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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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ラストリゾート 8


「…きれいな夕日ですね」


 夕陽に照らされた砂浜で潮風に髪の毛をそよがせながら、一美がたおやかな微笑みを浮かべてこちらを見る。


「そうだな……」


 うん、たしかにきれいな夕陽だ。


「ロマンチックですね」

「…まあ、たしかに、そう言えないこともない」

「なんでそこで雰囲気を壊すようなことを言うんですか!」


 いや、だってなあ……


「じゃあ、気を取り直して……二人っきり、ですね」

「いや、二人っきりではねえよ?」


 だって、岩陰にめちゃくちゃ花鳥と風月の頭が見えているし。

 ちょっと離れたところでは姿を隠すこともなく都と狂華がこっちを見ているし。

 そもそも今オレたちがいるのは――


『あ、僕らのことはお気になさらずにカメラに映っちゃったのをちら見するくらいなので』


 ――ついこの間俺達が攻め入った、虎徹達男性型宇宙人の拠点なのだから。




 俺達が乗っていた飛行機が墜落したその日、都と狂華はクリスマスのバカンスということでこの島へやってきたそうだ。

 ちょっと前まで敵対していた相手の島に最高責任者がホイホイ遊びに行くっていうのはどうなんだとか、そもそも遊びにきてはいどうぞと入れてくれるのもどうなんだとか、色々言いたいことはあるが、宇宙人と宇宙人に引けを取らないくらい意味の分からない都のやることなので、俺はツッコミを放棄した。

 そうしてこの島で深海家プライベートジェットが行方不明になったという報告を聞いた都はスマートフォンをちょこちょこいじって俺達がたどり着いていそうな島をピックアップし『どこかしらの島にいるだろうから迎えに行ってあげますか』『そうだね、敵が来てても、ひなたはどうせ殺しても死なないしね』という話になったそうだ。

 しかしそこは都。普通に迎えに来て普通にこの島に帰るんじゃあ面白くないということで『クリスマスだし独り身で寂しいひなたに嫁を世話してやるオフ会』(じゃあ一体どこがオンなんだよというのはもう突っ込む気力もなかったので聞いてない)開催の運びとなり、都は矢納美津子に変身して俺たちをかき回し、狂華はギリースーツでこちらを監視しつつビデオを撮っていたそうだ。

 ちなみに、本物の矢納ともう一人のパイロットは南アフリカで無事に発見され、逢坂の証言によって飛行機を飛ばしていたのは、逢坂の魔法によって矢納の顔を付与されていた教団の人間だったことが判明した。

 逢坂の魔法はあの島で彼女が語ったように顔を剥ぐ必要は…というより、あの魔法を使うには相手のDNAを入手することができればいいだけで、それこそ髪の毛を排水口から拾ってくるとかそのくらいのことでいいらしく、むしろ発動するためには相手が無事でいる必要があるという、顔を剥ぐだの殺すだのというのとは真逆の魔法らしいので、パイロットの二人はもちろん、整備士も桜も無事だったと、そういうことだ。

 ちなみにこの島に戻ってきてから都に通信機を借りて桜に連絡をしてみたのだが………



「あ、桜か?お前、なんともないか?大丈夫か!?……って言ってもいきなりすぎてわからねえかもしれないけど」

『いえ、一応都さんに話はききましたんで、状況は把握してます。私はなんともないですよ』

「そうか、それはよかった。それでさ、俺たちもしかして行き違いがあったんじゃないかなって」

『行き違い?』

「今回戦った敵の魔法少女が、『ひなたさんとノリでつきあってただけでそんなに好きじゃなかった』って言ったのは自分だって言っててな」

『え?いや、それ言ったの私ですよ。っていうか、何年も恋人関係で、しかもコンビも組んでたのに私と偽物の区別がつかないんですか?』

「いや………」


 正直つかないけど。


『まあ、スパッと別れるためにあんな言い方しましたけど、付き合っていたときは好きでしたよ。でも今、私がひなたさんのことをそういうふうに見ていないっていうのも本当です。というか、私、クリスマス前に彼氏できましたし』

「え!?」

『いや、柚那みたいな事情があるわけでもないし、そもそも私は別れたらさっさと次に行きたい派なんで』

「そ、そうか。桜可愛いもんな」


 可愛げがあるとは言わないが。


『何かすごく不愉快な気配を感じるんですけど』

「言いがかりはやめてくれよ。だいたいこんな通信機越しで気配なんて―」

『めんどうくさそうなときの息遣いが聞こえました』

「付き合いが長いと色々不便だな」

『ま、次の相手とは私以上に長い付き合いになるんじゃないですか?ひなたさんにベタ惚れじゃないですか、彼女』

「一美と何か話したのか」

『ええ。それでこの子ならひなたさんの老後も喜んでみてくれるんだろうなと』

「やめろ生々しい!」

『いや、私はひなたさんのおむつの世話とか無理ですし』

「はっきり言うな!」

『まあ、なんにしても、ひなたさんみたいな面倒な人に好意を持ってくれる子、逃しちゃだめですよ』

「桜……」

『あ、私そろそろシフト終りなんで、あがりますね。お疲れ様でーす』

「桜って意外とドライだよな」

『別れた恋人とジメジメしてたら面倒くさいことになるのが目に見えてるんで、あえてそうしてるんですよ。じゃあ私はこれから今彼とラブラブしてくるんで、ひなたさんも一美ちゃんとイチャイチャするように』

「いや、俺はそういうつもりは――」

『それじゃあちょっと過ぎちゃいましたけど、メリークリスマース』


 一方的にそう言うと、桜は通信を切ってしまった。

 そして。


「見ますよ老後!換えますよ、おむつ!」

「見んでいい!換えんでいい!」


 通信を隣で聞いていた一美はすっかりその気になってしまっていた。




 で、現在、俺達はイチャイチャすべく、浜辺で夕日を見ているというわけだ。

 もちろん、このイチャイチャは桜に言われたからではない。

 桜との通信を終えて部屋を出た俺は今度は待ち構えていた都に捕まったのだが……




「あんたさ、ちゃんとわかってるわよね?」


 一緒に待ち構えていた狂華と一美を先に行かせたあと、都は俺をじっと見つめてそう言った。


「わかってるって……何が?」

「一美は今日お兄さんをなくしたのよ」

「そうだな」


 一美を殺して財産を奪おうとしたり、あわよくばフカミインダストリの乗っ取りを計画するような男を兄と呼ぶのであればな。

 これについてはかなり前から色々と嫌がらせやら妨害やらを受けていたらしく、一美はもちろん、花鳥と風月もやつを身内とは見ていなかったらしい。


「だからさ、ここはあんたが大人の男の度量を見せて慰めてあげるべきだと思うの」

「大人の男?」

「そうよ。あ、これ渡しとくわね」


 都はそう言って俺のシャツの胸ポケットにアルミの小袋を…って!


「お前は高校生の息子を持つおかんか何かか!」

「ひなたもそんなことする歳になったのねー」

「俺のほうが年上だよ!」


 なんで口元を左手で抑えながら右手で『あらやだ』みたいな手の動きしてるんだよ!


「まあ、冗談はともかく、あんたのほうは大丈夫?」

「あ?両手か?まあ、回復魔法使えるやつがこの島にいないっていうんだからしょうがないよな」


 狂華も都も一美も花鳥も風月はもちろん、回復魔法が得意な犬山は桃花の実家に挨拶に行っているらしいのでとりあえず本部に戻るまで俺の腕はこのままだ。


「そうじゃなくてさ。聖一と一美のこと。傷になってない?」

「……まあできれば一美がいないところでかたを付けたかったってのはある」


 一美自身も嫌っている相手、しかもすでに化物になっていたとは言え、やはりあいつの目の前で燃やすのはかなり気が引けた。


「そういうことでもなくてね…まあ、あんたなら大丈夫だろうけど」

「……今更一人殺した相手が増えたところでどうってことねえよ」

「私が心配してること、ちゃんとわかってんじゃないのよ」

「俺は大人の男だからな、もうこんなことくらいじゃ傷つかねえのよ」

「はいはい。じゃああんたの傷はもうどうでもいいから、一美のケアよろしくね」

「いや、俺が聖一を殺した張本人なんだけど」

「いいのよ。どっちみちあんたにしかできないんだから」

「お前が何を言いたいかというのは何となく分かるけど、一美には俺なんかより良い相手が絶対いるって」

「もし万が一そういうのがいるんだったら、その相手に出会った時に考えればいいのよ。桜みたいに」


 容赦なく俺の傷をえぐってくるな、こいつ。


「今そばにいてあの子に寄り添ってあげられるのはあんたなんだから今はあんたがやればいいの」

「いや、俺の気持ちとか、あとほら、俺も心の傷的なもので余裕が……」

「おや、大人の男がどうたらこうたらっていうのはどうしたのかしら」

「ぐぬぬ……」


 言い返せずに言葉をつまらせた俺が面白かったのだろうか、都はニヒっといたずらっ子っぽい笑いを浮かべて口を開く。


「まあ、これは完全に私の意見だけど、あんたたち二人はお似合いだと思うわよ」

「…………」

「ほら、江戸時代の岡っ引きとかも旦那は稼ぎが少なくて女房が稼いでたっていうじゃない?それに倣って考えると、いい年して公安ごっこしたいひなたとひなたにベタ惚れでお金持ってる一美ってぴったり!」

「ごっこっていうな!言い方!言い方気をつけろよな!」

「冗談よ冗談。で、ぶっちゃけどうなの?本気で嫌いなら、私ももうすこしこう、遠回りするようなやり方考えるけど」


 それ、最終的にはどうあってもくっつける気ってことだよな。


「お前に言うことじゃないだろ。どっちにしたって一美に最初に言うのが礼儀だ」

「ちぇっ、うまく逃げられたなあ………ま、いいや。どうせすぐわかることだし。じゃあ話はこれでおしまい。変に時間をかけて狂華にあらぬ疑いをかけられてまた家出されても面倒だしそろそろ行きましょ」


 都はそういってくるりと身体の向きを変えると、狂華と一美が歩いていった方向にむかって歩きだし、俺も都の横にならんで歩き出した。




「――さん、相馬さん!」

「はっ!すまん、トリップしてた」

「もうっ、相馬さんがトリップしてる間にとっぷり日が暮れちゃいましたよ!というか、相馬さんがトリップしてる間、私ずっと一人で話し続けちゃったじゃないですか!」

「すまんすまん」

「まったくもう。心の広い私だってそのうち堪忍袋の緒が切れるんですからね」

「どうでもいいけど、お前って時々ババくさい言い回しするよな」

「もうっ!なんなんですか!?そういうこと言うと私プンプンですよ!」

「プンプンって自分で言うのとか今日び聞かねえわ」


 平成初期のアイドルかお前は。


「それで、なんでぼーっとしてたんですか?」

「いや、ここ数日のこととか、今日のこととか色々思い出してたら、なんかもう全部夢だったんじゃないかなーって」


 というか、夢だったらよかったなーって。

 だってもう、周りは全部俺の敵というか、一美と俺をくっつけようとしていて、さらにお忍びでクリスマスを楽しむために地上に降りてきていたらしい、この島…というか、男性型宇宙人の司令官まで『チャペル貸すわよ』などといってウキウキしていたりするのだ。。

 というか、なんで宇宙人の拠点であるこの島にチャペルなんてものがあるのか。


「……私も昔はいろんなことが夢だったらよかったなーって思ったこともありましたけど、そんなことを言っていても仕方ないですしね。時間は巻き戻らないし、起こったこともなかったことにはできないです」

「だな」


 悔やんでみても、俺の身体は女だし、みつきと一緒にいられるわけじゃないし、陽奈も生き返るわけじゃない。

 そしてそれは一美の過去に起こったことも同じだ。


「だから私は前を向いて歩いていきたいと思っています」

「ああ、それがいい」

(ついに来るか!)

(キタキタキター!)

「そこよ!ガバッと!」

「みやちゃん、声、声」


 花鳥と風月はまだ声を潜めているからいいけど、都と狂華はなんなんだよ。


「一美、まあなんだ、その…」

「…さすがにここでは外野がうるさいですね」

「わかってくれてよかったよ」

「夜にお部屋に伺いますね」

「………お、おう」

「逃げないでくださいね」

「に、逃げるわけ無いだろう?もしも俺が逃げたらなんでも言う事聞いてやるよ」

「今なんでもするっていいました?」


 俺の言葉尻を捉えた一美の目が怪しく光る。


「え?…言った…ような、言ってないような…」

「まあ逃げないなら関係ないですよね」

「そうだな。俺は逃げないからな」


 その晩逃げ出した俺は、一美はもちろん、花鳥、風月、都、狂華によって追い回され、両腕がまだ再生されたなかったこともあり、ものの見事に捕獲され―――。




「私達おつきあいすることになりましたっ」

「………」


 翌朝、一美はつやつやとした顔で俺の首に付けられた首輪から伸びた鎖を手に持って、嬉しそうに皆に報告した。


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