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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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MW 1


 朱莉が東條蜂子と接触した頃、千鶴の当確の報が生徒会室にもたらされた。

 前生徒会長からの猛プッシュや、みつきや和希、あかりといった豪華な応援演説で投票前から当選はほぼ確実だろうと言われていた千鶴ではあったが、それでもやはり少し不安があったようで、選挙管理委員会の生徒が報告に来たときには固唾を呑んで当選確実の報を聞いた。


「では、千鶴の当選を祝いまして…かんぱーい!」


 そう言ってなぜか一人だけグラスを持ったベスが乾杯の音頭を取ると、千鶴と共に生徒会室で待機していたアビー、カチューシャ、深雪が手に持った紙コップで乾杯をした。


「無事に当選できてよかったね、千鶴」

「うむ。まあ、我は千鶴がうかることは間違いないと思っていたがな」

「ダー。でも、私は正直もっと女子票が対立候補に流れるかと思った。前が前だったし」


 カチューシャの歯に衣着せぬ物言いに、千鶴が「うっ」と声をつまらせる。


「う…まあ、正直私もそう思っていたんだけど…まあ、くるみちゃん、みつきちゃん、それにあとは…お姉のおかげかもね」

「あの…」

「ふふふ、千鶴があかり先輩のおかげだって思うなんて、明日は雨でも降るかもね」

「まあ、今日雪だし普通に雨かもね」

「いや、そういうことじゃなくて」


 アビーの冗談をカチューシャがボケ殺し


「ならば雨でグズグズになる前に、この後雪合戦でもするのはどうだ?」


 良い提案だとばかりに深雪が得意げに笑う。


「って、あの!」

「何?」

「何だい?」

「何ぞようか?」

「どうしたのベス」

「なんで私だけワイングラスなんだってツッコミはいただけないのでしょうか?」


 そう言ってほらほらとベスがグラスを指差す。しかし


「うーん…つっこむのも面倒くさいかな」

「ボケは突っ込むより潰すほうが好き」

「言おうかどうか迷っておったが、キレがいまいちじゃのう」

「前々から思ってたけど、ベスのボケは深雪の口調なみにツッコミづらいわ」


 散々な言われように涙目になるベス。そして千鶴からの突然のフレンドリーファイヤで同じく涙目になる深雪。


「まあでも、千鶴が生徒会長になったおかげで、せんぱいたちの遺産を引き継ぐことができる」

「ああ、マガ部ね。多分、来年はタマ先輩が部長で…あ、でもバスケ部があるか。だとしたら高山先輩入るのかな?里穂先輩には無理だろうし、入るんだったら高山先輩が部長だろうけど」

「でも、4月になってから三年生が部長ってやっぱりちょっとあれだし、これから決めるんだったら、新二年から出したほうが良いかも…」


 そう言ってアビーが仲間たちの顔を見回し、そして1つため息をつく。


「…って、私含め、部長って感じの子がいないね…」

「何を言う。我は人を率いるカリスマに満ちておるではないか」

「いや、深雪はだめでしょ」

「深雪にはむり」

「深雪はないですわ」

「ないわー」

「なぜじゃ!?」

「ま、深雪はともかく、この私が見事部長を勤め上げて見せますからご心配には―」

「もっとない」

「なぜですか!?」


 ドヤ顔で立候補しようとしたベスをカチューシャが一言で一刀両断にし、他の三人もうんうんと深く頷き、ベスは再び涙目になった。



そんな感じでワイワイと今年の振り返りや来年の展望を話あっていた千鶴達だったが、ふと、一瞬、間が空き、室内がシンと静まり返る。

 遠くでやっている部活動の声が微かに聞こえるが、外が雪であることもあいまってその音は小さい。


「……静かだね」


 アビーがそう言って少しさみしそうに笑う。


「そうですわね」


 ベスも感慨深げに雪が降り続く外に目をやり、カチューシャは黙ってその場で目を伏せる。


「いればうるさいけど、いないとやっぱり寂しいね」

「そうじゃな…」


 誰も何が寂しいなどということは言わないが、そんなことは言わなくてもわかっている。

 なんだかんだと千鶴とつるむようになってから、4人は生徒会室の常連になっていて、生徒会室に来れば必ずくるみがいて、高橋がいて。戦技研の用事がない日は真白がいて、夏の大会で臨時予算が出る繁忙期などにはマリカもいた。

 しかし、あと半年もしないうちにそのうちのくるみと真白、マリカは卒業してしまう。

 マガ部にしてもそうだ。生徒会室と同じくらい入り浸っていたマガ部の部室にはみつきがいて、和希が居て、えりに静佳がいた。

 しかし彼女たちももう少ししたらこの学校から居なくなってしまう。


「夏樹さんたちも居なくなっちゃうし」


 実働部隊であるJCがいなくなり、警護対象である異星人が里穂だけになることもあり、警護はタマと龍騎に一任され、夏樹と霧香は今年度いっぱいで異動することが決まっている。


「まあでもほら、下も入ってくるわけだしさ、多分また賑やかに――」


 言いかけたアビーの手を握って千鶴が睨むようにアビーの顔を見る。


「ねえ、沖縄基地が忙しいって聞いてるけど、いなくならないよね?」

「……大丈夫だよ。パパやママ達は仕事があるけど、私はまだまだ未熟だから声なんてかからないって」

「二人もいなくならないでよ」

「私が必要になるほど本国が逼迫しているなら私は亡命しますわ」

「それ、いいかも」


 ベスが少しおどけて言い、カチューシャはそれに同意するが、そんなことができないということは本人達が一番良くわかっている。

 世界人類の魔法少女化を企てる、もしくはその力を利用してテロを起こそうとしているテロリスト達は従来のテロリストたちとはまた違った脅威となり、各国の機関を煩わせている。

 そして煩わされているのはアビー達が所属する機関も同じで、彼女たちは曲がりなりにも魔法少女。何かあれば彼女たちは一般の兵士よりもはやく声がかかるし、亡命なんていうことになれば、日本とその国の関係が悪化する。


「約束だからね」

「少なくともあと一年、ハイスクールに入るまでは呼ばれないって」

「私も多分そんな感じ」

「私もですわ」

「まあ、三人が帰ってしまっても我がいるしな」

「あんたもちゃっかり帰りそうなのが怖い」

「いやいや、真面目な話、都内まで30分の距離に住んでしまうとなかなか新潟には帰れぬよ」

「そんな理由かい!」


 千鶴のツッコミに4人が破顔した時、生徒会室の扉が乱暴に開かれた。






 千鶴達が当選の報を聞き打ち上げで盛り上がっている頃、あかりは人気のないところで『自分は人間爆弾だ!』と言って現れた男子生徒の爆弾を解除して後ろ手に縛り上げたところだった。


「これでよし。と」


 猿ぐつわをかませ終わったあかりがそう言ってやれやれと一息ついていると、本部に連絡を取ろうとしていたみつきが首を振りながら電話を切った。。


「ダメだね、本部に直接報告に行ったほうが良さそうだよ」


 結局メッセアプリも通話も繋がらなかったみつきはそう言って肩をすくめた。


「じゃあ私と龍くんが見張っているからみつきとタマで本部に報告に行ってもらっていい?」

「……高山、二人きりで大丈夫?」

「高山くん、何かあったらちゃんと逃げられる?」


 あかりの提案を聞いたみつきとタマはそう言って心配そうな目で龍騎を見た。


「ふたりとも、それは一体どういう意味かな?」

「いや、ほらあかり先輩って人気がないのをいいことに無理やり高山を押し倒したりしそうだし」

「そうそう。あかりはJCの飢えた狼だって和希も言ってたし」

「あの野郎後でぶん殴ってやる!」

「まあ、和希先輩が後でサンドバッグにされるって話はおいておいて、本当に大丈夫?」

「いやいや、流石に俺だって女子にどうこうされるほど弱くはないし、そもそも、見張らなきゃいけない人間もいるのにそんなことするほどあかりちゃ…先輩は節操なしじゃないと思うぞ、野獣じゃあるまいし」

「節操なしだよ」

「まるっきり野獣だと思うけど」

「二人共酷くない!?」

「酷くない、こういうことを言われるのは野獣先輩の普段の行動のせいだから。正直反論よりも反省をしてほしい」

「そうだよあかり。タマの言うとおり」

「う……まあ、その、自粛します」

「というか、俺ちゃんと自分で対応できるんで大丈夫ですよ」

「うーん…どうも高山くんって、お兄ちゃんとか和希みたいに押しに弱そうな感じがするんだよなあ」

「ぐうわかる」

「どさくさに紛れて俺までディスるのやめてくれませんかね!」


 そう言って龍騎はみつきとタマを軽く睨む。


「ごめんごめん。じゃあ私とタマは本部に報告行ってくるから見張りよろしくね」

「よろしく」

「あ、そうだみつき、もし万が一また爆弾持った人がいたら…」

「わかってるって。その時は私に任せときなさいって」


 そういって親指を立ててニッと笑うと、みつきはタマと一緒に本部に向かってあるき出した。


「……さてと、じゃあ龍くん」

「駄目ですって」

「何も言ってないじゃない」

「言わなくてもなんとなくわかります。根津先輩と多摩境の信頼を裏切るのはダメですよ、あかりちゃん」

「うう…私達ってもう付き合って結構経つのになんにもないじゃん…そろそろみつきたちにも私が話す嘘の体験談にもリアリティがないって気づかれそうだしさ」

「そういうの、普通は男のほうが不満に思うことだと思うんですけどね。というか話のネタのために関係を進展させようとしないでくださいよ」


 もちろん健全な男子である龍騎もそういう気が起きないわけではないのだが、いい雰囲気になりそうになると、その空気をあかりがぶち壊してしまうので自分から何かしたいとか一緒に居たいとかと言うタイミングを完全に逸しているのだ。

 というか、龍騎はあかりがあえてそうすることによって自分との関係を進展させないようにしているのではないかと疑っているくらいだ。


「じゃあさ龍くんからきて!ほら!」

「駄目ですって」


 こんなこと言ってても、結局今日も何もないんだろうなと諦めかけた時、龍騎の視界の隅に小さな騎士の人形が映った。


「あれ?あかりちゃん、それって」

「ああ!ベスのランスロット!あいつ、まさか私をずっと付け回して…あれ?なんか手紙持ってるわねこの子」


 そう言ってあかりはランスロットの持っている紙切れを取り上げて中身を見た。

 すると、次の瞬間、あかりの顔からフッと笑顔が消え、急に真顔になる。


「……龍くん、ごめん。ここ一人で大丈夫?」

「え?」

「ちょっと急用ができたから、ここお願い」

「どうしたんですか?顔色悪いですけど」

「大丈夫。龍くんはみつきとタマが来たらこれを渡して」

「これってその人形が持ってた紙ですよね?これが一体――」


 なんなのかと龍騎が言いかけた時、構内に非常ベルの音が鳴り響き、避難指示の放送が入る。


「……爆発は起こってないみたいだけど、誰かが他の爆弾見つけたっぽいね、しかもこんなことをするってことは多分人気の多いところで見つけたか」

「じゃあ、誰かがボマーと接敵したってことですか?」

「ううん、多分そこに転がっている人と同じ人間爆弾だと思うよ。ここにはボマーは居ないらしいから」

「え?」

「見ていいよ。その紙」


 あかりに促されて龍騎が紙を開くと、そこには殴り書きで「ボマー襲来 監禁されています 救援求む」と書かれていた。


「……これって」

「さっきから携帯使えないのはハッカーの妨害なんだろうね、多分通信を妨害して私達を分断するのが狙いなんじゃないかなあ」


 そう言ってあかりは魔法少女の姿に変身し、高く跳躍するためにぐっと足に力を込める。


「まあ、なんにしてもさくっと解決しちゃうからみつきたちが帰ってきたら連絡だけよろしく」

「ま、待ってくださいよ!だって、敵の幹部って確か、朱莉さんたちが全然かなわなかったっていう」

「まあ、ボマーが幹部かどうかはわからないし、幹部じゃない人なら和希とマリカが捕まえた実績もあるしなんとかなるでしょ」

「いや、でもそれでも2対1じゃないですか!僕も行きます」

「それだとどうしてここに私達が居ないのかわからないでしょ。それにその人もほったらかしで行かなきゃいけなくなっちゃうし」

「だったら僕が行きますから先輩が残ってください」

「いや、龍くん爆弾解除できないでしょうが」

「でも」

「爆弾さえ解除しちゃえばあそこには頼れる後輩が4人もいるんだから大丈夫だよ」

「……」

「そんな悔しそうな顔しないの。今回はたまたま龍くん向きの事件じゃなかったってだけで、別に私が龍くんを頼りにしてないってわけじゃないんだよ。それに連絡係も重要な仕事だからね」


 そういって笑いながらポンポンと龍騎の頭をなでると、あかりは高く飛び上がり、飛行魔法で現場に向かった。







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