年末何してますか?忙しいですか?(ry 1
忘年会での柚那さんの衝撃の告白(とは言っても、一部の女性陣には周知の事実だったらしいが)から数日。
全魔法少女に対して『お前らみんな年始は出勤な』という、どこのブラック企業だよと突っ込みたくなるような都さんからのありがたいお言葉を頂いた後、俺は自分の1月1日の担当場所を見て驚いた。
林間学校の時に俺と愛純さんが前任者を捕まえた後、扱いがふわふわしていた長野地域の警備に俺と真白が割り当てられていたのだ。
「………」
ちなみに真白はクリスマスの時からの怒りが絶賛継続中で、昨日一昨日と一言も喋っていない。というか、クリスマスから全然話していない。
みつきによれば俺の前以外では普通らしいのだが……
「なに?」
ちょっと見ていただけでこれだ。
「いや、なんでもないけどさ」
「だったらこっち見ないで、視線が鬱陶しいから」
「へいへい」
前前任者の真白はわかるんだけど、今の俺はご覧の通り真白とはうまく行ってない状態で、なんでペアにされたのか本当に謎だ。
そして、なによりもう一人、意味の分からない人選で割り当てられている人がいるのだ。
俺がその人物の事を考えていると、噂をすればなんとかという言葉のとおり、その人が俺たちの方に近寄ってくる。
「今回はよろしくね、ふたりとも」
今回俺達の小隊の小隊長をつとめる予定の時計坂さんだ。
本人はまったく戦闘向きではないようだけど、正直言って、戦力としては俺と真白で十分だろうし、そこにプラスして時間が止められるようになるなら敵の大ボスがでてきたとしても楽勝だと思う。
「一応先に言っておくと、私は寒いのまったくダメだからあんまり期待しないでね」
「じゃあなんで長野なんですか…」
「そんなこと言われたって私がやりたいって言ったわけじゃないもの」
「ですよねー」
俺だって別に志願して長野の担当になったわけじゃないしな。
「まあ、なるべくあなた達の足を引っ張らないように頑張るわ」
そう言って時計坂さんは俺が今まで聞いていた評判とはちょっと印象の違う笑顔で笑った。
「はぁ……なんでみんな蒔菜のことを私に聞くのかなあ…」
作戦会議終了後、よく知らない時計坂さんのことについて詳しい話を聞こうと思い、さっさと帰ろうとしていたこまちさんを捕まえたのだが、こまちさんは俺が時計坂さんについて聞きたいということを言った途端に大きなため息を付いて肩を落とした。
「私は蒔菜をクラスから追い落としただけで、正直あの子とことはよく知らないんだけど。話を聞くなら蒔菜のクラスメイトだった子のほうがいいんじゃない?」
「それは考えたんですけど、時計坂さんのクラスってそこからさらに留年した人が多くて、同期ってほとんど居ないんですよね。沼崎さんとか、桜さんとかくらいで」
ちなみに桜さんはひなたさんと別れてから完全に関西支部のローカルスタッフになっているので、今回の年末年始特別警備会議には不参加だ。
「ああ、そう言えばそんな話も聞いた気がするなあ」
「そんなに出来が悪かったんですか?」
「うーん、まああの頃はまだ適性検査が今ほど正確じゃなかったからスタッフに回る子が多かったっていうのはあったけど、もともと蒔菜と同じグループだった沼崎ちゃんだけが残ったっていうことはそういうことなんじゃない?」
「そういうこと?」
「私と同じようなことをしたんじゃないかなって」
「え……」
なにそれ怖い。
「なんてね。実は蒔菜のことって良く知らないし憶測でモノを言うのはよくないからこれ以上は言わないけど、そういう可能性もあるんじゃないって話」
「ちなみに追い落とされた同期の人って誰がいるか知ってます?」
「君が知っている範囲だと、イズモちゃん」
「ええっ!?そうなんですか?てっきりイズモさんは楓さんと同世代だと思ってました」
「あの子は適性がそんなでもなかったこともあって、調整に時間がかかったらしいから…あ、そうだ。それだったらメインの指導教官だった人に聞けば良いんじゃない?」
「それ良いかも。誰だったんですか?」
「えーっと…って、だめだ。ひなたさんだった」
「ああ、今日は不参加ですもんね」
会議の冒頭で精華さんがその話題に触れた時に、いつもはひなたさんがサボると怒り狂う都さんとか、渋い表情になる朱莉さんが妙に優しい顔だったのが気になったんだった。
「ひなたさんは…ね、今回はしょうがないんじゃないかな」
「えっ!?何かあったんですか!?」
「うーん、そうだねナニかあったんだろうねえ」
そう言ってニマニマ笑うこまちさん。
「まあ、風月と花鳥からのまた聞きだけだからくわしいディテールはわからないけど、一美ちゃんが柚那ちゃん的な感じになるようなことが起こっているとかいないとか。あ、物理的にね」
理解した。
「……この組織って、未成年に悪影響を与えそうですよね」
「少子化の解消にはいいんじゃない」
あっけらかんと何を言っているんだこの人は。
「ちなみに、こまちさんとセナさんって……」
「今のままだと何をどうしても、もともと女の魔法少女同士だと子供はできないらしいから……」
「あ……」
今のは失言だったかもしれない。
「誰とどんなに遊んでも子供ができて朱莉ちゃんみたいに詰められる心配がないから最高」
そんな最低なことを言いながら最高の笑顔で親指を立てるこまちさん。
なにこの無駄にポジティブな人!
「まあ、セナにバレたらタダじゃすまないからやらないけどね」
「そうしてください。そっち方面の面倒事は真白関係だけでお腹いっぱいなんで、こまちさんとこのいざこざが飛び火してくるとか勘弁してほしいですから」
「ん?なになに?和希くん真白ちゃんとなにか揉めてるの?」
「いやまあ……実はですね」
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「わかる!わかるよ和希くん!」
わかられた!
「せっかくのクリスマス、どっちともうまくやりたかったっていう君の気持ち、私にはよく分かるよ!」
なんにもわかってもらえてなかった!!
「いや、むしろ俺としてはどっちとも何もせずにゆっくりするつもりだったんですよ。なのに二人が突然来るから変にこじれちゃっただけで」
「ねえねえ、それだと前に正宗くんと何かしたみたいに聞こえるんだけどさ」
「してません。たまたまそう聞こえる言い方になっちゃっただけです」
「ふうん……」
ほんと、キス以上のこととかないから。キス未満くらいならちょっと悪ふざけでやったことはあるけど。
俺は狂華さんとか桃花さんとかとは違うから。
「じゃあ和希くんとしてはそんな気は全然まったくなくて、一年間で最もセックスするカップルが多い時間帯に何もせずに寝るつもりだったと」
「いや、俺、真白とそういうの一度も無いですからね。というか、直接的にそういう単語言うのやめてくださいなんか恥ずかしいっす」
中身はともかく美人のお姉さんがそんな言葉を言っているのを聞いたら、中身が普通の中学生男子としては興奮してしまうじゃないか。
「若いねえ……だけどここはあえて言わせてもらおうかな、セックス」
「やめてくださいよ」
「やめないよセックス」
なんかすごくそういうことがしたい人みたいになってますけど大丈夫ですかこまちさん。
「むしろ積極的に狙っていこうよセックス」
狙わねえよ。何言ってんだこの人。っていうかむしろ語尾がそういう人みたいだよ!?
「みんなでしようよセッヘブっ――」
ノリノリでラッパーのような動きを取り入れつつさらに続けようとしたこまちさんの後頭部に鏑矢が直撃し、喋っていたこまちさんは舌を噛む。
そして矢が飛んできた先には東北の良心こと寿さんが。
「あんた中学生に相手に何言ってんのよ!」
「痛いよ寿ちゃん」
「馬鹿なの!?死にたいの!?セナに聞かれたら一大事よ!?」
そう言いながら俺とこまちさんの間に割って入ってくれた寿さんがこまちさんを睨むが、こまちさんは苦笑いしながら胸の前で手を振り「勘違いだよー」と言いながら言葉を続ける。
「別に私と和希くんがそういうことするって話じゃなくて、和希くんが奥手だから狙っていこうよって話を」
「あんたほんとに中学生に何言ってんの!?」
ああ、普通の大人が、良識的な大人が来てくれた。これで勝てる。
いや別に勝ち負けの話じゃないけど。
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「なるほど、蒔菜について話を聞きたかったわけね」
ここまでの経緯を話し終えると、寿さんはそう言って神妙な顔で頷いた。
「そうなんですよ。なのになぜか俺と真白の話に」
「それはこまちに面白そうな話をうっかり漏らした君が悪いわね。まあ、それはそれとして蒔菜についてだったら、こまちよりは私のほうが詳しいと思うわよ」
「そうなんですか?なんか前に寿さんと時計坂さんは仲が悪いって聞きましたけど」
「確かに仕事柄いろいろぶつかるけど、それは多分朱莉だって、楓さんだってそうでしょうよ。だからって二人と蒔菜が仲が悪いのかっていうとそういうわけでもないでしょ。つまり私も別に蒔菜と本気で仲が悪いわけじゃないのよ。というか、接点が多い分私のほうがこまちよりは蒔菜と仲がいいと思うわ」
「うーん…」
そうなのかなあ…喧嘩するなら仲が悪いんじゃないだろうか。
「メールや電話、なんだったら顔を突き合わせて喧嘩している人間と、提出した書類が、ほとんどすべて、文字が汚いとか、最早いちゃもん以外の何物でもない理由ですべて突き返される上に電話しても出てもらえず、直接会いに行けば門前払い食らう人間だったらどっちが仲が良いと思う?」
「寿さんです」
時計坂さんの対応も大人げないなと思うけど、そこまで嫌われるって、こまちさんは一体何をしたんだろうか。
「でしょう?で、蒔菜の何が聞きたいの?」
「いや、何がっていうか、ひととなりというか、攻略情報というか」
「……なに?真白ともめているからって蒔菜に乗り換えるって話だったの?」
そういって寿さんは俺を胡散臭いものを見るような目で見る。
「違いますって。年始の警備を三人でやらなきゃいけないのに真白とは冷戦状態だし、時計坂さんのことは良く知らないしで、真白の件は自分で何とかするにしても、時計坂さんとだけでも仲良くやる方法がないものかなと。いや変な意味じゃなくて、時間短縮っていうか」
「はぁ……なるほど、こまちが真面目に取り合わなかった理由がわかったわ」
「でしょ?」
「どういうことですか?」
「まず第一にね、人と人の関係において攻略法なんて存在しないし、そんなもの使おうとしているってことがバレたらその人とは絶対うまくいかない。第二にやりかたがこすっからいというか、朱莉みたいで気持ちが悪い」
「……」
「チームの子に言われない?」
「あかりには時々…あと、みつきにも言われたことが…たしかタマにも…あれ?真白にも言われたことがある気がするぞ」
「って、チーム全員かーい」
楽しそうにこまちさんが俺にツッコミを入れるが、こっちとしてはそんな楽しい気分には程遠い。
え?何? 俺朱莉先輩に似てんの? あの人に? 嘘だろ?
「まあそう思われたくないなら、とりあえず変な近道をしようとしないことね。君はまだまだ若いんだし、失敗も貴重な人生の糧になるんだから、真白とのことも、蒔菜とのことも自力でやってみなさい」
「そうそう、なんでもとりあえず自力でやることをおすすめするよ」
「でも時間があんまりないんですよ」
「真白はいざという時までへそを曲げているほど子供じゃないでしょ。それに蒔菜だってあれで君より10年以上長く生きているんだから多少失敗したって大丈夫よ」
「でもまあ、真白ちゃんについてアドバイスするとすれば、あんまりヘコヘコしないほうがいいと思うよ。和希くんはどーんと男らしく『黙って俺についてこい』的なさ、そういうところを真白ちゃんに見せてあげたら良いんじゃないかな?」
「………」
「なんか信用してくれていないみたいだけど、そういうイメージを前面に出せれば、少なくとも朱莉ちゃんみたいなイメージは払拭できると思うよ」
「やってみます!」
「よしよし、素直な子は好きだよー」
そう言ってこまちさんは親指を立てて笑いながらウインクをした。




