年末何してますか?忙しいですか?(ry 2
「………」
「………」
あー…気まずい。
気まずいというより、居心地が悪いと言ったほうがいいだろうか。
免許がない私たちは新宿駅から特急列車で今回の任務地である諏訪大社へ向かうことになったのだが、同行する二人は待ち合わせの時から目も合わさない。
というか、同じ寮から来ているはずなのに、なぜ別々に来るのか。
「………」
「………」
「………はぁ」
もちろん私も気を使って二人の仲立ちなどするつもりなどはないので、座席を回転させてもらおう。
「あっ」
「あっ」
何か聞こえた気がするけど、きっと気のせいだ。
今日から年明けまで数日出かけなければいけないということで、溜まっていた仕事を全部片付けたせいで徹夜だったからきっと疲れすぎて幻聴が聞こえたのだ。
一言もしゃべらないし目も合わせないのに隣同士で座っているバカップルのことなんて気にせず眠るべきなのだ。
そんなことを考えながら私の意識は発車ベルの音と共に闇に沈んでいった。
「……さん!時計坂さん!起きてください!もう着きますよ」
「うにゃ……」
一体どこに着くというのか。
その着く場所というのはこの幸せなまどろみを捨ててまで行かなければいけない場所なのか。
「ほんといい加減起きてくださいって」
嫌だ、私はまだまだ寝るのだ。
和希君 私は睡眠が好きだ
和希君 私は睡眠が好きだ
和希君 私は睡眠が大好きだ
レム睡眠が好きだ
ノンレム睡眠が好きだ
熟睡が好きだ
うたた寝が好きだ
居眠りが好きだ
シェスタが好きだ
二度寝が好きだ
勤務中に寝るのが好きだ
女の子の寝起きが好き……いやこれは違うか。
ベッドで 机で
エレベーターで トイレで
自宅で ホテルで
バスで 電車で
公園で 職場で
この地上で行われるありとあらゆる睡眠行動が大好き―――
「時計坂さん!」
………やれやれ。しかたない。そろそろ起きるか。
「和希くん」
「なんです?」
「まだ眠いからおぶって行って」
「一人で終点まで行って帰ってきてください」
冷たい後輩である。
「というか、もう完全に目が覚めているじゃないですか」
「まあ、寝起きは悪くないほうだからね」
血圧が低そうにみえるとは言われるが、私は特別血圧が低いというわけではなく至って健康体だ。
「それで、仲直りはできたの?」
「うっ……」
「………」
「そう。わかった」
ならばさっさと一人で行くに限る。
私は棚に載せておいた小さめのキャリーケースを転がして出口へと向かう。
そしてデッキから降り立った私はすぐに客車へと舞い戻った。
「っと、どうしたんですか、時計坂さん」
「やだ、寒い、おうちかえる」
「時計坂さんは全然家に帰ってないって朱莉先輩が言ってましたけど、まだあるんですか?」
「失礼な。ちゃんと家賃光熱費は引き落とされてるわよ」
戦技研の経費でだから間違いない。
とはいえ、言われてみれば今日持ってきた服も集合前に買ったものなので衣替えもしてないし、夏場にエアコンが壊れたときにそのままにしていたんだった。
「時計坂さん?」
「……よし、私が二人の仲直りをお手伝いしてあげるわ」
「え?」
「なんですか、いきなり」
「こういうことよ」
そう言って私は二人をホームに連れ出してから背中側に回り、コートを肩を掴んで二人をくっつけた。
「って、これじゃ俺たち時計坂さんの盾みたいじゃないですか」
「………」
「そういう意味もあるわね」
もちろんそれ以外の意味、目的もあるのだ。
和希くんはくっつけられても嫌がってない。そしてそれは黙っている真白ちゃんの方も同じ。
つまり、この二人の溝はそこまで深いものではない。
「それ以外にどんな意味があるっていうんですか」
「それは追々話すから、とりあえず行きましょう。こんなところに居ても凍えるだけだし」
「まあ、それもそうっすね…行くか真白」
「ふんっ」
まあ真白ちゃんったら意地はっちゃって可愛らしいこと。
いつまでもそんな態度を取っているとお姉さんが食べちゃうぞ。
「ひっ…」
「どうした真白」
「な、なんかいきなり寒気が」
「……風邪なんか引いたら大変よ。はやく宿に行きましょう」
そして温泉に浸かってのんびりと骨休めをしましょう。
「あ、そういえば真白ってなんかほら、保温できるんじゃなかったっけ?前に千鶴がそんなこと言ってたけど」
「あ、そうだった」
真白ちゃんはそう言って微弱な魔力を使い、私と和希くんに触れた。
「おお!すげえ!あったかい!」
確かに和希くんの言うとおりこれは温かい。
「ちなみにこれ、どうやってるの?」
「えっと、魔力をこう、ちょっとだけ使って自分の周りに防御魔法で膜を張るようなイメージですね。もともと魔力の膜というか防御魔法には断熱効果もあるみたいなので特に温度とかは気にしなくて大丈夫です。私の魔法はもともと高速で空を飛ぶっていう魔法だったので、研修の最初のほうでチアキさんが教えてくれたんです。結構簡単ですよ」
「ひなたさんはそういうこと全く教えてくれなかったのよね」
ちょっと懐かしい時代を思い出しながら真白ちゃんの言うとおりにやってみるとたしかに簡単にできた。しかもかなり微弱な魔力で維持できるし、これなら私でも常用できそうだ。
「あ、二人ともできましたね。じゃあ行きましょうか」
そう言って真白ちゃんは私のほうに荷物を持っていない、空いているほうの手を差し出した。
ふむ……年齢の割には成熟した身体、やや短気なところはあるものの、頭も悪くはない。
どちらかと言えば私好みではあるけれど。
「…和希くんじゃなくて、私でいいの?」
「へ、変な意味じゃないですから!ほら、時計坂さんは試合の時もパートナーと手を繋いでたし、魔法を使い続けて魔力の補給をしないと倒れちゃうかなって思っただけです」
「あら優しい。さっきまで和希くんに味方しようかと思ってたけど、私は真白ちゃん派に乗り換えるわね」
「ええっ!?」
「というか、余計なことしないでいいですから」
「はいはい。じゃあ私は余計なことせずに見守るとしますか」
「味方してくださいよ!」
「ふうん………つまり、クリスマスのことを逆ギレして私とやり合おうってわけね」
「ち、違う、そうじゃないんだ真白」
「あーあ、荷物邪魔だなあ」
「お持ちします……」
まったく、ヘタレだなあ、和希くんは。
ヘタレた和希くんに荷物を頼んで、私と真白ちゃんが仲良くおててを繋いで駅前のロータリーに出ると、プップ、と短くクラクションを鳴らされた。
クラクションを鳴らした高そうな年代物のセダンから降りてきた男性をみて、真白ちゃんの表情が少し緩む。
「あ、私のお父さんです」
お父さんとは言うものの、年の頃は40手前。歳の離れたお兄さんや従兄弟だと言われてもそうなのかなと納得してしまいそうになるくらい若々しく見える。
……というか、私はこの人の顔に見覚えがあった。
「おかえり真白。と……あれ?和希くんと来るんじゃなかったのか?」
「あ、こちら時計坂さん。私達の上司で、今回のお仕事の隊長さん」
「時計坂…?……あ!」
私が帽子とマフラーを取ると彼も私に気づいたらしく、驚いたような表情をうかべて言葉をつまらせた。
「どうしたのお父さん」
「い、いや。別に」
「はじめまして。時計坂蒔菜ともうします。真白さんにはいつもお世話になっております」
まあ、ここは気づかないふりをしてあげよう。
あくまでここでは。だけど。
「は、はいっ!お…自分は甲斐田」
「たしか……真さん、ですよね」
「あれ?なんで時計坂さんがうちのお父さんの名前を…?」
「資料で読んだの」
「そうですか」
「そ、そう。資料だ資料」
「お父さん、なんでそんなに焦っているの?」
「焦ってない、焦ってないぞぉ」
………なんかこう、この人の動揺の仕方とか嘘が下手なところとか、激しく和希くんや邑田さんを彷彿とさせるなあ。
「なんてね。実は私が地下アイドルやっていたころに何回かライブで見かけたのよ」
「お父さん、いつの間にそんなところに行ってたの!?……というか、時計坂さんはライブで見かけた人の顔、みんな覚えてるんですか?本当はお父さんとどういう関係なんですか?」
「いや、違うんだ真白、そういうのじゃ…」
「私達のグループは曲の合間のMCの時に、ファンの人にステージに上がってもらう時間があってね、何回か上がってもらったことがあるの。桃太郎くんに聞いてもらえればわかると思うわ」
真白ちゃんはまだなにやら疑っているようだけど、本当にそれだけの関係だ。
ちょっとしたステージ上での演出にご協力いただいただけの関係でしかない。
「不倫とかそういうのじゃないから安心して。というか、知っての通り私はビアン寄りのバイで、男子はキレイめが好きなのよ」
真さんが汚いとは言わないが、彼の見た目はどっちかといえば雄々しいので私の趣味ではない。そういう意味では桃花ちゃんこと桃太郎くんはいいところ行っていた。
「そうそう、蒔菜様はそういう人なんだ。とは言っても、白雪には内緒にしてくれ。俺がアイドルのライブに行っていたって知ったら、多分嫌がるから」
「…ねえ、今、蒔菜様って言わなかった?」
「違うんだよ真白~。これはファンの間での呼び方っていうかさ、ほら、柚那さんがゆあちーって呼ばれたり、愛純ちゃんがみゃすみんって呼ばれてたの知ってるだろ?ああいうの」
「ふーん……本当かしら」
そう言って真白ちゃんは訝しげな表情で私と真さんを交互に見比べる。
まあ、それはそれとして、真白ちゃんは気づいているんだろうか、真白ちゃんの好きになっている男性(?)はみんな真さんに似ているということに。
「なんでニヤニヤしてるんです?」
「いや別に、真白ちゃん可愛いなあって」
「ふざけないでください!ちょっとした家庭崩壊の危機なんですから!」
真白ちゃんってば本当に子供なんだから。
真白ちゃんにだって好きなアイドルの一人や二人いるだろうに。
そんな感じでワイワイやっていると、三人分の荷物を引いた和希くんが現れた。
「えっと…これ、どういう状況っすか?真白は、今度はなにを怒っているんだ?というか、真さん顔色悪いっすよ」
「か、和希くんちょうどいいところに!助けてくれ!」
真さんは涙目になりながらそう言って、和希くんの両肩を掴む。
「な、なんですかいきなり」
「別に、和希には関係ないわよ」
「関係ないことないだろ。なあ、和希くん。和希くんからも言ってやってくれよ。男たるもの愛する女の他に好きなアイドルの一人や二人いるって」
「いえ、俺、今は真白一筋なんで」
「ああっ!『嫁の尻に敷かれる男同盟』の同志としてはかばってほしかったが、お義父さん的に100点の回答だからなにも言えない!!」
「な、なんであんたはこんな駅前で変なこと言うの!?誰かに聞かれたらどうすんのよ!」
まあ、そんな心配いらないだろうってくらい、駅前には人っ子一人居ないけど。
というか、真さんの言う同盟って他に誰がいるんだろうか。
個人的には邑田さんとか狂華さんとか入ってそうな気がするが。
「いや、だって真白一筋っていうのは、本当のことだし」
「…みつきちゃんやあかりちゃんのこと好きだったくせに」
とか言いながらちょっと嬉しそうじゃないの、真白ちゃん。
「それ、真白と出会う前の話な」
「ほ、他にも知ってるんだからね!柚那さんとか愛純さんとか、それに朝陽ちゃんとかと一緒にお風呂入ったりしてたとか!」
「したけど、あれはどっちかというと俺がセクハラ受けてたんだからな。というかあの人達は俺にとってはもう身内っていうか、怖い姉貴みたいな存在だぞ?何も感じないし、むしろあの頃に戻れるならあの時の俺を救い出してやりたいくらいの思いでなんだけど」
「ち、千鶴ともお風呂入ったでしょ!」
「幼稚園児のころな」
おやおや、ヘタレ小僧だと思っていたけど、和希くんたら真さんよりよっぽどドンと構えていて男らしいじゃないか。
「なあ真白。この間は色々行き違いがあったけど、俺は、本当に今は真白一筋なんだよ。時計坂さんがさっき言った性癖の話じゃないけど、俺はバイじゃないし、ノーマルというよりは、ビアンになるのかもしれないけど、女の子…というか、真白が好きなんだってば」
ええ話やなあ。
「ブラボー!お義父さんは感激した!真白はぜひとも君に任せたい!」
「おとうさんは黙ってて!……和希」
「ん?」
「どこまでしたの?」
「………なにを?」
「今、目が泳いだわね」
うん、私もそう見えた。
「ねえ、正宗と、何を、したの?」
「前に言った恋人繋ぎとか」
「ほう。『とか』って言ったわね?」
「う……膝枕は一回だけ、ゲームに負けた時に罰ゲームで…あ、もちろんあれだぞ、ジャージ履いてたぞ」
「膝枕『は』一回、ね。で?」
「………キスは真白とだけ」
ほうほう、二人はキスしたんかー。
「和希くん、そこんとこを詳しく」
「おとうさんは黙ってて!!」
「はい……」
「で、後は?」
「……それは……まあ…なんだ…」
おっと、これはまさか行くところまで行ってしまった感じか?彩夏や寿が大喜びな感じか?
「言えないようなことをしたのね?」
「し、してない!そういうんじゃない!」
「いやいや、和希くん、俺にはわかるぞ、俺だって女の身体を手に入れたらどんな感じなのかなーってちょっと興味がわかないでも――」
「おとうさんうるさい!」
「すみません……」
この人、背中のチャックを開けたら邑田さんが出て来るんじゃないだろうか。
「和希、やましいことがないならちゃんと話してよ。私は和希が正宗と二人で何かしてたってことじゃなくて、話してくれないことに怒っているのよ」
私の経験上、彼女のほうがそんな風に言うときは前者後者両方の理由で起こっていることが多いと思うけど。
「………わかった、言う。言うけど誰にも言わないって約束してくれ」
「言わないわよ。あんたが正宗としたことが、やましいことじゃないならね」
まあ、やましいことしてたら、どんなに口約束したところで女子会とかで言いふらされるわよね。基本的に。
「時計坂さんと真さんも絶対に誰にも言わないでください」
「もちろんだとも」
「私はそんな話をする相手も居ないしね」
「時計坂さん、こまちさんに漏らすとか絶対にやめてくださいよ。広まりかたがシャレにならないんで」
「私はそんなにこまちと仲良くないって」
私がこまちと仲がいい。
その誤解は結構広まってしまっているらしく、最近ちょこちょこと、こまち関連の相談が入ってくるのだけど、正直いい迷惑だ。
「じゃあ言いますね……実は正宗と二人で告白の練習をちょっと」
「あらあら?和希は私と付き合ってるのに、誰に告白するの?」
おっと穏やかな声色と表情なのに真白ちゃんの後ろに大きな般若の面が見える気がするぞ。
「いや、俺じゃなくて正宗がさ。で、俺はその相手に変身して練習の告白を受けたりしてた。この告白練習は前に一回タマに見つかったことがあるから、多分証言してくれると思う。疑うなら聞いてみてくれ」
「正宗が告白ねえ……誰に?エリス先輩?華絵先輩?」
「いや、真白も聞いてるだろ?千鶴だよ千鶴」
さっきも名前が出てきたけど、確かあかりちゃんの妹だったか。
でも確か彼女は真人間で、真人間と異星人の間には子供ができないはずだ。
「え、正宗って本気で千鶴狙いなの?」
「そうだって言ってたぞ。千鶴相手だと子供ができないっていう問題はあるけど、それでも千鶴がいいんだと」
あらー、若いっていいわねえ。
「ふうん……」
「信じてくれたか?」
「みんなも言っていたし信じるわ……ただ、次はないからね」
「もちろんだ!」
よしよし、一件落着。
これでもうあとはのんびりと温泉に浸かって、年が明けたら戦技研に帰ればいいだけだ。
どうせ私なんていなくても、この二人がいれば敵なんて物の数じゃないだろうし。指揮なんて本当に適当で大丈夫なはずだ。
・
・
・
・
……そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
嫁の尻に敷かれる男同盟会員名簿
邑田朱莉
平泉和希
津田喜乃
甲斐田真
相馬ひなた←New
言うほど居なかった。




