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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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年末何してますか?忙しいですか?(ry 5

「「「こいつがやりました!!!」」」


 私が下水流を撃破したおかげですっかり正気に戻った真白ちゃんと真さん、それに和希くんによって、旧館はなれと倉庫の破壊、さらには下水流による通用口前の汚染の全責任を押し付けられた私は、夜になって帰ってきた真白ちゃんの母親にして甲斐田屋の女将、甲斐田白雪さんの部屋に呼び出されてお説教を受けていた。


「だから、あれは私のせいではないんですよ、白雪先輩」

「そうね、直接的にはあなたではないわね」

「わかってくれましたか」

「ただ間接的にはあなたのせいでしょう」

「いや、そりゃあ、私がいれば真白ちゃんによる旧館はなれの破壊は防げたかもしれないですけど、そんなことしたって別に私と和希くんで真白ちゃんを倒せるわけでもなし」

「そう?その下水流とかいう敵を倒した時に使った魔法なら真白を止められたんじゃないの?」


 そんなことしたらあなたの娘は恋人の前で糞尿を垂れ流してゲロと鼻水まみれの顔をさらすことになるんですが。


「年頃の女の子を下水流みたいにしたらまずいでしょ」

「手加減すればいいじゃない」


 またこの人は軽く言ってくれる。

 この人は、昔からそうだ。

 昔から無理難題を言い出して『さあやれ』とか無茶なことを言い出し、こっちができないで苦労しているのにすぐ隣で軽くクリアして見せて『ほらできた』とか言う。

 

「それに倉庫」

「あれは完全に真さんが悪いんですよ。なんか手をワキワキ動かしながら迫ってきたりするから、私も身の危険を感じちゃって」

「だからってあなただったら倉庫の壁に大穴空けないでもなんとでもなったでしょう」

「あれは手が滑ったんですよ」

「手が滑ったからって投げっぱなしジャーマンはないでしょう…本当は?」

「まあ、得意技でしたからね」


 もう16年くらい前になるだろうか。前に所属していた地下アイドルユニットに入る前、就職するよりも前のこと。

地下アイドルと呼ばれる存在が今のような存在ではなく、本当に地下の地下、アンダーグラウンドの住人だったころ、私と白雪さんは地下プロレスアイドルとしてタッグを組んでいて、その悪役ヒールとして真さんも関わっていた。

 そして、白雪さんと真さんは恋におち、真白ちゃんを身ごもった白雪さんは引退し、あこがれの先輩を男に取られた傷心の私は就職をした。

 で、当然何度も何度もステージで対戦した私は真さんの癖はよく知っていたし、魔法少女化しているお陰で当時よりも体力も瞬発力もあるので、関節技でもなんでもつかって真さんを無力化することは可能だっただろうけど、久しぶりに宿敵を前に私の血が騒いでしまい、あんなことになってしまった。

 だから、最初はラリアットからの絞め技で決めるつもりだったのに、気がついたら投げっぱなしジャーマンを繰り出してしまっていたのも仕方がないことなのだ。


「変わってないわね、そういうところは」

「そういう先輩は随分変わったみたいですね。聞きましたよ、真白ちゃんに跡継ぎ産めってせっついてるって。若い頃は『自分は跡なんて継がない』とか言ってたのに」

「え?そんなことしてないわよ」

「いやいや、いろんな筋から聞こえてくるんですけど」

「…あ、もしかして赤ちゃんほしいわぁって話かしら」

「やっぱりせっついてるんじゃないですか」

「違う違う。何年か前に私がもう一人産みたいなって話をしたら、どこで聞いてきたのか、どうやったら子供ができるか知った真白が『変なことしないで』って言い出したもんだから『あらあら、変なことって何かしら~?』って煽ったら真白がキレちゃって」


 実の娘を煽るなよ……


「しばらく口を利いてくれなかったものだから私も大人気なくキレちゃってね」


 煽っておいて逆ギレするとか、大人げないにも程がある!


「じゃああんたがさっさと赤ちゃん産みなさいよ!って」

「……前にここに泊まった時、邑田さんが真白ちゃんと一緒に閉じ込められかけたとかって言っていたんですけど」

「あれはほら、邑田さんって大人だから大丈夫だろうと思って。本気じゃないわよ」

「和希くんもなんかいろいろ言われたとか言ってたけど」

「あれは真さんとイチャイチャしながら、いろいろ質問して彼の本気度について聞いていただけよ」


 その本気度を測る質問って絶対ここで言えないやつやろ。

 

「つまり跡取りがどうこうっていうのは、喧嘩した腹いせに煽っていただけってことですか」

「そういうことになるわね」

「はぁ…そういう子供っぽいところは変わってないですね」

「うふふ、若いでしょ?」


 子供っぽいだけだって言ってるでしょうに。

 言うとまたベッドにパワーボムされるから訂正はしないけど。


「というか、真白ちゃんが変に達観しているというか、年頃の女の子らしくないのって先輩のせいなんじゃ…」

「いいのよ、そのほうが変な男に引っかからないでしょ」

「いや、あの子が惚れてるの真さんに似てる人ばっかりですからね。邑田さんとか和希くんとか、あとなんだっけ、異星人の彼も怪しいとかなんとか言われてたような…」

「異星人!?つまり星の王子さまってわけね」


 いや、件の異星人の艦は王政じゃなかったはずだし、そもそも彼はただの兵士だと思うけど。


「異星人との恋とか素敵じゃないのぉ」


 なにをうっとりとした顔で言っているんだか。

 というか、こういうとこ本当に変わってないな、この人。




 お説教なんだか、昔話大会なんだかわからない白雪先輩との話を終えた私が真白ちゃんと和希くんにどう手柄を押し付けるかの相談にやって来ると、真白ちゃんの部屋の中から声が聞こえてきた。


『実は俺は、あの頃から真白のことが好きで――』

『じゃあ、あの夏一緒に遊んでいた子は――』


 どうやら盛り上がっているところに来てしまったらしい。

 ここは少し間を置いたほうがいいだろう。

 そうそう。そう言えば例の真白ちゃんが幼馴染だと思わされていた男性は全く無関係の従業員だったそうな。しかも実年齢は20代だとかで、そりゃあ和希くんは一発で気がつくわってくらい詰めが甘かったらしい。


『なあ真白、邪魔者もいないし――』

『馬鹿なことを言ってないでそこの――』


 邪魔者というのはまさか私の事だろうか?いやいやまさか、白雪先輩のことだなきっと。

 とはいえ、私とも取れるような言動は許せない。許せないのでここらへんで突入して雰囲気をぶち壊しにしてやろう。

 そんなことを思いながら私は真白ちゃんの部屋のドアを思い切り引いた。


「はーい!時計坂さんです…よ…」

「ほら、だからそこのクローゼットにブラウスが…」


 私がドアを開け放った先には一糸まとわぬとまではいかないが、上半身下着姿の真白ちゃんと部屋に据え付けのクローゼットの中を覗き込んでいる和希くんだった。


「……あ、事後でしたか」

「え?事後ってなんすか?」

「……………はっ!違いますからね!?そういうんじゃないですから!」


 そういって真白ちゃんは部屋を出ていこうとした私の肩を掴む。


「大丈夫大丈夫、ちゃんとわかっているから。これは白雪先輩が孫の顔を見るのもそう遠い話じゃないかもしれないわね」

「違うって言ってるじゃないですか!ちょ…そのニヤニヤ笑いをやめてください!」


 なるほど、白雪先輩が煽りたくなるのもわかる。

 こうも素直に反応されるとついついいじりたくなってしまうというものだろう。


「まあ、それは冗談として。さっき捕まえた下水流冥なんだけどね、報告の時に二人が捕まえたっていうことにしてほしいのよ」

「え?なんでっすか?時計坂さんが捕まえたんだし、時計坂さんの手柄ってことでいいじゃないですか」


 まったく和希くんは鈍いなあ、別段目立つ活躍をしてきたわけでもない私の手柄にしてしまうよりも、将来有望な二人の手柄にしたほうが、国内の他省庁や国会向けのアピールにもなるし、査定も上がって二人のキャリアも安定するじゃないの。


「働きたくないでござる。あとまかり間違って上位に食い込んで気軽に海外旅行にいけなくなるのとか嫌でござる」

「はあ…時計坂さん。ものすごい笑顔でやりきったって顔しているところ悪いんですけど、多分本音と建前が逆になってます」

「え?」

「ああなるほど、つまり本当は戦えちゃうってことがバレると今回みたいに実戦に出るハメになるからバレたくないってことか」

「……まあ、そういうことね」

「それならもう遅いですよ。さっき下水流の身柄引受をお願いした時に報告しちゃいましたから」

「ちょっと、小隊長の頭を飛び越えて上に報告なんてしないでよね」

「というか、都さんは気づいてましたよ。下水流の状態を報告したら『ああ、蒔菜がやったのね』って言ってましたし」


 気づかれているのはなんとなくわかってたから別にいい。それは良いんだ。

 その気づき、予測に物的証拠が乏しく、私を登用する根拠がないという状態が今回の報告で崩れるというのが問題なのだ。


「下水流と言えば、あれどうするんですか?」

「片付けたわよ」


 和希くんの言っているのは下水流の…まあ、はっきり言ってしまえば漏らした糞尿の処理の話だろう。


「え?」

「だから、通用口の前は下水流を回収した時にきれいにしたわよ。あんなところいつまでも汚したままではおけないでしょ。夜勤の人もくるし、日勤の人は帰るんだから」

「意外だ…」

「そういうのやりたがらないと思ってました…」

「まあ、時間を戻して彼女の中に戻しただけだし」


 これなら手も汚れないしね。


「………え、えっと、一回出したのを戻したってことですか?」

「時間停止以上に消耗するけど、魔力次第で大抵のものの時間は巻き戻せるわよ」


 春先に邑田さんに脅迫まがいの手段を使われて、狂華さんが破壊した医療研の建物を直させられたのは今となってはいい思い出だ。


「ドヤ顔で言ってますけど、すごく嫌な片付けかたですね…」

「自分で試したこと無いからどんな感じか具体的にはわからないけど、まあ、自分には絶対にやらないわ」


 たとえ漏らすことになったとしても、わたしだったらお腹に戻して何食わぬ顔をして暮らすことはできない。


「あ、そうだ。そう言えばその巻き戻しの魔法といい、下水流の魔法へのレジストといい、一体どうやってやったんですか?時計坂さんの魔力じゃ足りなくないですか?」

「ああ、それはね、トランクの中でバラバラにされていたナノマシン結晶を持っておいたのよ」

「え?そんだけ?」

「ええ。純度の高いナノマシン結晶をいっぱい詰めて、効率よく魔力を発生させたり、その魔力を使いやすい形で提供するっていうのが私のデバイスなんだけど、その効率よくっていうところを考えなければ、別にナノマシンから直接魔力を取ることもできるのよ。こんな感じで」


 やってみせるのが一番早いだろうということで、私は和希くんの手を取り、ドレインを発動する。


「ひぁッ!?」

「で、戻すこともできると」

「うにゃぁ」


 そんな反応されると何度もやりたくなっちゃうじゃないか


「何度もやりたくなるみたいな顔してますけどやめてくださいね」

「はい」


 真白ちゃんってば鋭い。


「ああ、そうそう。都さんが電話よこせっていってましたよ」


 真白ちゃんは白雪先輩が意地悪いことをいう時にそっくりな顔でそう言いながら、繋いでいた私の手と和希くんの手をほどいた。

 嫉妬しちゃって、ほんとうに可愛いんだから…って、え?


「ええと、報告はしてくれたんでしょう?」

「報告じゃなくて、今後についてお話があるそうです」

「え……それ、聞かなかったことにしたいなあなんて」

「私の時間を戻してここを乗り切ったとしても、あとで都さんに叱られますよ」

「……ですよねー」


 結局、配置換えまではなかったものの、私は本部の防衛網に組み込まれる事になってしまった。





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