が一深雪の目が覚めてしまったらまた叱られてしまいます!」


 叱られたのかよ。


「とりあえずお互い一度魔法を引っ込めよう。それでまだやるならやるでいいし、やらないなら解散ってことでどうかな?このままだとエリスが凍えちゃうし、このホワイトアウトの解除の仕方を教えてよ」


 なーんて、さっき引き寄せたときに俺が魔法を使って防寒し直したエリスはもう絶好調とばかりに人形を蹴散らしているし、一応深雪たんにもかけておいたので、二人は大丈夫だ。


「それでは本末転倒…って、エリス先輩めちゃくちゃ元気じゃないですか!」


 まあ声が送れるなら映像も送れるか。


「元気にしたんだよ。深雪たんだって気絶しているのに全然寒そうじゃないでしょ?ふたりとも私が魔法で防寒したんだよ」

「な……」

「私が敵ならこんなことしないでしょ?だからさ、もう終わりにしよう」

「わ…」

「わ?」

「私にも防寒魔法かけてください!実はさっきから魔力を全部ナイツオブラウンドに振り分けちゃっててもう魔力切れギリギリなんです!」


 ホワイトアウトの向こう側から飛び出してきたエリザベスはブルブル震えながらそう言った


「あ、うん」

「ああ…なんて温かい。まるで春の木漏れ日のようです…」


 ガクガクと震えていたのが嘘だったかのようにふにゃーっと表情が溶けていくエリザベス。まったく、そんなになるまで頑張らなくてもいいのに。


「ちなみにどうやったらこのホワイトアウトを解除できるかって聞いてる?」

「はい。実は深雪は今のように気絶しても自分が風邪を引かないようにするためにリミッターをかけているのです」

「リミッターってどういうこと?」

「深雪は風邪がくしゃみから来るそうで、それで一度くしゃみをすると解除されるように設定されています」


 じゃあ俺が防寒魔法を深雪たんにかけたことは完全に裏目だったってわけだ。


「流石にこの気温で防寒魔法を解除するのは気がひけるんだけど、くしゃみって鼻をくすぐるとかでもいいのかな?」

「大丈夫だと思います!」


 じゃあちょっと失礼してっと。


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