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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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テロと選挙と文化祭 エピローグJK


「えー…まあ、そういうわけで、東條蜂子さんと、西澤那奈さんは二週間の研修の後、JKに合流ということに決まりました」


 ボマー事件から三日後。執務室の椅子に座った愛純扮する朱莉がそう言うと、華絵ちゃんとエリスちゃんはほっと胸をなでおろした。


「ってことは、あたしたちとナナハチとジュリで新生JKっていうこと?」

「ごめん、私は関東でのお仕事があるから入れないんだ」

「じゃあティアラ?」

「いや、ティアラも東北のお仕事があるからね」


 まあ、どっちも今はそのお仕事してないんだけどね。

 

 ボマー事件の後に行われたいつもの都さんへの報告で、今回俺は包み隠さずすべてを話し、ナッチとハッチの件について真面目に陳情した。

 すると、都さんはちょっと驚いたような顔をして『朱莉が嘘をつかない…だと…?』とかなんとか失礼なことを言いながら、二人のJK入りを快諾してくれた。

 今回JKがこちらの弱点だと思われたことで生倉の標的になったこともあり、JKの強化については懸案事項にはなっていたらしく、二人の出現は渡りに船だったらしい。

 犯人の九蓋教諭はJCに近い人間で、JCと関係が近い海外見習い組や千鶴が巻き込まれかけたが、あちらはどうやら完全に九蓋教諭の独断で、生倉的にはJCは手強いという認識でいてくれているらしいし、実際撃退できてしまっているのでそちらは現状維持。

 そう、”現状維持”になった。

 もちろんあかりたちを留年させるとかそういう話ではなく、大人について現状維持で、戦力を高い位置で保とうということだ。

 つまり、養護教諭の資格を持っていて、現在正規の養護教諭である佐須ちゃんはそのまま残留し、九蓋教諭を拘束したことによって空き枠ができた国語教師の枠に深谷さんが収まることになったので、あかりたちが卒業した後もあの学校にはタマと海外見習い組と深雪たん、それに高山少年と佐須ちゃん、深谷さんと相当量の戦力を残すことができる。

 ちなみにあかり達と一緒に卒業できると思っていた深谷さん的にはちょっと複雑らしいが、佐須ちゃんは必要最低限の仕事をしていれば個室でサボり放題の職場はありがたいとかなんとか言っていた。


「でもなんか4人って収まり悪いよね。五人だとこう、戦隊モノって感じがするんだけど」


 そう言ってエリスちゃんは俺をチラチラ見てくる。


「来年の4月にはあかりちゃんたちが入るからどうせ五人じゃなくなるよ」

「あ、そっか…って、どうしたのハナ。なんかおとなしいけど」

「え?ううん、なんでもない」


 そう言って華絵ちゃんは俺から目をそらした。

 おっと、まさかハッチってば俺の正体を華絵ちゃんに喋っちゃったのか?爆弾解除した後も、しゃべらないでってもう一回念押ししたのになあ。


「えっと、ハッチから何か聞いた?」

「え?蜂子?ううん。というか、あの事件の後から蜂子とも那奈とも話してないから何も聞いてないけど」


 ああ、そう言えば検査やらなんやらでこの週末は二人にはずっとこっちに来てもらっていたんだった。


「そ、そう?ならいいんだけど」

「何か蜂子が私に話すとマズいことでもあるの?」

「え?ないない。全然ないよー」

「んー、怪しいなあ」

「怪しいわね」

「あ、あやしくないよー」

「まあ、そういう話は後にしてもらうとして、JKに今度入る二人の能力についてなんだけどね」


 ナイスフォロー愛純さん!

 今度何か奢らせていただきます!


「あ、はい。どんな能力なんです?」

「ナナは確か火を出してましたよね。ハチは?」

「分類が難しいんだけど、えーっと…」


 ああん。愛純ってば、ちゃんとセリフ覚えてきてって言ったじゃん!


「ハッチの魔法はサイコメトリーとかリーディングって呼ばれるものだね。強度の調整はまだできないみたいだけど、過去のことを見通したりすることができるみたいだから、実戦部隊向きというよりは捜査とか調査部隊向きなんだけど、応用すれば読心魔法とか前線でテレパシーを使った連絡とかいろいろ便利そうだから、上層部としてはしっかり育てようっていう方針みたいだよ。で、実戦部隊でもあって教育部隊でもあるJKに配属と。まあ、これは元々ふたりが華絵ちゃんとエリスちゃんのそばに居たからっていうのもあるんだ。もし別のところで同じように見つかっていたら私やティアラみたいに本部とか東北とか配属っていうのもあり得たと思うよ」

「そ、そうそう。さすがジュリ。頼りになるなあ」

「うふふー、しっかりしてくださいよー朱莉さーん」


 マジでな。マジでしっかりしろ愛純。このままだと朝陽と副隊長交代なんてことがあり得るんだから。

 こっちとしては別に朝陽でもいいんだけど、愛純って無駄にプライド高いから後々いざこざの種になりかねないことはなるべくさけたい。


「あ、あのさジュリ」

「うん?」

「朱莉さんとそんなに仲良かったっけ?」

「え!?あー…ほら、仕事でずっと一緒だとね。いろいろあるんだよ」

「ふーん………あ!そういえばちょっと前に朱莉さんは柚那さんと別れたって聞いた!」

「ちょ…まさかジュリ、朱莉さんに何かされてるんじゃないでしょうね」


 どうしてそうなるの!?朱莉さん超いい人なのに!


「セクハラだ!」

「セクハラね!」

「違うから!それに準じるようなことは何もないから!」


 なんてったってジュリは俺自身なんだから何もしようがない。


「…というか、ジュリ。もうJKの二人には言っても良いんじゃないか?」

「え………っと、朱莉さん?」

「実は二人に黙ってたことがあってさ」

「朱莉さん!?何言う気なの朱莉さん!?」

「実は俺…」

「ちょ、朱莉さん!!!!」

「最近関東に居ないんだよ。柚那と別れたのもそれがきっかけみたいなところがあってね。で、柚那も最近関西に行っているから、愛純と朝陽に対しての連絡とかそういう業務をやってもらっていて、そういうやり取りをする時に堅っ苦しいやり取りしてると面倒だから、フランクにいこうって話になったんだ。そうしたらジュリが思いの外フランクで今はこんな感じになっているってわけ」


 愛純!俺は知ってたよ!愛純はやればできる子だって知ってた!


「それにもともと二人にもフランクでいいって話してたし、前は俺、エリスちゃんとは結構フランクだったじゃん」

「あ…はい」


 まあ、それをぶち壊したのは俺と愛純の打ち合わせ不足が原因なわけなんだが。


「というか、この間厳しく言っちゃったことは謝るから前みたいにフランクに接してもらえると嬉しいな」


 そう言って、お前誰だよって感じの爽やかイケメンスマイルでエリスちゃんに笑いかけるニセ朱莉。というか、愛純。


「いいの?…ですか?」

「いいよ。というか、本当にごめんね。あのときはいろいろあってイライラしてたんだ。あれは俺が悪かった」

「あはは…よかった。何か気づかないところで朱莉さんをガチで怒らせちゃったのかと思ったよー…」

「ごめんごめん。今度佐藤くんとのデートお膳立てをしてあげるから許して」

「え!?なんでそれ朱莉さんが……まさかジュリ…」

「あ、うん、話した。深谷さんも『エリスちゃんファイト!』って言ってたよ」

「皆に喋ってんじゃないの!っていうかよりによってあの女に喋るとかさぁ」

「まあまあエリス。考えようによってはあの人がエリスの味方につくのは良いことなんじゃない?だって佐藤がフラれるタイミングも、それで傷ついているタイミングも筒抜けなんだから、それを利用すれば…」

「…なるほど!そっか!」


 フォローしてもらえるのは嬉しいけど、華絵ちゃんってば結構えげつないですなー。


「ただ、ジュリもあんまりペラペラ吹聴して回るのは感心しないわよ」

「はーい、反省します」

「よろしい」


 あ、よかった。いつもの華絵ちゃんだ。




 華絵ちゃんとエリスちゃんを帰し、今度はハッチとナッチとの面談だ。


「よっ、ハッチ。元気してた?」


 軽く挨拶しながら俺が部屋に入ると、先に呼んでおいたハッチはあわあわとしながら立ち上がってペコリと頭を下げた。


「朱…ジュリ…さん…?どっちで呼べばいいんですか?」

「どっちでも良いけど、華絵ちゃんとエリスちゃんには内緒だから、この姿のときはジュリで通してほしいかな。それと、口調も元の通りのほうがいいな。敬語って癖になるから、朱莉のときも同じ感じでいいよ」

「…うん、わかったよ」

「ちなみに、胸の傷は大丈夫?痛くない?」

「もうすっかり傷も塞がっているし、痛みとかも全然ないかな。あの人…鏡音くんがちゃんと治してくれたから」


 鏡音『くん』ね。

 一人称は僕だったが、奴は彼女の前で元男の魔法少女とは名乗っていなかったと思うのでそれを知っているということは、やっぱりこの子は鏡音のことを『読んだ』と見て間違いないだろう。


「まあ、恋もあいつの回復魔法は見事だって言ってたし、ハッチがどこか痛いとかなければ大丈夫だろうけど…それでさ、ハッチのこれからのことなんだけど」

「うん…」

「普通にナッチと一緒に学校に戻ってもらって、華絵ちゃんとエリスちゃんと合流してチームを組んでもらうことになるんだ」

「え?でも私は一応加害者ってことになるんじゃないの?罰を受けなくていいの?刑務所とかそういうとこに行くんじゃないの?」

「君は被害者だよ。確かにたまり場とか悪い人間に近づいたのは良いことじゃないけど、学生の頃にちょっと足を踏み外しちゃったり、道をまちがっちゃうことはよくあることだし、そもそも君は他の被疑者と違って人間爆弾なんて恐ろしいものにされてたんだよ。あれはどうしようもない」


 そう。他の被疑者は人間爆弾とは言ってもベスト型の爆弾を着込む形だったので最悪脱いで逃げることができたのに対して、ハッチだけが身体に埋め込まれるという自分ではどうしようもない形で送り込まれた。

 このことから、おそらく生倉は最初からJKをメインターゲットにするために何も知らないハッチに近づいて利用したんだろうということで、爆弾を持ってはいたものの、これはもう不可抗力だろうというのが都さんの見解だ。

 ちなみにナッチについてはもう完全に大江恵のせいなので罰もクソもない。この件で罰を与えるべき人間がいるとすればそれは大江恵だ。


「ちなみにさ、ハッチ。鏡音のこと、教えてくれたりする?」

「ごめん、それは無理。約束したし、私が殺されちゃう」


 ハッチはきっぱりとそう言った。


「そか。じゃあいいや。あいつは悪いヤツじゃないんだろ?」


 俺の問いかけにハッチはコクリと力強く頷く。


「ちなみに、あいつの正体がどこの誰っていうのはわかる?」

「……わからない」


 ハッチはそう言って首を振ったが、俺にはハッチが『わかってる』って言ったように聞こえた。

 とはいえ、悪いやつじゃないっていうのは間違いなさそうなのでとりあえずは保留かな。


「じゃあ何かわかったら教えて。例えばあいつが何か無茶しそうな時とかそういう時にはさ」

「うん……あっ!」


 自分で気づいたみたいにだけど、そこでうんって言っちゃうと、どこの誰だかわかっていて連絡も取れるし状態も見られるってことがまるわかりなんだよな。

 まあ今回は聞かなかったことにしよう。


「俺は何も聞いてないよ」

「ごめん、ありがと…」

「じゃあ俺はナッチを呼んでくるからしばらくここで待ってて」

「うん…あ、あの!」

「ん?何?」

「助けてくれて本当にありがとう」

「どういたしまして。とは言っても、俺は手伝っただけで、メインは鏡音だったからね。今度会ったときにでもお礼を言ってあげて」

「うん…」

「それと、これからよろしくね」

「はい!」





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