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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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テロと選挙と文化祭 2



JKの警備につくメンバーの顔合わせ兼打ち合わせ。その打ち合わせ自体は滞りなく終わったのだが、なんというか…非常に空気が悪いな。これは。

 和希と真白ちゃん、それにマリカちゃんとの間に何かあったのは間違いないと思うが、それにしても真白ちゃんがまるでいつかの柚那のようで取り付く島もないというか、下手にさわれない。そしてそんな真白ちゃんを見てオロオロしているだけの和希がかつての俺のようで見ていて非常に辛い。

 

「えーと…この後懇親会兼ねて、一応軽食を用意してあるんだけど、みんな食べていく…よな?」

「すみません、私はまだ仕事が残っているので」

「私も久しぶりの本部だし、片付けちゃいたいことがいくつかあるから不参加で」

「私はこれから柿崎さんとデートなんでー」


 そう言って時計坂さんとチアキさん、そして愛純が席を立つ。

 立っちゃうか。そうだよなあ、立っちゃうよなあ。

 皆用事があるとか言っているけど、最初に真白ちゃんの様子を見た時関わりたくね―って顔してたもんな。


『私たちは参加したいところだけど物理的な距離はいかんともしがたいからねえ』

『……』 


 そう言って画面の向こうで東北支部からテレビ会議で参加していたこまちちゃんとセナ扮するティアラが辞退。


『僕らもこまちさんたちと同じく物理的に無理なので辞退しますね』


 続いて関西の喜乃くんと鈴奈ちゃんが辞退。

 そして恋は本日警備計画の詰めに石見のところに言っているので不在。

 つまり、俺とJC、Withマリカちゃんfeat.高山少年で懇親会ということになる。

 いや、愛純達が辞退した時点でわかってたことだけど。


 さらに懇親会の会場に向かう途中、あかりとみつきちゃんがデバイスの件でコウさんと恵から呼び出しを受けて離脱し、懇親会は係争中の真白ちゃんと和希、マリカちゃん。そしてタマと高山少年という、俺にとってなんとも居心地の悪いメンバーで開始された。

 普段なら和希と絡んで和気あいあいと笑い合うところなのだが、この空気でそれをして真白ちゃんに絡まれるなんてリスクは犯したくないし、そもそも今の真白ちゃんみたいになった子には何を言っても無駄なのを経験則で知っているので、俺は三人には近寄らずある種俺の敵である高山少年とタマのところに行くことにした。


「……なあ、高山少年、タマ」

「はい」

「なんです?」

「あの三人はなんで揉めてんの?」

「僕もあかり先輩から聞いただけなんですけど、なんかマリカ先輩が和希先輩に手を出したとかなんとか」

「あ、そうなんだ。私、知らなかった」


 タマはもう少し仲間の動向に関心を持とうね!


「ちなみにああなって何日目?」

「確か3日目ですね。たしかそうだよな?多摩境」

「いや、私は三人まとめて見るの久しぶりだからよくわからない。寮では真白先輩普通だったし」

「そうなのか?昨日の夜あかり先輩に聞いた話だとなんかずっとギスギスしてるみたいな話だったけど」


 ん?昨日の夜?


「高山少年」

「なんです――って!なんですか!?顔近いんですけど!?」

「もしかして夜中にあかりと会っているのかなー?だとしたらおじさん看過できないぞー」

「違います違います!で、電話ですよ電話!」

「そっかー。おじさんはてっきりあかりの部屋のすぐ隣の木の上に登ったりしてるんじゃないか、さらにはそこから部屋に上がり込んだりしてるんじゃないかと思ったんだが杞憂だったかなー?」

「そっ…そんなことしているわけないじゃないですか、やだなー」


 ほーん……


「……よし、あの桜の木は切り倒そう。親父は気に入っていたけどしかたあるまい。来年の花見はどこか別の場所でやらないとな。あー、高山少年に対する親父の印象最悪になるなー」

「昼間です!昼間やりました!なんかあかり先輩がそういうシチュエーションで会いたいって言うんで!夜は流石にそんなことしません!」

「ふーん…」

「本当ですって!」


 まあ、信じておいてやろうか。


「しかしあかりは何だってわざわざ揉めてる三人を1チームにしたんだろう」


 俺達大人組は二人組だが、充分な実力があるとはいえJCはまだ学生。なので俺は念には念を入れてJCは三人以上で組を作るようにいったのだが、今の三人じゃむしろ二人組であたるよりもまずい気がする。


「仲直りできればより強くなるだろうし、だめでもあの三人なら個人でもそうそう負けないから、だめだったら今後のことは後で考えるって言ってましたけど…」


 やだもう。あかりったら俺よりも隊長っぽいこと考えてるじゃないの。


「ま、あかりがそう言うんだったら仲直りの見込みがあるんだろうから別にいいけど」

「いいんですか?僕は結構心配なんですけど」

「大丈夫。あの人、普段はちゃらんぽらんだけどいざという時はしっかり考えているから、あかり先輩がそう決めたんなら仲直りするんだと思う」

「おー、タマのほうがどこかの彼氏よりあかりのことよくわかってるなー。よし、うちに来てあかりと付き合ってもいいぞ」

「ノーサンキューで」




 懇親会も終わり、俺が本部の駐車場でJCとチアキさんを見送って戻ると、入り口で時計坂さんが待っていた。

「どうしたんです?何かうちの書類に不備がありました?」

「いえ、それは大丈夫なんですけど、ちょっと聞きたいことがありまして」

「移動しながらでいいですか?ちょっとこれから都さんとも話しなきゃいけなくて」

「わかりました。私も司令官室に用事があるので、途中、エレベーターで話しましょう」



 先ほど顔合わせや懇親会をやった地上部のエレベーターとは違う、長い長い地下エレベーター。

 このエレベーターの中で俺は少し前に冗談半分で喜乃くんに行き先は地獄の一丁目なんて話をしたが、昔の人なら本気で地獄に続く道なのではないかという位地下まで下りていく。


「どうして私を選んだんですか?」

「え?時計坂さんが志願してきたからですよ」

「そうではなくて、今回のあなたのパートナーにですよ」

「ああ、その話ですか。だって時計坂さんも俺が良いと思ってたでしょ?」


 これは別に変な意味ではなくて、組み合わせとしての最適解の話。

 時計坂さんの時間停止は今回の爆弾テロみたいな案件にはすごく役に立つ。

ただ、彼女の場合、魔力が少なく魔法自体の持続力があまりないのが弱点だ。その点俺は魔力は結構余裕があるし、さらにはステークの裏に隠し持っている分もあったりするので、時間停止の効果延長には非常に役に立つし、俺としても俺の得意魔法では誰かをかばうようなことはできても、爆弾自体を無効化したりどこかにやったり一旦停止したりなんて事はできないので、時計坂さんのアシスタントみたいなところにつくのが一番いいのだ。


「まあそれはそうなのですが…正直、私が朱莉さんの直掩になるとは思ってなかったので」

「どっちかと言えば俺が時計坂さんの直掩ですよ。この作戦では完全に時計坂さん頼りですからね」


 協力してことにあたる以上、どっちがどっちの援護なんてことはないが、無理やり順位付けするなら今回は完全に時計坂さんのステージだ。


「なるほど、これが噂の…」


 噂のなんでしょうか。

 その噂、俺にとって非常に不名誉な噂のような気がするのは気のせいでしょうか。


「まあ、その噂とやらはさておき。一応きちんと話しておくと俺の得意魔法は変身と魔力をのせて殴ったり蹴ったりビームを撃ったり。あと、デバイスありならシールドで受けたり反射したり、ためておいてステークにのせたりって感じですね」

「どうしたんですか、突然」

「いや、お互いやれることがわかっていたほうが指示出しや作戦立案もしやすいでしょ」

「そうですね。じゃあ私の魔法について少し話しましょうか」


 時計坂さんはそう言ってエレベーターのパネルにある停止スイッチをオンにした。


「私、時計坂蒔菜の魔法は時間停止。基本的に射程は最大10メートル。持続時間は10秒。あなたや彩夏のようなパートナーがいる場合はそれぞれの魔力量に応じて射程や時間が伸びます。時間停止中の範囲の中のものは手を触れていなくても動かす動かさないは任意で決めることができます」

「あれ?そうなんですか?彩夏ちゃんの話と違う気がしますけど」


 確か彩夏ちゃんに聞いたときは触れているものは動かせる。だった気がするんだが。


「私も一応成長しているんですよ。だから例えば魔法の範囲を最小限にして爆弾だけを止めて持ち歩くなんていうこともできます」

「こうやって改めて聞くと、めちゃめちゃ今回の任務向きの魔法ですよね」

「ええ…それで、この話をしたことで私の疑いは晴れましたか?」


 そう言ってじっとジト目で見つめてくる時計坂さん。

 ううむ。バレてしまっていたか。いやまあ、俺がかけていた疑いじゃないから別にバレたところでなんともないんだけど。


「俺はもともと疑ってないし、調査結果はもう出ています。あと、疑ってないっていうのはもちろん都さんもですけど、都さんの立場上、一応容疑がかかったら全員調べなきゃいけないっていうのがあるんで、そこは理解してあげてください」


 そもそも、デバイス解禁のリストには時計坂さんもはいっているのだ。

 都さんが本気で時計坂さんを疑っていたのなら彼女はリストに入らないだろう。


「いえいえ、長野の件を聞いた時点で自分が疑われるのはわかってましたから」


 時計坂さんはそう言っていつもとは違う素直な笑顔を浮かべる。

 和希達が捕まえた沼崎朱未は、過去に時計坂さんと同じグループに所属していたことがある、いわば元同僚。

 俺や都さんが時計坂さんの人となりをどれだけ知っていたところで、沼崎朱未の容疑が固まった時点で時計坂さんに対して調査を入れざるを得ないし、疑わしければ一旦拘束するくらいはありえた。

 しかし時計坂さんの調査結果は真っ白。というかこの人、電話やメールはもちろんSNSでもほとんど外部と接触してないし、情報を持ち出して誰かと会うんじゃないかと疑ってみても、そもそも家に帰らず司令部で生活しているのでそれも不可能。

外部に対して何かを発信してるのはせいぜい匿名掲示板とネトゲ程度、その内容にも問題はないということでそうそうに容疑者リストから外れていたらしい。

 ちなみにこの調査結果を受け取った時、都さん、そして狂華さんはあまりに寂しい彼女の私生活に声を殺して泣いたという。


「どうかしましたか?」

「いえ、なんでもないです…というか、時計坂さんって休暇取らないんですか?いつも本部にいるイメージなんですけど」

「普通に週休二日相当はもらっていますよ」

「へ、へえ、そうなんですか。ちなみに休日って何しているんですか?」

「自宅に帰るのも面倒なので、レク室でゲームしています。ちなみにちょっとまえにハマってたのは電鉄99年一人プレイ。これだと始めて終わるまで大体20時間ちょっとくらいなのでばっちり休日を潰すことができますから」


 なにその休日超寂しい!


「潰さないで活かそう!休日は潰すものじゃなくて楽しんだりスキルを伸ばしたりする日だから!」

「意外ですね、てっきり邑田さんは私と同類なのだと思っていましたが」

「…まあ、昔は確かにそんな退廃的な休日の過ごし方をしていた時期もありましたけど、最近はそんな過ごし方はしていませんよ」

「なるほど、恋人ができると違うというわけですね。まあ、柚那さんとはもう別れたようですけど」

「さすが耳が早い」

「いえ、結構前でしょう?柚那さんと別れたの」

「…言われてみればもう結構経ってますね」

「それでも退廃的な生活に戻っていないということは、新しい恋人でもできましたか」

「俺とそういう関係になろうなんていう奇特な相手はそうそういませんって」

「ふーん……」

「なんです?」

「いえ、じゃあ私なんかどうでしょうか?」

「………なんか裏がありそうなんでやめときます。俺、時計坂さんのこと超怖いと思っていますし」


 時計坂さんは地味めとはいえ美人で、付き合いたいか付き合いたくないかであれば当然つきあいたいだが、彩夏ちゃんの件を考えると柚那以上の地雷だろう。


「ひどい言いかたしますね、誰より裏で色々考えていそうな人が」

「いや、彩夏ちゃんの件とか、時計坂さんの寿ちゃんに対する性癖を考えれば俺なんてまだまだですよ」


 ちょっと前に彩夏ちゃんが書類を持っていったら、時計坂さんが執務室の中でだらしない顔して寿ちゃんの写真を見てるところに出くわしたとか言ってたし。






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