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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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霜天に舞う冬桜 1

 エリスにすぐ行くと言ってしまった手前行かないわけにもいかず、大急ぎで松葉を実家に送ったものの、高速に乗った時点で時刻はすでに八時過ぎ。

 ここから佳代を途中でおろして俺の実家まで一時間以上かかることを考えると……


「あのさ、柚那」

「これは不可抗力だからしょうがないですね」

「察していただいて非常に助かります」

「いいですよ。紫さんやお義母さんにちゃんと報告できてませんでしたから今日は朱莉さんの実家で女子会しながらおとなしくしてます。朱莉さんがあの二人に手を出すとは思えませんし」


 この時間からだと多分俺はJKの部屋に泊まりになる。

 柚那はそれについて仕方がないと………って、姉貴はともかくおふくろは女子って年じゃないんですけども。


「なにがしょうがないの?」

「いや、詳しい話は省くけど、俺多分このあと女子高生に扮して女子高生の部屋に泊まるからそのこと」

「ああ、じゃあこれから噂のジュリちゃんになるのね」

「佳代も知ってるのかよ!」


 正直、これだけ知ってる人間が増えているのによくJKの二人にバレてないなと感心しちゃうよ、朱莉さんは。


「ちなみに柚那ちゃん、紫さんって?」

「朱莉さんのお姉さんです」

「そういえば転校する前に「血の繋がらない姉サイコー!」とか言ってたわね」

「ああ、それは多分ブラッディクリスマス前の話ですね…」

「え?なになに?なんか面白そうな話じゃない」


 面白くねえよ。

 高1の時、俺が姉貴に血の涙流すような振られ方しただけの話だよ。



「話すと朱莉さんが思い出して半泣きになるのでその話はまたの機会にっていうことで。そういえば朱莉さんって、転校してすぐまた佳代さんのいた中学に戻ってるんですよね?朱莉さんに聞いても教えてくれないんですけど佳代さんは事情知ってます?」

「え?あ、うん…えーっと…」

「イジメにあったんだよ。で、俺は数週間で音を上げた」

「あ…変なこと聞いてごめんなさい」

「昔のことだし、別に気にしてないからいいよ」


 転校した俺はいじめられっこを助けて転校デビューをしようとして、大ゴケして逆にイジメにあった。そして、元いた中学に逃げ帰った。

 それだけの話だ。


「そんな言い方しなくても良いじゃないの。私はああいうの好きよ」

「え?なになに?なんですか?どういうのですか?」

「邑田くんは転校先でイジメを止めようとしてイジメられたのよ」



 そう。

 このことは佳代だけじゃなく当時のクラスメイトはみんな知っている。

 なぜなら個人情報保護が高らかに叫ばれる前のあの時代、俺がイジメを止めようとしたことを知って感動した担任が、ホームルームでベラベラと喋りまくってしまったからだ。


「かっこいい話じゃないですか!なんで今まで話してくれなかったんですか?」

「だって、そういうのって自分で話すのかっこ悪くない?」


 そもそも失敗しちゃってるわけだし。


「そんなことないですよ!朱莉さんが昔からそういう人だったって知って、今私はすごく誇らしいです」

「…ありがとな」


 柚那にそう言ってもらえれば、あの失敗も意味があったような気がしてくる。


「優しいからね、邑田くんは」

「そうそう、なんだかんだいってそういうところあるんですよね」

「いや、あんまり持ち上げられると居心地悪いからやめてほしいんだけども」


 優しいというより、あれは子供の青臭い正義感というか、英雄願望というかそういった類のものだと思うし。


「照れ屋さんよね、邑田くん」

「そうそう、そうなんですよ。でもそこが可愛いっていうか」

「わかるー、ガキっぽくてかわいいわよね」

「そうんなんですよー」

「やめて!?なんか恥ずかしくて運転ミスっちゃうから!」


 なんなの君たち。

 朱莉さんをどうしたいの!?




 




 途中で佳代を下ろして、姉貴に柚那を預けてから訪れたJKのマンションの前。

 時刻はすでに10時近くなっているのでエリスの就寝時間を考えたら出直したほうが良いかなと思わなくもなかったが、つい今しがた『まだかかりそう?』というメッセージが来たのでどうやら起きているっぽい。

 番号入力でオートロックを抜け、エレベーターに乗り込んだ後、マンションについたことをメッセージで送ると、即『迎えにいくね!』という即レスが帰ってきた。

 起きていてくれたのはよかった…車の中で柚那と佳代にヨイショされつづけてどう話したものかまったく考えていない身としてはよかったかどうは微妙なところだが、無駄足にならなかったのはよかった。

 まあ、どう話したものかなんて考えたところでロクに恋愛経験のない俺が何を言ってあげられるというものでもないので―――


「ジュリっ!こんな時間に来てくれてありがとう!本当にありがとう!」


 エレベーターの扉が開くなり、エレベーターホールで待ち構えていたパジャマ姿のエリスが抱きついてきた。


「こ、こんばんはエリス」

「うん、こんばんは」

「とりあえずボリューム落とそうね」


 そろそろ深夜料金のお時間なわけだし。


「あ、うん」

「んで、お部屋入ろう」

「そうだね!あ、ご飯食べてきた?何か作る?」

「食べてない。エリスが嫌じゃなかったら是非お願いしたいな」


 考えてみれば最後に食べたのっておやつの時に食べた柚那のクッキーだ。

 柚那と佳代は車の中でバランス栄養食食べてたけど。


「うん、任せておいて」


 そう言ってエリスはドンと胸を叩いた。



 

 俺がリビングのソファに座ってキッチンで料理をするエリスと話していると奥の部屋からでてきたハナが俺の隣に座った。


「いらっさい」

「いらっさいました。って、どうしたの?なんかすごい疲れているみたいだけど」

「昼からずっと愚痴に付き合わされて、泣きながら寝落ちしたエリスに人間抱きまくらにされた」

「なんかもう…お疲れ様」


 それでエリスはこの時間でも元気なのね。


「ひどっ、ハナだってあたしが起きた時寝てたじゃん!」

「それはそれよ」

「それに昼寝から起きたら愚痴聞いてくれないし!」

「しかたないでしょ、深谷さんのせいでJC側ともいろいろやり取りしなきゃいけなかったんだから」


 お疲れ様です。

 お疲れなのはわかるのですが、俺の肩に頭のっけるのやめてください、ドキドキします。


「ん?どうしたのジュリ」

「いや、なんていうかね、そう無防備に頭をコテンってされると、ドキドキする」

「別にいいじゃない、女同士なんだし」

「そ、そうだね」


 ジュリって体はJK、頭脳は大人(男性)なんだけどね。


「あ、ハナずるい!」


 夜食を持ってきてくれたエリスはそう言ってテーブルの上にお皿を置くとハナと反対側に座ってこれまた俺の肩に頭を載せてきた。

 あれ?さっきの柚那佳代といい、ひょっとして俺って今モテ期ですか?


「あー…今日一日の疲れが癒されるわー」

「あたしも心の傷が癒えてゆくー」

「私の肩にそんな大した効果があるとは思えないけど、ご飯食べていいかな?冷めちゃったらせっかく作ってくれたエリスに悪いし」

「あ、ごめん」

「めしあがれ」


 エリスが作ってくれたチャーハンは一粒一粒の米粒がパラパラと立っていて、ネギ、ハム、卵にエビと比較的シンプルな具ながら、食感、味付け風味とどれをとっても一級品……って、エビ?このうちのチャーハンでエビ!?しかもこれ冷凍の小エビとかじゃなくて多分ちゃんとしたエビだ!


「エビが入ってるの珍しいね」

「え?一般的な具じゃない?」

「いやそうじゃなくて」


 食材ケチっても美味しいのがエリスの料理なわけで、いくらジュリがきて嬉しいからと言ってもエビを入れるとは思えない。というか、エビなんて常備してなかったはずだ。


「ああ、昼間佐藤と深谷さんが来た時に、これまでの夜勤明けの佐藤の所業を聞いた深谷さんがいままでの分ってことでお金をおいていってくれたのよ。で、エリスと一緒にそのお金で贅沢してやるーって話になって、昼寝の後でいろいろ買い込んできたわけ」

「元気じゃん」


 あと、佐藤くんマジでヒモみたいになってんじゃん。

 まあ、これからは深谷さんがお金管理するんだろうから多少良くなるだろうけど。


「元気になったのよ。二人が帰った後、しばらく抜け殻みたいになってたんだから。今だってちょっと空元気気味だし」

「ああ、わかる」


 俺も空港で柚那と別れた後、恋に空元気だって心配されたし。

 まあ、でも空元気とは言っても、エリスがナイスボートな感じになってなくて何より。

 エリスが出刃包丁とか持ち出して『誰も居ませんよ?』とかなってたら大惨事だった.し。いや、中にいるんだけどね。


「まあ、たしかにさっきまで空元気だったけど、ジュリの顔を見たら元気出てきたってのはあるんだよね」

「だから私にそんなたいした効能はないよ」

「そんなことないわよ。ジュリが居てくれると、心強いっていうか…なんだろう、ああ、この人には頼って良いんだって思えるというか…同じ年だし、魔法少女としては後輩なのに変かもしれないけど、頼れるお姉ちゃんって感じなのよ」

「こまちさんみたいな?」

「そうそう………って、ちがうから!あの人とはそういうんじゃないからね!?むしろどっちかと言えば私のほうがいろいろ気を使うというか力になるというか」

「うんうん、そうだね」


 クリスマスの時といい、仲直りが進んでいるようでよかった。


「ちょ、なによ、なんで生暖かい目で見てるのよ!」

「なんでもないよー」

「なんでもあるでしょ!?ジュリ絶対勘違いしてるでしょ!?」

「してないしてない」

「あたしが呼んだんだからあたしにもちゃんと構ってよ!」

「はいはい」


 おおー、マジでモテ期なんじゃないですか、これ。

 いや、いまさら浮気なんてするつもりはないけど、やっぱり異性から好かれるのって気持ちいいよね。



「で、どうしてこうなるの?」

「え?何が?」

「いや、なぜ私とエリスとハナが一緒のベッドに寝ているのかと」

「ダブルだから3人だとちょっと狭いけど、寝れないってほどじゃないでしょ?」

「そうじゃなくてね」


 今日はソファで寝るつもりだったのになぜ俺は今ハナのベッドで寝ているのかという。こんなのうっかりこまちちゃんに『ハナのベッドなう』とかメッセージ送ったら本気で殺しにかかってくるやつですよ。


「なに?まさか今日はエリスと二人で寝るつもりだったの?」

「いや、そういうつもりじゃなくて、ソファで寝ようかなと思ってさ。もしくはほら、佐藤さんの寝ていた布団あるでしょ。あっちでも別にいいかなって」

「だからそんなのにジュリやティアラを寝させられないって前も言ったじゃない」

「言われたけどさ」


 それで前回俺とこまちちゃんはこの部屋で寝ていたわけだし、その前に朝陽と一緒に来たときもそうだ。


「まあ、あれももう処分しなきゃなのよね」

「なんだかんだ言いながら、ハナはあの布団干してくれたり、ちゃんと管理してくれていたもんね」

「ほっとくと部屋が男臭くなるからよ」


 はいはい、ツンデレツンデレ。


「あーあ、もう佐藤さん来ないのかぁ……」


 寂しそうにそう言って、エリスは俺の腕にしがみつくようにしてぎゅっと力を入れる。


「たまにでいいから、ジュリはこれからも遊びに来てよね」

「うん…」


 俺はいつまでこの子たちに嘘をつき続けるんだろうな。

 ただ、ここで本当のことを言うのが良いかというと、それはノーだと思う。


「なんだったら佐藤が使ってた部屋をジュリの部屋に模様替えしちゃってもいいんだからね」

「住んでないのに流石にそれはね。それにもしかしたらJKに新しいメンバーが入るなんてこともあるだろうし。というか、寂しいなら二人がJC寮に移るっていう手もあるんだよ」

「それでも良いんだけど、そうすると学校の友達を呼びづらくなりそうで」


 そういえば、変なのが寮に入ると困るからあんまり友達呼べないってみつきちゃんが何かの時に言ってたな。


「まあ、あたしとハナはもともと二人で住んでるはずだったからもとに戻るだけって言えばそうなんだけどさ」


 そういってエリスは俺の方に体を寄せてくる。


「こんな気持になったのはジュリのせいもあるんだから……責任、とってよね」


 顔だけ動かしてエリスの方を見ると、エリスは少し拗ねたような顔でこっちを睨んでいた。

 やだもう。この子ってば今日はなんでこんなに可愛いの。


「そうね、責任取って春休みはうちに泊まり込みなさい」

「じゃ、じゃあティアラと一緒にこよっかな」


 こまちちゃんが一緒なら滅多なことは怒らないだろうし、柚那の許可も貰えそうな気がする。


「なんでそこでティアラが出て来るの!?」


 だって絶対怒られるもの。


「え?ええっと…ハナはティアラのこと嫌い?」

「嫌いじゃないけど、私たちは今ジュリを誘ってるの」

「じゃ、じゃあ、仕事の手が空いてたらっていうことで。あ、もちろんちょこちょこ遊びにはくるからさ」

「約束だからね」

「もちろん、約束するよ」






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