表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

327/809

テロと選挙と文化祭 3

5/7後半追記


 今年初の雪となった文化祭当日。ジュリに扮した俺と そのマネージャーに扮した時計坂さんは、当初の予定通り校内を見ながら爆弾を探していた。

 校内でそれらしいものを発見できず、裏庭にやってきたところで「邑田芳樹さん、時計坂蒔菜さん」と、突然名前を呼ばれた俺達が振り返った次の瞬間、見覚えのあるアイドル☆ダービーのセットに強制的に移動させられ、振り返った先にはTRI-あんぐるの三人が立っていた。


「大橋さん!それに原さんと竹下さんも!無事だったんだね、よかったよかった」


 見た感じだと、三人共再洗脳を受けたとかそういったことはなさそうだが、下水流の洗脳を一体どうやって逃れたのだろう。


「はい。邑田さんと咲さんのおかげでなんとか生き延びられています」


 大橋さんはそう言ってニッコリと笑う。

 なるほど。洗脳がとけていることについては下水流の失態報告と同様、鏡音 咲が何かしてごまかしたってわけだ。本当に有能だな、鏡音咲って奴は。


「今日はどうしたの?俺達の邪魔をしようって感じじゃなさそうだけど」

「咲さんからの伝言です。ボマーが同時に出せる爆弾は全部で4つ。こぶし大の大きさで小型ですが、半径10メートルは何も残らないくらいの威力があるそうです。小型なので協力者の誰かが持っているかもしれないし、どこか物陰に設置しているかもしれませんが、校内に点在しているのはまず間違いないはずなので、なんとか解除、もしくは無効化、破壊などをお願いしますとのことです」


 なるほど、鏡音が彼女たちを回収していったのはこのためだったのか。

彼女たちの魔法で作られたこの空間は、付け入るスキなど全くない密室だし、攻撃魔法の持ち込みもできないのでこうして秘密の連絡をするにはうってつけで、手元にこの能力があるとないとでは俺達との連携の取りやすさが段違いだろう。


「なんとかしろって、随分と簡単に言ってくれるな。ちなみに敵の協力者の数は?」

「10人だそうです。これが一応リストと顔写真・それに簡単なデータです。ただ、咲さんが調べた時から少し時間がたっているので、もしかしたらもっと増えている可能性もあるかもしれないそうです」

「ありがとう」


 お礼を言いながら大橋さんが渡してくれたファイルを受け取り、パラパラとめくっていくと、ファイルの中に一人、見覚えのある生徒を見つけた。


「どうかしましたか?」

「いえ、なんでもないです」


 俺の顔色が変わったのに気づいたらしい時計坂さんがこっちをじっと見ながら首をかしげるが、俺は適当に流してファイルを最後までパラパラと見て時計坂さんに渡す。


「……リストの中に一人、いや多分リストに載ってないのも含めて二人、心当たりがあります」

「そうですか」


 俺の顔色から想像がついていたのだろう。時計坂さんはそう言って顔も上げずにファイルをパラパラめくりつつファイルの中身をスマホで写真に収めていく。

 リストと顔写真の中で見つけた知り合いは「東條蜂子」。

 前に合コンに一緒にいったナッチと共にエリスちゃんとつるんでいるうちの一人だ。

 JKの二人を狙おうと思えば、なるほど確かにうってつけの人選だ。そして、東條蜂子、「ハッチ」が向こう側にいるということは、おそらく彼女と仲のいいナッチも同じく向こう側についていると見たほうがいいだろう。


「…わかりました。元の世界に戻り次第、この情報を共有して犯人グループの検挙に当たりましょう。とりあえず私たちはその邑田さんの心当たりのところからでいいですか?」


 スマホでファイルの中身を写真におさめ終わった時計坂さんが、そう言って顔を上げ、俺を見る。


「はい。敵の標的がJKだってことを考えれば、多分この二人が本命ですし、十中八九JKと一緒に居ます」

「わかりました。では、私はJKごと止めればいいわけですね?」


 さすが仕事のできる大人の女。話がはやい。

 そうしてくれれば、エリスちゃんと華絵ちゃんに気づかれることなく二人を捕まえることができるので、エリスちゃんたちは嫌な現実を知らずに済む。


「邑田さん、そろそろ魔法を解かないとアイドル☆ダービーが始まってしまいます。もうしわけないんですが一度外に出ていただいて、詳しい打ち合わせはその後にしていただけると助かります」


 おっと、この魔法にはそんな制限があったのか。


「大橋さん、それに竹下さん、原さん。三人が持ってきてくれた情報のおかげで本当に助かったよ、ありがとう。鏡音のやつにもそう伝えてくれ。あと、くれぐれも無茶はするなって言っておいて。大橋さんたちも鏡音もヤバそうだったらいつでもうちに逃げてきてくれればいいから」

「ふふ…聞いていた通り、本当に変な人ですね、邑田さんは」


 一体誰から何を聞いたのか詳しく聞きたいところだが今はさっさと帰って対応しなければいけない。


「はあ…ま、誰に何を聞いたかは、全部終わった後に聞かせてもらうよ。じゃあ三人共気をつけて」

「はい!邑田さんたちもがんばってくださいね」


 そう言って魔法を解くと、三人は以前鏡音が使ったカードオブジョーカーに似た魔法で何処かへテレポートした。




「さて、と」

「じゃあ私は情報の共有をしますから、邑田さんはJKの二人に連絡を」

「了解」

「すっげーーーーーー!!」


 阿吽の呼吸で俺と時計坂さんが次の行動に移ろうとした次の瞬間、背後から歓声が上がった。

 振り返るとそこにはナッチの姿が。


「ジュリ、今のどうやったん?っていうかどこから出てきたん?ってか来てんなら連絡してよー!あーし、ジュリに超会いたかったんだからさー!」


 よりにもよって。

 本当によりにもよって、俺達が何もない空間から現れ、そして大橋さん達がテレポートする瞬間を西澤那奈に見られてしまった。


「あ、うん。ごめんね…えっと…実はその、みんなをびっくりさせようと思って、華絵ちゃん達には来ることを一応言ってあったんだけど、その…内緒にしてもらっててね」


 自分としてはこういう言い訳のようなことは得意な方だと思っていたのだが、あまりにもとっさのことだったのと、被疑者に見つかるという最悪の状況に陥っているからか、思わずたどたどしい口調になってしまう。

 

「プッ!」


 笑ってないで助けてください時計坂さん!


「で、なんでこんなところにいんの?裏庭にはなんにも――」


 なんにもないよ。とでも言おうとしたのだろうか。楽しそうに笑いながら喋っている途中でナッチの動きが止まり、振り返ると、時計坂さんが変身していた。

 大会の時の姿とは違う、黒を貴重としたゴシックな衣装に身を包んだ時計坂さんの手には懐中時計と小さなトランクが握られている。


「この子がさっき邑田さんの言っていた心当たりなのでしょう?さあ、早速そこの物置でこの子の身体を調べましょう」

「そ、そうですけどいきなり時間を止めないでくださいよ。びっくりするじゃないですか」

「善は急げと言うじゃないですか」

「そうですけどね。じゃあちょっと失礼して、と」


 俺はなるべく胸やらおしりやらに触らないようにナッチの身体を担ぎ上げ、魔法で鍵を壊した体育倉庫の中に運び込み、マットの上に寝かせる。

 立っていた状態のまま止まっているので寝ているにしてはちょっと変な格好だ。


「じゃあ時計坂さん、お願いします」

「無理です」

「は?」

「もう十秒経っているのに時間が止まったままでしょう?」

「え?ああ、はい」


 ナッチを担いで鍵を壊して、ナッチをゆっくりマットに寝かしてとやっていたので当然10秒は経っているはずだ。


「このトランクの中には魔力のタンクがはいっていて、そしてこの懐中時計は狂華さんのインクと同じような効果があります」

「ああ、じゃあその2つが時計坂さんのデバイスってわけですか」

「そうです。これで私単独でも10分は止められます」

「それはすごいパワーアップですね。じゃあ俺は別に居なくても大丈夫な感じですか?」

「いえ、この2つは私が持っている間だけ使えるので時間を止めたが最後、あとは何もできません。なので、その子の身体検査は邑田さんにやってもらわなければなりません」

「…………え?」

「大丈夫です。停まっている時に触られた感覚は残らない(らしい)ので、どこ触ってもバレませんよ」

「今『らしい』って小さい声で言った!」

「寿で実験をして実証済みなので大丈夫ですよ(多分)」

「…というか、両手塞がってるのにどうやって検証したんですか」

「私、こう見えて口と舌は器用なんですよ」


 ……うん、聞かなかったことにしよう。


「えっと、時計坂さん」

「はい」

「これ、不可抗力ですからね?誰かに余計なこと言わないでくださいよ」

「REC」

「RECじゃねえ!ってか、これは正義のためだから!みんなの安全のためだから!OK?」

「OK」


 時計坂さんは俺の確認に対して無表情なままでコクリと頷く。

 それを確認してから俺はマットに寝かせたナッチの前に立ち、ブレザーのボタンを外し、続いてブラウスのボタンを外していくと、ブラウスのしたから現れた薄いピンクのブラと、そのブラのカップに納められた形の良さそうな、褐色の大きな胸が視界に飛び込んでくる。


「……上半身にはなさそうだな、じゃあ次は下半身を…」

「あの、邑田さん」

「なんですか、時計坂さん」

「爆弾はこぶし大なんですから、服の上から確認すればよかっただけなんじゃないですか?その大きさのものなら何処かに隠し持っていれば服の上からでもわかるでしょうし」

「あ!…いや、でも時計坂さんが…」

「触って確かめろっていう意味合いのことしか言ってません。私は『触っても大丈夫』としか言っていないでしょう?」


 まあ、確かにあのセリフはそう捉えることもできますな。

 というか、そうとしか捉えられませんな。


「…ち、違いますからね!?ほんと、別に変な事考えてやってたんじゃなくて、なんかこういっぱいいっぱいだったんです!」

「おっぱいおっぱい?」

「そう、おっぱい!おっぱい!って、違うわ!」


 なんかノリで思わず腕振っちゃったけど、断じてやましい気持ちでやったわけじゃない。


「……これは本部に帰ったあと査問かしら」

「ぼそっと怖いこと言うのやめてください!本当にやましい気持ちでやったんじゃないんです!本当です!」

「まあ、邑田さんの弱みは握っておくと色々便利そうなので、貸し一つっていうことで」

「…了解」


 結局ナッチの下半身にも爆弾はなかった…というか、パンツギリギリのラインのスカートの中にこぶし大のものなんて隠せるはずもないんだが。


 ちなみに女スパイ定番の隠し場所について言及したところ、懐中時計を持った手を差し出した時計坂さんに『ん?いっぺん入れてみる?』と超怖い顔で聞かれ、股と尻の穴がキュッとしたので、それについては考えないことにした。






 「―――ないよ…って、あれ?」


 爆弾を見つけられなかった俺と時計坂さんはナッチのスマートフォンを没収し、倉庫の中にあったロープでナッチを縛り上げてから彼女の時間停止を解いた。


「ちょ、ジュリこれなに?なんかのゲーム?つーかもしかしてジュリってそっち系?もしかしてあーしってば、てーそーのききって奴だったりする?」


 そう言って縛られて転がされたままゴロゴロと楽しそうに転がるナッチ。

 ……もうなんか、この子絶対敵じゃないと思うしこのまま転がしておいてハッチのほう行ったほうが良い気もするんだけど、一応確認はしておかないとね。


「はぁ…ナッチさ、ちょっと聞きたいことあるんだけど。真面目な話。ちゃんと答えなければ君の大事なスマホを壊すし、君にも痛い目にあってもらう」

「怖っ、ちょ、ジュリ、何その顔。超怖いんだけど、怖いんだけどー!…あの、怖いん…だけど…?」


 痛い目にあってもらうっていうのは流石に方便だけど、真面目にやらないならスマートフォンを壊すくらいはするつもりだ。

 とはいえ、スマホって普通に買うと高いからあんまり弁償とかはしたくない。なので俺は精一杯怖い顔で脅しをかけている。


「率直に聞くよ。君は人類の敵か?」

「じんるいのてきってなに?」


 おおっと。ひらがな感溢れる確認だ!これは全然伝わってないっぽいぞ。


「ナッチは人間が嫌い?この国嫌い?ってこと」

「ああ、そういうこと。あーしは人間スキだよ。だって色んな人がいて、いろんなことしてて、見てるだけでも面白いし、仲良く慣れたらもっと楽しいじゃん。あとね、この国もスキだよ。だってさ、銃とかナイフとかそんなにないじゃん?だからあーしたちは安心して遊べるし、夜遅くにコンビニ行ったりもできるんだし」


 うーん、この感じ、すごくシロっぽい。まあ、リストに載ってたのはハッチでナッチは俺が勝手にそうだと思いこんでいただけだしなあ。とりあえずここに放置していこうか。


「なんでそんな当たり前のこと聞くの?」

「当たり前。そうだよね」


 この子は勉強はできないけどそういうところはちゃんと理解しているっぽい。

 世の中にはお勉強はできるけどそういうことがわかってない大人や、わかっていても私利私欲私欲のために捻じ曲げて声高に不満を叫んでいる大人もいるというのに立派なことだ。


「もっと率直に聞くよ。例えば友達が罪もない誰かを殺そうとしていたり、例えば爆弾でテロを起こそうとしていたりしたらどうする?」

「そんなの止めるよ」


 きっぱり、一言でナッチはそう言った。

 

「当たり前じゃん」


 そう。これまた当たり前のことだ。

その当たり前のことを大真面目に言える。そんな真剣な彼女の顔を見て、俺はナッチのご両親は娘さんをちゃんと育てたんだろうなと思った。

 正直なところ、俺はこの子はもっと場当たり的に流されて行く子だと思っていたんだが、どうやら俺の人を見る目は曇っていたようだ。


「時計坂さん、すみません。お…私が間違ってました。リストにも載ってないし、この子は違うと思います」

「そうですね。私もそう思います」


 時計坂さんはそう言って頷いてからナッチの横にしゃがんで彼女の縄をほどいていく。


「ごめんね、ナッチ。実はちょっとクローニクの撮影をやってて、今のはその…テスト的な感じのあれなんだ。それで、私たちはまだテストを続けなきゃいけなくてね。生徒指導室にスタッフの人がいるからナッチは――」

「テスト!?ねえジュリ、そのテスト、あーしは合格?」

「――記念品を…って、え?うん、合格だよ」


 これが人間性を問うテストならナッチは満点。超合格だ。


「やった!じゃああーしもクローニクに出れるんだ!」

「あ、いや…そうじゃなくて、生徒指導室で記念品もらってきてほしいなって」


 本当は記憶操作をうけてもらうんだけどね。


「いやいや、そんなの後でいーし!むしろこのテスト手伝うし。そっちの女の人とジュリが校内で一緒にいるより、ジュリはあーしといるほうが自然っしょ?多分そのほうがテストもしやすいんじゃないかな?」


まあ、一理なくもないけど流石にマズイ。さて、どうやって説得したもんか。

俺がそんなことを考えていると時計坂さんが耳打ちしてきた。


「リストにあった心当たりの子はこの子と仲が良いんでしょう?」

「え?ああ、はい」

「じゃあ最悪人質や盾に使えるかもしれませんし、とりあえず連れて行っては」


 怖っ!時計坂さんの発想怖ッ!

言っていることがナッチよりよっぽど疑わしいよ!?

とはいえ、まあ交渉のときに一緒に居てくれれば、俺単独で当たるよりもいいかもしれない。


「…そうですね、連れていきましょう」

「そっか、あーしもいよいよブラウン管デビューかぁ」

「ナッチ、じゃあ一緒に…って、ナッチ、ブラウン管知ってるの?」

「よくわかんないけど、なんかじーちゃ…グランパが言ってた」


 あれ?ナッチってもしかしてキャラ作ってる?


「な、なに?どうしたのジュリ?」

「う、ううん。なんでもないよー」


 まあ、キャラ作りに関しては俺もしているし、深雪ちゃんやえりを含め仲間内にも何人もいるけど、みんないい子だし問題ないよな!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ