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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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テロと選挙と文化祭 1



 ペチペチ


「つまり、今回の敵の標的は華絵先輩とエリス先輩で――」


 ペチペチ


「私と龍くん、それに和希とみつきと真白ちゃんとタマはそっちの護衛に行くことになるから」


 ペチペチ


「って鬱陶しいわ!ちょっとベス!これいい加減片付けなさいよ!」


 あかりがそう言って自分の肩に乗っていた30センチほどの大きさの鎧を着た人形を掴んで床に叩きつける。


「ああっ!ひどいですあかり先輩!私のかわいいランスロットが怪我をしてしまいます!」

「なにがひどいのよ!黙っていればペチペチペチペチ人のほっぺたつつかせて!いい加減鬱陶しいのよ!っていうか魔法で出した人形が怪我するか!」

「でもでも、せっかく魔法らしい魔法が使えるようになったんですから、少し位練習させてくれてもいいではないですか」

「ひとのほっぺたつつくのの何処が練習なのよ」

「同時に騎士たちを操作するための練習なのです」

「そういうのは帰ってからマリカんちであんたたちだけでやりなさいよ」

「まあまあ良いではないかあかり。そう邪険にするものではないぞ、この使い魔達、なかなか我の心をくすぐるデザインをしておるわ」


 えりはそう言って自分の手のひらに載せたアーサーをツンツンとつついて笑う。


「というかですね、あかり先輩。私やベス、カチューシャはここにいたらまずいのではないですか?今の話はこの国の中でもかなり管理レベルの高い機密ですよね?」


 そう言って肩に載せたガウェインと共に首を傾げるアビー。

 そう。勝手に会議室として使っている生徒会室には現在JCチームの他にアビー、ベス、カチューシャ、深雪、それにえり達異星人組がいる。

 本当であればタマと龍騎も呼ぶところなのだが、二人は千鶴の対立候補の選挙戦に駆り出されていて出席していない。

 逆に千鶴陣営であるアビ―達はこの会合がおわったらそのまま千鶴と合流して生徒会室で選挙の準備をすることになっている。


「まずいってなんで?」

「いや、私達は一応外国籍の人間ですし」

「だってあんたたちは別に言いふらさないでしょ?それにどうせお兄ちゃんとか都さんのことだから、ジャンヌさん達にも通達しているだろうし、何の問題もないって」


 実際はジャンヌ達は本国に戻っているためその話は伝わっていないのだが、だからといって都がそれを咎めるかと言えばそんなことはないので、あかりの認識はだいたいあっている。


「それはそうですが…はあ、時々私はあかり先輩やこの国のことが本気で心配になります」

「気持ちはわかるけど、あかりは昔っからこんな感じだから心配するだけ無駄だぞ」

「みたいですね」


 和希のフォローになっていないフォローを聞いて、アビーはもう一つため息を付いた。


「でもそれで納得がいったわ。あのやる気のない聖さんが選挙当日に本部で会議なんて言い出したからなに事かと思ったんだけど、そのテロに私達を巻き込まないためってわけか」

「そういうこと、さすが里穂は理解が早くて助かるわ」

「私たちは別に手伝っても良いんだけど」

「静佳ちゃんの言葉は嬉しいけど、そういうわけにはいかないらしいのよ。ただでさえ正宗先輩の護衛なんていう余計な仕事もあるし、みんなの護衛にまで手が回らない」

「我らの枷を外してくれればテロリストなど一捻りなのだがのう」


 そう言っていたずらっ子のような表情でえりがブレスレットを見せ、それを見たあかりは肩をすくめて笑う。


「そうすると、不平等だとかなんだとかって今度は虎徹さんの上司がうるさいの。だから今回えり達は待機……というか、実はこの情報、誰が持ってきたのか知らないけど敵からのリークらしくてね、JK襲撃が囮って可能性もあるのよ。だから三人が本部にいるのは本当にどうしようもないことが起こった時の備えっていう側面もあるの」

「なるほど、最後の切り札と言うやつだな」


 あかりの説明を聞いたえりは興奮気味に鼻息荒くそう言ってうんうんと頷いた。


「エリザベート帝達のことはわかったが、残った私たちは何をすればよいのであろうか」

「いや、エリザベート帝って、誰よそれ」

「我のことだ!」

「あんたたち最近本当に仲良いわねぇ…」


 並び立ってわははと笑う深雪とえりを見て、真白とあかりがため息をつく。


「まあ、仲がいいことはいいことだけどね。深雪達には特に任務は割り振られてないから千鶴のフォローをお願いね、勝つとは思うけど、万が一のときは慰めてあげて」

「真白がそういうのであればそれはかまわぬが、仕事がないのであればなぜわざわざ我らにこの話を?」

「いや、話しておかないと私がいないのに気づいたベスが大騒ぎしそうかなって思って」

「ああ…」

「なるほど」

「一理あるのう」

「そ、そんなこと無いですし!」




 見習い組との会合が終わったあと、深雪やえり達と別れたあかり達4人はマガ部の部室へと移動して当日の警備計画について話し合っていた。


「一応貰ったプリントによると、当日は私達以外に衛生兵として恋さん。警戒要員としてお兄ちゃん……と、ジュリさん、こまちさん…と新人のティアラさん、それと愛純さんとチアキさん、喜乃さん、鈴奈さん。あとは黒服さんが何人かと…時計坂さん?なんでだろ。あの人、現場に出ない人のはずなのに」

「今回は爆弾テロなんだろ?だったらあれじゃね?時間を止めて爆発を防ぐとかそういう感じの」

「ああ、そういうことか」


 和希の話を聞いて納得するあかり。

 

「愛純はテレポートで飛ばせるし、お兄ちゃんは防御魔法で押さえ込める。喜乃と鈴奈はあれでも関西チームだから力づくでなんとかしそうだし、あと、こまちなんかも力技で吹き飛ばせるとして、ジュリ先輩はなんなんだろうね。あと、そのティアラ?とかって人も。そんなに強いのかな?でもこの間の武闘会には出てなかったよね」

「な、なんなんだろうねっ!」

「わ、私達にもよくわからないわねっ!」

「…あかり?」

「…真白?」


 突然挙動不審になったあかりと真白を怪訝そうな目で見る和希とみつき。

 あかりは兄があんな格好で女子高生をしていたということを知られたくないがため、真白はそこからうっかりみつきの父親の話を蒸し返さないため、二人はみつきと和希の視線を無視して話を続ける。


「そ、それより当日のチーム分けどうしようか真白ちゃん!」

「そうね、それ大事よね、あかりちゃん!ええと、私達五人と高山くんね。そうすると六人だから…」

「ごめん、それあたしも入るわ。都さんの許可は今取ってきた」


 部室にテレポートしてきたマリカがそう言って手近な椅子に腰を下ろす。


「いや、こっちとしてはそれは助かるけど。珍しいね、マリカが国内の問題に首突っ込むの」

「んー、まあほら、私ってばこう見えてどっちかと言えば愛国主義者だからね。それに珍しいなんてことはないよ、この間も和希と一緒に裏切り者を捕まえたし。ね?和希」


 そう言ってマリカは和希にウインクを飛ばす。


「『俺と愛純さんと一緒に』だからな。真白に誤解されるような言い方しないでくれ」

「あはは、ごめんごめん」

「というか、私はそんなことくらいで誤解したりヤキモチ焼いたりしないわよ、柚那さんじゃあるまいし」


(いやいや)

(そんなこと言いながら)

(真白はどう考えても柚那さんタイプだろ…)


 魔白事件を直に体験しているあかりと和希とみつきははそれぞれ思うところがあったが、真白にキレられるのも理詰めで論破されるのも嫌なので思ったことは心のなかにとどめておくことにした。


「じゃあとりあえずマリカもいれるとして、組分けどうしようか。まあ私と龍くんは同じ組として、最低三人組でって言われているんだけど」

「7人だから4人と3人ね。じゃああかりちゃんところには私が入ろうかしら」


 真白はそう言ってホワイトボードの真ん中に線を引くと、左側に「あかり」「高山」「真白」と書き込み、右側に「みつき」「和希」「タマ」「マリカ」と書き込む。

 その淡々とした真白の様子を見て、和希は嫌な予感がした。


「あの、真白さん?」

「何?」

「怒ってる?」

「え?何をかしら?まさか和希ったら私が和希とマリカのことで嫉妬して怒っているとか言うつもりなの?はっ、馬鹿馬鹿しい。そんなことで私が怒るわけないじゃないの」

「ま、真白ちゃん落ち着いて。顔が怖い感じになってるよ」

「そうだよ。というか、真白はその話、事件の後に私達と一緒に聞いて知ってたじゃん。なんで今頃怒ってんの?」

「別に怒ってないけど!」


 みつきとあかりには真白がマリカに向ける敵意に覚えがあった。


(そういえば…)

(ここ最近真白とマリカが一緒にいるとこ見てなかったっけ)

(っていうか、やっぱり柚那そっくりじゃん)


 みつきとあかりがアイコンタクトでそんな会話をしながら善後策を探っていると、まったく空気を読む気がないらしいマリカが、真白から来るプレッシャーなどどこ吹く風とばかりにいつものように口を開く。


「うーん…真白はもう少し大人だと思ってたんだけどなあ。やっぱりまだまだおこちゃまだったか」

「ちょっと、マリカも真白を煽らないでよ!」

「んー…いやいや、みつき。煽るっていうのはこういうを言うんだよ」


 マリカはそう言って和希の腕に抱きつくと、そのまま頬にキスをした。


「あ…」

「な……」

「何してんのマリカ!」

「あはは、こんなのただの挨拶だって、挨拶」

「いい度胸ねマリカ……表出なさい」

「うっわ、真白の顔怖っわ!っていうか表でやりあうのはマズイっしょ」

「…なんだろう。なんか私、前にこんなの見たことある気がするんだけど」

「あれじゃね?柚那さんと愛純さん」

「ああ、それだそれ」


 みつきと和希はもう匙を投げて傍観するつもりらしく、そんな会話をしつついそいそとテーブルと椅子を部室の端の方に移動し始める。


「にしても和希もお兄ちゃんも物好きだよね。あんなヒステリックなののどこがいいんだか」

「いやいや、そこがいいんだよ。みつきにはわからないだろうけどさ」

「あはは、二人共ドMだねえ…と、どうぞ片付いたから喧嘩していいよー」


 みつきがそう言うと、律儀に部屋が片付くのを待っていた真白がマリカに飛びかかろうと――


「いい加減にしろっ!」


 バキッと大きな音がしたのと同時にあかりが怒鳴り声を上げる。


「マリカはふざけ過ぎ。真白ちゃんも不満があるならそれはあとで和希と二人で話すなり、マリカ入れて三人で話すなりして。今は仕事中」

「…ごめん」


 どちらかと言えばいつもは「仕事中」と言う側の真白は注意されたことが堪えたらしく、肩を落としてあかりに謝った。


「いやあ、悪い悪い。ちょっと調子に乗っちゃったね。真白もゴメン。私は別に和希のことなんてなんとも思ってないから」

「っ…」

「マリカ」

「別に和希の事悪く言うつもりじゃなくて、他にいるからって話。で、結局組分けどうしようか」

「和希と真白ちゃん、それとマリカで1組」


 マリカの質問にあかりは間髪入れずに答える。


「ええっ!?」

「いやいや、あかり、それはないだろ!?今の今喧嘩してた二人だぞ!?」

「私はそれでいいよん」

「これは懲罰も兼ねてるっていうのもあるけど、今後もこうして一緒に行動することがあるかもしれないから関係を改善しておいてもらわないと困るしね」


 あかりはそう言って三人の顔を見回した後で「異論は?」と聞いたが、和希は諦めたように、真白はしょんぼりとしたまま、マリカはいつもどおりの飄々とした顔で首を振った。




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