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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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ドキっ!魔法少女だらけの大運動会!~ポロリしてくれたら私が嬉しい~

 何か大変な問題が起こった時、その問題を解決するために動くというのは社会人、いや現代人としては普通の感覚だろう。

 そしてその普通の感覚は普段ちゃらんぽらんで。何を考えているのかいまいちわからない我らがボス、宇都野都さんも持ち合わせている。


「まあ、優陽がすんなり仲間になったからお約束で次の幹部クラスが出てくるだろうとは思っていたけど、意外と早かったわよね」


 都さんはブリーフィングルームに集まった主要国の連絡将校と何故か日本代表として招集された俺の前でそう言って笑った。

 そんなこと他国の前で言っていいのかとか色々と疑問は尽きないが、都さんがこうしてあっさりと話している以上、きっと彼女からすれば隠すほどのことではないのだろう。

 都さんが合図をすると狂華さんが紙束と小さな小瓶を各国の連絡将校に配り始めた。


「これは?」


 アメリカの連絡将校であるジャンヌが受け取った小瓶を部屋の照明にかざしながら訊ねる。


「優陽の資料とナノマシンサンプル。基本的には我々地球サイドが技術提供を受けたナノマシンと構造は一緒、動きも出力も同じくらい。微妙に違う点がいくつかあるけど、恐らくそれは地球の資源を使ったか他の星の資源を使ったかの違いだろうっていうのがうちの先生方の見解。まあ、後はそのサンプルで見てちょうだいな。その代わりCIAやらなんやらは帰ってもらえると嬉しいなーと、思うんだけどどうかしら」


 都さんはそう言ってニコニコと笑いながらジャンヌを見る。


「……まあ、CIAが活動しているのを知っていて黙っていた私も同罪だな。了解した。上を通して話をしてもらおう」

「ありがと、ジャンヌ。他のみんなもお願いね」


 都さんの言葉に、他の国の魔法少女たちもうなずいた。

 こういうところで隠し事をせずお互い本音で話せるのは、都さんの普段の根回しというか信頼関係の構築による賜物だろう。


「さて、じゃあ次の議題ね。戦力の配置見直しについて。これは、今の戦力の配置をどうするかってことなんだけどね」


「んん?配置?じゃあワタシたち関係ない話よ」


 そう口を開いたのは中国の李小花だ。


「後で内示があると思うんだけど、どこの国も戦略的に余裕がないのは一緒でしょ?だから昨日各国の司令とお話をした時に連絡将校の相互活用の話がでたの」

「相互活用?」

「そう。お互い人手不足なんだから使えるものはネコの手でも使いましょうって話。つまり連絡将校の指揮権の譲渡ね」

「……人質を取り合うの間違いじゃない?」


 ロシアのユーリアがそう言ってやや自嘲気味な笑みを浮かべる。


「ま、そう言ってもいいかもね。でも、もともと連絡将校なんて半ば人質みたいなものだし。嫌なら帰れって話になるけど、どこの国同士でもそんな感じだから、帰って下手な国に行かされるよりは私の下にいたほうがよくない?」

「相変わらずはっきり言うな。まあ、上がそう決めたなら私はそれで構わない。軍人だから命令に従うさ」


 ユーリアがそう言って眼を閉じて黙ると、うーうー唸って不満がありそうだった小花も黙る。


「人質は生かしてこそってね。悪いようにするつもりはないから安心して。もちろん今まで通り本国に連絡を取ってもらって構わないわ。というか、そっちがメインのお仕事であることには変わりがないからね」

「それで?その配置というのはどう決めるんだ?」

「狂華、あれを皆さんに」

「ねえ……本当にあれで決めるの?」

「もちろん。そのために私たちは寝る間も惜しんで資料を作ってきたんでしょうが」

「え…寝てないのボクだけ……」

「シャラーップ!いいから配りなさい」


 なんかもう狂華さんは都さんに対して、キレてもいいと思う。


「はいはい……ごめんね、悪いけどこれ回してくれる?」


 そう言って狂華さんが出席者に配った紙の資料には『ドキっ!魔法少女だらけの大運動会!~ポロリしてくれたら私が嬉しい~』と書かれていた。


「……都、運動会ってなに?」


 と、首を捻りながらユーリア。


「ああ、そっか。ロシアにはないのか」

「いや、ステイツにもないんだが」

「え……?」


 都さんが狂華さんに助けを求めるような視線を送ると、狂華さんはため息をつきながら口を開いた


「ボクはちゃんと言ったよ。いわゆるボク達の言う運動会って日本にしかないって」

「マジで!?朱莉知ってた?」

「狂華さんの言う通り、いわゆる日本式の運動会って確か海外にはありませんよ。ていうかなんで俺に聞くんですか」


 何かで昔読んだが、元はヨーロッパだかどこかの行事だったがものが、日本お得意のガラパゴス進化して、今の形になったとかならないとか。


「いや、朱莉って変な雑学を知ってるから。そっか……まあ、要するにミニチュアオリンピックよ。国別の代わりに組み分けして、それぞれ得意の競技でトップを目指すっていう行事」

「なるほど、それで予定が1週間も切ってあるのか」

「は!?1週間!?」


 ジャンヌの言葉にびっくりして資料に目を通すと、確かに予定が1週間切られていた。


「まあ、体力測定というか、戦力の調査も兼ねているからね。すべての種目に全員出てもらうとそうなっちゃうのよ。ちなみにメインイベントは最終日の大武闘大会よ!」

「それはもう運動会じゃねえ!」

「だって、視聴者アンケートでも魔法少女同士の戦いが見てみたいっていうのが結構あったしぃ。視聴率上がると予算ちょっと増えるしぃ。ていうか、そんな激しく突っ込まなくてもよくない?」

「なんでちょっと拗ねてるんですか……」

「だって、なんか朱莉怒ってるし」

「ただのツッコミですよ。別に、このくらいで怒ったりしませんって」

「だよねえ。かわいい女の子のブルマ姿が見られるのに怒る男なんていないよね!」

「いや、ブルマって……このご時世に?視聴者の反発とか怖くないですか?」


 べ、別に柚那と朝陽優陽のブルマ姿なんて想像してないんだからねっ!


「別に一部の視聴者がブーブー言ったってクレーム処理するのテレビ局だし。ていうか、なんで興味ないみたいな顔してるの?どうせそんなこと言いながら柚那と優陽のブルマ姿とか妄想してるんでしょ?」

「ああ、正直たまらんと思っている」


 何を言ってるんですか、日本人なのにイギリス紳士の心を持つ、いわば二人の姫のナイトたる俺がそんなことを妄想するわけがないじゃないですか。


「朱莉、多分心の声と逆になってるよ……」

「まあ、みっちりスケベの朱莉は置いておくとして。そういうことで、皆さん一つ協力をよろしく。勿論優勝者にはそれなりのご褒美を用意しているから、全力で頑張ってね」

「ちなみに、それなりのご褒美っていうのは?」

「そうね……朱莉だったら柚那と優陽の使用済みブルマとか?」

「ぐ……」


 いらねえよ!と言えない自分が悲しい。


「小花なら好きなお店で1日食べ放題とか」

「マジデスカ!?」


 と、喜色満面になる大食いの小花。


「ジャンヌなら薄い本買いたい放題。もちろんお使いはこっちでやるわ。ただし、ダブりはなしね。お金が無限にかかっちゃうから」

「ま……まあ、ジェーンが、喜ぶんじゃないか…?」


 そう言って、ジャンヌが自分は興味ありませんと言った顔をするが、アメリカのジャンヌ、

ジェーン姉妹のヲタク趣味はここに出席している全員が知っているので、ごまかそうとしても無駄だ。


「私は?」

「決まってるじゃない。日本の銘酒、私セレクションよ」

「ハラショー!」


 都さんとチアキさんの飲み友達であるユーリアは今日一番のテンションで歓声を上げる。というか、この人のテンションが酒以外で上がったところを見たことがない。

 ユーリアは美人は美人なんだが、酒が切れると全く喋らないし、楓さんより目つきが悪いので近寄りがたい。


「ほかに聞きたい人はいる?じゃんじゃん答えちゃうわよ」


 都さんがそう言うと、出席していた魔法少女達が我先にと手を挙げ、都さんはそのすべての相手が満足する賞品を提示して見せた。

 時々滅茶苦茶なことを思いつくし実行しちゃうけど、それを補ってあまりあるくらい滅茶苦茶優秀な人なんだよな、この人。

 

 

 

「まさか全員分即答するとは思いませんでしたよ」


 今日出席していた各国の魔法少女はさっきの3人を入れて18人。そのすべての人間に対して好みの賞品を提示したのだ。あれには正直感服した。


「ふふん。まあ、私くらいになるとあれくらいやってのけて当然なわけよ」


 そう言って、小料理屋チアキ(都さん命名。要するにチアキさんの部屋)のカウンターでほろ酔い気分の都さんが得意げに鼻を鳴らした。


「そんなこと言って。どうせまた狂華に調べさせたんじゃないの?」


 チアキさんはそう言っておかわりの入ったグラスを都さんの前に置く。


「そうなんですか、狂華さん」

「え?あー……まあ、ちょっと手伝った、かな?」


 狂華さんはそう言って気まずそうにジンジャーエールの入ったグラスに口をつける。


「そうそう、ちょっとよ。ちょっと」


 ……これ、絶対ちょっとじゃないな。


「じゃあ、都さん。狂華さんが優勝した時に何をあげるのか言ってみてくださいよ」

「え?狂華は私と一緒に居られるだけで幸せでしょう?」


 そう言って『何言ってんだこいつ』と言わんばかりの表情で俺を見る都さん。正直、その表情をしたいのはこっちのほうだ。


「そうだよ朱莉。ボクは別に……」

「いい機会だから、都が考える、狂華のしてほしい事っていうのを聞いてみるのも面白いわね」


 辞退しようとする狂華さんの言葉を遮ってチアキさんが俺の提案に乗ってくれた。言葉通りただ面白がっているのかもしれないし、狂華さんに対する同情があるのかもしれない。だがいずれにしてもこの状況では心強い味方だと言えるだろう。


「ええー……面倒くさいなあ」


 あまりこういう事を言いたくはないが、この人は釣った魚に餌をやらない人だと思う。だからこそ狂華さんはもうちょっと都さんに対して主張をするべきだと思うし、さっきも思ったようにそろそろキレてみせるのもいいと思う。


「そうねえ……狂華、あんた恭弥だったころに草津に行きたがっていたでしょ。湯もみ体験したいとか。浴衣で一緒に歩きたいとか。なんかそんなこと……たしか5年前だったっけ?」

「え……?」


 都さんの言葉を聞いた狂華さんは驚きの表情を浮かべてチビチビ飲んでいたジンジャーエールから口を離した。


「優勝したら、一緒に行ってあげるわ」

「…………」


 都さんの言葉に狂華さんは答えずにグラスをカウンターに置くとガタっと音を立てて椅子から立ち上がった。

 そりゃあそうだろう。5年前にいきたがっていた旅行に今更。しかもたった今思い出したから勢いで言ってみた。みたいな誘われ方して嬉しいわけが――


「朱莉、チアキ。もし君達と戦うことになたら、私は本気で行くからな。その時は覚悟してくれ」


 ――あったらしい。しかも何故か口調が変身後の狂華さんになってるし。それだけやる気満々ということか。


「ちなみに私は?」

「え?チアキさんは…ほら、あれよ。前にチアキさんが欲しがってたじゃない。えーっと……絶版になったカトラリーセット!あれを何とか都合つけるわ」


 チアキさんはお酒と料理だけの人ではない。何気にカトラリーの蒐集というちょっと小洒落た趣味なんかも持っている。


「悪いわね狂華、朱莉。私も負けられなくなったわ」


 チアキさんの目が座った!怖いよこの人たち。なんでこんな簡単に釣られてるの!?


「じゃ、じゃあ例えば柚那だったらどうです?」


 殺気立つ二人の気をそらそうと、俺は都さんにそう話を振った。


「簡単よ。朱莉を裸に剥いて柚那の部屋に放り込めばそれでOKでしょ?」

「いや、柚那的にはOKかもしれないけどさ。もう少しこう俺の人権とかも……」

「私は勝者の権利については保証するけど、敗者の人権なんか知ったこっちゃないわよ。嫌なら勝ちなさい」

「鬼かあんたは!」


 将校なのに鬼軍曹みたいなこと言うな、この人。


「朱莉、人は大切なもののためなら時には鬼にもなるのよ」

「いや、いい話っぽくまとめても、皆ただ欲まみれなだけですからね!?」

「失礼な。だいたいあんた、人のことを欲まみれなんて言えるほど欲がないわけ?」

「え?俺?」

「ああ、ボクも聞いてみたいかも。まさか本当に柚那と優陽のブルマが欲しいっていうわけでもないんでしょ?」

「まあ、そうですね……特にこれといって………」


 欲しいものは大体買えているし、誘えば柚那も一緒に温泉行ってくれるだろうし。


「ああ、じゃあ運動会の後にみんなでやる打ち上げをちょっと豪華にして、その費用をとか……」

「いい子ぶってんじゃないわよ!」

「そういうのってズルいと思うな」

「うわー、つまらない男」


 なぜこの提案でボロクソに叩かれなければいけないのか。


「ま、いいわ。どうせ朱莉のチームは勝てないだろうし。ちなみに私の予想では、狂華かチアキさんのチームが勝つと思うわ」

「え?チーム分けなんていつしたの?」

「昨日、適当に。今回は研修生の成績上位の子も何人か入れたから10チームくらいかな」

「ていうか、チーム戦なんですかこれ」

「そうよ。五人で一組。そのほうが最後の武闘会が盛り上がるでしょ?」

「ちなみに私のチームって?」

「チアキさんでしょ、あとは精華、ひなた、みつき、ユーリア」

「チートじゃねえか!」


 総合力で、チアキさんとひなたさん、攻撃力で精華さんとみつきちゃん。防御力でユーリア。それぞれ最強クラスだ。


「ボクのところは?」

「ジャンヌ、優陽、寿。あともう一人はシークレット」


 シークレットはわからないが、傾向としては狂華さんのスレンダーマンを始め、基本的に中~長距離を得意とするチームといったところか。狂華さんはもちろん、優陽もジャンヌも相当強い。個人的に与し易いのは寿ちゃんか。


「……あんまり聞きたくないような気がするんですけど、俺のところは?」

「朱莉、楓、あとの三人は研修生」

「片寄り過ぎじゃないですか!?」


 楓さんは近接最強を誇るし、俺も自分で言うのもなんだが強いほうだとは思うが、それにしても研修生が三人と言うのは酷い。


「朱莉には悪いと思うけど、楓を勝たせるわけにいかないのよ」

「え?何でです」

「御物はさすがにどうしようもないから」

「御物って、皇室の持ち物とか、そんな感じの意味ですよね?何を欲しがったんですか?」

「鬼丸国綱」

「……いや、21の女の子の欲しがるものじゃないっすよ、それ」

「あれ?朱莉は知らなかったっけ?楓って元々男の子だよ。ちなみに魔法少女になる前からイズモとは恋人同士だったんだ」

「聞いてないですよ」

「ちなみに宮本姓は元からで、男性だった時の名前は……」

「やめておきなさい狂華。楓に怒られるわよ」


 気になる。二刀流だし、やっぱり武蔵なんだろうか。もしくは逆をついて小次郎とか。狂華さんがやや笑いをこらえながら言っていたところを見ると、どっちかのような気がするんだけど。


「まあ、そういう訳だから朱莉には犠牲になってもらうわ」

「…いいですけどね、別に欲しいものもないですし」

「まあその分、打ち上げは朱莉の望み通り豪華にやるから。モチベーション上げて頑張ってよ」


 納得いかない部分もあるが、まあ都さんに貸し1つと思えばいいか。



 

 


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[気になる点] 脱字:っ 「朱莉、チアキ。もし君達と戦うことにな・たら、私は本気で行くからな。その時は覚悟してくれ」
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