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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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忘年会をしよう 2 ~プリケツおじさんと幼女先輩~

 予定外の出費は痛かったが、それなりの金額を取るだけのことはあり、宴会場のテーブルの上には逆写真詐欺じゃねえかといいたくなるくらい立派な料理が並んでいた。

 並んでいる料理は大人向けの刺し身の盛り合わせだけではなく、JCJKを考慮した若者向けの揚げ物なんかも大皿で結構あって参加者全員にっこにこ。

関西に常駐している柚那だけは到着が遅れていたが、開始30分もすると、いつもの一発KO芸を披露してくれた狂華さんをはじめ、残りのメンツはすっかり出来上がっていた。


「今年もいろいろあったわよね」


 膝に載せた狂華さんの頭を撫でくりまわしながら、隣の席の都さんはあいているほうの手で器用に俺のおちょこに酒を注いでくれた。


「というか、今年はみっちりいろんなことがありすぎですよ。聖のところと戦ってみたり、虎徹のところとやりあってみたり、生倉なんて洒落にならないような相手とやりあってみたり」


 こう考えると、なんかずーっと誰かと戦っていた気がする。


「あとは、第二回魔法少女武闘会なんていうのもやったしね」

「そういえばやりましたね。まさかJCが優勝するとはおもいませんでしたけど」

「まあ、どこが優勝してもおかしくなかったからね。やっぱドラフトにして正解。勝手にチーム決めるとかクソだわ」


 そのクソみたいな仕組みで去年強行したのはあなたですけどね。


「そういえばあのあたりから朝陽が急激に強くなったんだよなあ」

「え?なんですか?」


 俺のつぶやきに自分の名前が入っていたのが気になったらしい朝陽がこっちに身を乗り出してくる。


「いや、狂華さんに弟子入りしてから朝陽は強くなったなあって話」


 あの時は朝陽の身体が絞れていくのと反比例して愛純が激太りしたりして大変だった。


「ああ………今思い出してもつらい日々でした…」

「そうなのか?俺が埼玉でいろいろやって帰ってきたときは喜々としてやっているような感じに見えたんだけど」

「それは朱莉さんが帰ってきたときにはもぅブートキャンプが終わった後だったからですわ」

「ブートキャンプ?ブートキャンプってあの、なんか屈強な元軍人のおっさんがやるような感じの?」

「よくわかりませんけど、ブートキャンプ中に何度か狂華さんから関東寮で朱莉さんといかがわしいことしていいぞって言われましたわ」


そっち!?フルメタルなの!?ジャケットなの!?

 っていうか、全然あずかり知らないところでそんなこというのやめてほしいんですけど。


「狂華のブートキャンプは厳しいからね」

「ええ、私につきそって一緒に参加してくれたセナは一時間でギブアップしてしまいましたし」


 都さんの言葉に深く頷く朝陽。


「一時間!?セナってけっこう体力あるほうなのに、そのセナでもついていけないほどハードなのか?」

「いえ、始まって早々狂華さんが受講生にあだ名をつけるんですけど、その時にセナに付けられたあだ名がひどくて、あまりに連呼するものだから途中でセナが泣きながら帰ってしまったんですの」

「あだ名?」

「私でしたら、チョコっとデブ」

「酷いな」

「あのときは、私のお腹はかなりぷにぷにでしたし、そういうあだ名でもしょうがなかったかなと。それにあだ名にチョコって入っているのがちょっと嬉しかったというのもありますし」


 いつの間にか朝陽が腹筋だけではなく精神まで鋼鉄メンタルになってる件。


「ちなみにセナは?」

「そのものズバリ、豆腐メンタルですわ」

「ひでえな」


 本人かなり気にしているのにそれをそのままあだ名にするとか鬼かこの幼女先輩。

 ちなみに幼女先輩こと狂華さんはそんなこと絶対に言いそうにない、とても安らかな寝顔ですやすやと都さんの膝で眠っている。

 まあ、この人の場合、口では嫌がりながらも男とデートしたり、男の園でアイドルやったりしてたので、見た目で判断するのはもやめよう。

 ……あれ?っていうか、朝陽もセナのこと、そのものズバリとか酷いこと言わなかったか?


「まあ、おかげでこうして美しい腹筋も手にいれられたのでいいのですけれど」


 そう言いながら上着の裾をめくって自慢の腹筋を見せてくる朝陽。


「若い女の子があんまり肌をみせるんじゃありません。黒服さんとかもいるんだから」

「はーい、ですわ」


 朝陽はそう言ってちょっと残念そうに上着の裾を下ろした。


「それはそうと、朱莉さん」

「ん?」

「噂の佳代さんってどの方ですの?」


 ちなみに今日非番ではない佳代は、仕事の後こちらにくる予定なのでまだここにはいない。


「噂ってなんだよ」

「恋さんが朱莉さんとその佳代さんが怪しいって言ってたんですよ」

「あいつ…」


 ちなみに恋は恋で、かつて所属していた東北の忘年会に呼ばれて、昨日から不在だ。


「で、私と朝陽で品定めをしてやろうかとおもいましてー」


 少し離れた黒服さんたちのテーブルで柿崎くんといちゃいちゃしていたはずの愛純がそう言いながら俺の背中にのしかかってくる。


「テレポートまで使って何の用だよ、っていうか柿崎くんはいいのか?」

「なんか冷たいなあ。それにいまさらこうして抱きついてちょっと胸が当たったって、柿崎さんはなんとも思いませんって」


 いや、何一つ当たってないんだけどね。

 悲しいね。


「で、どこにいるんです?その噂の佳代さん」

「まだいないよ。仕事の後来る予定だから、入ってくればすぐわかるんじゃないかな」

「ふうん…ちなみに寝たんですか?」

「直球やめい!……っていうか、あいつは松葉の義理の姉だぞ?」

「でも未亡人らしいですし、別になんの問題もないじゃないですか」

「ないけどさ」

「そういえばクリスマスのとき寮で見かけませんでしたけど、どうしてたんです?まさか……」

「佳代じゃない友達の家に泊まって一晩中恋バナして、正直すげえ参考になった」


 女子高生に相談に乗ってもらって自分の人生の針路を決めるというのもちょっとどうかと思うが、あれで大分定まった感じはある。


「………あっ…」

「察し、ですわ」


 察しとか、口で言うなよ


「でも柚那さんにふられっぱなしでクリスマスのお誘いもせず、噂の佳代さんとも寝てないとなると……まさか、他に新本命が?」

「いねえよ」

「案外夏樹さんとかでは?」

「ないわー…」


 おふざけで深谷さんと過ごそうと考えたりもしたけど、あれは本当におふざけもおふざけだ。

 ちなみに深谷さんは、佐藤くんを避けながらテーブルを回っていて、現在はJCのテーブルにいる。


「案外、ハナとかだったり」


 そういってJKのテーブルからこっちに移動してきたハッチが朝陽の隣に座った。


「君もまた突然来るね」

「冷たいなあ。本当だったら女子高生のお酌とかただじゃ受けられないんですからね」


 ハッチはそういってお銚子を持ち、表情で俺におちょこの中身を飲み干すように促す。

 ……うーん、デジャブ。俺は前にこの流れで男性(略)の理事長なんて面倒くさい役目を押し付けられたんだよなあ。


「そんなことしないですって」


 読まれた。


「朱莉さん、まさかこの子が新本命ですの……!?」

「ないない、だってこの子は俺の―――」


 おっと危ない。余計なことを言いそうになったぞ。ええと、紹介の仕方が難しいな。


「朝陽さんははじめましてですね。私は東條蜂子。あっちでエリスと一緒にギャルギャルしている西澤那奈と一緒に先週からJKに配属になりました。よろしくお願いします」


 ハッチはそういって人懐こい笑顔で朝陽に挨拶をし、朝陽も改めて自己紹介をする。

 うーん、つつがなく気配りできて外面もよい。将来息子の嫁に迎えるならハッチがいいなあ。


「ちなみに彼女は優秀なテレパスで、こっちの言いたいこともだいたい察してくれるからJKと俺の間での連絡係をお願いしているんだ」

「そうそう、この間からこっちとの連絡係もハチちゃんにお願いしているくらいなんだよ」


 俺の言葉に関東チーム副隊長の愛純がうんうんと頷く。


「朱莉さんがいなくなってから華絵ちゃんの態度は多少和らいだんだけど、彼女はやっぱりなんかまだこっちに不信感を持っているっぽくて。その点ハチちゃんはそういうのないからすごく楽なんだよね、狂華さんも褒めてたし、ほんと助かってるよ」


 愛純が褒めるとハッチは少し照れくさそうに笑って下を向き、その様子が面白かったのか、愛純はさらにハッチを褒め、朝陽も感心しきりとばかりに頷いている。

 ……うん。彼女を助けられて本当によかった。連絡係という実務の面でもそうだし、もちろんその他の面でもだ。

 彼女を助けられなかったら鏡音をから継続して生倉側の情報が入ってこなかったかもしれないというのはもちろんだし、なにより、JKのテーブルはあんなにワイワイと楽しそうな雰囲気にはならなかっただろう。


「なーに、女子高生みてニヤニヤしてんのよ」


 狂華さんの顔をいじりながらしばらく俺達の会話を黙って聞いていた都さんが小声で人聞きの悪い事を言ってきた。


「人聞きの悪い事いう上司だなあ。別にやらしいことを考えているわけじゃないですよ」

「ならいいけどね……法令に引っかかるようなことはしないでよ?」


 しねえよ。

 なんでそんな深刻そうな顔してんだよ。

都さんのそんな真剣な顔、ここしばらく見てなかったよ


「法令っていう意味だと、幼女先輩と懇ろな都さんのほうがよっぽど心配ですけどね」

「いや、こいつ合法ロリだから」

「自分の恋人を合法ロリ扱いするのやめて差し上げろ」

「言われている本人が喜んでるんだから良いのよ」

「もともとそういう扱いが嫌で自衛隊で鍛えたって話だったはずなのになあ」


 結果として、高校時代より可愛くなっているんですがこれは。


「本人が可愛いは正義だってことに気づいたんだからいいのよ。……それはさておき、朱莉」

「はい、なんです?」

「今年も色々ありがとうね。まだ生倉のことも片付いてないし、来年も大変だと思うけど、よろしく」

「はいはい。任せておいてください」

「大変なことを任せることになると思うけど、本当にお願いね」

「………何か企んでいるんですか?」

「色々あるけど、当面生倉の件が優先ね」


 そう言って都さんはものすごく胡散臭い笑顔を浮かべる。


「厄介事ってなんです?」

「あんたの大好きな都さんを守るお仕事よ」

「………………」

「『えっ!?』って顔やめなさいよ!」

「いやまあ、好きっすけどね」

「ええっ!?朱莉さん、都さんが本命なんですの!?」

「言われてみれば前々から上司と部下という関係にしては親密だった気が!?」


 やめろ!今ここに柚那はいないけど、幼女先輩が寝てるんだから、そんな話が万が一幼女先輩の耳に入ったら――


「あかりぃ?」

「ひぃっ!」


 やっぱり起きた!


「ボクからみやちゃんをとるの?」

「とりません!いりません!狂華さんにお返しします!」


 酔っ払った勢いと寝ぼけた勢いで万が一ここで狂ヒ華なんてやられた日にゃ大惨事なんて言葉じゃとても足りないことになる


「むぅ……そーいういいかたはないんじゃないのぉ、みやちゃんはねぇ、こうみえてベッドではぁ――」

「ちょ、何言うつもりよ狂華」


 慌てて口をおさている都さんの表情を見る限りこの話題はもうこれ以上突っ込まないほうが良さそうだ。


「さてと、じゃあ幼女先輩も起きたし俺はJCのテーブルにでも行ってくるよ。あ、うなぎが来たら席に戻ってくるから俺の分、食わずに残しとけよ」

「はーいですわ」

「ちょっと朱莉、幼女先輩って誰のこと?」

「あ、ちゃんとお目覚めですか狂華さん」


 いつもの感じだとむにゃむにゃしながら一時間はグダグダしているのに。


「ボクだってちゃんとアルコール分解ができるように練習をしてるからね」


 そういってドヤ顔で胸を張る狂華さん。

 ここで『だったら最初から酔っ払わないようにしてくださいよ』とは言わない。怖いから。


「で、幼女先輩って誰のこと?」

「狂華さん」

「ま、全く悪びれないんだね………」

「狂華にゃんに続く愛称が必要かなって」


 最近ちょっと下火になってきちゃったしね。


「他に言うことは?」


 あ、狂華さんのこめかみに青筋が。だが俺も男だ吐いたツバは飲み込めない。


「とくにありまアッーーーーー!!!」


 言い終わらないうちに、突然俺の尻が下から突き上げられた。


「何!?なにが起こったんだ!?」

「1/1000狂ヒ華だよ。次は1/100でいくから。で、何か言うことは?」

「はい、すみませんでした。もう変なあだ名で呼んだり、付けたりしません」

「よろしい」


 そういって幼女先輩は満足そうに笑っアッーーーー!!


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