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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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322/809

試合に勝って勝負に負けて 1



 俺がTRI-あんぐる事件についての一連の報告を終えると、都さんは短く「そう」と言ったあと、小さくため息を付いた。


「まあ、そう落ち込まないで。あんたにできなかったんなら、多分他の誰がやっても同じ結果になっていたと思うしさ」

「……」


 俺達の勝利で幕を閉じたクイズ対決の後、TRI-あんぐるの作り出した空間から戻ってきた俺達の前に、予想通りハッカーこと下水流 冥が立ちはだかった。

 当然襲撃を予想していた俺達はすぐさま変身したが、下水流は魔法で支配した小崎さんの事務所の人間を盾に俺達を脅迫し、TRI-あんぐるの引き渡しを要求した。

 もちろんそれくらいしてくるだろうことは織り込み済みだった俺はそれを拒否し、直後に作戦通り愛純が魔法で瞬間移動。背後から下水流に襲いかかったが、愛純の拳が下水流に届こうかというところで下水流に同行してきていた鏡音 咲が割って入り、愛純の拳に乗った魔法を吸収・反射し、その衝撃で愛純は気絶。

 さらに鏡音は、操られた事務所の人間と下水流、鏡音を狙った朝陽のスタン攻撃を的確に朝陽と俺にむけて反射して無力化しTRI-あんぐるの三人を連れて悠々と去っていった。

 動きを見ているかぎり下水流自体はたいした相手ではないのは間違いなかった。

下水流一人なら俺達が打った手で何の問題もなく制圧できていたはずだったのに鏡音がいたということだけで俺が打ったすべての手が打ち砕かれた。

 俺達三人で打った手が鏡音たった一人に打ち砕かれたのだ。

 というよりも――


「鏡音 咲の持っていた盾が、俺のステークシールドそっくりだったんですけど、まさか翠が裏切り者なんていうことはないですよね」

「それはないと思うわよ。あの子は平和なこの国が大好きだし、そもそも翠が恵関係の人間に協力するようなことはないでしょ」

「まあ…そりゃそうか」

「疲れてるわね」


 と、すごく心配そうな表情で都さんが俺を見る。

 確かに、翠を疑うなんて完全にお門違いだし、都さんの言うとおり俺は疲れているんだろう。


「そうかもしれませんね。結局今日も打ち合わせだけのはずが接敵することになっちゃいましたし…どうも最近ついてない」

「まあ、下水流と鏡音の件はこっちでも街中の監視カメラを当たって調べてみるから、次のターゲットが見つかるまであなたは少し休みなさい」

「いや、でも…」

「休みなさい!……最初はバカにしちゃったけど、柚那とのことも相当堪えてるみたいだし少しゆっくりしたほうがいいわ。それにいざとなったら朱莉には休み無しで動いてもらうことになると思うし、休める時に休むのも仕事よ」

「でも!」

「命令よ」

「でも…俺は、なんにもできなかったんですよ!何にもしてないんです!大橋さんは抜けたがってたのに!本当のことを話したらわかってくれて、抜けて俺達の保護下にはいるって言ってくれたのに!連れて行かれるときだって、三人共ずっと助けを求めてたのに…なんで俺は…」

「……とりあえず3日間休みにしておくから、その間仕事はしないように。あと、さっきも言ったようにこれは命令だから、あんたが休んでいる間のことは私が責任を持つから仕事を忘れて少し羽根を伸ばしなさい。例えば実家に帰るとか、またJKのところに行くとかさあ。どうよ、今回にかぎり、何かしたいことあるなら特別に私がなんとかしちゃうわよ?」

「…柚那に会いたいです…」


 俺のセリフを聞いた都さんは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「まあ、それであんたが嫌なことを忘れられるならいいんだけど、私としてはむしろ余計なストレスになるような気がするから会わせたくないっていうのが本音よ…まあ、柚那には聞いてみてあげるから今日はとりあえず下がりなさい」

「はい…よろしくお願いします」



 俺が都さんの部屋から出ると、廊下で愛純と朝陽、それに狂華さんが立ち話をしていた。


「あ、報告終わった?」

「はい…」

「ああ…二人から聞いてはいたけど、これは重症だなあ…あんまり気にしないほうが良いよ?作戦失敗は誰にでもあるんだしさ」

「はい…」


 知らない人なら大丈夫というわけではないが、顔を知って名前を知って、それなりに人となりを知ってしまった三人が生倉についていかなかった恵の元仲間の用になってしまっていたらと思うと、どうにも気持ちが落ちるし気にしないなんてことはできない。


「大丈夫ですよ、朱莉さん。わざわざ手間を掛けてまで三人を連れて行ったんですから、いきなり殺されるなんてことはないと思いますし、それに、あれであの子達結構しぶといんですよ」

「ああ…そうだな…」

「ほらほら、朱莉さんらしくないですわよ。ラウンジでお茶を入れて、私の秘蔵のチョコを大放出しますから、テンション上げていきましょう!ほら、愛純も狂華さんも行きますわよ!」


 愛純の言葉からは心配してくれているのが伝わるし、朝陽は普段は絶対言わないようなことを言って元気づけてくれようとしてくれている。それはわかるが、俺はどうしても気分が上がらない。


「ねえ三人共、この後時間ある?」

「え?」

「ありますけど」

「朱莉は?」

「あります」

「そっか。なら、お茶会は後にして朱莉の元気が出そうなことをしよっか」


 狂華さんはそう言ってにっこりと微笑んだ。




「で、どうしてここなんですか?」


 何も言わずにどんどん歩いて行く狂華さんの後ろをついてきた俺は、基礎研の建物を見上げて訪ねた。


「ん?何?もしかしてボクら三人でえっちぃことでもして元気づけるつもりだとでも思った?」

「いや、そんなことは思ってませんけど」


 思ってませんけど、そんないたずらっこみたいなかわいい顔でいうのやめてください。

 とはいえ、なぜ俺達はここに連れてこられたのか。そこのところはさっぱりわからない。


「まあまあ、いいからいいから、ついてきてよ」


 狂華さんはそういって一人で基礎研の中に入っていってしまい、状況の分からない俺達は一度顔を見合わせてからその後に続く。

 途中何人かの研究員とすれ違い、どんどん奥に進んでいった狂華さんは突き当りの部屋の前で立ち止まった。

 そこは、俺もなんどとなくお邪魔している翠の部屋というか、川上夫妻の住居兼研究室だ。


「あれ?でも今って翠は関西に出張中ですよね?」

「翠はね。でもコウさんはいるから」


 そう言って二回ほどかるくノックをすると、狂華さんは返事を待たずにドアを開ける。


「コウさん、連れてきたよー」

「おお、来たな来たな!汚い部屋なだけによく来たな!なんちゃって、わっはっは!」

「……」

「……」


 出会い頭一発目のオヤジギャクともダジャレともつかない先制パンチに、愛純と朝陽が固まる。……って、あ、そっか。こいつら関西で手術受けた組だから、コウさんのこういう場面は初めてか。

 川上浩一郎(47)。俺がいつも調整やらなんやらでお世話になっている川上翠の旦那にして、嫁とダジャレをこよなく愛する、YesロリータGoタッチを地で行く男……いやまあ、本人達は知的な会話で意気投合したのがきっかけで、お互いの年齢は関係ないと言っていたのでたまたま彼が好きになって、彼のことを好きになったのがロリっ子だったというだけではあるのだが。


「でね、コウさん。この間話していた話なんだけど、やっぱり急いでほしいんだよね」

「ああ、もしかして朱莉が負けたって話に絡んでか?」

「さすが、情報が早いね」

「そりゃあ私がいるからな」


 そう言って奥の部屋から髪を拭きながら恵が出てくる。

 ああ、そっか。恵が……え?恵?

 なんで夫婦の住居に恵がいるの?っていうか今こいつ風呂上がり感すごいんだけどどういうことなの?大丈夫なの?


「お前、いつからここにいるの?」

「ん?昨日の夜からだが」

「一体何してたの?」

「見ればわかるだろうシャワーをあびていた」


 恵の返答を聞いた俺は思わずコウさんに掴みかかった。


「あ、あんた死ぬ気か!?」

「え!?」

「っていうか!あんな若くて可愛い嫁がいながら、なんでよりにもよってクイーンオブガッカリの恵なんかと浮気すんだよ!」

「俺が浮気!?こいつと!?」

「おいおい、私にも相手を選ぶ権利くらいはあるんだぞ」

「それはこっちのセリフだ、この問題作メーカー」

「うるさい、何をやらせてもたいして代わり映えのしない、マイナーチェンジしかできない研究者の恥め」


 ―――あれ?


「二人って昔付き合ってたんじゃないの?」

「………ああ」

「確かに昔そんなこともあったな」


 なんで睨み合っているんだ、この二人。

 昨晩はお楽しみだったんじゃないの?


「この二人って昔は仲が良かったんだけど、魔法少女化の技術確立で対立してから犬猿の仲なんだよ」


 そう言ってほわほわと笑いながら、狂華さんが勝手にデスクの上のタブレットパソコンの電源を入れると、画面に翠の姿が映し出された。


『おや、狂華にゃん』

「あはは…にゃんはやめてほしいかな。で、話はまとまった?」

『そっちの二人が喧嘩ばかりしているからまとまるものもまとまらないのよー』


 そう言ってため息を付きながらやれやれと笑う翠。


「っていうか翠。お前、コウさんと恵が一緒にいることについてはいいのか?」

『ああ…まあ、なんというか、やり取り見ている限りこの二人に限って焼けぼっくいとかそういうのないとおもうわ…のー』


 俺の知らないところで一体何があったのか、翠は恵については容認する構えに転じたようだ。


『というか、二人の相手が面倒くさくなって通信切って仕事していたのにどうしたのー?』

「そっちの進捗はどうかなって思って」

『一応こっちはアンケート取って、いけそうな案については設計段階まで言っているのー。でも、詳しい仕様を詰めようとすると喧嘩する人たちがいるから進まないのー』


 翠がそう言って少し睨むようにすると、コウさんと恵は気まずそうに画面から目をそらした。


「あの、狂華さん。話が見えないんですけど、何の話ですか?」

「ああ、そうだった。えっと、この間朱莉たちと東北チームがマッスル・イコにこてんぱんにやられたじゃない?」

「それについては色々言いたいことはありますけど、たしかにそうですね」

「で、ボクら以外…具体的にはこの間の大会の本選出場者くらいまではデバイスを解禁しようかっていう話になって、コウさんと翠にはちょっと前から動いてもらっていて。で、恵も今は手が空いているから手伝ってもらおうと思って昨日からここで仕事してもらっているんだ」


 なるほど、つまりちょっと前に翠が柚那と一緒に関西に飛んだのはその絡みか。


「では狂華さんが私達をここに連れてきたのは」

「うん、朝陽と愛純に自分の課題とか問題点とかそういうのを聞いて、二人のデバイスについて、色々詰めようと思ってさ。朱莉もこういう必殺武器とか必殺技を考えたりとかするの好きでしょ?」


 うーん。そういう話なら好きか嫌いか聞かれれば好きだし、たしかにちょっと燃えるし、若干テンションも上がる。


「よしよし、良い顔になってきたね。翠、早速だけど関西チームの面々のデバイスのプラン見せてくれる?」

『はーい、じゃあ画面に出すのー』


 そう言って翠がカチャカチャとキーボードを叩くと、ピロンという音がしてこちらの画面に図が展開された。

 まず表示されているのは、見た感じだと喜乃くんのデータだ。


『これはよしのんのデバイス…というかパワーアッププランなのー』

「なんか衣装も変わるみたいに感じるんだけど、ガラッと変えるの?」

『そう。だからデバイスというよりパワーアッププランなのー』


 …まあ、喜乃君の場合よくもまあここまであんな重たそうな十二単でやってきたなって感じだから衣装変更は当然っちゃ当然なんだけど。


『個人的にはあれはあれで強いと思うんだけどねー。楓の『山』ほどじゃないけど相当硬いし。なのー』


 もうキャラ維持する気無いならやめちゃえばいいのに。


「硬いってどのくらい?」

『うーん…魔力で作っているからそのものじゃないけど、パラ系アラミド繊維と、PBO繊維、メタ系アラミド繊維に、あとは炭素繊維なんかに近い性質の布で織った着物を12枚着てるのよー』


 イメージ的には防弾防護繊維のミルフィーユって感じか。

 というか、魔法で何か出そうと思うと、空想のものならかなりの想像力が、実在するものならそのものの性質をかなり知っている必要があると思うんだけど、喜乃くんはなんでそんなものの性質を知ってんだろ。


『で、今回のプランは変身時に魔力消費ゼロで実在の繊維でできた衣装を展開して着てしまおうっていうものなのー。そうすることによって今まで防御にあてていた魔力を移動速度の向上や斬撃の威力上昇にあてられるの―』


 この間、楓の口調変化の魔法を『魔力の無駄だー!』とか言って愚痴ってたけど、喜乃くんだって似たようなもんだったんじゃん…。


「他にはどんなのがあるんだ?」

『え?これだけなの』

「……はい?」

『だから、アンケート取ったらみんな荒唐無稽だったり実現不可能なものを書きすぎて、今のところ関西で進められそうなのがこれだけなのよー』

「荒唐無稽って例えば?」

『ふふふー、なんとか合金製の20m鈴奈ちゃんとかさすがの私でも無理なのよ―クソ脳筋めー』


 そう言いながらすっごい顔をする翠。


「でもイズモちゃんとか松葉はもう少しこう、鈴奈ちゃんよりはまともなんじゃないのか?」

『イズモは『楓と同じくらい強くなれるような何か』とかって丸投げだし、っていうか、そもそもイズモの魔力でそんなことできるわけねーのー。あと松葉は『写○眼』ってだけ書いてあってやる気なしなのー』


 イズモちゃんはともかく、松葉の出したやつはあいつなりにやる気なのではないだろうか。まあ、あくまであいつなりにだが。


『まあ、そういうわけだからこっちはこっちでよしのんのだけ進めちゃうのよー。じゃあ通信終――』

「翠ちょっと待った!」

『ん?なんなのーあかりん』

「近くに柚那いる?」

『いるのー。でも今都さんと電話してるのよ―。…え?何?うん、いいけど』

「どうした?」

『ゆなっちがあかりんと話したいってさ。二人きりで話したいからタブレットパソコンを持って廊下に出てくれって。私もちょっと休憩してくるから、ゆっくり二人で話すと良いと思うよ。私としては、二人に足りないのはコミュニケーションだと思うし』

「あ…ああ」


 電話をした直後にこれってことは、都さんが早速手を回してくれたってことか。さっきの今だっていうのに、さすが頼りになる上司だぜ。

 というか、俺がいくら頼んでもだめだったのに、都さんが言うと一発でOKとかちょっと凹むんですけど。


「…というわけでタブレット借りていいですかね?」

「いいんじゃない?二人はまだ喧嘩しているし」

 

 俺の質問に狂華さんは苦笑いを浮かべながらそう言って、未だに喧嘩をしているコウさんと恵を見て、軽く肩をすくめてみせた。




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