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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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After Xmas JK

蜂子が朔夜に『クリスマスにまったく会わない恋人同士とかハナとかエリスに超怪しまれるよ?一応会ったっていう既成事実は必要なんじゃないかな?』というメッセージを飛ばすこと200通以上。

蜂子の執念に折れた。というか恐れをなした朔夜が『そうは言っても今から行くところなんかないだろう』と返信をしたところで『あんたの部屋があるでしょうが!』という、タイミングを図っていたとしか思えないメッセージがノータイムで返ってきて突然のお部屋訪問となった12月24日20時少しすぎ。

JK寮から少し離れたところで待ち合わせをした蜂子と朔夜が帰ってきたのは、華絵とエリスの住んでいるマンションの隣のマンションの三階にある一室だった。


「あのさあ…」


「なんだ?もう帰るのか?それなら特別にエントランスまで送ってやらないこともないぞ」

「じゃなくて。あんた今日私達が隣のマンションにいるの知ってたよね?」

「お前がそう言ってたからな」

「じゃあこの部屋に来いって言えばよかったでしょうが!それだったら私は寒い思いをせずに――


「すまない。実は恋人と外で待ち合わせっていうのをしてみたかったんだ」

「えっ……ま、まあ、そ、それなら?しかたないっていうか」

「まあ、嘘だけどな」

「あんたってほんとなんなの!?」


 蜂子はプンプンと怒りながら朔夜を押しのけてリビングへと向かう。


「ふーん、似たようなマンションなのに、エリス達のとことはちょっと間取りが違うのね」


 実家が一戸建ての蜂子は物珍しそうに部屋の中を見回してつぶやく。


「住んでいるのは僕一人だからな。1LDKあれば充分なんだよ」

「ってことはこの奥があんたの部屋ってわけね」

「別に入ってもいいけど何も面白いものはないぞ」

「またまた、そんなこと言ってエロ本とかあるんじゃないの?」

「ない。そういうのは全部パソコンの中だ」

「隠さないんかい!まあいいわ、パスワード教えなさい」

「教えるわけないだろ、アホか」

「………チッ、読めない!」

「読んでくる相手だってわかっていればそれなりにプロテクトできるからな」


 朔夜はそう言って勝ち誇るが、蜂子はそれが悔しかったのか「うぉぉっ!」っと声を上げて朔夜の部屋に突入し、ベッドにダイブし、枕を抱えてゴロゴロしながら鼻をクンクンと動かす。


「んーーーー!朔夜の匂いがするー!」

「匂…ちょ、やめろ馬鹿、何やってんだよ!っていうかベッドパッドとか枕カバーはちゃんと洗ってるぞ!?」

「だから、あんたの服と同じ匂いって話よ。何勘違いしてんの?私があんたの体臭なんて知るわけないじゃないのー。ぷーくすくす」

「くっ、なんなんだお前は!」

「さっきの仕返し………あれ?なんかこの辺匂いが」


 そう言って蜂子はベッドの真ん中あたりで鼻をクンクンさせる。


「…今朝ベッドパッドを換えたからそんな事あるわけ無い。どうせまた引っ掛けだろ」

「え?換えないと何か臭うの?」


 蜂子は曇りなき眼で朔夜を見つめながら首を傾げてみせるが、朔夜はその視線にたじろぐことなく大きくため息をつく。

 

「………村雨ならともかくお前がそんな純真無垢なタマかよ」

「ちぇっ、もう一回くらい引っ掛けて遊びたかったのにバレちゃったか」


 ちょっと残念そうに笑うと、蜂子は仰向けになってベッドの上で大の字になった。


「ねえ」

「ん?」

「この間は本当にありがとうね」

「しつこい。礼ならもう何度も言われたぞ」


 そう言って少し照れくさそうな表情を浮かべて立ち上がると朔夜はキッチンに移動して二人分のコーヒーを淹れる。


(しつこいとか言いながら毎回嬉しそうな顔するんだから)


 朔夜の照れ隠しって可愛いなあと思いながら、蜂子はベッドに座って朔夜からコーヒーを受け取り、カップに口をつける。


「それで東條」

「ん?なんて?」

「いやまだ何も言ってないんだけど」

「ん?なんて?」

「……蜂子」

「よしよし。で、何?一応勝負下着では来てるけど、もうちょっとロマンチックな雰囲気を出してくれないとダメだよ」

「何もしねえよ。僕は胸がとアプローチが控えめな方が好きだって言ってんだろうが」

「ああ、そういえば愛純さんの写真集買ったって言ってたっけね。どこにあんの?燃やすから教えなさい」

「燃やすと言われて教えるやつがいるか!」

「ふむふむ、やっぱりパソコンの中以外にもあったわけね…マットレスの下……ふーん、裏地の一部をマジックテープにしてそのなかに隠しているのか」

「ちょっ、待て。僕は今プロテクトしたはずだぞ」

「こっちも毎日進化してるのよ」


 蜂子はそう言ってほっほっほと笑いながら脚付きマットレスのしたに潜り込んで裏地を剥がし、手際よく朔夜の秘蔵のお宝を取り出していく。



「まて、まってくれ東條」

「ん?」

「蜂子」

「こんなにかわいい彼女がいるんだから、こんなのいらんでしょ」


 蜂子は再びベッドに座り、ウインクをしながら愛純の写真集をひらひらと振ってみせる。しかし朔夜の反応は芳しくない。


「いや、東條って言うほど――」

「あん?」

「蜂子は世界一可愛いですすみませんでした」

「わかればよろしい」


(くそっ!なんだ?なんで気圧されるんだ?うちの家系かなんかか!?血の呪いか!?)


「……っていうか確か二人の時は恋人っぽく振る舞う必要がないとかって話だったはずなのに……」

「なんか言った?」

「何にも言ってないです!」


 思わず口にしてしまった心の声を聞いた蜂子に睨まれ、再び気圧される朔夜。


「燃やさないでほしい?」

「燃やさないでほしい。というか、その本の所有権は僕にあるはずなんだけど」

「しかたない。蜂子さんは心が広いのでもやさないでおいてあげましょう。その代わり…」


 蜂子はそこで言葉を切ってにんまりと笑うと、朔夜秘蔵のお宝を隣に置いて腕を広げ『おいでー』と言って笑った。


「……なあ。会うたびやるけど、これなんの意味があるんだ?」

「んー?マーキングよ、マーキング」

 

 そう言って渋々顔で近寄ってきた朔夜を抱きしめ、ベッドに引き倒す。


「こいつはあたしんだぞーって」

「誰に対するマーキングだよ。他に僕によって来るもの好きなんていないぞ」

「愛純さん?」

「………いやいや、ないから。あの人が僕を相手にすることはまずないから」

「確かにね。この間一回会ったけど、朔夜とはなんかオーラが違うって感じだったし」

「ほっとけ。で、情報は?」

「あんたって本当にロマンとか情緒とかそういうものを理解しないやつよね」


 ため息混じりにそう言って朔夜を開放すると、蜂子はベッドに座り直して自分の隣をポンポンと叩くが、開放された朔夜は机のそばから椅子を持ってきて蜂子の前に座った。


「ほんっとうに可愛くないわねあんたは!」

「男に可愛さを求めるな。そういうのは狂華さんだけで十分だ」

「やめたげなさいよ!朱莉さんたちだって流石にそろそろかわいそうだってことで、最近は猫耳とか見なかったことにしているらしいんだから!……って!そういえば狂華さんも胸がない!」

「すぐそこに繋げんのやめろ!僕はみゃすみんさん単推しだ」

「うわぁ、うちの彼氏ドルオタかよ…」

「人のこと言えんのかよ!お前去年までクローニク関連の握手会だのなんだの、さらにはきぐるみショーまで言ってたらしいじゃないか!西澤に聞いたぞ!」

「い……ってたけど、それは別に直結ドルオタみたいに気持ち悪いのじゃないもん!」

「似たようなもんだろ。だいたいな―――」


 上からプレッシャーをかけ、言い争いを優位に進めようとたちあがった朔夜の足がもつれ蜂子のほうへ倒れ込む。


「うわっ!」

「きゃっ!」


 ベッドの上で折り重なるような格好になり、二人の距離が一気に縮まる。


「ごめん…って目を閉じるな、唇を突き出すな」

「いや、こう、今がチャンスかなーって」

「はぁ…お前はどうして僕のことなんて構うんだ?同情か?」

「あー…まあ、同情してないって言ったら嘘になるけど、それだけじゃないよ。私って少女趣味と言うか、わりと夢見がちだからさ、私の命を助けてくれたあんたのこと、王子様だと――って笑うな」

「すまんすまん」

「笑うなってば」


 口では謝っているものの朔夜の顔はにやけていて、それを見た蜂子は朔夜の頬を引っ張って抗議する。


「ったくもう。でも、真面目な話ね、私はあんたを幸せにしたいと思っているよ」

「………蜂子ってちょっとかっこいいな」

「ちょっとじゃないわよ、超かっこいいわよ」

「わー、彼女がかっこよすぎて僕惚れそー」

「心にもないこと言わないの」


 そう言って蜂子は朔夜の頬を再び引っ張る。


「はあ、なんかそういう気分じゃなくなっちゃったし、はやくどきなさ―――」

「どうした蜂子、何を――」


 部屋の入口の方を見て固まった蜂子に声をかけながら朔夜が部屋の入口のほうを向くと、そこには大橋いずみがにま~っと締まりのない口で笑いながらスマートフォンを構えていた。


「ちょ、待て、誤解だ大橋」

「あ、大丈夫ですよ、私は瞳や英里紗と違って言いふらしたりしませんから」


 そう言ってスマートフォンをピンチするいずみ。


「だったらまずそのスマートフォンをしまえ!」

「朔夜くんも男の子だもの。クリスマスに彼女連れ込んでいても全然おかしくないわ。ほら、ファイト!がんばれ!がんばれ!お姉さん応援しちゃう!」

「お前何しに来たんだよ!帰れよ!」

「ひどいですねえ、一人寂しくクリスマスを過ごしていそうだからということで私達からの差し入れを持ってきたのに」

「わざわざ持ってこないでいい!っていうか、テレポートのカードを無駄にするな!」

「あ、使用回数切れちゃったのでチャージお願いしますね」

「お前、絶対仕事以外でこれ使ってるだろ!」


 そう言いながらも、ブランクカードに魔法をチャージする朔夜。


「ふうん、そのカードってリチャージもできるんだね」

「そうなんですよ。もう便利で便利で手放せないんですよ、これ……で、すみません朔夜さん。こちらは?」

「ああ、僕のクラスメイト――」

「で、彼女の東條蜂子です」

「ああ、やっぱり噂の彼女さんだったんですね。お話は朔夜さんからかねがね。私は大橋いずみ。元売れないアイドルで、今は朔夜さんの手先をしています。ああ、もちろん蜂子さんが心配するような関係ではないですから大丈夫ですよ」

「あ、はい。知っているので大丈夫です」

「え?」

「こいつの魔法はテレパス系だからな。うかうかしていると心の中を読まれるから気をつけたほうがいいぞ。ほら、チャージしておいたからもう帰れよ」

「なるほど、今晩はお楽しみですもんね」

「帰れ!即刻帰れ!」

「はいはい、じゃあ邪魔者はおいとましますよー」


 そう言ってニヤニヤしながらいずみが消えると、朔夜は大きなため息をついて蜂子の横に腰を下ろした。


「はあ…どうして僕の周りはこう……」

「血の宿命とかじゃないの?」

「本当に勘弁してくれ……」

「あはは、もう諦めなさいって。……で、お楽しむの?」

「お楽しまない。食事しながら今後のこと詰めるぞ」

「はーい」

(憎まれ口をたたきつつ、ちゃんと差し入れは食べるんだもんな。ほんと、かわいいなこいつ)


 蜂子がそんなことを思っていると、朔夜がむすっとした表情で口を開いた。



「おい、蜂子」

「なあに?」

「……なんで大橋みたいな顔でこっちをみながらニヤニヤしているんだよ」

「聞きたい?」

「聞きたくない」

「いや、朔夜ってなんだかんだ言いながら差し入れも食べるし、私もここにいさせてくれるし優しいなって思って」

「聞きたくないって言ったろ!?もうお前も帰――」

「あ、私今日エリスんとこに泊まりってことになってるから、追い出されたら行くとこないんだよね。両親旅行でいないし」

「ちょっと待て」

「ん?」

「ちょっと待て、どういうことだそれ。お前まさか最初から――」

「うん、泊まっていくつもりだった」

「っ-----!」


 朔夜は何か言おうとするが、まったく予想外の事態だったせいか言葉が出てこず、真っ赤な顔で頭を抱える。


「照れて顔を赤くしちゃってー、かわいいなあもう」

「怒ってんだよ!空気読めよ!っていうか今こそ僕の心を読めよ!」

「やだよー」

「ぐぅぅ!」


 結局朔夜は夜明け近くまで蜂子に良いようにやられてしまい、作戦会議は次回に持ち越しになった。

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